嘘と嘘の重ね合い

南野月奈

文字の大きさ
上 下
3 / 6

打ち上げ

しおりを挟む
 高すぎもせず安すぎもしないイタリアンダイニングの大きめの個室での千秋楽の打ち上げは今のところ和やかな雰囲気だ。
 このままいけばDVDもきちんと発売される。との発表もあり制作側も俳優や事務所も一安心というところだ。
 俳優陣は若手が多いこともあり、運ばれてくる料理も酒もなかなかのスピードで消えていく。
 もちろん、男三人で水面下の修羅場を抱えているという事実が明らかになれば、この和やかさを台無しになるが、三人ともそこはきっちりとわきまえている。
 しかし、打ち上げの席で男女の修羅場がおこったり、それが後々の業界人の語り草になったりするのを見てきただけに、自分がそうなるのが面倒なだけで、七斗も識臣もお互いがお互いを邪魔には思っているのだった。

「七斗、よかった、よかった」
「玲也くん、飲み過ぎだよ~」

 最初はプロデューサーや脚本家に気を使っていた俳優陣も、酒がすすむとそれぞれに仲の良い相手と話し込みだす。
 玲也は多少だが絡み酒な部分があり、宴会が長くなればなるほど若手が周りからさっといなくなるタイプだった。
 早くも今回は顔を赤くして長い語りが入りそうになったのを察して二十代の俳優も女優もさっと他のグループに避難していった。

「そりゃあ、七斗は出てる舞台全部DVDとかになってるかもしれないけどさ~俺もいろいろ若い頃は経験してるからさ~」
「うん、うん」

 スパークリングワインを飲みながら『俺の若い頃は~』なんて語るには三十二歳は早すぎる。
 だが、こうやって酒が入り先輩ぶる玲也のことをカワイイとすら七斗は思っている。
 それには、やはり七斗が玲也の顔が好きというフィルターが大きく作用しているのは間違いない。
 玲也の自分が一番だという根拠のない自信を浴びていると、七斗もなぜかそれに当てられて玲也に酔ってしまう。
 七斗は七斗で、玲也の隣を陣取れたことで機嫌がすこぶるいい。識臣がジットリと湿気を帯びた蛇のような眼で睨んでくることさえ、歪な優越感が沸き上がってくるのは止められない。
 まだ、識臣のことを問い詰めたりしていないが、それはこの後ですればいいことだと七斗は軽く考えていた。

「七斗く~ん、玲也さ~ん見て~、ほらほら、コレ七斗くんのことべた褒め、玲也くんのことも褒めてる……それに比べるとさ~僕の扱い小さい~」
「え~なんか、やっぱ照れるな~」

 さっきまで七斗を睨んでいたことをチラリとも見せず、鼻にかかった甘えた声色で、七斗が表向き同い年という設定を忘れないで話しかけてくる識臣もまた、プロの俳優である。
 識臣がスタッフから借りて持ってきた演劇雑誌には、今回の舞台のレポとライターの感想がネタバレにならない程度に載っていた。

「このライターさん、真渕さんが七斗好きなだけだって、識臣、舞台でも可愛かったしさ~」

 識臣に対して玲也は距離をつめ肩を抱き寄せた。
 玲也の識臣に対するあからさまにデレデレした態度に少しだけとはいえ、七斗は苛立ちを覚える。
 舞台ではあくまでも識臣はカッコいいキャラを演じていたはず、なのに『可愛い』とあえて言う玲也がどれだけ識臣に入れ込んでいるかを示しているようなものだった。
 七斗は自分の察しの良さにうんざりする。

「トイレ、行ってくるね」
「は~い」
「おう」

 七斗はいてもたってもいられず、その場を離れた……。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【BL】はるおみ先輩はトコトン押しに弱い!

三崎こはく
BL
 サラリーマンの赤根春臣(あかね はるおみ)は、決断力がなく人生流されがち。仕事はへっぽこ、飲み会では酔い潰れてばかり、 果ては29歳の誕生日に彼女にフラれてしまうというダメっぷり。  ある飲み会の夜。酔っ払った春臣はイケメンの後輩・白浜律希(しらはま りつき)と身体の関係を持ってしまう。  大変なことをしてしまったと焦る春臣。  しかしその夜以降、律希はやたらグイグイ来るように――?  イケメンワンコ後輩×押しに弱いダメリーマン★☆軽快オフィスラブ♪ ※別サイトにも投稿しています

アルファとアルファの結婚準備

金剛@キット
BL
名家、鳥羽家の分家出身のアルファ十和(トワ)は、憧れのアルファ鳥羽家当主の冬騎(トウキ)に命令され… 十和は豊富な経験をいかし、結婚まじかの冬騎の息子、榛那(ハルナ)に男性オメガの抱き方を指導する。  😏ユルユル設定のオメガバースです。 

熱中症

こじらせた処女
BL
会社で熱中症になってしまった木野瀬 遼(きのせ りょう)(26)は、同居人で恋人でもある八瀬希一(やせ きいち)(29)に迎えに来てもらおうと電話するが…?

離したくない、離して欲しくない

mahiro
BL
自宅と家の往復を繰り返していた所に飲み会の誘いが入った。 久しぶりに友達や学生の頃の先輩方とも会いたかったが、その日も仕事が夜中まで入っていたため断った。 そんなある日、社内で女性社員が芸能人が来ると話しているのを耳にした。 テレビなんて観ていないからどうせ名前を聞いたところで誰か分からないだろ、と思いあまり気にしなかった。 翌日の夜、外での仕事を終えて社内に戻って来るといつものように誰もいなかった。 そんな所に『すみません』と言う声が聞こえた。

サンタからの贈り物

未瑠
BL
ずっと片思いをしていた冴木光流(さえきひかる)に想いを告げた橘唯人(たちばなゆいと)。でも、彼は出来るビジネスエリートで仕事第一。なかなか会うこともできない日々に、唯人は不安が募る。付き合って初めてのクリスマスも冴木は出張でいない。一人寂しくイブを過ごしていると、玄関チャイムが鳴る。 ※別小説のセルフリメイクです。

理香は俺のカノジョじゃねえ

中屋沙鳥
BL
篠原亮は料理が得意な高校3年生。受験生なのに卒業後に兄の周と結婚する予定の遠山理香に料理を教えてやらなければならなくなった。弁当を作ってやったり一緒に帰ったり…理香が18歳になるまではなぜか兄のカノジョだということはみんなに内緒にしなければならない。そのため友だちでイケメンの櫻井和樹やチャラ男の大宮司から亮が理香と付き合ってるんじゃないかと疑われてしまうことに。そうこうしているうちに和樹の様子がおかしくなって?口の悪い高校生男子の学生ライフ/男女CPあります。

俺の好きな男は、幸せを運ぶ天使でした

たっこ
BL
【加筆修正済】  7話完結の短編です。  中学からの親友で、半年だけ恋人だった琢磨。  二度と合わないつもりで別れたのに、突然六年ぶりに会いに来た。 「優、迎えに来たぞ」  でも俺は、お前の手を取ることは出来ないんだ。絶対に。  

仕事ができる子は騎乗位も上手い

冲令子
BL
うっかりマッチングしてしまった会社の先輩後輩が、付き合うまでの話です。 後輩×先輩。

処理中です...