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52.クラリスにとって(後)
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「シスターリグレット、ただいま帰りました」
今やナヴィア修道院の中心的存在となったリグレットが、青いドレス姿で二日ぶりに帰ってきた。
レイス子息の毒殺事件に関わり、しかもそれを解決に導いたという新聞を読み、皆帰りを待ち望んでいたのだ。
「……リグレット様、何か甘い香りがしますね」
「ふっふっふ。よくぞ気づきましたね、メロディ様」
リグレットは怪しい笑みを浮かべながら、片手に抱いていた紙袋の中身を披露した。
「こちらは皆様へのお土産です」
「「「「チョ、チョコレート!!」」」」
銀製の平たい箱に丁寧に並べられていたのはチョコレート菓子だった。
何でもテオドール子息が弟を救ってくれたお礼として、持たせてくれたそうだ。
一粒一粒見た目が違っていて、味も異なるらしい。チョコレートなんて高級菓子、こんなところで食べられると思わなかったと、皆色めき立つ。
「……ですが、院長に見つかってしまったら流石に咎められるのでは?」
アントワネットが声を潜めて言うと、リグレットは首を横に振った。
「院長にも先程カカオリキュールを渡しておきました。そうしたら、『これを飲んでいたら、修道院内でチョコレートの香りがしても分からないわねぇ』と仰っていたので多分大丈夫」
流石はリグレット。早速皆で二粒ずつ食べることにした。
クラリスが食べたのは、ナッツ入りとベリーのジュレ入りのもの。香ばしくて甘酸っぱくて、どちらも美味しかった。
幸せな気分になりながら部屋に戻ると、修道服に着替え終えたリグレットがやってきた。その手にはチョコレートが入っていた物よりも小さめの銀箱。
「こちらはクラリスだけのお土産です。ドレスのお礼として受け取ってください」
「本当ですか? ありがとうございます!」
受け取って早速開けてみる。
すると中に入っていたのは赤、ピンク、黄、オレンジ、紫……と様々な色をした四角い菓子だった。
「これ……ギモーヴですか?」
「はい。レイス様と一緒に選んだんです。私も味見してみたんですけど、ふわっとしているのに果実感があってとっても美味しかったですよ」
クラリスの好きな菓子がギモーヴであることは、リグレットに教えたことがない。だからこうして買ってきてくれたのは単なる偶然。
けれど、その偶然が嬉しいとクラリスは思った。
「ありがとうございます、リグレット様! 大事にこっそり食べますね~」
「喜んでくれてよかったです。あんなにお洒落なドレスを作ってもらったんですから、絶対に喜んでもらえるお礼を! って気合い入れて選びましたので」
ぐっと拳を握るリグレットに、クラリスは懐かしい気持ちになる。
リグレットの傍にいると、不思議と大好きだった母を思い出す。いつも笑顔で誰よりも働いていた姿と重なって見えるのだ。
「リグレット様、これ一緒に食べましょ!」
「えっ、でも……」
「いいから、いいから! リグレット様は何味がいいですか?」
「そ、そうですね。じゃあ私は──」
今、自分はとても幸せだ。心の中で両親にそう伝えながら、クラリスは味選びに長考するリグレットを笑顔で見守った。
今やナヴィア修道院の中心的存在となったリグレットが、青いドレス姿で二日ぶりに帰ってきた。
レイス子息の毒殺事件に関わり、しかもそれを解決に導いたという新聞を読み、皆帰りを待ち望んでいたのだ。
「……リグレット様、何か甘い香りがしますね」
「ふっふっふ。よくぞ気づきましたね、メロディ様」
リグレットは怪しい笑みを浮かべながら、片手に抱いていた紙袋の中身を披露した。
「こちらは皆様へのお土産です」
「「「「チョ、チョコレート!!」」」」
銀製の平たい箱に丁寧に並べられていたのはチョコレート菓子だった。
何でもテオドール子息が弟を救ってくれたお礼として、持たせてくれたそうだ。
一粒一粒見た目が違っていて、味も異なるらしい。チョコレートなんて高級菓子、こんなところで食べられると思わなかったと、皆色めき立つ。
「……ですが、院長に見つかってしまったら流石に咎められるのでは?」
アントワネットが声を潜めて言うと、リグレットは首を横に振った。
「院長にも先程カカオリキュールを渡しておきました。そうしたら、『これを飲んでいたら、修道院内でチョコレートの香りがしても分からないわねぇ』と仰っていたので多分大丈夫」
流石はリグレット。早速皆で二粒ずつ食べることにした。
クラリスが食べたのは、ナッツ入りとベリーのジュレ入りのもの。香ばしくて甘酸っぱくて、どちらも美味しかった。
幸せな気分になりながら部屋に戻ると、修道服に着替え終えたリグレットがやってきた。その手にはチョコレートが入っていた物よりも小さめの銀箱。
「こちらはクラリスだけのお土産です。ドレスのお礼として受け取ってください」
「本当ですか? ありがとうございます!」
受け取って早速開けてみる。
すると中に入っていたのは赤、ピンク、黄、オレンジ、紫……と様々な色をした四角い菓子だった。
「これ……ギモーヴですか?」
「はい。レイス様と一緒に選んだんです。私も味見してみたんですけど、ふわっとしているのに果実感があってとっても美味しかったですよ」
クラリスの好きな菓子がギモーヴであることは、リグレットに教えたことがない。だからこうして買ってきてくれたのは単なる偶然。
けれど、その偶然が嬉しいとクラリスは思った。
「ありがとうございます、リグレット様! 大事にこっそり食べますね~」
「喜んでくれてよかったです。あんなにお洒落なドレスを作ってもらったんですから、絶対に喜んでもらえるお礼を! って気合い入れて選びましたので」
ぐっと拳を握るリグレットに、クラリスは懐かしい気持ちになる。
リグレットの傍にいると、不思議と大好きだった母を思い出す。いつも笑顔で誰よりも働いていた姿と重なって見えるのだ。
「リグレット様、これ一緒に食べましょ!」
「えっ、でも……」
「いいから、いいから! リグレット様は何味がいいですか?」
「そ、そうですね。じゃあ私は──」
今、自分はとても幸せだ。心の中で両親にそう伝えながら、クラリスは味選びに長考するリグレットを笑顔で見守った。
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