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11月
4.
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ほんの少し残った生ものとグラス類だけ片づけたリビングには昨日の名残がそこはかとなく漂う。結局何人来たのだろう、家主も全てを把握してはいなかった。
テレビのニュースチャンネルをながら見しつつ、キッチンで二人が朝食にしようかという頃、彼らはやってきた。
アポ無しはデスクで斬ってくれるが、今朝は昨日の流れでインターフォンが直接部屋に繋がるようにしたままだった。慎一郎がガチャ切りすると今度は千晶の電話が震えた。
「……誰だろ? 090――」
「……出なくていい、誠仁」
「どうしたのかなこんな朝から。初めて掛かってきたんだけど。何かあったのかな?」
千晶の心配を余所に慎一郎は「引っ掻き廻しにきただけでしょ」と言って、ロックを解除しに行った。
「ぐっもーにん、はいこれエッグタルト」
「マカオ?」
「はよー」
誠仁と、その後からもう一人入ってきた。首を曲げ瞼を押さえつつ、眠そうな男は誠仁より慎一郎よりも少し背が高く、目元の陰影が印象的。
「そうそう弾丸、勝ったからお裾分け(はーと)ちあきちゃんは彼シャツとかじゃないのざーんねん」
「…おはようございまーす」
(朝っぱらから元気で心配したのがバカらしいわ)千晶は客人の対応を家主にまかせ、椅子に座り直す。
「長旅でお疲れのところわざわざありがとう。慣れた枕が恋しいだろうに」
「お茶位飲ませてよ」
家主の態度がさっさと帰れ言わんばかりなのは、空港からここが客人たちの住まいとは逆方向だから。家主も席につくと、客人も家主の態度などおかまいなしで食卓につく。
「あ、おかゆ、ぼくも頂ける?」
「はーい、時田さんは?」
動かない家主に代わり、千晶は食器を用意する。
「聞いてくれるんだ、やさしいねぇ。僕はコーヒーだけでいいよ」
「ぼく昆布が欲しいな、あと卵焼きのしょっぱいの」
慎一郎も仕方ないと席を立ち、無言で缶詰の昆布巻きを渡し、コーヒー豆を挽き始めた。
「しょっぱいのね、えーと御出汁に、卵を」
(顔は一番洋風なのに和食派か)平たくない顔から遠慮のない声が掛かっても気にしないが、千晶は当てにされることを嫌う、次に会う機会があるかはわからないが頼まれて作った実績は不要だ。
「そこちょんとして、くるっと。上手ー」
「出来たねー」
うまく褒めそやして自分で焼かせ、今は端っこを味見しあう二人に、コーヒーを淹れる慎一郎と見てただけの誠仁は、厭きれ半分になぁ、ああ、と目だけで同意した。
「やっぱり僕も食べる、あとお味噌汁飲みたい」
ちょっと拗ねたような誠仁を誰も気にしないが、おかゆに味噌汁はいらない。
慎一郎の視線を受けて千晶はフリーズドライの味噌汁を差し出した。
「えー、インスタントぉ、つくろうよ」
「どれにしますかー、いまならおまけにもう一つ」
「…ひとつでいいよ」
渋々となめこを選んだ誠仁に慎一郎がお湯を注ぎ、4人は朝食につく。
「いただきます」
(変な光景…)
昼や夜に比べて親密ではない相手と食べる朝食は、人見知りをしない千晶でも違和感がある。が、男三人は気にした様子もなく静かに食べている。そこは3年の年の差だ。
時々ニュースについて呟いたり、昨日の来客について訊いたり。誠仁たちはマカオへ二泊、観光という名のカジノデビューを果たしてきたそうだ。
「そう誠仁がね、ぼくは見てただけ。面白いよ、目の色が少しずつ変わってくの」
「ちあきちゃん、社会勉強だよ」
何か言い訳が聞こえてきたが誰も聞いていない。
「なにはともあれおめでとうございますー」
食後におもたせのエッグタルトを一口大に切り、コーヒーを温めなおす。
「甘いけど美味しい」
「コーヒーに合うね」
お味見にといいながらばくばく美味しそうに食べる二人。朝から甘いものを食べない慎一郎と誠仁は見てるだけでお腹いっぱい。
「ごまのお汁粉? おいしそう」
「慎一、このひとは?」
話がマカオでの食事に移りしばらくして、三人目の男が何の脈絡もなくぶち込んできた。今頃かよ、と皆が心の中で突っ込んだが、千晶もきいてこないし、慎一郎も紹介するのを忘れていた。
「ああ、俺の生き分かれの姉、アキコさん。こっちは弘樹」
「どうもー」
「……どうも」
「ちあきちゃんは弘樹覚えてたの」
「誰かさんよりはー」
誠仁はむくれるが、千晶は状況的に気取らない友達だろうと判断しただけで顔は誠仁同様覚えていなかった、ちょっと間があいたのは別の理由、お姉さんってところだ。
「――そんなこともあったねぇ、あの時の? 雰囲気違わない?」
誠仁がクラブで会ってることだけ説明すると、出来事は覚えていたが印象とは違うようだ。綺麗とカワイイの平均値の顔はよく言えば化粧映えがする。そして今はすっぴん。
(いや、だから問題はそこじゃなくて、お姉さんってトコに突っ込んでよ)
「まぁ、誰かさんも顔じゃなくて身体で覚えてたくらいですからね」
「やだちあきちゃんえちー」
「なにその話」
「座ってるときは気づかなくて、帰り際に立ったところ上から下までスキャンして思い出してんの」
しかも前からだけでなく横に移動してジロジロと、と千晶が軽蔑混じりで説明すると、二人はああ、と頷く。いつものことらしい。
「骨格と左右の均整がさ、83?アンダー細めかな、Dはないよね。横からのお尻のラインも…パンツどんなの履いてんの、っと」
その身振り手振りに三人が冷たい視線を送るとようやく本題に入った。
「今日はここに居ていい?」
「俺出るけど、出前はとらないでね」
「いいよ慎はいなくて。ちあきちゃんがお相手してくれるよね」
「私も所要がありますんで」
慎一郎は内覧会と会合へ、千晶もこれからバイト、無くても帰るに決まってる。
「えー、今度っていったのにぃ」
「…今度はお化けにお相手してもらう番ですよ、ああ、お化けじゃなくてユーレイでしたっけ?」
「そこは生身じゃないとね、肌と――」
「誠仁の番号登録されてなかったよ」
「ひっど」
面倒くさそうに対応する千晶に次いで、慎一郎も手で払う。
テレビのニュースチャンネルをながら見しつつ、キッチンで二人が朝食にしようかという頃、彼らはやってきた。
アポ無しはデスクで斬ってくれるが、今朝は昨日の流れでインターフォンが直接部屋に繋がるようにしたままだった。慎一郎がガチャ切りすると今度は千晶の電話が震えた。
「……誰だろ? 090――」
「……出なくていい、誠仁」
「どうしたのかなこんな朝から。初めて掛かってきたんだけど。何かあったのかな?」
千晶の心配を余所に慎一郎は「引っ掻き廻しにきただけでしょ」と言って、ロックを解除しに行った。
「ぐっもーにん、はいこれエッグタルト」
「マカオ?」
「はよー」
誠仁と、その後からもう一人入ってきた。首を曲げ瞼を押さえつつ、眠そうな男は誠仁より慎一郎よりも少し背が高く、目元の陰影が印象的。
「そうそう弾丸、勝ったからお裾分け(はーと)ちあきちゃんは彼シャツとかじゃないのざーんねん」
「…おはようございまーす」
(朝っぱらから元気で心配したのがバカらしいわ)千晶は客人の対応を家主にまかせ、椅子に座り直す。
「長旅でお疲れのところわざわざありがとう。慣れた枕が恋しいだろうに」
「お茶位飲ませてよ」
家主の態度がさっさと帰れ言わんばかりなのは、空港からここが客人たちの住まいとは逆方向だから。家主も席につくと、客人も家主の態度などおかまいなしで食卓につく。
「あ、おかゆ、ぼくも頂ける?」
「はーい、時田さんは?」
動かない家主に代わり、千晶は食器を用意する。
「聞いてくれるんだ、やさしいねぇ。僕はコーヒーだけでいいよ」
「ぼく昆布が欲しいな、あと卵焼きのしょっぱいの」
慎一郎も仕方ないと席を立ち、無言で缶詰の昆布巻きを渡し、コーヒー豆を挽き始めた。
「しょっぱいのね、えーと御出汁に、卵を」
(顔は一番洋風なのに和食派か)平たくない顔から遠慮のない声が掛かっても気にしないが、千晶は当てにされることを嫌う、次に会う機会があるかはわからないが頼まれて作った実績は不要だ。
「そこちょんとして、くるっと。上手ー」
「出来たねー」
うまく褒めそやして自分で焼かせ、今は端っこを味見しあう二人に、コーヒーを淹れる慎一郎と見てただけの誠仁は、厭きれ半分になぁ、ああ、と目だけで同意した。
「やっぱり僕も食べる、あとお味噌汁飲みたい」
ちょっと拗ねたような誠仁を誰も気にしないが、おかゆに味噌汁はいらない。
慎一郎の視線を受けて千晶はフリーズドライの味噌汁を差し出した。
「えー、インスタントぉ、つくろうよ」
「どれにしますかー、いまならおまけにもう一つ」
「…ひとつでいいよ」
渋々となめこを選んだ誠仁に慎一郎がお湯を注ぎ、4人は朝食につく。
「いただきます」
(変な光景…)
昼や夜に比べて親密ではない相手と食べる朝食は、人見知りをしない千晶でも違和感がある。が、男三人は気にした様子もなく静かに食べている。そこは3年の年の差だ。
時々ニュースについて呟いたり、昨日の来客について訊いたり。誠仁たちはマカオへ二泊、観光という名のカジノデビューを果たしてきたそうだ。
「そう誠仁がね、ぼくは見てただけ。面白いよ、目の色が少しずつ変わってくの」
「ちあきちゃん、社会勉強だよ」
何か言い訳が聞こえてきたが誰も聞いていない。
「なにはともあれおめでとうございますー」
食後におもたせのエッグタルトを一口大に切り、コーヒーを温めなおす。
「甘いけど美味しい」
「コーヒーに合うね」
お味見にといいながらばくばく美味しそうに食べる二人。朝から甘いものを食べない慎一郎と誠仁は見てるだけでお腹いっぱい。
「ごまのお汁粉? おいしそう」
「慎一、このひとは?」
話がマカオでの食事に移りしばらくして、三人目の男が何の脈絡もなくぶち込んできた。今頃かよ、と皆が心の中で突っ込んだが、千晶もきいてこないし、慎一郎も紹介するのを忘れていた。
「ああ、俺の生き分かれの姉、アキコさん。こっちは弘樹」
「どうもー」
「……どうも」
「ちあきちゃんは弘樹覚えてたの」
「誰かさんよりはー」
誠仁はむくれるが、千晶は状況的に気取らない友達だろうと判断しただけで顔は誠仁同様覚えていなかった、ちょっと間があいたのは別の理由、お姉さんってところだ。
「――そんなこともあったねぇ、あの時の? 雰囲気違わない?」
誠仁がクラブで会ってることだけ説明すると、出来事は覚えていたが印象とは違うようだ。綺麗とカワイイの平均値の顔はよく言えば化粧映えがする。そして今はすっぴん。
(いや、だから問題はそこじゃなくて、お姉さんってトコに突っ込んでよ)
「まぁ、誰かさんも顔じゃなくて身体で覚えてたくらいですからね」
「やだちあきちゃんえちー」
「なにその話」
「座ってるときは気づかなくて、帰り際に立ったところ上から下までスキャンして思い出してんの」
しかも前からだけでなく横に移動してジロジロと、と千晶が軽蔑混じりで説明すると、二人はああ、と頷く。いつものことらしい。
「骨格と左右の均整がさ、83?アンダー細めかな、Dはないよね。横からのお尻のラインも…パンツどんなの履いてんの、っと」
その身振り手振りに三人が冷たい視線を送るとようやく本題に入った。
「今日はここに居ていい?」
「俺出るけど、出前はとらないでね」
「いいよ慎はいなくて。ちあきちゃんがお相手してくれるよね」
「私も所要がありますんで」
慎一郎は内覧会と会合へ、千晶もこれからバイト、無くても帰るに決まってる。
「えー、今度っていったのにぃ」
「…今度はお化けにお相手してもらう番ですよ、ああ、お化けじゃなくてユーレイでしたっけ?」
「そこは生身じゃないとね、肌と――」
「誠仁の番号登録されてなかったよ」
「ひっど」
面倒くさそうに対応する千晶に次いで、慎一郎も手で払う。
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