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9.面会室
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断りたいところだが、イレネーが部下の一人である以上、向こうの要求を跳ね除けるわけにはいかない。私一人の問題じゃなくなってしまったので。
渋々面会室へ。そこにはダークブラウンの髪をオールバックにした青年の姿があった。
「久しぶりだな、リグレット」
と言葉とは裏腹に、随分と素っ気ない物言いである。
関わりたくないオーラを出しているくせに、どうして会いにきたのだろう。私への情は、これっぽっちも残っていないように見えるのだが。
「……イレネー様、何故私に会いに来たのですか?」
「お前に報告しようと思ってな」
「報告?」
「俺はブランシェ嬢と婚約した」
報告という単語が出た時点で、そんなことだろうとは思っていた。
腰巾着こと大切な友人のリグレットに裏切られて傷心のブランシェを慰めているうちに惹かれたと、ゲーム本編でもヒロインに言っていた。
後で自分の元婚約者の無罪が確定して、大恥を掻くことになるとは知らずに。
真実を知ったイレネーはリグレットへの愛を復活させるが、時すでに遅し。「もう彼女はいない」と悲嘆にくれる。ゲームの中でリグレットがどうなったかは詳しい描写がないので、てっきり悲しみのあまり自ら命を絶っていたのかと思いきや。
まあ修道院がなくなって、娼館に売られましたなどと乙女ゲームでは語れるはずがない。
「おめでとうございます。ブランシェ様とお幸せになってくださいね」
とっとと話を終わらせたくて笑顔で祝福してやると、イレネーは怪訝そうに眉を顰めた。
「……それだけか?」
「はい?」
「俺はお前を庇い立てしようとせず、そのおかげでお前はこんなところに押し込められたんだぞ。なのに、そんなにあっさり俺を許すのか?」
「え、ええ」
「だが、お前はあんなに俺を愛していた。だから激しく動揺するものだと思っていたのだが……」
気まずそうに視線を泳がせるイレネー。
ここで私がブランシェ様と結婚しないで! とゴネたら面倒になることは、分かっているだろうに。
「ちなみにイレネー様は何故、ブランシェ様の婚約の件を私に伝えようと思ったのでしょう?」
「……最悪な形で終わった関係でも、俺とお前はかつては愛し合った仲だ。報告の義務があるだろう」
あるか、そんなもの。
どうして元彼の恋愛事情を聞かされなきゃならんのだ。
ブランシェとくっついたということは、もうすぐでゲーム本編の時間軸になるというだろうが……。
「いいえ。そのような義務はありません。イレネー様、どうか私を忘れて幸せになってくださいませ」
「リ、リグレット?」
「私はもうすぐでこの修道院を去り、多くの方々と関わる職に就くことになるのですから」
「……っ」
遠回しに娼婦になります発言をすると、イレネーはぐっと息を詰まらせた。
私たちがどうなるのか知った上で、このすっとぼけ報告をしに来たのだ。自分のことしか考えていないクズ男だと呆れる。
ゲームやっていた時から思っていたけれど、何でこいつが攻略対象キャラなのだ。イレネーの個別ルートに入ると、こいつは自分の婚約者を陥れたとして、ブランシェを散々罵って社交界から追放する。
お前だってリグレットを信じなかっただろうが。
「では、お祈りの時間がありますのでこれで失礼します」
「リグレット! もう俺たちは会えないかもしれないんだぞ!? もう少し話を……!」
「でしたら、尚更これ以上お話するべきではないでしょう。イレネー様にとって心の傷になってしまいます」
最後に一礼してから応接室を出る。
イレネーを気遣った発言を連発したのだ。元婚約者として完璧だったと思う。
どうせ伯爵子息の同情を引いたところで、修道院閉院は避けられないだろうし。
渋々面会室へ。そこにはダークブラウンの髪をオールバックにした青年の姿があった。
「久しぶりだな、リグレット」
と言葉とは裏腹に、随分と素っ気ない物言いである。
関わりたくないオーラを出しているくせに、どうして会いにきたのだろう。私への情は、これっぽっちも残っていないように見えるのだが。
「……イレネー様、何故私に会いに来たのですか?」
「お前に報告しようと思ってな」
「報告?」
「俺はブランシェ嬢と婚約した」
報告という単語が出た時点で、そんなことだろうとは思っていた。
腰巾着こと大切な友人のリグレットに裏切られて傷心のブランシェを慰めているうちに惹かれたと、ゲーム本編でもヒロインに言っていた。
後で自分の元婚約者の無罪が確定して、大恥を掻くことになるとは知らずに。
真実を知ったイレネーはリグレットへの愛を復活させるが、時すでに遅し。「もう彼女はいない」と悲嘆にくれる。ゲームの中でリグレットがどうなったかは詳しい描写がないので、てっきり悲しみのあまり自ら命を絶っていたのかと思いきや。
まあ修道院がなくなって、娼館に売られましたなどと乙女ゲームでは語れるはずがない。
「おめでとうございます。ブランシェ様とお幸せになってくださいね」
とっとと話を終わらせたくて笑顔で祝福してやると、イレネーは怪訝そうに眉を顰めた。
「……それだけか?」
「はい?」
「俺はお前を庇い立てしようとせず、そのおかげでお前はこんなところに押し込められたんだぞ。なのに、そんなにあっさり俺を許すのか?」
「え、ええ」
「だが、お前はあんなに俺を愛していた。だから激しく動揺するものだと思っていたのだが……」
気まずそうに視線を泳がせるイレネー。
ここで私がブランシェ様と結婚しないで! とゴネたら面倒になることは、分かっているだろうに。
「ちなみにイレネー様は何故、ブランシェ様の婚約の件を私に伝えようと思ったのでしょう?」
「……最悪な形で終わった関係でも、俺とお前はかつては愛し合った仲だ。報告の義務があるだろう」
あるか、そんなもの。
どうして元彼の恋愛事情を聞かされなきゃならんのだ。
ブランシェとくっついたということは、もうすぐでゲーム本編の時間軸になるというだろうが……。
「いいえ。そのような義務はありません。イレネー様、どうか私を忘れて幸せになってくださいませ」
「リ、リグレット?」
「私はもうすぐでこの修道院を去り、多くの方々と関わる職に就くことになるのですから」
「……っ」
遠回しに娼婦になります発言をすると、イレネーはぐっと息を詰まらせた。
私たちがどうなるのか知った上で、このすっとぼけ報告をしに来たのだ。自分のことしか考えていないクズ男だと呆れる。
ゲームやっていた時から思っていたけれど、何でこいつが攻略対象キャラなのだ。イレネーの個別ルートに入ると、こいつは自分の婚約者を陥れたとして、ブランシェを散々罵って社交界から追放する。
お前だってリグレットを信じなかっただろうが。
「では、お祈りの時間がありますのでこれで失礼します」
「リグレット! もう俺たちは会えないかもしれないんだぞ!? もう少し話を……!」
「でしたら、尚更これ以上お話するべきではないでしょう。イレネー様にとって心の傷になってしまいます」
最後に一礼してから応接室を出る。
イレネーを気遣った発言を連発したのだ。元婚約者として完璧だったと思う。
どうせ伯爵子息の同情を引いたところで、修道院閉院は避けられないだろうし。
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