好奇心は猫をも殺す

えびねこ

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sweet drop(s)

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 彼が目覚めたのは朝だった。
 数センチ分開けた窓から、湿度の高い冷気が押し寄せてくる。

 リビングと同じく、広い部屋にあった大きさの広いベッドとサイドチェスト、窓に向けた姿見と、窓際に正方形のテーブルと差し向かいの椅子が2客。ライティングデスクには写真の一つもない。

 昨日は――いつ寝た? ひとと眠るのは慣れてない、ゲストルームに移動しようと、そのまま――どうしてあんなに早く眠ってしまったんだろう。

 記憶の名残はベッドサイドとリビングにあった。


 彼女の横顔そのものの声が聴きたくて、時間をかけても満足な反応は引き出せなかったけれど、繋いだ手は暖かかった。女の子と過ごす方法はそれしか知らなかった。最後に聞こえたのはシーツの海が気持ちいいと言ったふざけたセリフ。伸ばした右手が触れる冷たさと、左側の温もり――はもう無かった。

 キッチンカウンターにカップが2客伏せられ、メモと飴が置かれていた。


 換気装置アンダーパスの脇に落ちていた数枚の桜の花びらを拾い、寝室に戻って閉めた窓を、再び開けて、放った。昨日の晴天が嘘のように雨空だった、これで桜も終わりだろう。

 カレンダーは今日が火曜で、六日に一度の佳き日だと赤い文字を表示する。
 
 残されたメモには入学を祝う言葉と不気味なウサギの絵だけ、連絡先も名前も無かった。飴玉ひとつ、棒付きのローズピンクの果実は、頬張ると甘酸っぱさが口に広がった。
 
「――悪くない」



***


 それきり、彼女が次に同級生と会ったのは夏休みに入ってから。その次は11月で、姉の彼氏は別の人になっていた。そうしてそれぞれに新しい環境で過ごしていくうちに、徐々に疎遠になっていった。男友達とは細々とつながっていて、お互い楽しくやっているときくだけで十分だった。


 彼女は誰にも言わなかった。
 ただ、小箱に入れて、鍵のかかる引き出しの奥にしまいこんだ。そして時折思い出してみるうちに、いつかしまったことも忘れるように、あの時の彼の顔も忘れてしまった。――はずだった。



 彼もまた、誰にも言わなかった。人に言うほどのことではなかったし、彼女を探しもしなかった。ただ、彼女ならまた、ひょっこり気まぐれにやってくるんじゃないか、――そう思っていたのに。







 Curiosity killed the cat, but a cat has nine lives.



 ――やつらはしぶとい。相反することわざが共存するように。
 

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