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53.束の間の平穏

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 この世界にアレルギーが存在していると判明したので、一応修道院の皆にもそういう症状がないか調べてみることにした。
 幸い、彼女たちは今のところ大丈夫なようで一安心。けれどアレルギーはある日突然発症することもあるらしいので、何かを食べた時に体に異変が出た時はすぐに報告するようにと皆に呼びかけた。

「好き嫌い病が実は身体的なものだなんて……初めて知りました」

 今日の夕食係はアントワネットだ。私にナイフの使い方を教わりながら、野菜の皮を剥いている。

「わ、私もそれらしきお告げを授かっただけなので、実際はまだ分からないですけれどね? 念のために気を付けた方がいいかなと……」
「ですが、エメリーア神のご神託を受けたリグレット様のおかげで、多くの人々が救われるかもしれません。あなたはそれほどまでに大きなことを成し遂げたのです」

 成し遂げたと言っても、表向きはエメリーア神のお言葉を発信しただけで私は何もしていないのだけれど。
 何か日に日に私に対する尊敬パラメータが上昇している気がするような。社交界でも私の名前が広まっているみたいで、修道院に行くならナヴィア修道院がいいと言い出す人もいるらしい。
 それなりに平和に過ごしつつ、国外逃亡を計画しているので有名になりすぎてしまうのはちょっと。
 それに……。

「リグレット様、皮を剥き終えました」
「…………」
「リグレット様?」
「え、ああ、申し訳ありません。それでは次は切っていきましょう」

 脳裏にレイスの姿を思い浮かべてしまっていた。
 何故だろう。最近、レイスのことをよく考えるようになっている。彼には色々とお世話になっているからだろうか。

「野菜はこうやって固定して、この辺でザクッといってください」
「は、はい……」

 私の説明を聞きながら、アントワネットが恐る恐る人参を切る。トン……トン……とスピードは遅いものの、順調だ。中学生の時、プロの料理人気取りで玉ねぎの高速みじん切りをしようとして自分の指を斬り落とそうとして、親から大目玉を喰らった私とは違う。
 人参の次はじゃがいも……と思っていると、

「シスターリグレット、今ちょっとだけいいかしら?」

 院長が厨房に入って来た。味見しに来たのかなと思っていたけれど、そうではないらしい。私を手招きして廊下に連れ出す。

「実はねぇ、今度辺境の村でバザーが開催されるのだけれど、ナヴィア修道院もそれに参加しようと思うの」
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