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33.聖鐘祭
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私は西洋の城をこの目で見たことがない。
西洋風ならある。某黒い耳のネズミ王国で見た。
女の子が喜びそうなファンタジー感強い見た目してんな、とポップコーンを貪りながら思った記憶がある。
これから私たちが足を踏み入れる城にも、同じ感想を抱く。
鉛筆のように細く先端が尖った赤い屋根と、白い外壁。
中心部には銀色の鐘が設置されていて、現在進行形で鳴り響いている。
案外、西洋の城とは皆こういうデザインなのかもしれない。
しかし鐘がうるさい。まさか二日間ずっと鳴らすつもりだろうか。街の人々にとっては睡眠妨害もいいところだ。
「この鐘の音は、パーティーがもうすぐ開始することを知らせるものです。もう少しすれば止むので静かになりますよ」
レイスにそう言われてホッとした。
それから溜め息をつく。
この城は完全に初見だった。
私だけではなく、リグレットとしても実際に城を見るのは初めて。
リグレットは聖鐘祭に参加したことがないのだ。
男爵家にもパーティーの招待状は届いていたのに、リグレットだけはどこかの灰かぶり姫のように留守番をさせられていた。
理由はただ一つ。
「あんたが私たちの妹だなんて思われたくない」という姉二人の発言のせいだった。
彼女たちを叱らず、その通りだと言って三女を置き去りにした両親も両親なのだが。
嫌な記憶だ。そう思いつつ、レイスと共に城の中に進む。
開かれたままの扉の前には文官と兵士が何人もいて、参加者のチェックをしていた。
参加者が提出した招待状を確認している。
私はそんなものを持っていないと焦りを覚えていると、
「ようこそお越しくださいました、レイス様。そちらの方は?」
「僕の親しい友人です」
「もしや、彼女が例の修道女……いえ、余計な詮索は致しません。どうぞ、お通りください」
まさかの顔パス。流石は公爵家は扱いが違う。
既にパーティー会場のホールには多くの参加者が集まっていた。
皆、世間話を楽しんでいたが、私たちに気づくと視線をこちらへ向けてくる。
「レイス子息のお隣にいる女性がリグレット嬢か……?」
「ああ、あの冤罪で修道院行きになった令嬢か」
「なかなかの美人じゃないか? 男爵家の三女で醜女って噂だったが、俺好みの見た目だ」
「やめとけ、やめとけ。レイス子息が連れてきたなら、そういうことだろう?」
そういうこととは、どういうことだ。
話し声が聞こえてきた方向を見ようとすると、レイスの手に視界を遮られてしまった。
「特に用件もないのに視線を向けると、変な勘違いをされるのでやめましょう」
「は、はい……」
けれど、私たちの話題をしているのは男だけではない。
「うっそ、あれがリグレット? 私見たことあるけど、もっと根暗なブスだったわよ?」
「そうよね。いつもビクビクしてて、背中丸めて歩いてるような子だったのに……ブランシェ嬢の子分やっている時とは大違い!」
「修道院に入って覚醒したのかも。他の修道女から崇められてるって話じゃない」
「ドレスはどこの店で買ったのかしら。あんなに綺麗なものを作ってくれる職人がいるなんて、私も紹介してもらいたいわぁ……」
「えぇ~、リグレット嬢ってブランシェ嬢の悪い噂を流した性悪でしょ? どうしてこんなところにいるのかしら」
「グライン公爵が無実だって言い切っているのよ? リグレット嬢は誰かに陥れられただけよ、可哀想……」
女性陣からも色々と言われている。
まだ私を疑っている人もいるけれど、大半の人は公爵のおかげで私が無実だと認識している様子だ。妙ないちゃもんをつけられても困るので、そこは安心している。
まあ、修道院送りになったはずの女が公爵子息のお気に入りとなって、社交界に再び姿を見せたのだ。面白くないと感じる人間は少なくはないはず。
特に普段から私を馬鹿にしていた連中は。
「ちょっとリグレット! あんた、どういうことなの……!?」
聞き覚えのある声に振り返る。
そこにいたのはリグレットの家族だった。
西洋風ならある。某黒い耳のネズミ王国で見た。
女の子が喜びそうなファンタジー感強い見た目してんな、とポップコーンを貪りながら思った記憶がある。
これから私たちが足を踏み入れる城にも、同じ感想を抱く。
鉛筆のように細く先端が尖った赤い屋根と、白い外壁。
中心部には銀色の鐘が設置されていて、現在進行形で鳴り響いている。
案外、西洋の城とは皆こういうデザインなのかもしれない。
しかし鐘がうるさい。まさか二日間ずっと鳴らすつもりだろうか。街の人々にとっては睡眠妨害もいいところだ。
「この鐘の音は、パーティーがもうすぐ開始することを知らせるものです。もう少しすれば止むので静かになりますよ」
レイスにそう言われてホッとした。
それから溜め息をつく。
この城は完全に初見だった。
私だけではなく、リグレットとしても実際に城を見るのは初めて。
リグレットは聖鐘祭に参加したことがないのだ。
男爵家にもパーティーの招待状は届いていたのに、リグレットだけはどこかの灰かぶり姫のように留守番をさせられていた。
理由はただ一つ。
「あんたが私たちの妹だなんて思われたくない」という姉二人の発言のせいだった。
彼女たちを叱らず、その通りだと言って三女を置き去りにした両親も両親なのだが。
嫌な記憶だ。そう思いつつ、レイスと共に城の中に進む。
開かれたままの扉の前には文官と兵士が何人もいて、参加者のチェックをしていた。
参加者が提出した招待状を確認している。
私はそんなものを持っていないと焦りを覚えていると、
「ようこそお越しくださいました、レイス様。そちらの方は?」
「僕の親しい友人です」
「もしや、彼女が例の修道女……いえ、余計な詮索は致しません。どうぞ、お通りください」
まさかの顔パス。流石は公爵家は扱いが違う。
既にパーティー会場のホールには多くの参加者が集まっていた。
皆、世間話を楽しんでいたが、私たちに気づくと視線をこちらへ向けてくる。
「レイス子息のお隣にいる女性がリグレット嬢か……?」
「ああ、あの冤罪で修道院行きになった令嬢か」
「なかなかの美人じゃないか? 男爵家の三女で醜女って噂だったが、俺好みの見た目だ」
「やめとけ、やめとけ。レイス子息が連れてきたなら、そういうことだろう?」
そういうこととは、どういうことだ。
話し声が聞こえてきた方向を見ようとすると、レイスの手に視界を遮られてしまった。
「特に用件もないのに視線を向けると、変な勘違いをされるのでやめましょう」
「は、はい……」
けれど、私たちの話題をしているのは男だけではない。
「うっそ、あれがリグレット? 私見たことあるけど、もっと根暗なブスだったわよ?」
「そうよね。いつもビクビクしてて、背中丸めて歩いてるような子だったのに……ブランシェ嬢の子分やっている時とは大違い!」
「修道院に入って覚醒したのかも。他の修道女から崇められてるって話じゃない」
「ドレスはどこの店で買ったのかしら。あんなに綺麗なものを作ってくれる職人がいるなんて、私も紹介してもらいたいわぁ……」
「えぇ~、リグレット嬢ってブランシェ嬢の悪い噂を流した性悪でしょ? どうしてこんなところにいるのかしら」
「グライン公爵が無実だって言い切っているのよ? リグレット嬢は誰かに陥れられただけよ、可哀想……」
女性陣からも色々と言われている。
まだ私を疑っている人もいるけれど、大半の人は公爵のおかげで私が無実だと認識している様子だ。妙ないちゃもんをつけられても困るので、そこは安心している。
まあ、修道院送りになったはずの女が公爵子息のお気に入りとなって、社交界に再び姿を見せたのだ。面白くないと感じる人間は少なくはないはず。
特に普段から私を馬鹿にしていた連中は。
「ちょっとリグレット! あんた、どういうことなの……!?」
聞き覚えのある声に振り返る。
そこにいたのはリグレットの家族だった。
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