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12.無実
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ヒロインの危機にテオドール兄貴より先に気づき、どうにか彼女を守ろうと考えていた矢先、パーティーの最中に暗殺されてしまうのだ。
つまり、本編に思い切り関連している超重要人物。
どうしてそんなのが私に会いに来たのだろう。
「単刀直入にお聞きします。リグレット嬢、あなたはブランシェ嬢に陥れられたのではないですか?」
「は……!?」
「あなたが流したとされる噂を調査してみると、本当にあなたが流したという証拠は出なかった。ブランシェ嬢の悪評を誰から聞いたのか、一人一人に確認して情報源を辿ってみると、数人の人物に行き着きました。ですが、彼らは全員行方知れず……ひょっとすると、平民を金で雇って噂を流させたのかもしれません」
「そ、それは何のためにでしょうか……?」
「もちろん、リグレット嬢を陥れるためです」
そこまで考えていたとは。ブランシェに絆されて即刻リグレットを切り捨てたイレネーとは大違いだ。
「実はあなたのことは以前から気になっていました。僕はあなたが噂を流した張本人だとは思っていませんでしたから」
ゆったりと耳障りのいい声で、私を真っ直ぐ見据えながら言う。
「あなたはとても気弱で、特定の人物以外とはろくに話すことができないような人見知りな性格であると聞きます。そんな方が赤の他人に噂を言い触らすなんて難しいですし、誰もあなたから噂を聞いた証言した人間はいなかった」
「確かに……で、ですが、私が平民を雇った可能性もありますでしょう?」
「家庭内で孤立していたあなたに、そんなお金があるとは思えませんがね」
リグレットはレイスの言葉を聞いているだろうか。
誰にも助けてもらえなかった彼女が、無実だと確信してくれている人がここにいる。
が、それとこれとでは話が別だ。
私の冤罪が証明されて、社交界に戻ることとなっても困る。
しかし修道院が危機的な状況な以上、盛大に悲劇のヒロインを演じてここを脱出するのが先決かもしれない。
「リグレット嬢、完全に無実を証明できればここから出られるかもしれませんよ」
「ほ、本当ですか!?」
来た。
「暫くは公爵家で預かる形となりますが。男爵家には気まずくて戻れないでしょうし、あなたにとってはそちらの方が……」
「申し訳ありませんが、お断りさせていただきます」
……却下。
公爵邸なんて、危険地帯で働けるわけがなかろう。あそこに住んでいた使用人皆殺しという展開が、何パターンか用意されているのだ。
どこまでゲーム基準で世界が動くか分からない限り、危険が危ない場所には近寄りたくない。
けれどレイスは私の言葉を聞いて、不思議そうに瞬きを繰り返した。
「……よろしければ、理由をお伺いしてもよろしいでしょうか?」
「私の潔白を信じてくれるのはとてもありがたいです。ですが、私には身に余るお話と言いますか……その……」
本当のことを言うわけにはいかないので、他の理由で切り抜けなければ。
ああ、そうだ。それらしい口実があるではないか。
「……他の方々を見捨ててはいけませんから」
これには本心も含まれている。少しずつ仲良くなり始めている子たちを置いて、一人だけなんて流石に良心が咎める。
「なので、お気持ちだけ受け取らせていただきます」
私が頭を下げて辞退すると、レイスは暫し思案してから、
「僕はあなたを誤解していたようですね。全く人見知りする様子がなく、初対面の僕ともしっかり目を合わせて会話する。となれば、ブランシェ嬢の噂の件は……」
「え、いや、これは……!」
「今の返答であなたが白であると確証が得られました」
ここまできて黒認定されるのも何だかなと焦っていると、レイスは真面目な顔でそう告げた。
「この状況下で僕の話を蹴るような方が、他者の噂を故意に流布するなんて陰湿な手段を取るとは思えませんので。……では、本日はこれで失礼します」
そう言ってレイスがソファーから立ち上がる。と、そのついでに私に黒くて小さなベルを握らせた。
「これはお守りです。どうか大事に持っていて」
「……分かりました」
真っ黒なベルをお守りとな? 少し不吉な感じはあるけれど、これまで拒否するのは失礼過ぎるだろうと受け取ることにした。
にこやかに、優雅に去って行く公爵家の次男を見送っていると、
「…………?」
視線を感じたものの、周囲を見回しても誰の姿も見当たらなかった。
つまり、本編に思い切り関連している超重要人物。
どうしてそんなのが私に会いに来たのだろう。
「単刀直入にお聞きします。リグレット嬢、あなたはブランシェ嬢に陥れられたのではないですか?」
「は……!?」
「あなたが流したとされる噂を調査してみると、本当にあなたが流したという証拠は出なかった。ブランシェ嬢の悪評を誰から聞いたのか、一人一人に確認して情報源を辿ってみると、数人の人物に行き着きました。ですが、彼らは全員行方知れず……ひょっとすると、平民を金で雇って噂を流させたのかもしれません」
「そ、それは何のためにでしょうか……?」
「もちろん、リグレット嬢を陥れるためです」
そこまで考えていたとは。ブランシェに絆されて即刻リグレットを切り捨てたイレネーとは大違いだ。
「実はあなたのことは以前から気になっていました。僕はあなたが噂を流した張本人だとは思っていませんでしたから」
ゆったりと耳障りのいい声で、私を真っ直ぐ見据えながら言う。
「あなたはとても気弱で、特定の人物以外とはろくに話すことができないような人見知りな性格であると聞きます。そんな方が赤の他人に噂を言い触らすなんて難しいですし、誰もあなたから噂を聞いた証言した人間はいなかった」
「確かに……で、ですが、私が平民を雇った可能性もありますでしょう?」
「家庭内で孤立していたあなたに、そんなお金があるとは思えませんがね」
リグレットはレイスの言葉を聞いているだろうか。
誰にも助けてもらえなかった彼女が、無実だと確信してくれている人がここにいる。
が、それとこれとでは話が別だ。
私の冤罪が証明されて、社交界に戻ることとなっても困る。
しかし修道院が危機的な状況な以上、盛大に悲劇のヒロインを演じてここを脱出するのが先決かもしれない。
「リグレット嬢、完全に無実を証明できればここから出られるかもしれませんよ」
「ほ、本当ですか!?」
来た。
「暫くは公爵家で預かる形となりますが。男爵家には気まずくて戻れないでしょうし、あなたにとってはそちらの方が……」
「申し訳ありませんが、お断りさせていただきます」
……却下。
公爵邸なんて、危険地帯で働けるわけがなかろう。あそこに住んでいた使用人皆殺しという展開が、何パターンか用意されているのだ。
どこまでゲーム基準で世界が動くか分からない限り、危険が危ない場所には近寄りたくない。
けれどレイスは私の言葉を聞いて、不思議そうに瞬きを繰り返した。
「……よろしければ、理由をお伺いしてもよろしいでしょうか?」
「私の潔白を信じてくれるのはとてもありがたいです。ですが、私には身に余るお話と言いますか……その……」
本当のことを言うわけにはいかないので、他の理由で切り抜けなければ。
ああ、そうだ。それらしい口実があるではないか。
「……他の方々を見捨ててはいけませんから」
これには本心も含まれている。少しずつ仲良くなり始めている子たちを置いて、一人だけなんて流石に良心が咎める。
「なので、お気持ちだけ受け取らせていただきます」
私が頭を下げて辞退すると、レイスは暫し思案してから、
「僕はあなたを誤解していたようですね。全く人見知りする様子がなく、初対面の僕ともしっかり目を合わせて会話する。となれば、ブランシェ嬢の噂の件は……」
「え、いや、これは……!」
「今の返答であなたが白であると確証が得られました」
ここまできて黒認定されるのも何だかなと焦っていると、レイスは真面目な顔でそう告げた。
「この状況下で僕の話を蹴るような方が、他者の噂を故意に流布するなんて陰湿な手段を取るとは思えませんので。……では、本日はこれで失礼します」
そう言ってレイスがソファーから立ち上がる。と、そのついでに私に黒くて小さなベルを握らせた。
「これはお守りです。どうか大事に持っていて」
「……分かりました」
真っ黒なベルをお守りとな? 少し不吉な感じはあるけれど、これまで拒否するのは失礼過ぎるだろうと受け取ることにした。
にこやかに、優雅に去って行く公爵家の次男を見送っていると、
「…………?」
視線を感じたものの、周囲を見回しても誰の姿も見当たらなかった。
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