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49.イレネーとブランシェ
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「イレネー様! レイモンド様が他国に渡ったというのは本当ですの!?」
早朝、婚約者のブランシェが会いに来たかと思えばそんなことを聞かれて、イレネーは困惑した。彼女をイレネーの部屋まで案内した使用人も、怪訝そうな顔をしている。
質問の意図が分からず固まっていると、ブランシェに両肩を掴まれた。
「早く教えてくださいまし! レイモンド様があなたに最後の挨拶をしたと、噂で聞きましたわよ!」
「あ、ああ。確かにレイモンドは俺に会いに来たが」
聖鐘祭が終わってから二週間後の夜だった。
突然友人のレイモンドが訪ねてきたかと思えば、この国よりも医学が発展している国に行くと宣言したのだ。
とある病気の研究のため、と言っていた。詳細までは話してくれなかったが、今まで見たことのないような凛々しい表情をしていた。
軍には既に辞表を提出していたようで、イレネーへの挨拶を済ませるとすぐに出国したようだった。
事情は分からないが、友人が選んだ道なら口出しせず、応援するだけだ。
そう思っていたイレネーだったが、まさかブランシェにそのことを激しく問い詰められるとは思わなかった。
「そ、そんな……!」
イレネーから説明されたブランシェは、絶望した表情でその場に座り込んだ。
以前のイレネーだったら、哀れなその姿に庇護欲を掻き立てられ、壊れ物に触れるような手つきで彼女を抱き締めていただろう。
だが今はその姿に何も感じられない。むしろ不信感が募るばかりだ。
「どうしてそんなにレイモンドのことが気になるんだ? 奴を愛していたのか?」
「な……違いますわ! レイモンド様は優秀な軍医だったのですわよね? でしたら、他国に逃がすべきではなかったのに!」
「逃がす? 何だこの口振りは……!」
友人を物扱いされたような気がして、イレネーは苛立ちを覚えた。
婚約者の怒気を感じ取ったのか、流石にブランシェも一瞬怯んだ表情をするものの、煽るように嘲笑を浮かべた。
「大体、私の不義を疑える立場だと思っていますの? 私、存じていますのよ。イレネー様が私以外の女に心が揺らいでいることを」
「……っ」
ブランシェの指摘に、イレネーの脳裏に一人の人物が浮かぶ。
確かにこのところ、ずっと彼女のことを考え続けている。
それでも肯定するわけにはいかなかった。
「違う! 俺はリグレットのことはもう忘れたんだ! 彼女にもう未練など……」
「……はぁ?」
「ん?」
更に追及されるどころか、訝しげな反応されてイレネーは目を丸くした。
しかしブランシェはイレネー以上に不思議そうな顔をして、
「リーゼ嬢のことはどうしましたの?」
「リーゼ……?」
「忘れたとは言わせませんわよ。あのピンク頭の!」
「ピンク? ああ、そんなのがいたな……」
聖鐘祭の時、ブランシェが離れた隙を見計らうように現れた平民の娘がリーゼと名乗っていた。
それでイレネーと軽い世間話をした後で、誓約のベルを押し付けてどこかへ去ってしまったのだ。珍しい光属性魔法の使い手だったようで白く輝くベルだったが、さほど惹かれなかった。
見ず知らずの相手からではなく、リグレットのベルが欲しい。
そう強く願ってしまったからだろう。彼女とは結婚式の前夜に互いのベルを交換しようと誓い、果たされなかった。
ブランシェからもカシス色のベルをもらったが、持ち歩きたくなくて、リーゼのベルと一緒に引き出しの奥にしまってそれきりだ。
「リーゼのことも何とも思っていない。今、君に言われて思い出したくらいだしな」
「それじゃあ困りますわ!」
「困る? 何故だ。君は俺にリーゼと浮気をして欲しいと思っているのか?」
「……もういいですわ。あなたのことも諦めることにしますわ」
「ブランシェ?」
急に覇気を失くしたかと思えば、失望の溜め息をつく。
本日のブランシェは全く分からない。
「レイモンドは軍を抜けて、あなたはリグレットに未練タラタラ。おまけにあの小娘は失敗するし、テオドールも何だか雰囲気が柔らかくなるし全然上手くいかない……」
顔を歪めながらブツブツ呟く姿に、イレネーは半ば嫌がらせのようにこう言った。
「言われてみれば、テオドールはレイスの毒殺未遂事件の後から穏やかになった。何でも過去に起きた混入事件についても何か分かったそうだが……もしかすると、リグレットが絡んでいるのかもしれない」
「……リグレットが?」
「レイモンドも俺に挨拶にきた時、『俺は彼女に出会えたことを誇りに思う』と言っていた。他国へ渡ったのは、恐らく彼女の影響だろうな」
自分が陥れたであろうリグレットのせいで、よく分からないが計画が破綻している。そのことを知れば、ブランシェがショックを受けると予想したのだ。
それは見事的中し、ブランシェはふるふると体を震わせ始める。
「あんな……あのモブ以下のキャラのせいで……」
「……モブ? キャラ?」
無意識に口走っていたのか、普段聞き慣れない単語に首を傾げるイレネーに気づき、ブランシェは取り繕うように微笑んだ。
「失礼しましたわ。何だか私、近頃リグレットを濡れ衣を着せたのではないかとか妙な噂を流され、心を病んでしまったようでして……時々自分でもよく分からない言動をしてしまう時がありますの」
「……そうか」
悲しげに目を伏せて微笑むブランシェは相変わらず美しい。
だがその内側には何か──別の存在が潜んでいるようにイレネーには思えた。
早朝、婚約者のブランシェが会いに来たかと思えばそんなことを聞かれて、イレネーは困惑した。彼女をイレネーの部屋まで案内した使用人も、怪訝そうな顔をしている。
質問の意図が分からず固まっていると、ブランシェに両肩を掴まれた。
「早く教えてくださいまし! レイモンド様があなたに最後の挨拶をしたと、噂で聞きましたわよ!」
「あ、ああ。確かにレイモンドは俺に会いに来たが」
聖鐘祭が終わってから二週間後の夜だった。
突然友人のレイモンドが訪ねてきたかと思えば、この国よりも医学が発展している国に行くと宣言したのだ。
とある病気の研究のため、と言っていた。詳細までは話してくれなかったが、今まで見たことのないような凛々しい表情をしていた。
軍には既に辞表を提出していたようで、イレネーへの挨拶を済ませるとすぐに出国したようだった。
事情は分からないが、友人が選んだ道なら口出しせず、応援するだけだ。
そう思っていたイレネーだったが、まさかブランシェにそのことを激しく問い詰められるとは思わなかった。
「そ、そんな……!」
イレネーから説明されたブランシェは、絶望した表情でその場に座り込んだ。
以前のイレネーだったら、哀れなその姿に庇護欲を掻き立てられ、壊れ物に触れるような手つきで彼女を抱き締めていただろう。
だが今はその姿に何も感じられない。むしろ不信感が募るばかりだ。
「どうしてそんなにレイモンドのことが気になるんだ? 奴を愛していたのか?」
「な……違いますわ! レイモンド様は優秀な軍医だったのですわよね? でしたら、他国に逃がすべきではなかったのに!」
「逃がす? 何だこの口振りは……!」
友人を物扱いされたような気がして、イレネーは苛立ちを覚えた。
婚約者の怒気を感じ取ったのか、流石にブランシェも一瞬怯んだ表情をするものの、煽るように嘲笑を浮かべた。
「大体、私の不義を疑える立場だと思っていますの? 私、存じていますのよ。イレネー様が私以外の女に心が揺らいでいることを」
「……っ」
ブランシェの指摘に、イレネーの脳裏に一人の人物が浮かぶ。
確かにこのところ、ずっと彼女のことを考え続けている。
それでも肯定するわけにはいかなかった。
「違う! 俺はリグレットのことはもう忘れたんだ! 彼女にもう未練など……」
「……はぁ?」
「ん?」
更に追及されるどころか、訝しげな反応されてイレネーは目を丸くした。
しかしブランシェはイレネー以上に不思議そうな顔をして、
「リーゼ嬢のことはどうしましたの?」
「リーゼ……?」
「忘れたとは言わせませんわよ。あのピンク頭の!」
「ピンク? ああ、そんなのがいたな……」
聖鐘祭の時、ブランシェが離れた隙を見計らうように現れた平民の娘がリーゼと名乗っていた。
それでイレネーと軽い世間話をした後で、誓約のベルを押し付けてどこかへ去ってしまったのだ。珍しい光属性魔法の使い手だったようで白く輝くベルだったが、さほど惹かれなかった。
見ず知らずの相手からではなく、リグレットのベルが欲しい。
そう強く願ってしまったからだろう。彼女とは結婚式の前夜に互いのベルを交換しようと誓い、果たされなかった。
ブランシェからもカシス色のベルをもらったが、持ち歩きたくなくて、リーゼのベルと一緒に引き出しの奥にしまってそれきりだ。
「リーゼのことも何とも思っていない。今、君に言われて思い出したくらいだしな」
「それじゃあ困りますわ!」
「困る? 何故だ。君は俺にリーゼと浮気をして欲しいと思っているのか?」
「……もういいですわ。あなたのことも諦めることにしますわ」
「ブランシェ?」
急に覇気を失くしたかと思えば、失望の溜め息をつく。
本日のブランシェは全く分からない。
「レイモンドは軍を抜けて、あなたはリグレットに未練タラタラ。おまけにあの小娘は失敗するし、テオドールも何だか雰囲気が柔らかくなるし全然上手くいかない……」
顔を歪めながらブツブツ呟く姿に、イレネーは半ば嫌がらせのようにこう言った。
「言われてみれば、テオドールはレイスの毒殺未遂事件の後から穏やかになった。何でも過去に起きた混入事件についても何か分かったそうだが……もしかすると、リグレットが絡んでいるのかもしれない」
「……リグレットが?」
「レイモンドも俺に挨拶にきた時、『俺は彼女に出会えたことを誇りに思う』と言っていた。他国へ渡ったのは、恐らく彼女の影響だろうな」
自分が陥れたであろうリグレットのせいで、よく分からないが計画が破綻している。そのことを知れば、ブランシェがショックを受けると予想したのだ。
それは見事的中し、ブランシェはふるふると体を震わせ始める。
「あんな……あのモブ以下のキャラのせいで……」
「……モブ? キャラ?」
無意識に口走っていたのか、普段聞き慣れない単語に首を傾げるイレネーに気づき、ブランシェは取り繕うように微笑んだ。
「失礼しましたわ。何だか私、近頃リグレットを濡れ衣を着せたのではないかとか妙な噂を流され、心を病んでしまったようでして……時々自分でもよく分からない言動をしてしまう時がありますの」
「……そうか」
悲しげに目を伏せて微笑むブランシェは相変わらず美しい。
だがその内側には何か──別の存在が潜んでいるようにイレネーには思えた。
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