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17.隠し部屋
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それから大分時間が経った頃、空が炎色に染まり始めた。そこから段々と夜の色に変化していく。
修道院からは、夕食の時間を知らせる鐘の音が聞こえた。
朝食べたっきりなのだが、緊張しているせいか全く空腹感を感じない。
今夜の夕飯のメニューは無事だろうか。一抹の不安を覚えていると、
「夕食を終えた一時間後くらいに忍び込んでみましょう」
手元の懐中時計に目をやりつつ、レイスがそう提案した。
「アデーレの部屋に突撃する感じですか?」
「いいえ。彼女たちが普段使っている部屋には、何も置いていないかと。流石にそこまで無用心なわけではないでしょうし」
「……だったらどこを調べるんです? 他に怪しいところなんて思いつきませんよ」
「なので、まずは怪しいところを探します」
レイスは地面の上に一枚の紙を広げた。
建物の見取り図のように見えるが……。
「あ、これナヴィア修道院ですね」
「はい。と言っても、『当初の』ですが」
「当初?」
「後に一部分が変更になり、これは使われなくなったんです。何でもいざという時の緊急避難室をどこかに作ったそうですが、外部の人間はその場所を知らされていません」
「……私内部の人間ですけど、避難室なんて聞いたことありませんよ」
私が答えると、レイスは神妙な顔で頷いた。
「あなた方には説明されていない秘密の部屋。きっとそこでしょうね」
「でも、全く心当たりがないのですが。この見取り図だって変更前のやつだし」
「リグレット嬢、この図面と今の修道院何か違いはありませんか? どんな些細な点でも構いません」
「ええぇ……」
私も修道院にやって来てからまだ日が浅い。脳内の映像とこの図を照らし合わせて、違いはないかと聞かれても。
そう絶望的な気持ちになっていたのだが、
「あれ?」
「どうしました?」
「祈りの間、この段階では窓がたくさんあるんですね。確か天井の辺りに窓が一つだけしかなかったと思うんですけれど」
本来はもっと日の光が差し込む明るい場所だったようだ。
何だか残念に感じていると、レイスがぼそりと呟く。
「なるほど。ここなら大人数を集めやすいし、避難室の入口にも向いているか……」
そして笑みを浮かべながら、見取り図を丁寧に畳んでいく。
どうやら私の言葉で目的地が決定したようだ。
祈りの間は夜になると、とにかく不気味の一言に尽きる。三叉の燭台からも蝋燭が外されていて真っ暗だ。
ドゴッ、と派手な音を立てて長椅子に脚を強打した。悲鳴を上げそうになったのをすんでのところで堪える。
「さて、どこにあるかな……」
レイスはあちこちの壁を手でコンコンと叩きながら歩き回っていた。
ランタンの光を最小限の光量にしているのに、探索できるのは彼が闇属性の魔法の使い手だからだろうか。
闇属性と言っても悪の力云々ではなく、闇そのものや影を操るようなものだ。
と、ある場所でピタリと足を止めて、私に手招きをする。
「いいですか、よく聞いてください」
彼が数歩後ろに下がって壁を叩くと、硬い質感の音が返ってきた。
次に先程立ち止まった付近の壁をノックしてみる。すると、明らかに変化があった。
音が妙に軽いのだ。まるで空っぽの箱を叩いているような。
「入口はここですね」
レイスが掌を壁に押し当てると、物置小屋の壁のようにドロドロと溶けていく。
そして現れたのは、地下へと続く階段だった。
修道院からは、夕食の時間を知らせる鐘の音が聞こえた。
朝食べたっきりなのだが、緊張しているせいか全く空腹感を感じない。
今夜の夕飯のメニューは無事だろうか。一抹の不安を覚えていると、
「夕食を終えた一時間後くらいに忍び込んでみましょう」
手元の懐中時計に目をやりつつ、レイスがそう提案した。
「アデーレの部屋に突撃する感じですか?」
「いいえ。彼女たちが普段使っている部屋には、何も置いていないかと。流石にそこまで無用心なわけではないでしょうし」
「……だったらどこを調べるんです? 他に怪しいところなんて思いつきませんよ」
「なので、まずは怪しいところを探します」
レイスは地面の上に一枚の紙を広げた。
建物の見取り図のように見えるが……。
「あ、これナヴィア修道院ですね」
「はい。と言っても、『当初の』ですが」
「当初?」
「後に一部分が変更になり、これは使われなくなったんです。何でもいざという時の緊急避難室をどこかに作ったそうですが、外部の人間はその場所を知らされていません」
「……私内部の人間ですけど、避難室なんて聞いたことありませんよ」
私が答えると、レイスは神妙な顔で頷いた。
「あなた方には説明されていない秘密の部屋。きっとそこでしょうね」
「でも、全く心当たりがないのですが。この見取り図だって変更前のやつだし」
「リグレット嬢、この図面と今の修道院何か違いはありませんか? どんな些細な点でも構いません」
「ええぇ……」
私も修道院にやって来てからまだ日が浅い。脳内の映像とこの図を照らし合わせて、違いはないかと聞かれても。
そう絶望的な気持ちになっていたのだが、
「あれ?」
「どうしました?」
「祈りの間、この段階では窓がたくさんあるんですね。確か天井の辺りに窓が一つだけしかなかったと思うんですけれど」
本来はもっと日の光が差し込む明るい場所だったようだ。
何だか残念に感じていると、レイスがぼそりと呟く。
「なるほど。ここなら大人数を集めやすいし、避難室の入口にも向いているか……」
そして笑みを浮かべながら、見取り図を丁寧に畳んでいく。
どうやら私の言葉で目的地が決定したようだ。
祈りの間は夜になると、とにかく不気味の一言に尽きる。三叉の燭台からも蝋燭が外されていて真っ暗だ。
ドゴッ、と派手な音を立てて長椅子に脚を強打した。悲鳴を上げそうになったのをすんでのところで堪える。
「さて、どこにあるかな……」
レイスはあちこちの壁を手でコンコンと叩きながら歩き回っていた。
ランタンの光を最小限の光量にしているのに、探索できるのは彼が闇属性の魔法の使い手だからだろうか。
闇属性と言っても悪の力云々ではなく、闇そのものや影を操るようなものだ。
と、ある場所でピタリと足を止めて、私に手招きをする。
「いいですか、よく聞いてください」
彼が数歩後ろに下がって壁を叩くと、硬い質感の音が返ってきた。
次に先程立ち止まった付近の壁をノックしてみる。すると、明らかに変化があった。
音が妙に軽いのだ。まるで空っぽの箱を叩いているような。
「入口はここですね」
レイスが掌を壁に押し当てると、物置小屋の壁のようにドロドロと溶けていく。
そして現れたのは、地下へと続く階段だった。
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