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15.救出
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レイス子息は「お守り、ちゃんと身に付けてくださったようで嬉しいです」と固まっている私を見て安心したご様子だった。
お守り、と言われてポケットにこっそり隠し持っていた黒いベルを取り出す。まさかこれは、レイスの召喚アイテム的なものなものだった……?
「そのベルは僕の魔力で作ったもので、使い魔の一種のようなものでして。あなたに危険が迫っていると判断した時は、僕が察知できるように魔法を付与しているんです。ちなみにこのランタンも僕の魔力製です」
「ええ……? 何故そんな貴重なものを、私のような者に渡したんですか」
想像以上に高性能で、ベルを持つ手が震える。
ただ私を助けに来てくれたメリットが見当たらない。多少警戒しつつ尋ねてみると、レイスは困ったような顔をした。その顔をするのは私の方だと思うのだけれど。
「……それを僕の口から直接言わせるおつもりですか?」
「……え? お聞きしない方がよかったですか?」
「その話は追々ということで。それよりも妙な場所に閉じ込められましたね」
レイスがランタンで室内を照らしながら歩き回る。この呑気な様子を見るに、脱出の手立てはあるのだと信じたい。
もしかしてメロディのことに関しても、何か力になってくれるかもしれない。
淡い期待を胸に、私は昨晩メロディと話した会話のこと、彼女が行方不明になっていること、そして私がここにぶちこまれた経緯を語った。
わりと長話になってしまったが、レイスは途中で口を挟むことなく、真剣な顔つきで聞いてくれていた。
「それらは恐らく、全て繋がっているはずです」
私が話を終えると、レイスは自らの見解を口にした。
「メロディ嬢はあなたのご友人でした。その彼女がいなくなったとなれば、あなたも行動を起こすかもしれないと考えたのでしょう。だから牙を抜くという目的で、こんなところに押し込めたのかもしれません」
「……やっぱりそういうことですよね」
「ですが修道女の間でも、院長の黒い噂は流れていましたか」
「……?」
レイスも知っていたような口振りだ。
「メロディ嬢の言っていたことは真実です。アデーレ院長とその取り巻きたちは、経費と偽って色々と楽しんでいたようです。公爵──僕の父からはまともな援助がいっているはずなのに、経営難で閉院など考えられません。運営費がナヴィア修道院と同額の修道院はいくつもありますが、同様の問題は起きていないんです」
「それって……アデーレ院長たちは、結構悪いことをしているということですよね?」
「れっきとした犯罪です。修道院の経費を横領など……神も恐れぬ愚行です」
確かにかなり罰当たりだ。
というより、そのことが明るみに出れば閉院も防げるのではなかろうか。
ただ気になることが一つある。
「レイス様がお気付きになったんです。先日訪問された部下の方々も気付かれていたと思うのですが……」
私が疑問を呈すると、レイスからはとんでもない答えが返ってきた。
「その部下たちは大方どうでもいいと思っているでしょう」
「どうでもいいって、そんな」
「ここは、修道院とは名ばかりの更生施設です。修道女がどうなろうと、知ったことではないという認識なのでしょう。だから不審な点に気づいていたとしても、そのせいで閉院になったとしても彼らは見て見ぬ振りです。父にはどうとでも説明できますし」
「……レイス様は見て見ぬ振りをしないんですか?」
私の問いかけに、レイスは一拍置いてから静かな声で、
「今回の件は、個人的に見逃すわけにはいかないんです」
お守り、と言われてポケットにこっそり隠し持っていた黒いベルを取り出す。まさかこれは、レイスの召喚アイテム的なものなものだった……?
「そのベルは僕の魔力で作ったもので、使い魔の一種のようなものでして。あなたに危険が迫っていると判断した時は、僕が察知できるように魔法を付与しているんです。ちなみにこのランタンも僕の魔力製です」
「ええ……? 何故そんな貴重なものを、私のような者に渡したんですか」
想像以上に高性能で、ベルを持つ手が震える。
ただ私を助けに来てくれたメリットが見当たらない。多少警戒しつつ尋ねてみると、レイスは困ったような顔をした。その顔をするのは私の方だと思うのだけれど。
「……それを僕の口から直接言わせるおつもりですか?」
「……え? お聞きしない方がよかったですか?」
「その話は追々ということで。それよりも妙な場所に閉じ込められましたね」
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もしかしてメロディのことに関しても、何か力になってくれるかもしれない。
淡い期待を胸に、私は昨晩メロディと話した会話のこと、彼女が行方不明になっていること、そして私がここにぶちこまれた経緯を語った。
わりと長話になってしまったが、レイスは途中で口を挟むことなく、真剣な顔つきで聞いてくれていた。
「それらは恐らく、全て繋がっているはずです」
私が話を終えると、レイスは自らの見解を口にした。
「メロディ嬢はあなたのご友人でした。その彼女がいなくなったとなれば、あなたも行動を起こすかもしれないと考えたのでしょう。だから牙を抜くという目的で、こんなところに押し込めたのかもしれません」
「……やっぱりそういうことですよね」
「ですが修道女の間でも、院長の黒い噂は流れていましたか」
「……?」
レイスも知っていたような口振りだ。
「メロディ嬢の言っていたことは真実です。アデーレ院長とその取り巻きたちは、経費と偽って色々と楽しんでいたようです。公爵──僕の父からはまともな援助がいっているはずなのに、経営難で閉院など考えられません。運営費がナヴィア修道院と同額の修道院はいくつもありますが、同様の問題は起きていないんです」
「それって……アデーレ院長たちは、結構悪いことをしているということですよね?」
「れっきとした犯罪です。修道院の経費を横領など……神も恐れぬ愚行です」
確かにかなり罰当たりだ。
というより、そのことが明るみに出れば閉院も防げるのではなかろうか。
ただ気になることが一つある。
「レイス様がお気付きになったんです。先日訪問された部下の方々も気付かれていたと思うのですが……」
私が疑問を呈すると、レイスからはとんでもない答えが返ってきた。
「その部下たちは大方どうでもいいと思っているでしょう」
「どうでもいいって、そんな」
「ここは、修道院とは名ばかりの更生施設です。修道女がどうなろうと、知ったことではないという認識なのでしょう。だから不審な点に気づいていたとしても、そのせいで閉院になったとしても彼らは見て見ぬ振りです。父にはどうとでも説明できますし」
「……レイス様は見て見ぬ振りをしないんですか?」
私の問いかけに、レイスは一拍置いてから静かな声で、
「今回の件は、個人的に見逃すわけにはいかないんです」
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