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26.二人で食事
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「うん、ただのミルクスープより濃厚で食べごたえがありますね。このラタトゥイユも複数の野菜を使っているので、様々な味や食感を楽しめます」
「……喜んでいただけて何よりです」
面会室でレイスと二人きりの夕食になってしまった。レイスが「一人ぼっちの食事は寂しい」と目を伏せながら、言葉を零したためである。
しかも食事前のお祈りタイムが終わるのを見計らい、来訪するという絶妙なタイミング。
「……ですが、私は修道女の身です。男性と二人きりで食事というのは……」
「僕とリグレット嬢は恋愛関係ではないのでセーフです。それに僕は、あなたとの逢瀬のために訪れたわけではありませんし」
私が作った夕飯をモリモリと食っておきながら、何をいけしゃあしゃあと……。
「ああ、ブロッコリーではなくカリフラワーを使っているんですね。僕、こっちの方が食感が好きなので嬉しいです」
「そうですか……」
別にこの男の好みを把握して、カリフラワーを入れたわけではないのだが。
「……多めに作ったのでおかわりしたければ仰ってください」
「ありがとうございます。では、お言葉に甘えさせていただきましょうか」
必要以上に優しくすることはないと思うのだけれど、本当に美味しそうに私の料理を食べる姿を見ると、「ちょっとくらいは優しくしてもいいか」という気持ちにさせられる。
レイスの年齢は十七歳とまだまだ食べ盛り。食いたいのなら好きなだけ食えという感じだ。
こんなことがあろうかと、別の小鍋に一人前分のシチューは確保していた。私が当番になった日の厨房は、おかわりを求めて皆がやってくるのだ。
「実家ではこうしてゆっくりと楽しみながら食事なんてできませんからね」
「それはどういう……」
「過去に二回ほど毒殺されそうになったんです。しかも特殊な毒を用いて」
突然重い話をぶっ込まれてしまい、パンを千切る私の手が止まった。
私が引いていると、レイスはにっこりと微笑んだ。
「面白いでしょう? 僕以外には効き目のない毒物だったんです。しかも医師がどれだけ調べても特定できなかった」
「面白くないですよ。そんな目に遭っているのに、よく私の作ったものを食べられるなぁ……私が妙なものを入れていたら、どうするんですか」
嫌みではなく、心配という意味で言った。
一度ならまだしも、二度も殺されかけたのに危機管理能力がガバガバ過ぎるのではなかろうか。
お前もう少し気をつけろ、とドジっ子系ヒロインを案じるヒーローのような気持ちになっていると、レイスは何とも表現しがたい顔をした。泣くのを我慢する子供のような、けれど笑うのを堪えているような微妙な表情だ。
「その時はその時ですね」
こんなところで覚悟を決められても困る。
じっとりと嫌な汗を掻いてしまうのは、近い将来彼が毒によって命を落とすシナリオを知っているからだろう。
ヒロインが公爵子息テオドールの個別ルートに入った直後に、事件は起こる。
レイスはその高い情報収集能力によって、ヒロインの命が狙われていると気づく。それを兄に伝えようとした矢先、参加したパーティーで何者かに毒を盛られて殺害されてしまう。
テオドールは弟から死の間際、ヒロインに危険が迫っていることを知らされる。そしてレイスの件もあって、大切な者を守るためならばと排他的になっていく。
つまりレイスの死は、テオドール暴走のトリガーなのだ。
こうして知り合いになってしまったレイスに死なれると、流石に気分が悪い。なので、ヒロインにはテオドールルートを回避してもらいたい。
一番いいのは誰ともくっつかないことだが、今後どうなるかは私にも分からない。
この時点で既に本編とは異なっている。決して警戒を怠らないよう、気を付けねば。
「……喜んでいただけて何よりです」
面会室でレイスと二人きりの夕食になってしまった。レイスが「一人ぼっちの食事は寂しい」と目を伏せながら、言葉を零したためである。
しかも食事前のお祈りタイムが終わるのを見計らい、来訪するという絶妙なタイミング。
「……ですが、私は修道女の身です。男性と二人きりで食事というのは……」
「僕とリグレット嬢は恋愛関係ではないのでセーフです。それに僕は、あなたとの逢瀬のために訪れたわけではありませんし」
私が作った夕飯をモリモリと食っておきながら、何をいけしゃあしゃあと……。
「ああ、ブロッコリーではなくカリフラワーを使っているんですね。僕、こっちの方が食感が好きなので嬉しいです」
「そうですか……」
別にこの男の好みを把握して、カリフラワーを入れたわけではないのだが。
「……多めに作ったのでおかわりしたければ仰ってください」
「ありがとうございます。では、お言葉に甘えさせていただきましょうか」
必要以上に優しくすることはないと思うのだけれど、本当に美味しそうに私の料理を食べる姿を見ると、「ちょっとくらいは優しくしてもいいか」という気持ちにさせられる。
レイスの年齢は十七歳とまだまだ食べ盛り。食いたいのなら好きなだけ食えという感じだ。
こんなことがあろうかと、別の小鍋に一人前分のシチューは確保していた。私が当番になった日の厨房は、おかわりを求めて皆がやってくるのだ。
「実家ではこうしてゆっくりと楽しみながら食事なんてできませんからね」
「それはどういう……」
「過去に二回ほど毒殺されそうになったんです。しかも特殊な毒を用いて」
突然重い話をぶっ込まれてしまい、パンを千切る私の手が止まった。
私が引いていると、レイスはにっこりと微笑んだ。
「面白いでしょう? 僕以外には効き目のない毒物だったんです。しかも医師がどれだけ調べても特定できなかった」
「面白くないですよ。そんな目に遭っているのに、よく私の作ったものを食べられるなぁ……私が妙なものを入れていたら、どうするんですか」
嫌みではなく、心配という意味で言った。
一度ならまだしも、二度も殺されかけたのに危機管理能力がガバガバ過ぎるのではなかろうか。
お前もう少し気をつけろ、とドジっ子系ヒロインを案じるヒーローのような気持ちになっていると、レイスは何とも表現しがたい顔をした。泣くのを我慢する子供のような、けれど笑うのを堪えているような微妙な表情だ。
「その時はその時ですね」
こんなところで覚悟を決められても困る。
じっとりと嫌な汗を掻いてしまうのは、近い将来彼が毒によって命を落とすシナリオを知っているからだろう。
ヒロインが公爵子息テオドールの個別ルートに入った直後に、事件は起こる。
レイスはその高い情報収集能力によって、ヒロインの命が狙われていると気づく。それを兄に伝えようとした矢先、参加したパーティーで何者かに毒を盛られて殺害されてしまう。
テオドールは弟から死の間際、ヒロインに危険が迫っていることを知らされる。そしてレイスの件もあって、大切な者を守るためならばと排他的になっていく。
つまりレイスの死は、テオドール暴走のトリガーなのだ。
こうして知り合いになってしまったレイスに死なれると、流石に気分が悪い。なので、ヒロインにはテオドールルートを回避してもらいたい。
一番いいのは誰ともくっつかないことだが、今後どうなるかは私にも分からない。
この時点で既に本編とは異なっている。決して警戒を怠らないよう、気を付けねば。
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