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45.神頼み
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「リグレット嬢?」
レイスが驚愕で目を見開いている。
屋敷でルーマにレシピを教えているはずの私がここにいて、しかもクッキーの袋を奪い取ったのだ。無理もない反応だった。
クッキーを渡した少女も、その他の出席者もぽかんと口を開けている。
そば粉は吸うだけでもアウトなのだ。袋の開け口をリボンでしっかり結びながら、私は説明しようと口を開いた。
「レイス様、実は……」
あ、駄目だ。と重大なことに気づいて言葉を止める。
本人以外にレイスがそば粉アレルギーだと知られるのは、かなりまずい気がする。今ここにいる方々を疑ってしまうようで申し訳ないが、他の人には害のない毒物として広まってしまう可能性が高い。
そうなったら、新しい問題が出て来てしまうのではないだろうか。
それにクッキーを渡した少女にもあらぬ疑いがかかってしまう。
どうしよう。
「リグレット嬢、どうしました? 何故、そのクッキーを……」
「や、やや、それは……」
「……もしや、それに何か入っているとか?」
こんな時に勘の良さを発揮するんじゃない。
早いところ上手い理由を思い付かなければ……。冷や汗をダラダラ流しながら必死に考えていた時だった。
「ど、どうして」
少女がルージュで赤く色づく唇を震わせる。
本当に申し訳ない。彼女の恋心をこんな形で踏みにじりたいわけではないのだ。
「どうして、クッキーに毒が入っているって気付いたの……!?」
!?
「マリツィーラ……今言ったことは本当か!?」
「お、お父様……」
しかもタイミングよく屋敷の中から公爵らしき人物が出てきた。
夫人や使用人たちも玄関前に集まって、騒ぎが大きくなっていく。
「何故クッキーに毒なんて入れた!?」
「…………」
「答えろ、マリツィーラ!」
公爵が自分の娘を問い詰める。
すると、マリツィーラは目に涙を浮かべて白状し始めた。
「だ、だって、レイス様が私のことを全然見てくれないから……そんなレイス様、大嫌い! 死んじゃえばいいって思ったの……」
「そんなくだらない理由で……? お前は何を考えているんだ!」
「くだらなくないもん! 私にとっては大事なことなの!」
「この……愚か者め!」
ベチンッと嫌な音がした。
公爵がマリツィーラを思い切り平手打ちしたのだ。夫人が悲鳴を上げて娘へと駆け寄った。
「マリー大丈夫!?」
「い、痛い……どうして? どうして私ばっかりこんな目に遭うの!? ただレイス様の恋人になりたかっただけなのに……!」
「そうよ、あなた! この子はこの子なりに一生懸命悩んでいたのに、それを理解しないで……」
「黙れ! 貴様らはもうこの家の人間ではない!」
マリツィーラと夫人が男の使用人に後ろ手で縛られる。
私は突如発生した親子間の修羅場を言葉を失っていた。
とりあえずマリツィーラが毒を入れたおかげで、アレルギーのことは知られずに済んだ……。
いや、フラれた腹いせで毒を混入するな。死んじゃえばいいって致死量ぶち込んだってことだろ。
「レイス子息、この度はうちの娘がとんでもないことを仕出かしてしまった。私には許しを乞う資格もない」
「……そうですね。これは立派な殺人未遂です。ご令嬢を罰するだけで済む問題でもない」
レイスが穏やかな口調で顔面蒼白の公爵に告げると、項垂れていたマリツィーラが顔を上げた。
「嫌……助けて。お願い、レイス様。私を助けてよ……」
レイスは何も答えなかった。それどころか、視線をそちらに向けようともしない。
それはマリツィーラの心を深く抉ったらしく、再び項垂れてしまった。
その場に重苦しい沈黙がのしかかる。参加者の一人が口を開いたのはその時だった。
「しかしそちらのお嬢さんは、どうやってクッキーの毒を見抜いたんだ……?」
「え……そ、それはですね」
「そ、それは?」
こんな時は……。
「神のお告げがあったのです。レイス様のクッキーに良からぬものが入っている。だからすぐに助けなさいと……」
困った時の神頼み。
「お、おお~!」
「まさか、お嬢さんがあのシスターリグレットなのか!?」
「光り輝いて見える……!」
「…………」
レイスが何か言いたそうな顔をしているが、この場の出席者を納得させることが目的なので無視することにした。
レイスが驚愕で目を見開いている。
屋敷でルーマにレシピを教えているはずの私がここにいて、しかもクッキーの袋を奪い取ったのだ。無理もない反応だった。
クッキーを渡した少女も、その他の出席者もぽかんと口を開けている。
そば粉は吸うだけでもアウトなのだ。袋の開け口をリボンでしっかり結びながら、私は説明しようと口を開いた。
「レイス様、実は……」
あ、駄目だ。と重大なことに気づいて言葉を止める。
本人以外にレイスがそば粉アレルギーだと知られるのは、かなりまずい気がする。今ここにいる方々を疑ってしまうようで申し訳ないが、他の人には害のない毒物として広まってしまう可能性が高い。
そうなったら、新しい問題が出て来てしまうのではないだろうか。
それにクッキーを渡した少女にもあらぬ疑いがかかってしまう。
どうしよう。
「リグレット嬢、どうしました? 何故、そのクッキーを……」
「や、やや、それは……」
「……もしや、それに何か入っているとか?」
こんな時に勘の良さを発揮するんじゃない。
早いところ上手い理由を思い付かなければ……。冷や汗をダラダラ流しながら必死に考えていた時だった。
「ど、どうして」
少女がルージュで赤く色づく唇を震わせる。
本当に申し訳ない。彼女の恋心をこんな形で踏みにじりたいわけではないのだ。
「どうして、クッキーに毒が入っているって気付いたの……!?」
!?
「マリツィーラ……今言ったことは本当か!?」
「お、お父様……」
しかもタイミングよく屋敷の中から公爵らしき人物が出てきた。
夫人や使用人たちも玄関前に集まって、騒ぎが大きくなっていく。
「何故クッキーに毒なんて入れた!?」
「…………」
「答えろ、マリツィーラ!」
公爵が自分の娘を問い詰める。
すると、マリツィーラは目に涙を浮かべて白状し始めた。
「だ、だって、レイス様が私のことを全然見てくれないから……そんなレイス様、大嫌い! 死んじゃえばいいって思ったの……」
「そんなくだらない理由で……? お前は何を考えているんだ!」
「くだらなくないもん! 私にとっては大事なことなの!」
「この……愚か者め!」
ベチンッと嫌な音がした。
公爵がマリツィーラを思い切り平手打ちしたのだ。夫人が悲鳴を上げて娘へと駆け寄った。
「マリー大丈夫!?」
「い、痛い……どうして? どうして私ばっかりこんな目に遭うの!? ただレイス様の恋人になりたかっただけなのに……!」
「そうよ、あなた! この子はこの子なりに一生懸命悩んでいたのに、それを理解しないで……」
「黙れ! 貴様らはもうこの家の人間ではない!」
マリツィーラと夫人が男の使用人に後ろ手で縛られる。
私は突如発生した親子間の修羅場を言葉を失っていた。
とりあえずマリツィーラが毒を入れたおかげで、アレルギーのことは知られずに済んだ……。
いや、フラれた腹いせで毒を混入するな。死んじゃえばいいって致死量ぶち込んだってことだろ。
「レイス子息、この度はうちの娘がとんでもないことを仕出かしてしまった。私には許しを乞う資格もない」
「……そうですね。これは立派な殺人未遂です。ご令嬢を罰するだけで済む問題でもない」
レイスが穏やかな口調で顔面蒼白の公爵に告げると、項垂れていたマリツィーラが顔を上げた。
「嫌……助けて。お願い、レイス様。私を助けてよ……」
レイスは何も答えなかった。それどころか、視線をそちらに向けようともしない。
それはマリツィーラの心を深く抉ったらしく、再び項垂れてしまった。
その場に重苦しい沈黙がのしかかる。参加者の一人が口を開いたのはその時だった。
「しかしそちらのお嬢さんは、どうやってクッキーの毒を見抜いたんだ……?」
「え……そ、それはですね」
「そ、それは?」
こんな時は……。
「神のお告げがあったのです。レイス様のクッキーに良からぬものが入っている。だからすぐに助けなさいと……」
困った時の神頼み。
「お、おお~!」
「まさか、お嬢さんがあのシスターリグレットなのか!?」
「光り輝いて見える……!」
「…………」
レイスが何か言いたそうな顔をしているが、この場の出席者を納得させることが目的なので無視することにした。
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