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四章 災難
二十六話 コンビニバイト②
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あまりの忙しさに憤りを感じている暇もなく、気づいたら0時を回っていた。
客は切れ目なく訪れ、絶えずレジ前に列ができている状態だ。警報が出ているし、今日はどうせ暇だろうと俺はたかをくくっていた。ところが、大混雑のうえに一人だけだから、息つく暇もない。商品の補充はままならず、レジをさばくので精一杯だ。
外、ゾンビがうろついていて危険なのになんで出歩くんだよ? こいつらは?──内心、毒づきながらレジを打つ。
「お弁当温めますか?」
「お箸は一膳でよろしいですね?」
「レシートはどうなさいますか?」
決まりきった文句を繰り返すだけなのに、疲労のためか呂律が回らなくなる時もある。時間が早く過ぎるのはありがたいが、疲労感は半端ない。
日付が変わると、ようやく客足は途絶えた。ホッと一息ついたところで、今度は品出しである。オーナーに電話しても、つながらなかった。きっと、寝ているにちがいない。また、沸々と怒りが沸き起こる。
まったく、給料二倍もらいてぇよ。一人で二人分の労働してんだからな!
運良く、品出し中に客はほとんど来なかった。それでも、品出しが終わったころには一時を回っていた。
先ほどの混乱が夢のごとく、店内は静かになった。俺は賞味期限切れ寸前の杏仁豆腐とプリン、それに肉まんをレジ台の上に置いた。奥の部屋からキャスター付きの椅子を運ぶ。手には売り物の漫画雑誌。
さあ、食うぞ!
クビになったって構わないし、客からクレームが来なければ監視カメラのチェックなどしないだろう。そして、今その客はいない。
俺が肉まんを頬張ったその瞬間……不快な入店音が響き渡った。慌てて食い物と漫画雑誌をうしろのレンジへ載せる。
「いらっしゃいま……」
入ってきたのは、ゾンビだった。
例によって、呻き声を上げながら腐臭をまき散らしている。口からは緑色の液が……腹から何か蛇みたいのニョロニョロ出してるし……オエーーーー!!!
飲み下した肉まんを思わず戻しそうになった。完全に食欲を失った俺は怒りに支配される。ゾンビは俺を標的としてまだ定めていない。ゆっくりとこちらへ向かってくる。俺は奥の休憩室へ金槌を取りに行った。
数秒で戻ってくると……
ゾンビ、増えていた。一匹だけだったのが、三匹になっている。
よーし、上等だぁ! 三匹ともぶっ倒してやる!!
怒りのせいで俺はいつになく好戦的になっていた。レジへ向かってきた最初の一匹の脳天にまず一撃食らわせる。
グシャッ……角材の時とちがい、一発でゾンビは崩れ落ちた。音に釣られて、他の二匹も集まってくる。レジ台という存在が俺を守ってくれた。
くそーっ! おまえらのせいでスマホなくしたんだぞ! この間、死にかけたし! くたばれ!
ガッ、グチャッ、ゴンッ、ベチャッ、グチャッ、ビチャアアアア……
レジ台を挟んでモグラ叩きの要領でゾンビの頭蓋を叩き割る。金槌はリーチが短いという難点はあるものの、攻撃力は高い。レジ台の長さは二十センチほど。それを間に挟んでいるからゾンビはそれ以上近づけない。
簡単にゾンビ三匹を倒すことができた。しかし、最後の一匹はレジ台の上に脳味噌をぶちまけた。這い上がろうとしていたので、それを上から叩いたのである。
……臭い。腐れた脳味噌は激臭だ。そこで俺は重大な事実に気づいた。
ゾンビの死骸って、どうすんだろう?
このままでは接客できない。かと言って、ゾンビを触って片付けるのは嫌だし……感染症とか移りそうで怖い。考えあぐねていると、客が来た。
「いらっしゃいま……」
「あ……」
客はそれだけ発すると踵を返し、猛ダッシュで逃げて行った。致し方なかろう。この惨状を目の当たりにしては。レジの回りに三体ものゾンビが……動いてなければただの死体だ。それが転がっている。しかも、そのうちの一つはレジ台の上に脳味噌をぶちまけているのだから。こんなゾンビコンビニに客はもう来ないだろう。思いがけない方法で無責任オーナーへ仕返しをすることになったわけだが、俺は途方に暮れるしかなかった。
二人目の客が逃走したあと、俺はやっと重い腰を上げた。掃除用手袋を着用する。とりあえず、こいつらを外へ移動させねば……
ゾンビは思ったほど重くなかった。腐って色々溶け出ているからかもしれない。とはいえ、運ぶのは重労働だ。普段は商品を載せる台車に一体ずつ乗せて外へ運ぶ。ごみ箱の横でいいか。家庭ゴミ、捨てられにくくなって一石二鳥っと。
運び終わったら、今度は店内の清掃である。商品棚にあったバスタオル二枚とゴミ袋を使う。コンビニってほんと何でもあるな。
床の汚れはそこまで酷くないから、目立つ所だけトイレットペーパーで拭き取って消毒する。
レジ台も元通りキレイになった。臭いはまだ残っているけど。あと、見た目は綺麗でも触りたくない。俺はアルコール消毒液をレジ台にぶちまけた。これでも足りないくらいだが、少しはマシだ。
すべての掃除が終わってから、俺は通報した。
客は切れ目なく訪れ、絶えずレジ前に列ができている状態だ。警報が出ているし、今日はどうせ暇だろうと俺はたかをくくっていた。ところが、大混雑のうえに一人だけだから、息つく暇もない。商品の補充はままならず、レジをさばくので精一杯だ。
外、ゾンビがうろついていて危険なのになんで出歩くんだよ? こいつらは?──内心、毒づきながらレジを打つ。
「お弁当温めますか?」
「お箸は一膳でよろしいですね?」
「レシートはどうなさいますか?」
決まりきった文句を繰り返すだけなのに、疲労のためか呂律が回らなくなる時もある。時間が早く過ぎるのはありがたいが、疲労感は半端ない。
日付が変わると、ようやく客足は途絶えた。ホッと一息ついたところで、今度は品出しである。オーナーに電話しても、つながらなかった。きっと、寝ているにちがいない。また、沸々と怒りが沸き起こる。
まったく、給料二倍もらいてぇよ。一人で二人分の労働してんだからな!
運良く、品出し中に客はほとんど来なかった。それでも、品出しが終わったころには一時を回っていた。
先ほどの混乱が夢のごとく、店内は静かになった。俺は賞味期限切れ寸前の杏仁豆腐とプリン、それに肉まんをレジ台の上に置いた。奥の部屋からキャスター付きの椅子を運ぶ。手には売り物の漫画雑誌。
さあ、食うぞ!
クビになったって構わないし、客からクレームが来なければ監視カメラのチェックなどしないだろう。そして、今その客はいない。
俺が肉まんを頬張ったその瞬間……不快な入店音が響き渡った。慌てて食い物と漫画雑誌をうしろのレンジへ載せる。
「いらっしゃいま……」
入ってきたのは、ゾンビだった。
例によって、呻き声を上げながら腐臭をまき散らしている。口からは緑色の液が……腹から何か蛇みたいのニョロニョロ出してるし……オエーーーー!!!
飲み下した肉まんを思わず戻しそうになった。完全に食欲を失った俺は怒りに支配される。ゾンビは俺を標的としてまだ定めていない。ゆっくりとこちらへ向かってくる。俺は奥の休憩室へ金槌を取りに行った。
数秒で戻ってくると……
ゾンビ、増えていた。一匹だけだったのが、三匹になっている。
よーし、上等だぁ! 三匹ともぶっ倒してやる!!
怒りのせいで俺はいつになく好戦的になっていた。レジへ向かってきた最初の一匹の脳天にまず一撃食らわせる。
グシャッ……角材の時とちがい、一発でゾンビは崩れ落ちた。音に釣られて、他の二匹も集まってくる。レジ台という存在が俺を守ってくれた。
くそーっ! おまえらのせいでスマホなくしたんだぞ! この間、死にかけたし! くたばれ!
ガッ、グチャッ、ゴンッ、ベチャッ、グチャッ、ビチャアアアア……
レジ台を挟んでモグラ叩きの要領でゾンビの頭蓋を叩き割る。金槌はリーチが短いという難点はあるものの、攻撃力は高い。レジ台の長さは二十センチほど。それを間に挟んでいるからゾンビはそれ以上近づけない。
簡単にゾンビ三匹を倒すことができた。しかし、最後の一匹はレジ台の上に脳味噌をぶちまけた。這い上がろうとしていたので、それを上から叩いたのである。
……臭い。腐れた脳味噌は激臭だ。そこで俺は重大な事実に気づいた。
ゾンビの死骸って、どうすんだろう?
このままでは接客できない。かと言って、ゾンビを触って片付けるのは嫌だし……感染症とか移りそうで怖い。考えあぐねていると、客が来た。
「いらっしゃいま……」
「あ……」
客はそれだけ発すると踵を返し、猛ダッシュで逃げて行った。致し方なかろう。この惨状を目の当たりにしては。レジの回りに三体ものゾンビが……動いてなければただの死体だ。それが転がっている。しかも、そのうちの一つはレジ台の上に脳味噌をぶちまけているのだから。こんなゾンビコンビニに客はもう来ないだろう。思いがけない方法で無責任オーナーへ仕返しをすることになったわけだが、俺は途方に暮れるしかなかった。
二人目の客が逃走したあと、俺はやっと重い腰を上げた。掃除用手袋を着用する。とりあえず、こいつらを外へ移動させねば……
ゾンビは思ったほど重くなかった。腐って色々溶け出ているからかもしれない。とはいえ、運ぶのは重労働だ。普段は商品を載せる台車に一体ずつ乗せて外へ運ぶ。ごみ箱の横でいいか。家庭ゴミ、捨てられにくくなって一石二鳥っと。
運び終わったら、今度は店内の清掃である。商品棚にあったバスタオル二枚とゴミ袋を使う。コンビニってほんと何でもあるな。
床の汚れはそこまで酷くないから、目立つ所だけトイレットペーパーで拭き取って消毒する。
レジ台も元通りキレイになった。臭いはまだ残っているけど。あと、見た目は綺麗でも触りたくない。俺はアルコール消毒液をレジ台にぶちまけた。これでも足りないくらいだが、少しはマシだ。
すべての掃除が終わってから、俺は通報した。
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