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48.事件後

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 ソラウ公爵家の令嬢がグライン公爵家の子息を毒殺しようとした。
 そんな大事件が起きてしまったのだ。呑気に聖鐘祭DAYS2をやるほど国もご陽気ではない。
 パーティーは中止となり、翌朝の新聞のトップを飾ったのはやはり毒殺未遂事件だった。ちなみにサラセンに関しては一切触れられていない。

 公爵邸で朝食を食べた後に新聞を読み始めた私は、その見出しを目にして目をひん剥いた。

『またもやお手柄、ナヴィア修道院の修道女! 公爵子息の毒殺を阻止!』

 何だこの、ひったくり犯を捕まえた高校生感は。
 しかもエメリーア神からのお告げのおかげで、毒に気づくことができたとバッチリ書かれている。書くな。
 仰天している私の下に現れたレイスが苦笑気味に一言。

「父上がリグレット嬢の活躍を皆に広めたいと、急いで記事を書かせたそうです」

 なんちゅうことを。
 既に掲載予定の記事があったはずなのに、私のせいで刺し替えになってしまい申し訳ない。
 心の中で新聞社に向かって土下座しつつ、私が浮かんだ疑問を口にした。

「ところでマリツィーラってご令嬢はどうなるんですか?」
「……未遂ということで極刑は避けられるでしょうが、一生薄暗い牢屋の中です。改心する機会すら与えられず、死ぬまでそこで暮らすことになります」
「そうですか……」

 犯行が発覚した後、自己弁護ばかりを繰り返して悪びれる様子がなかったため、改心の余地がないと判断されたのだとか。
 またソラウ公爵家自体にも何らかの罰が下されるそうだ。
 独りよがりの感情で人一人を殺そうとしたのだから、同情はしない。むしろナヴィア修道院送りにされたらどうしようと思ったので、正直安心してしまった。

「ですが、何だか今回の件で虚しくなりました」

 窓の外に視線を向けながら、レイスが呆れたような物言いをした。

「何年も毒殺に警戒し続ける生活をしていたのに、まさか勘違いだったなんて。あーあという感じです」
「心中お察しします……」

 毒? いやいやただの事故ですよで済ませるには、あまりに重すぎる。
 心底同情していると、

「ただ、それ以上にスッキリもしました。……ありがとうございます。マリツィーラ嬢の毒のことだけではなくて、これまでの事件の謎も解いてくれて」
「謎を解いたってわけでは……それにあれは神のお告げによるものですし」
「神、ですか」

 レイスはどこか清々しい笑みを浮かべ、私の顔をじっと見詰めて言った。

「僕は偉大で万能な神よりも、お人好しなあなたの言葉を信じたいと思っていますよ」

 そんな風に言わないで欲しい。いざという時、一人でこの国から逃げることができなくなってしまう。

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