上 下
26 / 96

26.二人で食事

しおりを挟む
「うん、ただのミルクスープより濃厚で食べごたえがありますね。このラタトゥイユも複数の野菜を使っているので、様々な味や食感を楽しめます」
「……喜んでいただけて何よりです」

 面会室でレイスと二人きりの夕食になってしまった。レイスが「一人ぼっちの食事は寂しい」と目を伏せながら、言葉を零したためである。
 しかも食事前のお祈りタイムが終わるのを見計らい、来訪するという絶妙なタイミング。

「……ですが、私は修道女の身です。男性と二人きりで食事というのは……」
「僕とリグレット嬢は恋愛関係ではないのでセーフです。それに僕は、あなたとの逢瀬のために訪れたわけではありませんし」

 私が作った夕飯をモリモリと食っておきながら、何をいけしゃあしゃあと……。

「ああ、ブロッコリーではなくカリフラワーを使っているんですね。僕、こっちの方が食感が好きなので嬉しいです」
「そうですか……」

 別にこの男の好みを把握して、カリフラワーを入れたわけではないのだが。

「……多めに作ったのでおかわりしたければ仰ってください」
「ありがとうございます。では、お言葉に甘えさせていただきましょうか」

 必要以上に優しくすることはないと思うのだけれど、本当に美味しそうに私の料理を食べる姿を見ると、「ちょっとくらいは優しくしてもいいか」という気持ちにさせられる。
 レイスの年齢は十七歳とまだまだ食べ盛り。食いたいのなら好きなだけ食えという感じだ。
 こんなことがあろうかと、別の小鍋に一人前分のシチューは確保していた。私が当番になった日の厨房は、おかわりを求めて皆がやってくるのだ。

「実家ではこうしてゆっくりと楽しみながら食事なんてできませんからね」
「それはどういう……」
「過去に二回ほど毒殺されそうになったんです。しかも特殊な毒を用いて」

 突然重い話をぶっ込まれてしまい、パンを千切る私の手が止まった。
 私が引いていると、レイスはにっこりと微笑んだ。

「面白いでしょう? 僕以外には効き目のない毒物だったんです。しかも医師がどれだけ調べても特定できなかった」
「面白くないですよ。そんな目に遭っているのに、よく私の作ったものを食べられるなぁ……私が妙なものを入れていたら、どうするんですか」

 嫌みではなく、心配という意味で言った。
 一度ならまだしも、二度も殺されかけたのに危機管理能力がガバガバ過ぎるのではなかろうか。
 お前もう少し気をつけろ、とドジっ子系ヒロインを案じるヒーローのような気持ちになっていると、レイスは何とも表現しがたい顔をした。泣くのを我慢する子供のような、けれど笑うのを堪えているような微妙な表情だ。

「その時はその時ですね」

 こんなところで覚悟を決められても困る。
 じっとりと嫌な汗を掻いてしまうのは、近い将来彼が毒によって命を落とすシナリオを知っているからだろう。

 ヒロインが公爵子息テオドールの個別ルートに入った直後に、事件は起こる。
 レイスはその高い情報収集能力によって、ヒロインの命が狙われていると気づく。それを兄に伝えようとした矢先、参加したパーティーで何者かに毒を盛られて殺害されてしまう。
 テオドールは弟から死の間際、ヒロインに危険が迫っていることを知らされる。そしてレイスの件もあって、大切な者を守るためならばと排他的になっていく。
 つまりレイスの死は、テオドール暴走のトリガーなのだ。

 こうして知り合いになってしまったレイスに死なれると、流石に気分が悪い。なので、ヒロインにはテオドールルートを回避してもらいたい。
 一番いいのは誰ともくっつかないことだが、今後どうなるかは私にも分からない。

 この時点で既に本編とは異なっている。決して警戒を怠らないよう、気を付けねば。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

【完結】もう辛い片想いは卒業して結婚相手を探そうと思います

ユユ
恋愛
大家族で大富豪の伯爵家に産まれた令嬢には 好きな人がいた。 彼からすれば誰にでも向ける微笑みだったが 令嬢はそれで恋に落ちてしまった。 だけど彼は私を利用するだけで 振り向いてはくれない。 ある日、薬の過剰摂取をして 彼から離れようとした令嬢の話。 * 完結保証付き * 3万文字未満 * 暇つぶしにご利用下さい

【完結】許婚の子爵令息から婚約破棄を宣言されましたが、それを知った公爵家の幼馴染から溺愛されるようになりました

八重
恋愛
「ソフィ・ルヴェリエ! 貴様とは婚約破棄する!」 子爵令息エミール・エストレが言うには、侯爵令嬢から好意を抱かれており、男としてそれに応えねばならないというのだ。 失意のどん底に突き落とされたソフィ。 しかし、婚約破棄をきっかけに幼馴染の公爵令息ジル・ルノアールから溺愛されることに! 一方、エミールの両親はソフィとの婚約破棄を知って大激怒。 エミールの両親の命令で『好意の証拠』を探すが、侯爵令嬢からの好意は彼の勘違いだった。 なんとかして侯爵令嬢を口説くが、婚約者のいる彼女がなびくはずもなく……。 焦ったエミールはソフィに復縁を求めるが、時すでに遅し──

愛されていたのだと知りました。それは、あなたの愛をなくした時の事でした。

桗梛葉 (たなは)
恋愛
リリナシスと王太子ヴィルトスが婚約をしたのは、2人がまだ幼い頃だった。 それから、ずっと2人は一緒に過ごしていた。 一緒に駆け回って、悪戯をして、叱られる事もあったのに。 いつの間にか、そんな2人の関係は、ひどく冷たくなっていた。 変わってしまったのは、いつだろう。 分からないままリリナシスは、想いを反転させる禁忌薬に手を出してしまう。 ****************************************** こちらは、全19話(修正したら予定より6話伸びました🙏) 7/22~7/25の4日間は、1日2話の投稿予定です。以降は、1日1話になります。

悪役令嬢予定でしたが、無言でいたら、ヒロインがいつの間にか居なくなっていました

toyjoy11
恋愛
題名通りの内容。 一応、TSですが、主人公は元から性的思考がありませんので、問題無いと思います。 主人公、リース・マグノイア公爵令嬢は前世から寡黙な人物だった。その為、初っぱなの王子との喧嘩イベントをスルー。たった、それだけしか彼女はしていないのだが、自他共に関連する乙女ゲームや18禁ゲームのフラグがボキボキ折れまくった話。 完結済。ハッピーエンドです。 8/2からは閑話を書けたときに追加します。 ランクインさせて頂き、本当にありがとうございます(*- -)(*_ _)ペコリ お読み頂き本当にありがとうございます(*- -)(*_ _)ペコリ 応援、アドバイス、感想、お気に入り、しおり登録等とても有り難いです。 12/9の9時の投稿で一応完結と致します。 更新、お待たせして申し訳ありません。後は、落ち着いたら投稿します。 ありがとうございました!

【完結】悪役令嬢エヴァンジェリンは静かに死にたい

小達出みかん
恋愛
私は、悪役令嬢。ヒロインの代わりに死ぬ役どころ。 エヴァンジェリンはそうわきまえて、冷たい婚約者のどんな扱いにも耐え、死ぬ日のためにもくもくとやるべき事をこなしていた。 しかし、ヒロインを虐めたと濡れ衣を着せられ、「やっていません」と初めて婚約者に歯向かったその日から、物語の歯車が狂いだす。 ――ヒロインの身代わりに死ぬ予定の悪役令嬢だったのに、愛されキャラにジョブチェンしちゃったみたい(無自覚)でなかなか死ねない! 幸薄令嬢のお話です。 安心してください、ハピエンです――

旦那様、離婚しましょう

榎夜
恋愛
私と旦那は、いわゆる『白い結婚』というやつだ。 手を繋いだどころか、夜を共にしたこともありません。 ですが、とある時に浮気相手が懐妊した、との報告がありました。 なので邪魔者は消えさせてもらいますね *『旦那様、離婚しましょう~私は冒険者になるのでお構いなく!~』と登場人物は同じ 本当はこんな感じにしたかったのに主が詰め込みすぎて......

婚約破棄直前に倒れた悪役令嬢は、愛を抱いたまま退場したい

矢口愛留
恋愛
【全11話】 学園の卒業パーティーで、公爵令嬢クロエは、第一王子スティーブに婚約破棄をされそうになっていた。 しかし、婚約破棄を宣言される前に、クロエは倒れてしまう。 クロエの余命があと一年ということがわかり、スティーブは、自身の感じていた違和感の元を探り始める。 スティーブは真実にたどり着き、クロエに一つの約束を残して、ある選択をするのだった。 ※一話あたり短めです。 ※ベリーズカフェにも投稿しております。

処理中です...