上 下
6 / 96

6.食事係

しおりを挟む
 少し沈んだ気持ちになってしまったが、修道院生活二日目にして、早くも友人を三人手に入れたのだ。
 休憩時間は情報収集タイムに宛てることにした。



 まず、このナヴィア修道院の院長であるアデーレについて。
 彼女は何かをやらかして修道院に入れられたわけではなく、自分から入ると志願したらしい。哀れな貴族女性たちを救済したいとか、色々理由をつけて。
 けれど実際はいつまでも結婚できず、実家に居ても邪魔者扱いされていたので、逃げるように修道院に入ったという噂らしい。
 で、十年前に院長に着任。現在に至る……と。
 昨日ビシバシ叩かれる私を薄笑いで眺めていたおばちゃんたちも、アデーレと似た理由で入った方々だそうだ。
 
 同じ修道女でも彼女たちは看守的なポジションで、罪を犯してやって来た私たちは囚人のようなものらしい。

「リグレット様、アデーレ院長たちには絶対に逆らってはいけませんからね。怒らせると……」
「鞭でバシーンとされてしまうのでしょう?」
「そ、それだけなら痛いだけですけれど、酷い時は物置小屋に二日間も閉じ込められるのですっ!」
「二日も!?」
「真っ暗な空間の中で食事も水も与えられず、ずっとです。夏に入れられた修道女は脱水症状を起こしていました」

 アントワネットは案ずるように、クラリスは怯えた表情で、メロディは神妙な顔つきで私に話してくれた。
 二日間も物置とは。もはや虐待の域だ。絶句する私に、アントワネットは溜め息をつきつつ続きを語る。

「月に一度、この修道院を経営されている公爵様の部下の方々がいらっしゃるのですが……」
「その方々に、アデーレ院長たちの体罰を告発できないのですか?」
「それがその時間帯と夜間の間は外に出られないよう、私たちの自室に外側から施錠されて閉じ込められてしまうのです。部下の方々に色目を使うかもしれないからという名目で」

 そうだったのか。夜は爆睡しているので気づかなかった。
 抜かりない……と呆れていると、休憩時間が終わりを告げたので再び芋掘りを再開する。
 どうやらこの畑は土と水の精霊の加護のおかげで、種をいてからたった二、三日で野菜が採れるらしい。流石はファンタジーだ。




 昼食は例のパンと、酢と胡椒にまみれた野菜が登場した。
 何じゃこら。ここの味付けは0か100しかないのだろうか。

 こんな食生活を続けていたら心が病んでしまう。   
 しかし、食べないと生きていけないので、無心になって胃に食べ物を詰め込んでいく。酸っぱいし噎せる。
 で、夕飯はまたあの無味スープと炭かと、覚悟を決めていた時だった。

「シスターリグレット、今晩の夕食係はあなたです。頑張ってくださいね」
「え? あ、はい」

 おばちゃん修道女に声をかけられた。
 どうやらこの修道院の食事、少なくとも若い修道女は自分たちで食事を用意するらしい。
 で、私の番が来たと。

「あの、どのようなものを作ればよろしいでしょうか?」
「そんなこと、ご自分で考えてはいかが?」

 なるほど、謎が一つ解けた。他の修道女もこのような無茶ぶりをされた結果、数々のトンチキメニューが爆誕したのだろう。
 掃除もろくにできない人間が、料理を完璧にこなせるのかと聞かれたら首を横に振る。

 リグレットも料理経験は当然なし。私……もお貴族様にお出しできるようなものは作れない。流石に海水スープとか魚炭を作ったりはしないが。
 とりあえず気楽にいこうやと、自分に言い聞かせる。なぁに、誰が何作っても同じみたいな空気があるから多分許してくれるだろう。調理歴0日の女に誰も期待などしないはずだ。

 半ば諦めの境地で厨房へ向かう。
 前に何かの動画で見たことがあるような、西洋の台所といった造りだ。やたらとでかいオーブンもある。
 そして全体的に汚い。食べ物のカスが散乱しているわ、鍋に焦げが残っているわで鳥肌が立った。衛生管理! 衛生管理! と叫び回りたい。
 よくこれで、今まで食中毒出なかったものだ。

 夕飯作りの前に掃除をし終わった頃には結構時間が過ぎていて、そこから慌てて調理を始めた。
 もうあまり凝ったものは作らず、適当なのでいいだろう。
しおりを挟む
感想 429

あなたにおすすめの小説

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

タイムリープ〜悪女の烙印を押された私はもう二度と失敗しない

結城芙由奈 
恋愛
<もうあなた方の事は信じません>―私が二度目の人生を生きている事は誰にも内緒― 私の名前はアイリス・イリヤ。王太子の婚約者だった。2年越しにようやく迎えた婚約式の発表の日、何故か<私>は大観衆の中にいた。そして婚約者である王太子の側に立っていたのは彼に付きまとっていたクラスメイト。この国の国王陛下は告げた。 「アイリス・イリヤとの婚約を解消し、ここにいるタバサ・オルフェンを王太子の婚約者とする!」 その場で身に覚えの無い罪で悪女として捕らえられた私は島流しに遭い、寂しい晩年を迎えた・・・はずが、守護神の力で何故か婚約式発表の2年前に逆戻り。タイムリープの力ともう一つの力を手に入れた二度目の人生。目の前には私を騙した人達がいる。もう騙されない。同じ失敗は繰り返さないと私は心に誓った。 ※カクヨム・小説家になろうにも掲載しています

【完結】今世も裏切られるのはごめんなので、最愛のあなたはもう要らない

曽根原ツタ
恋愛
隣国との戦時中に国王が病死し、王位継承権を持つ男子がひとりもいなかったため、若い王女エトワールは女王となった。だが── 「俺は彼女を愛している。彼女は俺の子を身篭った」 戦場から帰還した愛する夫の隣には、別の女性が立っていた。さらに彼は、王座を奪うために女王暗殺を企てる。 そして。夫に剣で胸を貫かれて死んだエトワールが次に目が覚めたとき、彼と出会った日に戻っていて……? ──二度目の人生、私を裏切ったあなたを絶対に愛しません。 ★小説家になろうさまでも公開中

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【コミカライズ決定】地味令嬢は冤罪で処刑されて逆行転生したので、華麗な悪女を目指します!~目隠れ美形の天才王子に溺愛されまして~

胡蝶乃夢
恋愛
婚約者である王太子の望む通り『理想の淑女』として尽くしてきたにも関わらず、婚約破棄された挙句に冤罪で処刑されてしまった公爵令嬢ガーネット。 時間が遡り目覚めたガーネットは、二度と自分を犠牲にして尽くしたりしないと怒り、今度は自分勝手に生きる『華麗な悪女』になると決意する。 王太子の弟であるルベリウス王子にガーネットは留学をやめて傍にいて欲しいと願う。 処刑された時、留学中でいなかった彼がガーネットの傍にいることで運命は大きく変わっていく。 これは、不憫な地味令嬢が華麗な悪女へと変貌して周囲を魅了し、幼馴染の天才王子にも溺愛され、ざまぁして幸せになる物語です。

強い祝福が原因だった

恋愛
大魔法使いと呼ばれる父と前公爵夫人である母の不貞により生まれた令嬢エイレーネー。 父を憎む義父や義父に同調する使用人達から冷遇されながらも、エイレーネーにしか姿が見えないうさぎのイヴのお陰で孤独にはならずに済んでいた。 大魔法使いを王国に留めておきたい王家の思惑により、王弟を父に持つソレイユ公爵家の公子ラウルと婚約関係にある。しかし、彼が愛情に満ち、優しく笑い合うのは義父の娘ガブリエルで。 愛される未来がないのなら、全てを捨てて実父の許へ行くと決意した。 ※「殿下が好きなのは私だった」と同じ世界観となりますが此方の話を読まなくても大丈夫です。 ※なろうさんにも公開しています。

もう長くは生きられないので好きに行動したら、大好きな公爵令息に溺愛されました

Karamimi
恋愛
伯爵令嬢のユリアは、8歳の時に両親を亡くして以降、叔父に引き取られたものの、厄介者として虐げられて生きてきた。さらにこの世界では命を削る魔法と言われている、治癒魔法も長年強要され続けてきた。 そのせいで体はボロボロ、髪も真っ白になり、老婆の様な見た目になってしまったユリア。家の外にも出してもらえず、メイド以下の生活を強いられてきた。まさに、この世の地獄を味わっているユリアだが、“どんな時でも笑顔を忘れないで”という亡き母の言葉を胸に、どんなに辛くても笑顔を絶やすことはない。 そんな辛い生活の中、15歳になったユリアは貴族学院に入学する日を心待ちにしていた。なぜなら、昔自分を助けてくれた公爵令息、ブラックに会えるからだ。 「どうせもう私は長くは生きられない。それなら、ブラック様との思い出を作りたい」 そんな思いで、意気揚々と貴族学院の入学式に向かったユリア。そこで久しぶりに、ブラックとの再会を果たした。相変わらず自分に優しくしてくれるブラックに、ユリアはどんどん惹かれていく。 かつての友人達とも再開し、楽しい学院生活をスタートさせたかのように見えたのだが… ※虐げられてきたユリアが、幸せを掴むまでのお話しです。 ザ・王道シンデレラストーリーが書きたくて書いてみました。 よろしくお願いしますm(__)m

転生令嬢の涙 〜泣き虫な悪役令嬢は強気なヒロインと張り合えないので代わりに王子様が罠を仕掛けます〜

矢口愛留
恋愛
【タイトル変えました】 公爵令嬢エミリア・ブラウンは、突然前世の記憶を思い出す。 この世界は前世で読んだ小説の世界で、泣き虫の日本人だった私はエミリアに転生していたのだ。 小説によるとエミリアは悪役令嬢で、婚約者である王太子ラインハルトをヒロインのプリシラに奪われて嫉妬し、悪行の限りを尽くした挙句に断罪される運命なのである。 だが、記憶が蘇ったことで、エミリアは悪役令嬢らしからぬ泣き虫っぷりを発揮し、周囲を翻弄する。 どうしてもヒロインを排斥できないエミリアに代わって、実はエミリアを溺愛していた王子と、その側近がヒロインに罠を仕掛けていく。 それに気づかず小説通りに王子を籠絡しようとするヒロインと、その涙で全てをかき乱してしまう悪役令嬢と、間に挟まれる王子様の学園生活、その意外な結末とは――? *異世界ものということで、文化や文明度の設定が緩めですがご容赦下さい。 *「小説家になろう」様、「カクヨム」様にも掲載しています。

処理中です...