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31.服飾店の娘

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 何でもクラリスは元々貴族ではなく、服飾店の娘だったそうだ。
 幼少の頃から親の仕事を手伝っていて、自分で客から依頼を受けたドレスを仕立てることもあったのだとか。

 やっぱり元平民だったのか、この子。
 そんな予感はしていた。調理スキルが壊滅的な修道女ズの中でも、クラリスが作る料理は大ざっぱだけれど、普通に美味しかったのだ。

「どんなドレスがいいのか、オーダーをくださいリグレット様!」
「えっ、えっ」

 突然そんなことを言われてもすぐには浮かばないし、多分時間をもらっても浮かばないと思う。
 私のファッションへの興味や意欲のなさを舐めてはいけない。
 すると、テンパっている私を見兼ねたアントワネットが、

「……クラリス様。リグレット様に考えてもらうのではなく、あなたがリグレット様に似合うデザインを考えて作るというのは如何でしょう」
「あ、それいいですね! 私もクラリス様にお願いしたいです!」

 ナイスアイディア。アントワネットが作ってくれた波に素早く飛び乗った。

「あ、それ楽しそうですねぇ! リグレット様でしたら寒色系のドレスが似合いそうです」

 そしてクラリスもノリノリである。「お前が一から考えてドレス作れ」と言われるなんて、私だったら緊張で臆してしまうだろう。
 なのにクラリスは職人の血が騒いでいるのか、野球少年のようにキラキラと目を輝かせている。
 そんな彼女がとても眩しく見えた。



 ドレス作りに必要なのは、まずは材料と時間の確保である。
 材料の調達はレイスにお願いした。
 カタログの中からではなく、手作りを選んだのだから流石に嫌な顔をされると思いきや、

「優しいお仲間を持ちましたね。ドレスの完成、楽しみにしています」

 期待の眼差しを向けられた。

 畑仕事の合間に作業をさせたら、クラリスが過労で倒れてしまう。
 そこで皆と話し合って、ドレス作りの期間は労働時間を免除させてもらうことにした。彼女の分を私ががむしゃらになって働けばいいわけだし。
 院長も「完璧なドレスを作るには、適度な休息が必要だものね」と特別に許可してくれた。その寛容さに感謝だ。

「えへへ~、ドレス作りなんて久しぶりだから楽しいです!」

 進捗状況を聞くと、朗らかな笑顔でそう返された。
 ……どうして服飾店の娘だったのに貴族になって、それでこんなところにいるのだろう。
 ほんの少し好奇心が湧いたものの、聞こうとは思わない。
 皆、人には色々な事情があって修道院にいるのだ。まだ彼女たちと出会ってから日の浅い私が聞けることではない。私は新聞のせいでここに来た理由を知られてしまったけれど、前世の記憶を持っているという特大級の記憶があるし。

「ドレスグローブも作っちゃいますね~」
「ドレ……? 何ですか、それ」
「お洒落用の薄い手袋だと思ってもらえれば!」

 グローブって野球選手が着けているやつのことかと……。
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