悪役令嬢の腰巾着に転生したけど、物語が始まる前に追放されたから修道院デビュー目指します。

火野村志紀

文字の大きさ
上 下
17 / 96

17.隠し部屋

しおりを挟む
 それから大分時間が経った頃、空が炎色に染まり始めた。そこから段々と夜の色に変化していく。
 修道院からは、夕食の時間を知らせる鐘の音が聞こえた。
 朝食べたっきりなのだが、緊張しているせいか全く空腹感を感じない。
 今夜の夕飯のメニューは無事だろうか。一抹の不安を覚えていると、

「夕食を終えた一時間後くらいに忍び込んでみましょう」

 手元の懐中時計に目をやりつつ、レイスがそう提案した。

「アデーレの部屋に突撃する感じですか?」
「いいえ。彼女たちが普段使っている部屋には、何も置いていないかと。流石にそこまで無用心なわけではないでしょうし」
「……だったらどこを調べるんです? 他に怪しいところなんて思いつきませんよ」
「なので、まずは怪しいところを探します」

 レイスは地面の上に一枚の紙を広げた。
 建物の見取り図のように見えるが……。

「あ、これナヴィア修道院ですね」
「はい。と言っても、『当初の』ですが」
「当初?」
「後に一部分が変更になり、これは使われなくなったんです。何でもいざという時の緊急避難室をどこかに作ったそうですが、外部の人間はその場所を知らされていません」
「……私内部の人間ですけど、避難室なんて聞いたことありませんよ」

 私が答えると、レイスは神妙な顔で頷いた。

「あなた方には説明されていない秘密の部屋。きっとそこでしょうね」
「でも、全く心当たりがないのですが。この見取り図だって変更前のやつだし」
「リグレット嬢、この図面と今の修道院何か違いはありませんか? どんな些細な点でも構いません」
「ええぇ……」

 私も修道院にやって来てからまだ日が浅い。脳内の映像とこの図を照らし合わせて、違いはないかと聞かれても。
 そう絶望的な気持ちになっていたのだが、

「あれ?」
「どうしました?」
「祈りの間、この段階では窓がたくさんあるんですね。確か天井の辺りに窓が一つだけしかなかったと思うんですけれど」

 本来はもっと日の光が差し込む明るい場所だったようだ。
 何だか残念に感じていると、レイスがぼそりと呟く。

「なるほど。ここなら大人数を集めやすいし、避難室の入口にも向いているか……」

 そして笑みを浮かべながら、見取り図を丁寧に畳んでいく。
 どうやら私の言葉で目的地が決定したようだ。



 祈りの間は夜になると、とにかく不気味の一言に尽きる。三叉の燭台からも蝋燭が外されていて真っ暗だ。
 ドゴッ、と派手な音を立てて長椅子に脚を強打した。悲鳴を上げそうになったのをすんでのところで堪える。

「さて、どこにあるかな……」

 レイスはあちこちの壁を手でコンコンと叩きながら歩き回っていた。
 ランタンの光を最小限の光量にしているのに、探索できるのは彼が闇属性の魔法の使い手だからだろうか。
 闇属性と言っても悪の力云々ではなく、闇そのものや影を操るようなものだ。
 と、ある場所でピタリと足を止めて、私に手招きをする。

「いいですか、よく聞いてください」

 彼が数歩後ろに下がって壁を叩くと、硬い質感の音が返ってきた。
 次に先程立ち止まった付近の壁をノックしてみる。すると、明らかに変化があった。
 音が妙に軽いのだ。まるで空っぽの箱を叩いているような。

「入口はここですね」

 レイスが掌を壁に押し当てると、物置小屋の壁のようにドロドロと溶けていく。
 そして現れたのは、地下へと続く階段だった。
しおりを挟む
ツギクルバナー
感想 429

あなたにおすすめの小説

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

〖完結〗幼馴染みの王女様の方が大切な婚約者は要らない。愛してる? もう興味ありません。

藍川みいな
恋愛
婚約者のカイン様は、婚約者の私よりも幼馴染みのクリスティ王女殿下ばかりを優先する。 何度も約束を破られ、彼と過ごせる時間は全くなかった。約束を破る理由はいつだって、「クリスティが……」だ。 同じ学園に通っているのに、私はまるで他人のよう。毎日毎日、二人の仲のいい姿を見せられ、苦しんでいることさえ彼は気付かない。 もうやめる。 カイン様との婚約は解消する。 でもなぜか、別れを告げたのに彼が付きまとってくる。 愛してる? 私はもう、あなたに興味はありません! 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 沢山の感想ありがとうございます。返信出来ず、申し訳ありません。

誰からも愛されない悪役令嬢に転生したので、自由気ままに生きていきたいと思います。

木山楽斗
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢であるエルファリナに転生した私は、彼女のその境遇に対して深い悲しみを覚えていた。 彼女は、家族からも婚約者からも愛されていない。それどころか、その存在を疎まれているのだ。 こんな環境なら歪んでも仕方ない。そう思う程に、彼女の境遇は悲惨だったのである。 だが、彼女のように歪んでしまえば、ゲームと同じように罪を暴かれて牢屋に行くだけだ。 そのため、私は心を強く持つしかなかった。悲惨な結末を迎えないためにも、どんなに不当な扱いをされても、耐え抜くしかなかったのである。 そんな私に、解放される日がやって来た。 それは、ゲームの始まりである魔法学園入学の日だ。 全寮制の学園には、歪な家族は存在しない。 私は、自由を得たのである。 その自由を謳歌しながら、私は思っていた。 悲惨な境遇から必ず抜け出し、自由気ままに生きるのだと。

初耳なのですが…、本当ですか?

あおくん
恋愛
侯爵令嬢の次女として、父親の仕事を手伝ったり、邸の管理をしたりと忙しくしているアニーに公爵家から婚約の申し込みが来た! でも実際に公爵家に訪れると、異世界から来たという少女が婚約者の隣に立っていて…。

妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢

岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか? 「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」 「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」 マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。

【完結】今世も裏切られるのはごめんなので、最愛のあなたはもう要らない

曽根原ツタ
恋愛
隣国との戦時中に国王が病死し、王位継承権を持つ男子がひとりもいなかったため、若い王女エトワールは女王となった。だが── 「俺は彼女を愛している。彼女は俺の子を身篭った」 戦場から帰還した愛する夫の隣には、別の女性が立っていた。さらに彼は、王座を奪うために女王暗殺を企てる。 そして。夫に剣で胸を貫かれて死んだエトワールが次に目が覚めたとき、彼と出会った日に戻っていて……? ──二度目の人生、私を裏切ったあなたを絶対に愛しません。 ★小説家になろうさまでも公開中

我慢するだけの日々はもう終わりにします

風見ゆうみ
恋愛
「レンウィル公爵も素敵だけれど、あなたの婚約者も素敵ね」伯爵の爵位を持つ父の後妻の連れ子であるロザンヌは、私、アリカ・ルージーの婚約者シーロンをうっとりとした目で見つめて言った――。 学園でのパーティーに出席した際、シーロンからパーティー会場の入口で「今日はロザンヌと出席するから、君は1人で中に入ってほしい」と言われた挙げ句、ロザンヌからは「あなたにはお似合いの相手を用意しておいた」と言われ、複数人の男子生徒にどこかへ連れ去られそうになってしまう。 そんな私を助けてくれたのは、ロザンヌが想いを寄せている相手、若き公爵ギルバート・レンウィルだった。 ※本編完結しましたが、番外編を更新中です。 ※史実とは関係なく、設定もゆるい、ご都合主義です。 ※独特の世界観です。 ※中世〜近世ヨーロッパ風で貴族制度はありますが、法律、武器、食べ物など、その他諸々は現代風です。話を進めるにあたり、都合の良い世界観となっています。 ※誤字脱字など見直して気を付けているつもりですが、やはりございます。申し訳ございません。

悪役令嬢ですが、当て馬なんて奉仕活動はいたしませんので、どうぞあしからず!

たぬきち25番
恋愛
 気が付くと私は、ゲームの中の悪役令嬢フォルトナに転生していた。自分は、婚約者のルジェク王子殿下と、ヒロインのクレアを邪魔する悪役令嬢。そして、ふと気が付いた。私は今、強大な権力と、惚れ惚れするほどの美貌と身体、そして、かなり出来の良い頭を持っていた。王子も確かにカッコイイけど、この世界には他にもカッコイイ男性はいる、王子はヒロインにお任せします。え? 当て馬がいないと物語が進まない? ごめんなさい、王子殿下、私、自分のことを優先させて頂きまぁ~す♡ ※マルチエンディングです!! コルネリウス(兄)&ルジェク(王子)好きなエンディングをお迎えください m(_ _)m 2024.11.14アイク(誰?)ルートをスタートいたしました。 楽しんで頂けると幸いです。

処理中です...