上 下
12 / 96

12.無実

しおりを挟む
 ヒロインの危機にテオドール兄貴より先に気づき、どうにか彼女を守ろうと考えていた矢先、パーティーの最中に暗殺されてしまうのだ。
 つまり、本編に思い切り関連している超重要人物。
 どうしてそんなのが私に会いに来たのだろう。

「単刀直入にお聞きします。リグレット嬢、あなたはブランシェ嬢に陥れられたのではないですか?」
「は……!?」
「あなたが流したとされる噂を調査してみると、本当にあなたが流したという証拠は出なかった。ブランシェ嬢の悪評を誰から聞いたのか、一人一人に確認して情報源を辿ってみると、数人の人物に行き着きました。ですが、彼らは全員行方知れず……ひょっとすると、平民を金で雇って噂を流させたのかもしれません」
「そ、それは何のためにでしょうか……?」
「もちろん、リグレット嬢を陥れるためです」

 そこまで考えていたとは。ブランシェに絆されて即刻リグレットを切り捨てたイレネーとは大違いだ。

「実はあなたのことは以前から気になっていました。僕はあなたが噂を流した張本人だとは思っていませんでしたから」

 ゆったりと耳障りのいい声で、私を真っ直ぐ見据えながら言う。

「あなたはとても気弱で、特定の人物以外とはろくに話すことができないような人見知りな性格であると聞きます。そんな方が赤の他人に噂を言い触らすなんて難しいですし、誰もあなたから噂を聞いた証言した人間はいなかった」
「確かに……で、ですが、私が平民を雇った可能性もありますでしょう?」
「家庭内で孤立していたあなたに、そんなお金があるとは思えませんがね」

 リグレットはレイスの言葉を聞いているだろうか。
 誰にも助けてもらえなかった彼女が、無実だと確信してくれている人がここにいる。

 が、それとこれとでは話が別だ。
 私の冤罪が証明されて、社交界に戻ることとなっても困る。
 しかし修道院が危機的な状況な以上、盛大に悲劇のヒロインを演じてここを脱出するのが先決かもしれない。

「リグレット嬢、完全に無実を証明できればここから出られるかもしれませんよ」
「ほ、本当ですか!?」

 来た。

「暫くは公爵家で預かる形となりますが。男爵家には気まずくて戻れないでしょうし、あなたにとってはそちらの方が……」
「申し訳ありませんが、お断りさせていただきます」

 ……却下。
 公爵邸なんて、危険地帯で働けるわけがなかろう。あそこに住んでいた使用人皆殺しという展開が、何パターンか用意されているのだ。
 どこまでゲーム基準で世界が動くか分からない限り、危険が危ない場所には近寄りたくない。
 けれどレイスは私の言葉を聞いて、不思議そうに瞬きを繰り返した。

「……よろしければ、理由をお伺いしてもよろしいでしょうか?」
「私の潔白を信じてくれるのはとてもありがたいです。ですが、私には身に余るお話と言いますか……その……」

 本当のことを言うわけにはいかないので、他の理由で切り抜けなければ。
 ああ、そうだ。それらしい口実があるではないか。

「……他の方々を見捨ててはいけませんから」

 これには本心も含まれている。少しずつ仲良くなり始めている子たちを置いて、一人だけなんて流石に良心が咎める。

「なので、お気持ちだけ受け取らせていただきます」

 私が頭を下げて辞退すると、レイスは暫し思案してから、

「僕はあなたを誤解していたようですね。全く人見知りする様子がなく、初対面の僕ともしっかり目を合わせて会話する。となれば、ブランシェ嬢の噂の件は……」
「え、いや、これは……!」
「今の返答であなたが白であると確証が得られました」

 ここまできて黒認定されるのも何だかなと焦っていると、レイスは真面目な顔でそう告げた。

「この状況下で僕の話を蹴るような方が、他者の噂を故意に流布するなんて陰湿な手段を取るとは思えませんので。……では、本日はこれで失礼します」

 そう言ってレイスがソファーから立ち上がる。と、そのついでに私に黒くて小さなベルを握らせた。

「これはお守りです。どうか大事に持っていて」
「……分かりました」

 真っ黒なベルをお守りとな? 少し不吉な感じはあるけれど、これまで拒否するのは失礼過ぎるだろうと受け取ることにした。
 にこやかに、優雅に去って行く公爵家の次男を見送っていると、

「…………?」

 視線を感じたものの、周囲を見回しても誰の姿も見当たらなかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

公爵令嬢の立場を捨てたお姫様

羽衣 狐火
恋愛
公爵令嬢は暇なんてないわ 舞踏会 お茶会 正妃になるための勉強 …何もかもうんざりですわ!もう公爵令嬢の立場なんか捨ててやる! 王子なんか知りませんわ! 田舎でのんびり暮らします!

それでも、私は幸せです~二番目にすらなれない妖精姫の結婚~

柵空いとま
恋愛
家族のために、婚約者である第二王子のために。政治的な理由で選ばれただけだと、ちゃんとわかっている。 大好きな人達に恥をかかせないために、侯爵令嬢シエラは幼い頃からひたすら努力した。六年間も苦手な妃教育、周りからの心無い言葉に耐えた結果、いよいよ来月、婚約者と結婚する……はずだった。そんな彼女を待ち受けたのは他の女性と仲睦まじく歩いている婚約者の姿と一方的な婚約解消。それだけではなく、シエラの新しい嫁ぎ先が既に決まったという事実も告げられた。その相手は、悪名高い隣国の英雄であるが――。 これは、どんなに頑張っても大好きな人の一番目どころか二番目にすらなれなかった少女が自分の「幸せ」の形を見つめ直す物語。 ※他のサイトにも投稿しています

悪役令嬢ですが、当て馬なんて奉仕活動はいたしませんので、どうぞあしからず!

たぬきち25番
恋愛
 気が付くと私は、ゲームの中の悪役令嬢フォルトナに転生していた。自分は、婚約者のルジェク王子殿下と、ヒロインのクレアを邪魔する悪役令嬢。そして、ふと気が付いた。私は今、強大な権力と、惚れ惚れするほどの美貌と身体、そして、かなり出来の良い頭を持っていた。王子も確かにカッコイイけど、この世界には他にもカッコイイ男性はいる、王子はヒロインにお任せします。え? 当て馬がいないと物語が進まない? ごめんなさい、王子殿下、私、自分のことを優先させて頂きまぁ~す♡ ※マルチエンディングです!! コルネリウス(兄)&ルジェク(王子)好きなエンディングをお迎えください m(_ _)m 2024.11.14アイク(誰?)ルートをスタートいたしました。 楽しんで頂けると幸いです。

ほらやっぱり、結局貴方は彼女を好きになるんでしょう?

望月 或
恋愛
ベラトリクス侯爵家のセイフィーラと、ライオロック王国の第一王子であるユークリットは婚約者同士だ。二人は周りが羨むほどの相思相愛な仲で、通っている学園で日々仲睦まじく過ごしていた。 ある日、セイフィーラは落馬をし、その衝撃で《前世》の記憶を取り戻す。ここはゲームの中の世界で、自分は“悪役令嬢”だということを。 転入生のヒロインにユークリットが一目惚れをしてしまい、セイフィーラは二人の仲に嫉妬してヒロインを虐め、最後は『婚約破棄』をされ修道院に送られる運命であることを―― そのことをユークリットに告げると、「絶対にその彼女に目移りなんてしない。俺がこの世で愛しているのは君だけなんだ」と真剣に言ってくれたのだが……。 その日の朝礼後、ゲームの展開通り、ヒロインのリルカが転入してくる。 ――そして、セイフィーラは見てしまった。 目を見開き、頬を紅潮させながらリルカを見つめているユークリットの顔を―― ※作者独自の世界設定です。ゆるめなので、突っ込みは心の中でお手柔らかに願います……。 ※たまに第三者視点が入ります。(タイトルに記載)

俺はお前ではなく、彼女を一生涯愛し護り続けると決めたんだ! そう仰られた元婚約者様へ。貴方が愛する人が、夜会で大問題を起こしたようですよ?

柚木ゆず
恋愛
※9月20日、本編完結いたしました。明日21日より番外編として、ジェラール親子とマリエット親子の、最後のざまぁに関するお話を投稿させていただきます。  お前の家ティレア家は、財の力で爵位を得た新興貴族だ! そんな歴史も品もない家に生まれた女が、名家に生まれた俺に相応しいはずがない! 俺はどうして気付かなかったんだ――。  婚約中に心変わりをされたクレランズ伯爵家のジェラール様は、沢山の暴言を口にしたあと、一方的に婚約の解消を宣言しました。  そうしてジェラール様はわたしのもとを去り、曰く『お前と違って貴族然とした女性』であり『気品溢れる女性』な方と新たに婚約を結ばれたのですが――  ジェラール様。貴方の婚約者であるマリエット様が、侯爵家主催の夜会で大問題を起こしてしまったみたいですよ?

ヒロインの味方のモブ令嬢は、ヒロインを見捨てる

mios
恋愛
ヒロインの味方をずっとしておりました。前世の推しであり、やっと出会えたのですから。でもね、ちょっとゲームと雰囲気が違います。 どうやらヒロインに利用されていただけのようです。婚約者?熨斗つけてお渡ししますわ。 金の切れ目は縁の切れ目。私、鞍替え致します。 ヒロインの味方のモブ令嬢が、ヒロインにいいように利用されて、悪役令嬢に助けを求めたら、幸せが待っていた話。

妹に全てを奪われた伯爵令嬢は遠い国で愛を知る

星名柚花
恋愛
魔法が使えない伯爵令嬢セレスティアには美しい双子の妹・イノーラがいる。 国一番の魔力を持つイノーラは我儘な暴君で、セレスティアから婚約者まで奪った。 「もう無理、もう耐えられない!!」 イノーラの結婚式に無理やり参列させられたセレスティアは逃亡を決意。 「セラ」という偽名を使い、遠く離れたロドリー王国で侍女として働き始めた。 そこでセラには唯一無二のとんでもない魔法が使えることが判明する。 猫になる魔法をかけられた女性不信のユリウス。 表情筋が死んでいるユリウスの弟ノエル。 溺愛してくる魔法使いのリュオン。 彼らと共に暮らしながら、幸せに満ちたセラの新しい日々が始まる―― ※他サイトにも投稿しています。

見た目を変えろと命令したのに婚約破棄ですか。それなら元に戻るだけです

天宮有
恋愛
私テリナは、婚約者のアシェルから見た目を変えろと命令されて魔法薬を飲まされる。 魔法学園に入学する前の出来事で、他の男が私と関わることを阻止したかったようだ。 薬の効力によって、私は魔法の実力はあるけど醜い令嬢と呼ばれるようになってしまう。 それでも構わないと考えていたのに、アシェルは醜いから婚約破棄すると言い出した。

処理中です...