Bittersweet Ender 【完】

えびねこ

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11月

8.

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 日も傾き東西に走る銀杏イチョウ並木に、歩く人の影が伸びる。
 銀杏の上部はまだ黄緑色、下に向かって徐々に黄色味が増して、下から順に葉が落ちていく。
 地面は黄色と黄土色に敷き積もっている。
 千晶が木に近づくと、独特のにおいが鼻腔を占領していく。黄色のラグの合間に一段と濃い山吹色の丸い粒。近所の人だろうか、足元を探してはその粒を集めている。臭いの元の皮のその下には濃厚な味が入っているのだ。千晶もおばちゃんからビニール袋をもらって拾いはじめた。

 ♪かわいいあのこに踏みつけられて、剥かれて、ごっしごっしあーらわれてー

「何してるの」

 そろそろ着くころだと慎一郎が来てみれば、変な歌を歌う影があった。背筋がぞっとする内容だけに触れないことにする。(※ぎんなん拾いの歌ですよ)

「ぎんなん、美味しいん「ダメ、臭くなるから」

 ――電車でテロでもするつもりか。その前にそれを持ち歩くつもりか。防臭袋でもなんでもない透明なビニール袋だ。

「電車はどうするつもりだったの」
「ドアに挟んで」
「時速100キロに耐えられるの」
「…多分」

 何も考えてないのではないらしいが、方向がおかしい。慎一郎はやれやれと千晶の髪の裾についた葉を払ってやる。
 千晶は不承不承と足元の見える分のぎんなんを拾っておばちゃんに渡した。
 それから気を取り直すように大きく背伸びをする、が、深呼吸で吸い込んだ銀杏ぎんなんの匂いに顔をしかめる。

「うーーん、大学生って感じ」
「どんなイメージなの、そんなに好きならここ受ければよかったのに(三回目)」
「ふーんだ」 

 また苦虫を口をいっぱい頬張り、銀杏を潰した匂いを嗅がされた顔になった千晶は、ふいと木に近寄って幹に耳を当てる。

「何か聞こえる?」
「てっぺんの音」

 慎一郎もマネしてみるが何も聞こえない、と思った後、確かに何か、響いてきた。
 風で微かにさざめく細枝の揺れだろうか。

 ♪~

 千晶は木から離れ、並木を歩く。落ち葉を巻き上げながら、今にも踊り出しそうだ。歌っているのはポピュラーな名曲。そんな姿を撮る慎一郎。確かにビル群よりこの並木のほうが彼女には似合っている。
 
「満足?」
「うん、いいねぇ」
「…少し顔色悪い?」
「んー、ちょっと貧血気味なだけ。急に冷えたからね」

 千晶は慎一郎が意外と見ていることに驚きつつ、ちょと笑ってみせた。慎一郎は普段人の様子に気づいても口にしないだけだ。

「食べれば大丈夫だよ、まだ何か売ってるのあるかな」
「闇鍋が残ってたよ、温かいものを飲もう。帰りは送るよ」
「平気だってば、それに打ち上げするんでしょ」
「帰りの乗り換えわかるの? お上りさん」
「むー、ここまで一人で来られたんだから」


 そんな二人を撮る人影。さっと風景を撮影するフリをして、カメラを仕舞いツレに断ってから、二人のほうへ。

「――アキ」

「なっちゃん、来てたの?」
「もう帰るよ、今から?」

 ちょっと焦ったような千晶に比べて、弟の七海は姉の隣の存在を気にするでもなく近寄り、その耳元に顔をよせて姉弟にしか分からない会話をこっそり伝える。

「カズが最後だからって出てた、マスクして」
「げっ、今日バイトつってたじゃん、まだいんの?」
「もう帰ったよ。スマホ切ってあったのに5分で見つかったわ。けど彼が撮ってくれたから。スカしてネタにはならないけど、加工素材にはばっちり」
「こわ、」

 千晶が貰ってきたビラに引っかかるものがあった弟は友人とこっそり偵察に来たという。以前別の行事に誘われて観に行ったら弟妹揃ってひどい目にあわされた。呼ばなかったということは邪魔されたくないということだろうと踏んだのだが、そうでもなかったようで。兄弟で裏をかき合って今日は引き分け。それはそれとして、弟は別の収穫もあったのでよしとする。

 千晶は七海の友人に手をふり、ほったらかしていた慎一郎に向き直る。

「シン、こっちは――」

 千晶が紹介しようとするのを弟は制して、わずかに口角をあげた。

「何に見える? あなたは誰かを無条件で信じられるかな」
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