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九章 調達(最終章)
八十二話 調達④
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一時間後に俺達は合流した。俺と久実ちゃんがゾンビと遭遇することはなかった。ゾンビ発生前にいち早く休業を決めた経営者の英断に拍手を贈りたい。それはそうと、たいした収穫はなかった。俺達の収穫は家具屋でゲットしたランタンだけだ。
「電気制御室にゾンビがいた」
合流した神野君の第一声はそれだった。三階を探索している間、照明が点いたり消えたりしたが、電気室にいたのか……
「ゾンビの体には噛まれた痕があった。モール内にまだ他のゾンビが居るのか、それとも……外で噛まれて中でゾンビ化したのかは分からない。後者の方が有り難いけどね」
神野君の言葉を青山君が引き継ぐ。
「で、すごい発見しちゃったんだよね? 師匠」
青山君は得意気に手を開き、握っていた物を見せびらかした。
「車のキー?」
「そう、キーはゾンビが持ってた。裏手の従業員用駐車場に一台停まっているのを見つけたんだ。一人で休日出勤してたゾンビの車に間違いないだろ」
「車があっても、周りの道路は通れねぇよ」
ショッピングモールを囲む道路は渋滞したまま、時が止まってしまったかのようだ。動かない車で埋め尽くされている。
「ちょっとこれ見てよ」
青山君がスマホで撮った写真を見せてきた。
二階の端に幼子を遊ばせるちょっとした広場がある。そこは全面ガラス張りになっていて外の様子が見渡せた。そのガラス張りの所から、青山君は道路の状態を撮影したらしい。信号機の設置された横断歩道が空いている。ここを通れってことか……
しかし、ここを通れたとしても、その向こうには同状態の国道がある。
「国道はどうするんだよ? 渡らないとマンションへは戻れねぇぞ。それに宮元家の車は?」
「道以外にも通れる所があるだろ?」
「えっ? まさか……」
「そうだよ。畑を通れば線路の所まで行ける。簡易な金網フェンスなら破れる……」
「なるほど……」
そうか、道ではなくて線路を通って行くんだな。
「宮元さんの車は後で取りに行くのでいいんじゃない? 封鎖が解けて安全になってからでも」
俺は久実ちゃんの顔を見た。……怒っている風には見えない。車は一台あれば十分だし、何より安全第一だ。荷物は沢山積めるに越したことはないし。
「決まりだな」
神野君はにんまりした。
「んん、でも明るい内に帰れるかな? もう四時だよ」
俺達がマンションを出たのは昼前だ。にもかかわらず、何もないスーパーに寄ったり、通れる道を探して右往左往していたらこんな時間になってしまった。
「ああ、それだけど……」
言いかけて神野君は青山君と顔を見合わす。
「今日はここに一泊した方がいいんじゃないかと青山君と話してたんだ。帰り暗くなると、危険だし……」
窺う視線は久実ちゃんへと向けられた。
「私は構わない」
久実ちゃんが即答したので、神野君達の顔が緩んだ。
「そうと決まれば、まずは昼飯だ。朝、食べたっきりだろ?」
「残ってればいいんだがな」
一階へ降り立った後、懸念は感謝へと変わった。
食料品の多くが残っていた。多分、買い占めパニックが起こる前に休業したからだろう。このモールの経営者には心から頭の下がる思いだ。こんなゾンビだらけの世界でも絶対生き残っていてほしい。
俺達はカセットコンロを使って、焼き肉をやることにした。冷凍肉なら幾らでもある。面倒くさいが、溜め水とスタッフルームのレンジを使って解凍した。
「やたー! 久し振りの肉だー!」
マンションの人達には申し訳ないけど、食います。二階フードコートのテーブルで俺達は焼き肉パーティーを始めた。ここ一週間、ほぼ炭水化物だけで生活していたからタンパク質に飢えている。
最近のは進化しているな。カセットコンロと言えば鍋のイメージだったが、焼き肉用のプレートが付いている。
肉のジュウジュウいう音に誘発されて、腹がグルグル鳴る。この匂い、この音……。即席ご飯とビール、キムチも用意してある。
好きなものを食べたい時に食べたいだけ食べる。それが当たり前でいちいち感謝なんかしなかった。でも、今は分かる。焼き立ての肉が食べれる、これは奇跡だ。神様ありがとうございます。これからいい子になります……
神への祈りは、焼き上がった肉と湯気をたてるご飯を前に中断された。
「では、頂きます!」
「電気制御室にゾンビがいた」
合流した神野君の第一声はそれだった。三階を探索している間、照明が点いたり消えたりしたが、電気室にいたのか……
「ゾンビの体には噛まれた痕があった。モール内にまだ他のゾンビが居るのか、それとも……外で噛まれて中でゾンビ化したのかは分からない。後者の方が有り難いけどね」
神野君の言葉を青山君が引き継ぐ。
「で、すごい発見しちゃったんだよね? 師匠」
青山君は得意気に手を開き、握っていた物を見せびらかした。
「車のキー?」
「そう、キーはゾンビが持ってた。裏手の従業員用駐車場に一台停まっているのを見つけたんだ。一人で休日出勤してたゾンビの車に間違いないだろ」
「車があっても、周りの道路は通れねぇよ」
ショッピングモールを囲む道路は渋滞したまま、時が止まってしまったかのようだ。動かない車で埋め尽くされている。
「ちょっとこれ見てよ」
青山君がスマホで撮った写真を見せてきた。
二階の端に幼子を遊ばせるちょっとした広場がある。そこは全面ガラス張りになっていて外の様子が見渡せた。そのガラス張りの所から、青山君は道路の状態を撮影したらしい。信号機の設置された横断歩道が空いている。ここを通れってことか……
しかし、ここを通れたとしても、その向こうには同状態の国道がある。
「国道はどうするんだよ? 渡らないとマンションへは戻れねぇぞ。それに宮元家の車は?」
「道以外にも通れる所があるだろ?」
「えっ? まさか……」
「そうだよ。畑を通れば線路の所まで行ける。簡易な金網フェンスなら破れる……」
「なるほど……」
そうか、道ではなくて線路を通って行くんだな。
「宮元さんの車は後で取りに行くのでいいんじゃない? 封鎖が解けて安全になってからでも」
俺は久実ちゃんの顔を見た。……怒っている風には見えない。車は一台あれば十分だし、何より安全第一だ。荷物は沢山積めるに越したことはないし。
「決まりだな」
神野君はにんまりした。
「んん、でも明るい内に帰れるかな? もう四時だよ」
俺達がマンションを出たのは昼前だ。にもかかわらず、何もないスーパーに寄ったり、通れる道を探して右往左往していたらこんな時間になってしまった。
「ああ、それだけど……」
言いかけて神野君は青山君と顔を見合わす。
「今日はここに一泊した方がいいんじゃないかと青山君と話してたんだ。帰り暗くなると、危険だし……」
窺う視線は久実ちゃんへと向けられた。
「私は構わない」
久実ちゃんが即答したので、神野君達の顔が緩んだ。
「そうと決まれば、まずは昼飯だ。朝、食べたっきりだろ?」
「残ってればいいんだがな」
一階へ降り立った後、懸念は感謝へと変わった。
食料品の多くが残っていた。多分、買い占めパニックが起こる前に休業したからだろう。このモールの経営者には心から頭の下がる思いだ。こんなゾンビだらけの世界でも絶対生き残っていてほしい。
俺達はカセットコンロを使って、焼き肉をやることにした。冷凍肉なら幾らでもある。面倒くさいが、溜め水とスタッフルームのレンジを使って解凍した。
「やたー! 久し振りの肉だー!」
マンションの人達には申し訳ないけど、食います。二階フードコートのテーブルで俺達は焼き肉パーティーを始めた。ここ一週間、ほぼ炭水化物だけで生活していたからタンパク質に飢えている。
最近のは進化しているな。カセットコンロと言えば鍋のイメージだったが、焼き肉用のプレートが付いている。
肉のジュウジュウいう音に誘発されて、腹がグルグル鳴る。この匂い、この音……。即席ご飯とビール、キムチも用意してある。
好きなものを食べたい時に食べたいだけ食べる。それが当たり前でいちいち感謝なんかしなかった。でも、今は分かる。焼き立ての肉が食べれる、これは奇跡だ。神様ありがとうございます。これからいい子になります……
神への祈りは、焼き上がった肉と湯気をたてるご飯を前に中断された。
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