48 / 96
48.事件後
しおりを挟む
ソラウ公爵家の令嬢がグライン公爵家の子息を毒殺しようとした。
そんな大事件が起きてしまったのだ。呑気に聖鐘祭DAYS2をやるほど国もご陽気ではない。
パーティーは中止となり、翌朝の新聞のトップを飾ったのはやはり毒殺未遂事件だった。ちなみにサラセンに関しては一切触れられていない。
公爵邸で朝食を食べた後に新聞を読み始めた私は、その見出しを目にして目をひん剥いた。
『またもやお手柄、ナヴィア修道院の修道女! 公爵子息の毒殺を阻止!』
何だこの、ひったくり犯を捕まえた高校生感は。
しかもエメリーア神からのお告げのおかげで、毒に気づくことができたとバッチリ書かれている。書くな。
仰天している私の下に現れたレイスが苦笑気味に一言。
「父上がリグレット嬢の活躍を皆に広めたいと、急いで記事を書かせたそうです」
なんちゅうことを。
既に掲載予定の記事があったはずなのに、私のせいで刺し替えになってしまい申し訳ない。
心の中で新聞社に向かって土下座しつつ、私が浮かんだ疑問を口にした。
「ところでマリツィーラってご令嬢はどうなるんですか?」
「……未遂ということで極刑は避けられるでしょうが、一生薄暗い牢屋の中です。改心する機会すら与えられず、死ぬまでそこで暮らすことになります」
「そうですか……」
犯行が発覚した後、自己弁護ばかりを繰り返して悪びれる様子がなかったため、改心の余地がないと判断されたのだとか。
またソラウ公爵家自体にも何らかの罰が下されるそうだ。
独りよがりの感情で人一人を殺そうとしたのだから、同情はしない。むしろナヴィア修道院送りにされたらどうしようと思ったので、正直安心してしまった。
「ですが、何だか今回の件で虚しくなりました」
窓の外に視線を向けながら、レイスが呆れたような物言いをした。
「何年も毒殺に警戒し続ける生活をしていたのに、まさか勘違いだったなんて。あーあという感じです」
「心中お察しします……」
毒? いやいやただの事故ですよで済ませるには、あまりに重すぎる。
心底同情していると、
「ただ、それ以上にスッキリもしました。……ありがとうございます。マリツィーラ嬢の毒のことだけではなくて、これまでの事件の謎も解いてくれて」
「謎を解いたってわけでは……それにあれは神のお告げによるものですし」
「神、ですか」
レイスはどこか清々しい笑みを浮かべ、私の顔をじっと見詰めて言った。
「僕は偉大で万能な神よりも、お人好しなあなたの言葉を信じたいと思っていますよ」
そんな風に言わないで欲しい。いざという時、一人でこの国から逃げることができなくなってしまう。
そんな大事件が起きてしまったのだ。呑気に聖鐘祭DAYS2をやるほど国もご陽気ではない。
パーティーは中止となり、翌朝の新聞のトップを飾ったのはやはり毒殺未遂事件だった。ちなみにサラセンに関しては一切触れられていない。
公爵邸で朝食を食べた後に新聞を読み始めた私は、その見出しを目にして目をひん剥いた。
『またもやお手柄、ナヴィア修道院の修道女! 公爵子息の毒殺を阻止!』
何だこの、ひったくり犯を捕まえた高校生感は。
しかもエメリーア神からのお告げのおかげで、毒に気づくことができたとバッチリ書かれている。書くな。
仰天している私の下に現れたレイスが苦笑気味に一言。
「父上がリグレット嬢の活躍を皆に広めたいと、急いで記事を書かせたそうです」
なんちゅうことを。
既に掲載予定の記事があったはずなのに、私のせいで刺し替えになってしまい申し訳ない。
心の中で新聞社に向かって土下座しつつ、私が浮かんだ疑問を口にした。
「ところでマリツィーラってご令嬢はどうなるんですか?」
「……未遂ということで極刑は避けられるでしょうが、一生薄暗い牢屋の中です。改心する機会すら与えられず、死ぬまでそこで暮らすことになります」
「そうですか……」
犯行が発覚した後、自己弁護ばかりを繰り返して悪びれる様子がなかったため、改心の余地がないと判断されたのだとか。
またソラウ公爵家自体にも何らかの罰が下されるそうだ。
独りよがりの感情で人一人を殺そうとしたのだから、同情はしない。むしろナヴィア修道院送りにされたらどうしようと思ったので、正直安心してしまった。
「ですが、何だか今回の件で虚しくなりました」
窓の外に視線を向けながら、レイスが呆れたような物言いをした。
「何年も毒殺に警戒し続ける生活をしていたのに、まさか勘違いだったなんて。あーあという感じです」
「心中お察しします……」
毒? いやいやただの事故ですよで済ませるには、あまりに重すぎる。
心底同情していると、
「ただ、それ以上にスッキリもしました。……ありがとうございます。マリツィーラ嬢の毒のことだけではなくて、これまでの事件の謎も解いてくれて」
「謎を解いたってわけでは……それにあれは神のお告げによるものですし」
「神、ですか」
レイスはどこか清々しい笑みを浮かべ、私の顔をじっと見詰めて言った。
「僕は偉大で万能な神よりも、お人好しなあなたの言葉を信じたいと思っていますよ」
そんな風に言わないで欲しい。いざという時、一人でこの国から逃げることができなくなってしまう。
74
お気に入りに追加
5,484
あなたにおすすめの小説
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
前世と今世の幸せ
夕香里
恋愛
幼い頃から皇帝アルバートの「皇后」になるために妃教育を受けてきたリーティア。
しかし聖女が発見されたことでリーティアは皇后ではなく、皇妃として皇帝に嫁ぐ。
皇帝は皇妃を冷遇し、皇后を愛した。
そのうちにリーティアは病でこの世を去ってしまう。
この世を去った後に訳あってもう一度同じ人生を繰り返すことになった彼女は思う。
「今世は幸せになりたい」と
※小説家になろう様にも投稿しています
悪役令嬢予定でしたが、無言でいたら、ヒロインがいつの間にか居なくなっていました
toyjoy11
恋愛
題名通りの内容。
一応、TSですが、主人公は元から性的思考がありませんので、問題無いと思います。
主人公、リース・マグノイア公爵令嬢は前世から寡黙な人物だった。その為、初っぱなの王子との喧嘩イベントをスルー。たった、それだけしか彼女はしていないのだが、自他共に関連する乙女ゲームや18禁ゲームのフラグがボキボキ折れまくった話。
完結済。ハッピーエンドです。
8/2からは閑話を書けたときに追加します。
ランクインさせて頂き、本当にありがとうございます(*- -)(*_ _)ペコリ
お読み頂き本当にありがとうございます(*- -)(*_ _)ペコリ
応援、アドバイス、感想、お気に入り、しおり登録等とても有り難いです。
12/9の9時の投稿で一応完結と致します。
更新、お待たせして申し訳ありません。後は、落ち着いたら投稿します。
ありがとうございました!
【完結】悪役令嬢エヴァンジェリンは静かに死にたい
小達出みかん
恋愛
私は、悪役令嬢。ヒロインの代わりに死ぬ役どころ。
エヴァンジェリンはそうわきまえて、冷たい婚約者のどんな扱いにも耐え、死ぬ日のためにもくもくとやるべき事をこなしていた。
しかし、ヒロインを虐めたと濡れ衣を着せられ、「やっていません」と初めて婚約者に歯向かったその日から、物語の歯車が狂いだす。
――ヒロインの身代わりに死ぬ予定の悪役令嬢だったのに、愛されキャラにジョブチェンしちゃったみたい(無自覚)でなかなか死ねない! 幸薄令嬢のお話です。
安心してください、ハピエンです――
旦那様、離婚しましょう
榎夜
恋愛
私と旦那は、いわゆる『白い結婚』というやつだ。
手を繋いだどころか、夜を共にしたこともありません。
ですが、とある時に浮気相手が懐妊した、との報告がありました。
なので邪魔者は消えさせてもらいますね
*『旦那様、離婚しましょう~私は冒険者になるのでお構いなく!~』と登場人物は同じ
本当はこんな感じにしたかったのに主が詰め込みすぎて......
婚約者を妹に奪われて政略結婚しましたが、なぜか溺愛されているようです。
夏目みや
恋愛
「ルシナお姉さまよりも私のことが好きだと言うのだから、仕方がないじゃない」
なんでも欲しがるわがままな妹に婚約者を奪われた私、ルシナ・アルベール。
事業に失敗続きの父に加えて、義母と妹の散財。おかげでわが家は没落寸前。
そんな時、アルベール家に手を差し伸べてきたのは若き実業家の男、グレン。交換条件は私との結婚。
「この結婚には裏があるはずよ」
怪しむ私の前に現れたのはスラッとした高身長に、金髪碧眼の端正な顔立ちの男性。内心、ときめいてしまった私。
だが、参加した舞踏会で彼の愛人と思わしき女性からけん制され、挙句には彼と友人の会話を聞いてしまった。
「お嬢さまはお嬢さまらしく、綺麗な鳥かごにいるのがお似合いだ。せめて大事にしてやるさ」
平民出身の彼が欲しているのは身分。彼は貴族社会に進出したいがために、私を選んだのだ。
……上手い話は、そう転がっているわけではないわね。
それならいっそ、政略結婚だと思って割り切るわ!!
我が家の借金を払ってくれてありがとうございます!!
将来的に離婚したいのなら、私は田舎に引っ込みましょう!! 愛人がいるもよし!!
だけど隠し子だけは事前に言ってくださいね。
「私たち、白い結婚にしません?」
「――ふざけるな」
彼に切り出したが、バッサリ拒絶された初夜。
それになぜか結婚後もドレスに装飾品、山のような贈り物。
どうした、旦那さま。借金を払ってくれただけで十分です。もう贈り物は結構ですから。
そして最近、妹と一緒にいるのを見かけたのですが。
あなたも妹がいいって言い出すのかしら?
元婚約者のようにーー。
婚約破棄直前に倒れた悪役令嬢は、愛を抱いたまま退場したい
矢口愛留
恋愛
【全11話】
学園の卒業パーティーで、公爵令嬢クロエは、第一王子スティーブに婚約破棄をされそうになっていた。
しかし、婚約破棄を宣言される前に、クロエは倒れてしまう。
クロエの余命があと一年ということがわかり、スティーブは、自身の感じていた違和感の元を探り始める。
スティーブは真実にたどり着き、クロエに一つの約束を残して、ある選択をするのだった。
※一話あたり短めです。
※ベリーズカフェにも投稿しております。
わたしのことはお気になさらず、どうぞ、元の恋人とよりを戻してください。
ふまさ
恋愛
「あたし、気付いたの。やっぱりリッキーしかいないって。リッキーだけを愛しているって」
人気のない校舎裏。熱っぽい双眸で訴えかけたのは、子爵令嬢のパティだ。正面には、伯爵令息のリッキーがいる。
「学園に通いはじめてすぐに他の令息に熱をあげて、ぼくを捨てたのは、きみじゃないか」
「捨てたなんて……だって、子爵令嬢のあたしが、侯爵令息様に逆らえるはずないじゃない……だから、あたし」
一歩近付くパティに、リッキーが一歩、後退る。明らかな動揺が見えた。
「そ、そんな顔しても無駄だよ。きみから侯爵令息に言い寄っていたことも、その侯爵令息に最近婚約者ができたことも、ぼくだってちゃんと知ってるんだからな。あてがはずれて、仕方なくぼくのところに戻って来たんだろ?!」
「……そんな、ひどい」
しくしくと、パティは泣き出した。リッキーが、うっと怯む。
「ど、どちらにせよ、もう遅いよ。ぼくには婚約者がいる。きみだって知ってるだろ?」
「あたしが好きなら、そんなもの、解消すればいいじゃない!」
パティが叫ぶ。無茶苦茶だわ、と胸中で呟いたのは、二人からは死角になるところで聞き耳を立てていた伯爵令嬢のシャノン──リッキーの婚約者だった。
昔からパティが大好きだったリッキーもさすがに呆れているのでは、と考えていたシャノンだったが──。
「……そんなにぼくのこと、好きなの?」
予想もしないリッキーの質問に、シャノンは目を丸くした。対してパティは、目を輝かせた。
「好き! 大好き!」
リッキーは「そ、そっか……」と、満更でもない様子だ。それは、パティも感じたのだろう。
「リッキー。ねえ、どうなの? 返事は?」
パティが詰め寄る。悩んだすえのリッキーの答えは、
「……少し、考える時間がほしい」
だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる