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六章 ハンティング
五十二話 ハンティング⑦
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マガジン一個使い終わったところで、倒したゾンビの数はせいぜい十匹といったところか。門の外で撃っていた清原君も大体同じ数だろう。
ゾンビの大群は変わらず足下に広がっていた。買い物に行った水木君はまだ戻って来ない。俺は背後の掃き出し窓から屋内の様子を窺った。
ゾンビの体液と埃でそうなっているのか……ガラスが黒ずんでいるために室内の奥までは分からない。ていうか、ほとんど見えない。窓一面にゾンビが蠢く状況は最初見た時と変わらなかった。
「清原君達、弾切れだって……あ、あと水木君も道迷ったからすぐ戻れないって……」
スマホから目を離さず、青山君が伝える。水木君が戻って来たら突入だと決めていたが、待ってはいられなくなった。時間が経てば経つほど、ゾンビ達は屋内へ戻ってしまう。庭へ誘導してもらった意味が無くなってしまうのだ。
距離が離れていて尚且つ遮蔽物も多いと、音で引きつけ続けるのは難しい。バルコニーの掃き出し窓から動こうとしないゾンビ達がそれを顕著に物語っていた。
どうするか──
俺は庭中に広がったゾンビを呆然と眺めた。屋内にどれだけゾンビが残っているかは、全く見当もつかない。
「田守君、そろそろ交代してよ。約束でしょ?」
「……弾、無駄遣いする訳にいかねぇんだよな……」
「えええええーーーー!! ずるい、ずるい!」
この切羽詰まった状況を理解してないのか……いい加減、俺は苛ついてきた。
「青山君さあ、今の状況分かってる? 下一面ゾンビだし、後ろ見てみ? 窓一面ゾンビだろ? 完全に詰んだ……」
「何とかなるよ。それに約束は約束だかんな?」
「その約束は確実に身の安全が保障されてからでないと守れない」
「だ、か、らぁーーー、僕にいい考えがある。教えてやってもいいけど、先にライフルを交代してくれないと駄目だよ」
口を尖らせる青山君。そのバッタに似た顔を俺は睨みつけた。
いい考えって何だよ? この状況を打破できんのか? ゾンビに関しては百戦錬磨のこの俺が「積んだ」って思ってるのに、一度もゾンビを倒したことのない奴が何とか出来るとでも??
俺はしばらく青山君から目を離さなかった。
青山君の細い目は自信に満ちている。恐れは一ミリも感じられないし、自暴自棄とも思えなかった。
ゾンビに囲まれたこの状況下で、全く動じない。普段と変わらないメンタリティは評価できる。そして、助かる確固たる自信があるからこそ、ライフルで遊びたがる余裕があるのだ。
「分かった……でも十発ぐらいにしといてくれ。水木君が帰って来る前に突入しよう」
それでようやく青山君は頷いてくれた。ライフルを渡してやれば、嬉しそうにスコープを覗き込む。
「あ、あとこれ……」
俺は交換用のマガジンを渡した。代えるのは自分でやってもらおう。俺は交換と単射連射の切替方を簡単に教えた。
「大丈夫、大丈夫。この間、教えて貰ったから大体覚えてるって」
ガチャン!……マガジンを装着する音が聞こえると、
「かっけぇ……」
青山君は大袈裟に溜め息を吐いてみせた。
「絶対人に向けないこと! セーフティーゾーンでは安全装置を必ず掛けておく。もし暴発したら俺達も大怪我だからな」
改造ガンは危険なので、当たり前のことでも口を酸っぱくして言わなければいけない。
「分かった」
さっきまでのふざけていた態度が嘘みたいに、真面目な顔で青山君は頷いた。まあ当然と言えば当然だが、普段おちゃらけていても、根はまじめなのである。
青山君は腹這いになり、手摺り越しに狙いを定めた。メリーさんを繋いでいた木の周りにいるゾンビを狙っている。ゾンビ達に踏みつけられたメリーさんを助けようとしているのかもしれない。
「ちょっと下過ぎるな……」
俺は呟いた。真下ではないにせよ、照準が下過ぎるためにどうしても銃身が傾き過ぎてしまう。
案の定、狙いは大きく外れた。初心者は下に向けて撃つのは難しいかもしれない。真っ直ぐに構えられないから、どうしても弾道がズレてしまう。何度か撃ってみたが、全部外れてしまった。
「もっと離れた所を狙ってみては?」
青山君は渋々俺のアドバイスに従った。清原君達に当たっては一大事だ。門の方へ向けないよう狙いを定めさせる。
途中、姿勢を正して……三回目にようやくヒット。続けてターゲットを撃ち続ける。ようやく一匹仕留め、青山君は「よし!」とガッツポーズした。
二匹目、三匹目は慣れてきてスムーズに仕留めることが出来た。そして四匹目……
「ちょっと待て! もうとうに十発超えてる」
俺は約束の十発どころか、五十発以上弾を無駄にしてしまったことに気付いた。
「待って! こいつだけ、こいつだけ倒したら……」
引き金を引く青山君。こんなことして遊んでる場合じゃないだろ。早く行かないと神野君だって死んでるかもしれないのに……
俺は気をもみながら、立ち上がって背後を見た。
バン!
俺の気配に反応し、窓に張り付いている一匹がガラスを叩いてきた。
「青山君、早く終わらせて。そろそろヤバいかも……」
青山君は返事の代わりに四匹目のゾンビを倒し、やっと立ち上がった。スマホをポケットから取り出す。
「あ、水木君、戻って来たって。ちょうどいいタイミングだね」
門の前で手を振っている水木君が見える。弾をトータルで百近く失ったことに、俺は気づいた。
ゾンビの大群は変わらず足下に広がっていた。買い物に行った水木君はまだ戻って来ない。俺は背後の掃き出し窓から屋内の様子を窺った。
ゾンビの体液と埃でそうなっているのか……ガラスが黒ずんでいるために室内の奥までは分からない。ていうか、ほとんど見えない。窓一面にゾンビが蠢く状況は最初見た時と変わらなかった。
「清原君達、弾切れだって……あ、あと水木君も道迷ったからすぐ戻れないって……」
スマホから目を離さず、青山君が伝える。水木君が戻って来たら突入だと決めていたが、待ってはいられなくなった。時間が経てば経つほど、ゾンビ達は屋内へ戻ってしまう。庭へ誘導してもらった意味が無くなってしまうのだ。
距離が離れていて尚且つ遮蔽物も多いと、音で引きつけ続けるのは難しい。バルコニーの掃き出し窓から動こうとしないゾンビ達がそれを顕著に物語っていた。
どうするか──
俺は庭中に広がったゾンビを呆然と眺めた。屋内にどれだけゾンビが残っているかは、全く見当もつかない。
「田守君、そろそろ交代してよ。約束でしょ?」
「……弾、無駄遣いする訳にいかねぇんだよな……」
「えええええーーーー!! ずるい、ずるい!」
この切羽詰まった状況を理解してないのか……いい加減、俺は苛ついてきた。
「青山君さあ、今の状況分かってる? 下一面ゾンビだし、後ろ見てみ? 窓一面ゾンビだろ? 完全に詰んだ……」
「何とかなるよ。それに約束は約束だかんな?」
「その約束は確実に身の安全が保障されてからでないと守れない」
「だ、か、らぁーーー、僕にいい考えがある。教えてやってもいいけど、先にライフルを交代してくれないと駄目だよ」
口を尖らせる青山君。そのバッタに似た顔を俺は睨みつけた。
いい考えって何だよ? この状況を打破できんのか? ゾンビに関しては百戦錬磨のこの俺が「積んだ」って思ってるのに、一度もゾンビを倒したことのない奴が何とか出来るとでも??
俺はしばらく青山君から目を離さなかった。
青山君の細い目は自信に満ちている。恐れは一ミリも感じられないし、自暴自棄とも思えなかった。
ゾンビに囲まれたこの状況下で、全く動じない。普段と変わらないメンタリティは評価できる。そして、助かる確固たる自信があるからこそ、ライフルで遊びたがる余裕があるのだ。
「分かった……でも十発ぐらいにしといてくれ。水木君が帰って来る前に突入しよう」
それでようやく青山君は頷いてくれた。ライフルを渡してやれば、嬉しそうにスコープを覗き込む。
「あ、あとこれ……」
俺は交換用のマガジンを渡した。代えるのは自分でやってもらおう。俺は交換と単射連射の切替方を簡単に教えた。
「大丈夫、大丈夫。この間、教えて貰ったから大体覚えてるって」
ガチャン!……マガジンを装着する音が聞こえると、
「かっけぇ……」
青山君は大袈裟に溜め息を吐いてみせた。
「絶対人に向けないこと! セーフティーゾーンでは安全装置を必ず掛けておく。もし暴発したら俺達も大怪我だからな」
改造ガンは危険なので、当たり前のことでも口を酸っぱくして言わなければいけない。
「分かった」
さっきまでのふざけていた態度が嘘みたいに、真面目な顔で青山君は頷いた。まあ当然と言えば当然だが、普段おちゃらけていても、根はまじめなのである。
青山君は腹這いになり、手摺り越しに狙いを定めた。メリーさんを繋いでいた木の周りにいるゾンビを狙っている。ゾンビ達に踏みつけられたメリーさんを助けようとしているのかもしれない。
「ちょっと下過ぎるな……」
俺は呟いた。真下ではないにせよ、照準が下過ぎるためにどうしても銃身が傾き過ぎてしまう。
案の定、狙いは大きく外れた。初心者は下に向けて撃つのは難しいかもしれない。真っ直ぐに構えられないから、どうしても弾道がズレてしまう。何度か撃ってみたが、全部外れてしまった。
「もっと離れた所を狙ってみては?」
青山君は渋々俺のアドバイスに従った。清原君達に当たっては一大事だ。門の方へ向けないよう狙いを定めさせる。
途中、姿勢を正して……三回目にようやくヒット。続けてターゲットを撃ち続ける。ようやく一匹仕留め、青山君は「よし!」とガッツポーズした。
二匹目、三匹目は慣れてきてスムーズに仕留めることが出来た。そして四匹目……
「ちょっと待て! もうとうに十発超えてる」
俺は約束の十発どころか、五十発以上弾を無駄にしてしまったことに気付いた。
「待って! こいつだけ、こいつだけ倒したら……」
引き金を引く青山君。こんなことして遊んでる場合じゃないだろ。早く行かないと神野君だって死んでるかもしれないのに……
俺は気をもみながら、立ち上がって背後を見た。
バン!
俺の気配に反応し、窓に張り付いている一匹がガラスを叩いてきた。
「青山君、早く終わらせて。そろそろヤバいかも……」
青山君は返事の代わりに四匹目のゾンビを倒し、やっと立ち上がった。スマホをポケットから取り出す。
「あ、水木君、戻って来たって。ちょうどいいタイミングだね」
門の前で手を振っている水木君が見える。弾をトータルで百近く失ったことに、俺は気づいた。
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