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恵利と別れて早いもので5年が過ぎた。
時がすぎるのは本当に早い。
「よし!今日も頑張るか」
「おはようございます!」
会社のエントランスで一人気合を入れていると背後から声を掛けられた。
「あ、おはよう相良さん」
「おはようございます。なんだか気合入ってますね横田さん」
「天気もいいしね♪」
元気に声を掛けてきたのは今年の新卒社員の”相良 美月"だ。
お祖父さんもご両親もITエンジニアということで若いのに知識も豊富だ。少々マニアックすぎるところもあるけど今年の新人の中では1番の有望株と言われ期待度も高い。
その分、教育係を任された僕もプレッシャーは大きかったりするんだけどね。。。
「今日は川野辺高校ですよね?」
「そうだな。この間導入したクライアントとサーバのメンテナンスだ」
「全部入れ替えましたもんね。私が通ってた頃は処理速度が遅くて。。。
叔母さんにも"時代に乗り遅れちゃうよ!"って買い替え勧めてたんですが」
「まぁ予算取りもあるだろうからすぐには買えなかったんだろ。
確かにずいぶん古いPC使ってたもんな。
あ、叔母さんは確か数学の先生だっけ?」
「はい。コンピュータ部の顧問もしてくれてました」
相良は川野辺高校の卒業生で学内に明るいことと教員の方とも馴染みがあるということで、新人では異例だが今回のプロジェクトにも特別に参加してもらっている。いい勉強にもなると思うしね。
「じゃ、僕はこの後会議だから、出掛けるまでに昨日話した資料のまとめお願いね」
「はい!」
そう言いながら自分のデスクへと向かう相良さん。
僕もいつの間にか人の上に立って育てる側になったんだよな。
昨年度から僕は田丸さんの後任として課長になった。
田丸さんが"最後の仕事"として僕の課長昇進の推薦状を書いてくれたからだ。
そんな田丸さんは上司でもあった藤枝次長と結婚し会社を退職しただ。
知らなかったけど2人は幼馴染だったらしく皆に秘密でお付き合いしていたらしい。全然気が付かなかった・・・
退職後は田丸さんの御実家の建設会社で働くとのこと。
もっともうちの会社の取引先でもあるし退職後もやり取りは続いている。
ちなみに藤枝次長も田丸さんの御実家の会社から出向してきていたんだけど年内には自社に戻るらしいし、最終的には夫婦で会社を引き継ぐんだろうな。
ちなみに最近田丸さんに会うと藤枝次長との惚気話ばかり聞かされる。
仲が良いのはいいことだけど、あの強面の藤枝次長が田丸さんに甘えてくる話とか・・・あまり知りたくないぞ。
で、その田丸さんからのお願いで先週末に数年ぶりで恵利と会った。
離婚当時、恵利とは話をする気にもなれず謝罪の言葉を聞いたあとは、手続きだけしてほとんど会話もしなかった。
田丸さんは恵利と何度かあっていたらしく、そのあたりの事情も知っていたから一度きちんと話を聞いてあげて欲しいとのことだった。
最初は会うつもりもなかったけど、5年という月日で気持ちの整理がついたということや田丸さんから恵利が池田に脅されて逢瀬を繰り返していたとの話を聞いたということも会うことにした理由の1つだ。
脅されていたからって許せる話じゃないし断ることも出来たはず。
でも謝罪のときに恵利は脅されていたとは話さなかった。多分恵利自身も断ることも出来たとは思っていたからだと思う。
どちらにしても僕も当時恵利とはもう少し話をするべきだったと思ったからだ。
恵利は田丸さんが紹介したという東北の建築事務所で働いていた。
地元を離れたいという恵利の話を受け田丸さんが紹介したらしい。
最寄り駅の喫茶店で久しぶりに会った恵利は当然のことながら歳を取り以前より少し落ち着いた雰囲気になっていた。
そして、再会そうそう恵利からは謝罪を受け当時の説明を受けた。
ただ、話の後半「もういいよ」と僕の口から自然と謝罪を受け入れる言葉が出てきた。
僕自身彼女を許しているのかはよくわからない。
でも恵利は恵利なりに悩んだんだろうし、この5年慣れない土地で色々と苦労もしたんだと思う。
僕が返事をすると泣き笑いの表情で「ありがとう」とだけ告げてきた。
一言告げただけだったけど、胸のつかえが取れたような気持ちにはなった。
"もう大丈夫だ"とは思っていたけど僕自身も何処か恵利のことを引きづっていたのかもしれないな。
今、僕も恵利もお互い別々の道を歩み始めている。
この日もお互いの近況などを報告しあったけど、特に連絡先等は交換することもなく別れた。
失った信頼関係は簡単には取り戻せないし、恵利と復縁することもまず無いし、この先会うこともないかもしれない。
でも恵利も会ったときの悲壮感のようなものはなくなっていたし。
今回で本当の意味で僕も恵利もお互い決別できたのかもしれない。
田丸さんも恵利も新しい職場や土地でそれぞれの未来に向けて頑張ってる。
僕も負けてはいられないよな!
ん?池田?
正直、あんな奴どうでもいいけど、同僚がこの間話題にしてたな。
前に田丸さんに話を聞いたときは、資産家の奥さんと離婚し会社の経営も危うくなっているって話だったけど、その後会社は倒産して今はフリーランスとして働いているらしい。
あいつのことは忘れたかったんで調べもしなかったけど、地元では色々とやらかしていたらしく思うように仕事が受注出来ず、近県に引っ越して仕事をしていたらしい。
でも以前のような仕事は得られず収入も激減したみたいだ。
まぁ自業自得なところもあるし、そもそも今までの実績が全て自分の実力だと勘違いでもしてたんだろうな。
さて、今日も一日頑張ろう!
fin
時がすぎるのは本当に早い。
「よし!今日も頑張るか」
「おはようございます!」
会社のエントランスで一人気合を入れていると背後から声を掛けられた。
「あ、おはよう相良さん」
「おはようございます。なんだか気合入ってますね横田さん」
「天気もいいしね♪」
元気に声を掛けてきたのは今年の新卒社員の”相良 美月"だ。
お祖父さんもご両親もITエンジニアということで若いのに知識も豊富だ。少々マニアックすぎるところもあるけど今年の新人の中では1番の有望株と言われ期待度も高い。
その分、教育係を任された僕もプレッシャーは大きかったりするんだけどね。。。
「今日は川野辺高校ですよね?」
「そうだな。この間導入したクライアントとサーバのメンテナンスだ」
「全部入れ替えましたもんね。私が通ってた頃は処理速度が遅くて。。。
叔母さんにも"時代に乗り遅れちゃうよ!"って買い替え勧めてたんですが」
「まぁ予算取りもあるだろうからすぐには買えなかったんだろ。
確かにずいぶん古いPC使ってたもんな。
あ、叔母さんは確か数学の先生だっけ?」
「はい。コンピュータ部の顧問もしてくれてました」
相良は川野辺高校の卒業生で学内に明るいことと教員の方とも馴染みがあるということで、新人では異例だが今回のプロジェクトにも特別に参加してもらっている。いい勉強にもなると思うしね。
「じゃ、僕はこの後会議だから、出掛けるまでに昨日話した資料のまとめお願いね」
「はい!」
そう言いながら自分のデスクへと向かう相良さん。
僕もいつの間にか人の上に立って育てる側になったんだよな。
昨年度から僕は田丸さんの後任として課長になった。
田丸さんが"最後の仕事"として僕の課長昇進の推薦状を書いてくれたからだ。
そんな田丸さんは上司でもあった藤枝次長と結婚し会社を退職しただ。
知らなかったけど2人は幼馴染だったらしく皆に秘密でお付き合いしていたらしい。全然気が付かなかった・・・
退職後は田丸さんの御実家の建設会社で働くとのこと。
もっともうちの会社の取引先でもあるし退職後もやり取りは続いている。
ちなみに藤枝次長も田丸さんの御実家の会社から出向してきていたんだけど年内には自社に戻るらしいし、最終的には夫婦で会社を引き継ぐんだろうな。
ちなみに最近田丸さんに会うと藤枝次長との惚気話ばかり聞かされる。
仲が良いのはいいことだけど、あの強面の藤枝次長が田丸さんに甘えてくる話とか・・・あまり知りたくないぞ。
で、その田丸さんからのお願いで先週末に数年ぶりで恵利と会った。
離婚当時、恵利とは話をする気にもなれず謝罪の言葉を聞いたあとは、手続きだけしてほとんど会話もしなかった。
田丸さんは恵利と何度かあっていたらしく、そのあたりの事情も知っていたから一度きちんと話を聞いてあげて欲しいとのことだった。
最初は会うつもりもなかったけど、5年という月日で気持ちの整理がついたということや田丸さんから恵利が池田に脅されて逢瀬を繰り返していたとの話を聞いたということも会うことにした理由の1つだ。
脅されていたからって許せる話じゃないし断ることも出来たはず。
でも謝罪のときに恵利は脅されていたとは話さなかった。多分恵利自身も断ることも出来たとは思っていたからだと思う。
どちらにしても僕も当時恵利とはもう少し話をするべきだったと思ったからだ。
恵利は田丸さんが紹介したという東北の建築事務所で働いていた。
地元を離れたいという恵利の話を受け田丸さんが紹介したらしい。
最寄り駅の喫茶店で久しぶりに会った恵利は当然のことながら歳を取り以前より少し落ち着いた雰囲気になっていた。
そして、再会そうそう恵利からは謝罪を受け当時の説明を受けた。
ただ、話の後半「もういいよ」と僕の口から自然と謝罪を受け入れる言葉が出てきた。
僕自身彼女を許しているのかはよくわからない。
でも恵利は恵利なりに悩んだんだろうし、この5年慣れない土地で色々と苦労もしたんだと思う。
僕が返事をすると泣き笑いの表情で「ありがとう」とだけ告げてきた。
一言告げただけだったけど、胸のつかえが取れたような気持ちにはなった。
"もう大丈夫だ"とは思っていたけど僕自身も何処か恵利のことを引きづっていたのかもしれないな。
今、僕も恵利もお互い別々の道を歩み始めている。
この日もお互いの近況などを報告しあったけど、特に連絡先等は交換することもなく別れた。
失った信頼関係は簡単には取り戻せないし、恵利と復縁することもまず無いし、この先会うこともないかもしれない。
でも恵利も会ったときの悲壮感のようなものはなくなっていたし。
今回で本当の意味で僕も恵利もお互い決別できたのかもしれない。
田丸さんも恵利も新しい職場や土地でそれぞれの未来に向けて頑張ってる。
僕も負けてはいられないよな!
ん?池田?
正直、あんな奴どうでもいいけど、同僚がこの間話題にしてたな。
前に田丸さんに話を聞いたときは、資産家の奥さんと離婚し会社の経営も危うくなっているって話だったけど、その後会社は倒産して今はフリーランスとして働いているらしい。
あいつのことは忘れたかったんで調べもしなかったけど、地元では色々とやらかしていたらしく思うように仕事が受注出来ず、近県に引っ越して仕事をしていたらしい。
でも以前のような仕事は得られず収入も激減したみたいだ。
まぁ自業自得なところもあるし、そもそも今までの実績が全て自分の実力だと勘違いでもしてたんだろうな。
さて、今日も一日頑張ろう!
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