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大人の女とピアス穴の関係
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「あっ、いい匂い、今日は夏子さんが来るんだね」
ママの得意料理のビーフシチューは、とにかく煮込むのに時間がかかるから、お祝い事とか特別なときしか作ってくれない、例えば家族の誕生日とか、合格祝いとか……。
ただ、夏子さんがうちに来るときは別だった。
「写真集、撮影終わったんだって、昨日ハワイから帰ってきたみたい」
ママの友達の夏子さんは、グラビアアイドルを撮影する女性カメラマンの仕事をしている。
「あれ?でも今、同棲してる彼女さんいなかったっけ?いいのかな、次の日にうちに来て」
「うーん、冬華も、もう大学生だから隠さず教えちゃうけど……キャバ嬢の彼女さん、お客さんと逃げちゃったみたい」
「……そうなんだ」
夏子さんはレズビアン、私が子供のときからあまりにも自然に話すから、私も自然と受け入れていた。
ピンポーン、インターホンがなる。
「冬華~、ママ、手が離せないから出て~」
「は~い」
『春美~ただいま~、またふられた~』
『夏子さん、ママじゃなくて私だよ~、今開けるから』
ドアを開けた先にいる夏子さんは、いつものカッコいい大人の女だけど、どこか少し、落ち込んでるみたいだ。そりゃそうだよね……。
ママがビーフシチューの仕上げをしている間、ダイニングで夏子さんが話し相手に私をえらんでくれるのはとても嬉しい。
子供の頃はさすがにいろいろオブラートに包んでいた気がするけど、最近は結構、明け透けにその時の恋人の話とかしてくれる気がする。
「冬華ちゃん、こんばんは、ごめんね、見苦しいとこ見せちゃって」
「ううん、夏子さんでもそんな風に落ち込むんだな~って」
「え~、私のこと、どんな風に思ってたの?」
「来る女拒まず、去る女追わずって感じ」
「まぁ、……間違ってはないか、でもさすがに撮影旅行から帰ってきたら彼女と彼女の荷物がごっそり消えてたら落ち込むよ~……でも、昔はここまで落ち込まなかったからな~……歳かな?」
「もう、やめてよ~私、夏子と同い年なんだから、私までおばさんの自覚しちゃうじゃない」
ビーフシチューが出来上がったのか、ママが話に入ってくる。
「ごめん、ごめん、そういう意味じゃないって、ただ、私もさすがに春美みたいに落ち着きたいって意味よ」
「ま、それはね……夏子にも最後のパートナー見つかるといいのにね」
夏子さんがなんだかんだと長続きするパートナーを見つけられない理由が、ママにはわからなくても私にはわかる。
夏子さんは、ママが大好きなのだ……ママも夏子さんが大好き……でもたぶん夏子さんの『好き』、とママの『好き』は違うんだ。
ありふれた言い方だけど。
ママとしては私も大好きだけど、無自覚な残酷さを持った一人の女としては、ママのこと、たちの悪い女だと思う。
「夕飯にするから、パパと秋矢呼んできて~」
パパと弟の秋矢を呼んで5人で食べる夕食。
「春美さんがビーシチュー作っているから、夏子さんが来ると思ったよ、春美さんのビーフシチューは絶品だけど普段は食べられないからね」
「夏子おねえちゃん、もっといっぱいうちに来てくれたらいいのに」
パパと小学生の秋矢は、そう言ってニコニコしながらビーフシチューを口に運ぶ。
中学生位のときは、パパのことよくわからない人だと思ってた。
だって、私と弟の名前はもちろん、生まれた季節からきているけど裏の意味は『春美』と『夏子』からきてることくらい、理解してる。
娘と息子の名前をそんな風につけるのを許して、いくらママの『好き』と夏子さんの『好き』が違うってわかっていても、夏子さんとも学生時代からそつなく人付き合いを続けるパパのこと、理解不能だと思ってた。
だけど、今なら少しわかるよ……パパはママと夏子さんの関係含めてまるごとママを受け入れているんだ。
夕飯を食べたあと、パパは、夫婦の部屋に引っ込んで、四人で夏子さんのハワイでの話を聞いていた。
夏子さんのカメラマンとしてのお話は華やかで、そこで一緒に仕事している女の人達もみんな美人で華やかなんだろうなあって思うと、少しだけ落ち込んじゃう。
「そうだ、冬華ちゃんに渡したいものがあったんだ、ハワイ土産」
「ハワイ土産なら、さっきお菓子もらったけど」
「家にじゃなくて冬華ちゃんに……ほら、だって大学の入学祝い渡せてなかったから」
夏子さんが私にくれるハワイ土産ってなんだろう。
「えー、冬ねえばっかりずるい!」
秋矢がすかさず口を挟んでくる。
「秋矢くんには、そのかわり図書カードあげるから、はい。ごめんね、男の子にお土産ってなににしたらいいかわからなくて」
「ありがとう、夏子おねえちゃん!欲しかった漫画買える!」
「よかったねえ、秋矢、夏子ありがとうね」
「僕、自分の部屋で何買うか考える!」
秋矢はドタドタと慌てて部屋に戻っていった。
小学生男子ってなんであんなに落ち着きがないのだろう。
「ねぇ、夏子さん、私にお土産ってなに?」
「はい、これ」
「開けていい?」
夏子さんが頷いたから、私は渡された小さなシンプルな箱を開けてみる。
「ピアスだ!嬉しい夏子さんありがとう……」
「冬華ちゃんが、ピアス穴開けたって春美から聞いたから」
夏子さんは、やっぱり女タラシなんだなぁ……だって私が今、一番欲しかった物をプレゼントしてくれるんだから。
「似合うかな?ちょっと私には大人っぽい?」
「冬華ちゃん、似合うよ~」
「あら、似合うじゃない、夏子はセンスいいから」
深紅の石がついたシンプルなピアス……。
ピアス穴を開けたものの、一番目に買うピアスが全然決まらなくて、プラスチックの仮ピアスをしていた私の初めてのピアス。
箱のなかには小さな紙が一緒に入っていて、1月の誕生石、ガーネットって書いてある。
「それにしても、今の若い子ってみんな真面目なのかな~?冬華ちゃん、ちゃんと皮膚科でピアス穴開けたんだって?」
「夏子さんのときは、ピアッサーで開けたの?今も、いるよ、ピアッサーで開ける子、でもママがちゃんと皮膚科で開けなさいって」
「へえ~、自分のときは親に黙って安全ピンでぶっすり開けた春美がねぇ……」
「ちょっと~、冬華に余計なこと言わないでよ~アレは……そう、若気のいたりなんだから」
ママがこんなにうろたえるなんて、恥ずかしくて仕方ないんだな~…………
それにしても……
「うわぁ、安全ピンとか……痛そう……」
「安全ピンはともかく、ピアッサーで黙って開けちゃえばよかったのに」
「それじゃ、ダメなの、ちゃんと認めてもらって、大人としてのピアスじゃないと、私、早く大人の女の人になりたいから」
だって、今までは運良く現れなかったけど、急がないとどうなるかはわからないんだもん。
「子どものふりしたら、いろいろ許してもらえる最後の年頃なのに」
「う~ん、早く大人になりたい理由があるからね~……」
「冬華、好きな人でもできたの?」
ママは鈍感だな~だから夏子さんともずっと親友なのかもしれないけど。
「内緒~!!そうだ、ママ、今度ビーフシチューの作り方教えてね!夏子さんも今度は私にも来るときは教えてね、ビーフシチュー今度は私が作るから!」
そう言って、私は自分の部屋に逃げる。
ママの顔にはハテナが浮かんでいたけど、夏子さんは、狐につままれたような顔してた。
真新しいピアスをつけた自分を鏡に写して私は決心する。
大人なら外堀から埋めないとね!
ママの得意料理のビーフシチューは、とにかく煮込むのに時間がかかるから、お祝い事とか特別なときしか作ってくれない、例えば家族の誕生日とか、合格祝いとか……。
ただ、夏子さんがうちに来るときは別だった。
「写真集、撮影終わったんだって、昨日ハワイから帰ってきたみたい」
ママの友達の夏子さんは、グラビアアイドルを撮影する女性カメラマンの仕事をしている。
「あれ?でも今、同棲してる彼女さんいなかったっけ?いいのかな、次の日にうちに来て」
「うーん、冬華も、もう大学生だから隠さず教えちゃうけど……キャバ嬢の彼女さん、お客さんと逃げちゃったみたい」
「……そうなんだ」
夏子さんはレズビアン、私が子供のときからあまりにも自然に話すから、私も自然と受け入れていた。
ピンポーン、インターホンがなる。
「冬華~、ママ、手が離せないから出て~」
「は~い」
『春美~ただいま~、またふられた~』
『夏子さん、ママじゃなくて私だよ~、今開けるから』
ドアを開けた先にいる夏子さんは、いつものカッコいい大人の女だけど、どこか少し、落ち込んでるみたいだ。そりゃそうだよね……。
ママがビーフシチューの仕上げをしている間、ダイニングで夏子さんが話し相手に私をえらんでくれるのはとても嬉しい。
子供の頃はさすがにいろいろオブラートに包んでいた気がするけど、最近は結構、明け透けにその時の恋人の話とかしてくれる気がする。
「冬華ちゃん、こんばんは、ごめんね、見苦しいとこ見せちゃって」
「ううん、夏子さんでもそんな風に落ち込むんだな~って」
「え~、私のこと、どんな風に思ってたの?」
「来る女拒まず、去る女追わずって感じ」
「まぁ、……間違ってはないか、でもさすがに撮影旅行から帰ってきたら彼女と彼女の荷物がごっそり消えてたら落ち込むよ~……でも、昔はここまで落ち込まなかったからな~……歳かな?」
「もう、やめてよ~私、夏子と同い年なんだから、私までおばさんの自覚しちゃうじゃない」
ビーフシチューが出来上がったのか、ママが話に入ってくる。
「ごめん、ごめん、そういう意味じゃないって、ただ、私もさすがに春美みたいに落ち着きたいって意味よ」
「ま、それはね……夏子にも最後のパートナー見つかるといいのにね」
夏子さんがなんだかんだと長続きするパートナーを見つけられない理由が、ママにはわからなくても私にはわかる。
夏子さんは、ママが大好きなのだ……ママも夏子さんが大好き……でもたぶん夏子さんの『好き』、とママの『好き』は違うんだ。
ありふれた言い方だけど。
ママとしては私も大好きだけど、無自覚な残酷さを持った一人の女としては、ママのこと、たちの悪い女だと思う。
「夕飯にするから、パパと秋矢呼んできて~」
パパと弟の秋矢を呼んで5人で食べる夕食。
「春美さんがビーシチュー作っているから、夏子さんが来ると思ったよ、春美さんのビーフシチューは絶品だけど普段は食べられないからね」
「夏子おねえちゃん、もっといっぱいうちに来てくれたらいいのに」
パパと小学生の秋矢は、そう言ってニコニコしながらビーフシチューを口に運ぶ。
中学生位のときは、パパのことよくわからない人だと思ってた。
だって、私と弟の名前はもちろん、生まれた季節からきているけど裏の意味は『春美』と『夏子』からきてることくらい、理解してる。
娘と息子の名前をそんな風につけるのを許して、いくらママの『好き』と夏子さんの『好き』が違うってわかっていても、夏子さんとも学生時代からそつなく人付き合いを続けるパパのこと、理解不能だと思ってた。
だけど、今なら少しわかるよ……パパはママと夏子さんの関係含めてまるごとママを受け入れているんだ。
夕飯を食べたあと、パパは、夫婦の部屋に引っ込んで、四人で夏子さんのハワイでの話を聞いていた。
夏子さんのカメラマンとしてのお話は華やかで、そこで一緒に仕事している女の人達もみんな美人で華やかなんだろうなあって思うと、少しだけ落ち込んじゃう。
「そうだ、冬華ちゃんに渡したいものがあったんだ、ハワイ土産」
「ハワイ土産なら、さっきお菓子もらったけど」
「家にじゃなくて冬華ちゃんに……ほら、だって大学の入学祝い渡せてなかったから」
夏子さんが私にくれるハワイ土産ってなんだろう。
「えー、冬ねえばっかりずるい!」
秋矢がすかさず口を挟んでくる。
「秋矢くんには、そのかわり図書カードあげるから、はい。ごめんね、男の子にお土産ってなににしたらいいかわからなくて」
「ありがとう、夏子おねえちゃん!欲しかった漫画買える!」
「よかったねえ、秋矢、夏子ありがとうね」
「僕、自分の部屋で何買うか考える!」
秋矢はドタドタと慌てて部屋に戻っていった。
小学生男子ってなんであんなに落ち着きがないのだろう。
「ねぇ、夏子さん、私にお土産ってなに?」
「はい、これ」
「開けていい?」
夏子さんが頷いたから、私は渡された小さなシンプルな箱を開けてみる。
「ピアスだ!嬉しい夏子さんありがとう……」
「冬華ちゃんが、ピアス穴開けたって春美から聞いたから」
夏子さんは、やっぱり女タラシなんだなぁ……だって私が今、一番欲しかった物をプレゼントしてくれるんだから。
「似合うかな?ちょっと私には大人っぽい?」
「冬華ちゃん、似合うよ~」
「あら、似合うじゃない、夏子はセンスいいから」
深紅の石がついたシンプルなピアス……。
ピアス穴を開けたものの、一番目に買うピアスが全然決まらなくて、プラスチックの仮ピアスをしていた私の初めてのピアス。
箱のなかには小さな紙が一緒に入っていて、1月の誕生石、ガーネットって書いてある。
「それにしても、今の若い子ってみんな真面目なのかな~?冬華ちゃん、ちゃんと皮膚科でピアス穴開けたんだって?」
「夏子さんのときは、ピアッサーで開けたの?今も、いるよ、ピアッサーで開ける子、でもママがちゃんと皮膚科で開けなさいって」
「へえ~、自分のときは親に黙って安全ピンでぶっすり開けた春美がねぇ……」
「ちょっと~、冬華に余計なこと言わないでよ~アレは……そう、若気のいたりなんだから」
ママがこんなにうろたえるなんて、恥ずかしくて仕方ないんだな~…………
それにしても……
「うわぁ、安全ピンとか……痛そう……」
「安全ピンはともかく、ピアッサーで黙って開けちゃえばよかったのに」
「それじゃ、ダメなの、ちゃんと認めてもらって、大人としてのピアスじゃないと、私、早く大人の女の人になりたいから」
だって、今までは運良く現れなかったけど、急がないとどうなるかはわからないんだもん。
「子どものふりしたら、いろいろ許してもらえる最後の年頃なのに」
「う~ん、早く大人になりたい理由があるからね~……」
「冬華、好きな人でもできたの?」
ママは鈍感だな~だから夏子さんともずっと親友なのかもしれないけど。
「内緒~!!そうだ、ママ、今度ビーフシチューの作り方教えてね!夏子さんも今度は私にも来るときは教えてね、ビーフシチュー今度は私が作るから!」
そう言って、私は自分の部屋に逃げる。
ママの顔にはハテナが浮かんでいたけど、夏子さんは、狐につままれたような顔してた。
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