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37.元婚約者との再会
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美人なブランシェと婚約できて、さぞかし幸せな日々を送っているだろうと思いきや。イレネーは以前よりも頬がこけて、肌の血色も悪くなっていた。
まあアデーレの件で、公爵からあれこれ言われたのかもしれない。魔法の素質を持たないものの、公爵の優秀な部下でテオドールの親友というキャラだったのに。
「まさか、こんなところで会えるとは思っていなかった。修道院から出たのか?」
「聖鐘祭に参加するため、特別に外出の許可をいただきました」
「……レイスから誘われたらしいとテオドールに言われたが」
「ええ。このドレスも仲のいい修道女に作ってもらい、化粧や髪のセットもお願いしたんです」
スマイル全開で答えれば、優雅に微笑んでいたブランシェが一瞬だけ真顔になった。
私を社交界から追い出したブランシェには感謝しているが、リグレットに行った仕打ちは許さない。このくらいの嫌みはいってもいいだろう。
イレネーは、少し戸惑った様子で私をじろじろと見てから口を開いた。
「……綺麗だ。このホールにいる誰よりも」
「は?」
隣に現婚約者がいることを忘れたんか? と聞きたくなるような爆弾発言だった。
これにはブランシェもまずいと思ったのか、すぐにイレネーに抱き着いた。
「酷いです、イレネー様。私のことを忘れてしまいましたか……?」
「そ、そんなことはない。君は特別だ。他の女性と比べられる存在じゃない」
「本当に? でしたら、今この場で誓いの口付けをしてくださいませ」
「ここで?」
「はい。だって不安なんですもの。イレネー様の心にはまだリグレット様がいるのかと……」
ブランシェの熱視線に、イレネーの頬が仄かに染まる。が、何度も私をチラチラ見てくるのが無性に腹が立つ。
「……レイス様、お二人の邪魔にならないように離れましょうか」
「そうですね。ではイレネー様、失礼します」
「あ……っ、ま、待ってくれ! 俺と話を──」
無視してレイスと一緒にスタコラサッサ。
本当に引き留めたいなら、とっととブランシェを引き剥がして追いかければいい。
第一ブランシェもそうだけれど、私を疑って犯人扱いしたことを謝ってもらえてないのだ。何が「……綺麗だ」だ、今でも俺はお前が好きだよムーヴを出しやがって。
「……実はイレネー様はブランシェ嬢との結婚を迷っているようですよ」
二人から離れたところで、レイスがそう教えてくれた。
「自分と婚約するために、ブランシェがリグレット嬢に濡れ衣を着せたのではないか……と周囲に漏らしているのだとか。例の新聞記事を読んで疑念が生じたんでしょうか」
「……ですが、この短期間に二回も婚約解消ってできるものなんですか?」
「可能です。その後三人目の相手を見つけるのは苦労するでしょうね」
確かにまともな女性は寄りつかなくなりそうだ。私を信じずに婚約解消して、その原因を作った女と婚約したと思えば、それもなかったことにしようとしているのだから。
……しかし、
「……皆様、ベルを交換し合っていますね」
先程から若い男女が小さなベルを異性に渡す光景ばかり見かける。
このシチュエーションどこかで……と思考を巡らせていると、
「意中の相手とベルを交換し合うと、将来幸せな夫婦になるという言い伝えがありますからね。親愛の意味を込めて友人や家族に渡すケースも多いですが」
「ハッ……」
失われていた記憶が今、蘇る。
この聖鐘祭、誓約のベルを交換して特定のキャラの好感度を上げる重要なイベントだった。
私、誓約のベルをもう一つ持っていた。というか、今ドレスのポケットに入っている。
絶対に元の持ち主に知られるわけには……。そう警戒していると、その人物が笑顔で一言。
「僕があげたベル、今日も持参しているようで嬉しいです」
エスパーか?
まあアデーレの件で、公爵からあれこれ言われたのかもしれない。魔法の素質を持たないものの、公爵の優秀な部下でテオドールの親友というキャラだったのに。
「まさか、こんなところで会えるとは思っていなかった。修道院から出たのか?」
「聖鐘祭に参加するため、特別に外出の許可をいただきました」
「……レイスから誘われたらしいとテオドールに言われたが」
「ええ。このドレスも仲のいい修道女に作ってもらい、化粧や髪のセットもお願いしたんです」
スマイル全開で答えれば、優雅に微笑んでいたブランシェが一瞬だけ真顔になった。
私を社交界から追い出したブランシェには感謝しているが、リグレットに行った仕打ちは許さない。このくらいの嫌みはいってもいいだろう。
イレネーは、少し戸惑った様子で私をじろじろと見てから口を開いた。
「……綺麗だ。このホールにいる誰よりも」
「は?」
隣に現婚約者がいることを忘れたんか? と聞きたくなるような爆弾発言だった。
これにはブランシェもまずいと思ったのか、すぐにイレネーに抱き着いた。
「酷いです、イレネー様。私のことを忘れてしまいましたか……?」
「そ、そんなことはない。君は特別だ。他の女性と比べられる存在じゃない」
「本当に? でしたら、今この場で誓いの口付けをしてくださいませ」
「ここで?」
「はい。だって不安なんですもの。イレネー様の心にはまだリグレット様がいるのかと……」
ブランシェの熱視線に、イレネーの頬が仄かに染まる。が、何度も私をチラチラ見てくるのが無性に腹が立つ。
「……レイス様、お二人の邪魔にならないように離れましょうか」
「そうですね。ではイレネー様、失礼します」
「あ……っ、ま、待ってくれ! 俺と話を──」
無視してレイスと一緒にスタコラサッサ。
本当に引き留めたいなら、とっととブランシェを引き剥がして追いかければいい。
第一ブランシェもそうだけれど、私を疑って犯人扱いしたことを謝ってもらえてないのだ。何が「……綺麗だ」だ、今でも俺はお前が好きだよムーヴを出しやがって。
「……実はイレネー様はブランシェ嬢との結婚を迷っているようですよ」
二人から離れたところで、レイスがそう教えてくれた。
「自分と婚約するために、ブランシェがリグレット嬢に濡れ衣を着せたのではないか……と周囲に漏らしているのだとか。例の新聞記事を読んで疑念が生じたんでしょうか」
「……ですが、この短期間に二回も婚約解消ってできるものなんですか?」
「可能です。その後三人目の相手を見つけるのは苦労するでしょうね」
確かにまともな女性は寄りつかなくなりそうだ。私を信じずに婚約解消して、その原因を作った女と婚約したと思えば、それもなかったことにしようとしているのだから。
……しかし、
「……皆様、ベルを交換し合っていますね」
先程から若い男女が小さなベルを異性に渡す光景ばかり見かける。
このシチュエーションどこかで……と思考を巡らせていると、
「意中の相手とベルを交換し合うと、将来幸せな夫婦になるという言い伝えがありますからね。親愛の意味を込めて友人や家族に渡すケースも多いですが」
「ハッ……」
失われていた記憶が今、蘇る。
この聖鐘祭、誓約のベルを交換して特定のキャラの好感度を上げる重要なイベントだった。
私、誓約のベルをもう一つ持っていた。というか、今ドレスのポケットに入っている。
絶対に元の持ち主に知られるわけには……。そう警戒していると、その人物が笑顔で一言。
「僕があげたベル、今日も持参しているようで嬉しいです」
エスパーか?
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