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25.一ヶ月後

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 私がリグレットになり・・、ナヴィア修道院で暮らすようになってから早一ヶ月。
 本日の夕食係は私だ。本日は野菜が大量に収穫できたので、それをフルに使いたいと人参を引っこ抜きながら考えていた。

 そして多めに配給してもらった牛乳を使ったホワイトシチューと、トマトを大量に使ったラタトゥイユ、それといつもの黒いパンという献立になった。
 流石にシチューのルー的なのはなかったけれど、コンソメの素さえあればどうにかなる。

 ちなみに数日に一度の配給で届けてもらった食材で生モノ系は、冷蔵庫にしまうことにしている。
 冷蔵庫と言っても私のよく知るコンセント一つで稼働するものではなく、魔法の力で作った氷の箱的なものだ。言わば空洞になった氷の塊なので、中身をすぐに確認することができるのはかなり便利である。

「シスターリグレット、本日の夕飯は何でしょう?」

 厨房の様子を見にきた温厚そうなおばあさんは、アデーレの代わりにやってきた新しい院長だ。
 元は他国のエメリーア教修道院にいたそうだけれど、ナヴィア修道院の事件を聞いてこちらに移ったのだ。
 修道女歴六十年の大御所とあって警戒していたものの、物腰柔らかく誠実な性格だと分かって皆胸を撫で下ろした。

「牛乳が手に入ったので、ホワイトシチューを作ってみました」
「まぁっ、あんな手の込んだものも作れてしまうの?」
「意外と簡単に作れてしまうんですよ」
「あら~、そうなのね。あら~」

 と言ったままそこから動かない院長。鍋へ向けられる熱視線。

「……よろしければ、味見していかれますか?」
「いいの? 何だか皆さんに申しわけないわねぇ」

 口では謝っているのだが、ウキウキした様子が隠しきれていない。
 スープをよそった小皿を渡すと、院長は息を吹きかけながらゆっくりと口をつけて、

「美味しいわぁ……とっても優しい味がする」
「ありがとうございます。ラタトゥイユも作りますので、楽しみにしていてくださいね」
「ふふ、楽しみだわ。私がいた修道院もお料理上手な方はいたけれど、こういうスープは作れなかったの」

 アデーレたちは私たちと一緒に食事をせず、いつもあの隠し部屋で毎日業勢な料理を食べていた。
 おばちゃん修道女に街まで行かせて、男娼の手配をするついでに惣菜を買わせていたのだとか。道理で食堂には若い修道女しかいなかったわけである。

 ちなみにナヴィア修道院から追い出されたアデーレたちは、全員強制労働所行きとなった。
 本人たちは禁固刑に処してくれと嘆願したものの、聞き入れられることはなかった。
 使い込んだ金を返済し終わっても、死ぬまで働かされることが決定したそうな。
 修道女として一番やってはいけないことをしてしまったのだから、残念でもないし当然だろう。

 とまあ三、四十代という人生まだまだこれからなのに、全てを失ったアデーレたち。
 その顛末を知っているのは修道院では私だけだ。他の子は「他国の厳格な修道院に移された」とだけ説明を受けている。

 で、私に本当のことを教えてくれたのは──、

「これだけ美味しいご飯なら、きっとレイス子息も喜んでくださるわね」
「そう……だといいのですけれど」

 私は乾いた笑みを浮かべた。
 レイスはグライン公爵に働きぶりを認めてもらい、ナヴィア修道院の監督役に就くことになった。公爵の部下から仕事を横取りしたことになり、当然彼らからの反感を買った。
 しかしアデーレのやらかしを見逃して、修道院を一つ潰そうとした失態を叱責されてはぐうの音も出ない。この件で公爵からの信用も失う羽目になった。ましてや娼館送りを容認していたわけで。

 監督役になった関係で、レイスは決して多くない頻度ではあるが、修道院を訪れるようになった。
 だが、いつ来るのか予想することは容易だった。

 大方、院長から当番表の写しをもらっているのだろう。
 私が食事係の時に彼は必ずやって来る。
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