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43.サラセン
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「それでしたら、日誌を読めばすぐに分かりますよ」
ルーマは頷いてから、すぐに二冊のノートを持って来てくれた。
公爵家では毎日食事の献立を日誌に記載する決まりになっていて、事件が起こった日も作った料理やその食材と分量もしっかり書いているらしい。
料理人たちのプロ意識を感じる。
「えーと、一度目はこの日ですね」
ルーマが一冊目のノートを捲って私に見せてくれた。
ガレットと焼いたソーセージ、根菜のサラダとグリーンピースのポタージュが出た朝食だった。
……ガレットって何だろう?
リグレットの記憶にも存在していない料理なので、ルーマに聞いてみることにした。
どうやら水で溶いた粉を薄く焼いた料理で、真ん中に卵を落とす場合が多いらしい。美味しそうだ。
「あれ? このサラセンというものは何ですか?」
「ああ、ガレットに使われる粉のことです。この国で生産されてなくて、普段は小麦粉を使って焼くんです」
小麦粉を使っていて、薄く焼く。もうそれはガレットではなく、クレープなのでは。
「サラセンを使ったガレットは滅多に食べられませんし、見た目が珍しいことで有名です。灰色の生地なんですよ」
「灰……色?」
「遠い異国ではサラセンで麺も作るそうです。喉越しが非常にいいとかで」
もしやサラセンとはそば粉のことか。
その考えに思い至り、そこから一つの可能性が浮かぶ。
「……二度目の日誌も見せていただけますか?」
「二度目は~……ああ、この日ですね」
二度目も朝食の時だった。
この時の献立は粥。粥といっても、米ではなく複数の穀物が使われている。
その中にはサラセンの実もあった。
「やっぱり……」
「リグレット様、どうしました?」
「……レイス様は毒なんて盛られていなかったんです! でも、レイス様にとっては危険な食材が含まれていたんですよ」
「えぇっ!?」
パーティーの時に聞いた好き嫌い病の話がヒントになった。
医者たちの言う患者たちは、特定の食材を摂取した後に何らかの症状が出ている。
そしてレイスもサラセン──そば粉が入っている料理で、呼吸困難を起こした。
こんなの精神病や毒の類いではない。アレルギー反応だ。
「このことはレイス様が戻ってきたらすぐに話して──」
いや、待てよ。こんな重要なこと、一刻も早く伝えるべきでは?
食事会でそば粉を使った料理が出てきたら、それでアウトだ。
だけどこの国では滅多に出ないらしいし……。
「……ルーマ様、今すぐ馬車を出してもらうことはできますか?」
「え? 可能ですが……」
「レイス様がご出席されている食事会の場所に行きたいんです! 今すぐに!」
ええい、失礼だとか非常識とか思われても知ったことか。どうせ私は明後日からまた修道院での引きこもり生活だ。
ルーマは頷いてから、すぐに二冊のノートを持って来てくれた。
公爵家では毎日食事の献立を日誌に記載する決まりになっていて、事件が起こった日も作った料理やその食材と分量もしっかり書いているらしい。
料理人たちのプロ意識を感じる。
「えーと、一度目はこの日ですね」
ルーマが一冊目のノートを捲って私に見せてくれた。
ガレットと焼いたソーセージ、根菜のサラダとグリーンピースのポタージュが出た朝食だった。
……ガレットって何だろう?
リグレットの記憶にも存在していない料理なので、ルーマに聞いてみることにした。
どうやら水で溶いた粉を薄く焼いた料理で、真ん中に卵を落とす場合が多いらしい。美味しそうだ。
「あれ? このサラセンというものは何ですか?」
「ああ、ガレットに使われる粉のことです。この国で生産されてなくて、普段は小麦粉を使って焼くんです」
小麦粉を使っていて、薄く焼く。もうそれはガレットではなく、クレープなのでは。
「サラセンを使ったガレットは滅多に食べられませんし、見た目が珍しいことで有名です。灰色の生地なんですよ」
「灰……色?」
「遠い異国ではサラセンで麺も作るそうです。喉越しが非常にいいとかで」
もしやサラセンとはそば粉のことか。
その考えに思い至り、そこから一つの可能性が浮かぶ。
「……二度目の日誌も見せていただけますか?」
「二度目は~……ああ、この日ですね」
二度目も朝食の時だった。
この時の献立は粥。粥といっても、米ではなく複数の穀物が使われている。
その中にはサラセンの実もあった。
「やっぱり……」
「リグレット様、どうしました?」
「……レイス様は毒なんて盛られていなかったんです! でも、レイス様にとっては危険な食材が含まれていたんですよ」
「えぇっ!?」
パーティーの時に聞いた好き嫌い病の話がヒントになった。
医者たちの言う患者たちは、特定の食材を摂取した後に何らかの症状が出ている。
そしてレイスもサラセン──そば粉が入っている料理で、呼吸困難を起こした。
こんなの精神病や毒の類いではない。アレルギー反応だ。
「このことはレイス様が戻ってきたらすぐに話して──」
いや、待てよ。こんな重要なこと、一刻も早く伝えるべきでは?
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だけどこの国では滅多に出ないらしいし……。
「……ルーマ様、今すぐ馬車を出してもらうことはできますか?」
「え? 可能ですが……」
「レイス様がご出席されている食事会の場所に行きたいんです! 今すぐに!」
ええい、失礼だとか非常識とか思われても知ったことか。どうせ私は明後日からまた修道院での引きこもり生活だ。
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