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後編 不器用な彼と意地っ張りな私

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日が経つのは早いもので、気が付けば終業式。
結局、クリスマスを一緒に過ごす様な人も現れずこの日を迎えてしまった。
智也兄も稽古が忙しいのかあれ以来会ってすらいない。

「じゃ また来年ね♪」
「うん。良い年を!」

麻友や美津子と教室で別れた私は、今年最後の生徒会の仕事を片付け、急いで公演会場となる視聴覚室へと向かった。
思ったより時間が掛かってしまったので結構ギリギリな時間だ。

会場となる視聴覚室に着くと、入り口には公演を見に来たのか生徒だけではなく着飾った人達も沢山受付に並んでいた。
思ったよりも沢山の人が見に来ているみたいだ。
私も列の後ろに並ぶと演劇部の人だろうか?可愛らしい1年生の女子が今日の芝居のパンフを渡しくれた。
渡されたパンフには智也兄に寄りそう近藤先輩と冬香の写真をメインにあらすじやキャストが記載されていた。

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司と綾香。
幼馴染の2人。
2人は小さい頃に親同士が決めた婚約者同士でもあった。
家も近所でいつも一緒に居た2人だったが、思春期を迎えると周りを意識しいつの間にか距離が出来てしまった。
そして、司が高校3年生の時のクリスマスパーティで事件は起こった・・・・

司:黒木 智也 綾香:近藤 夏希  その他キャスト:?
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ふ~ん。
司役が智也兄で、綾香役が近藤先輩ね。
で、多分クリスマスパーティでが新たな婚約者として指名されるのが冬香演じる綾香の妹なのかな?
冬香含め他の出演者は秘密ってなってるけど・・・変な芝居。
でも、良くある公爵令嬢物だと、綾香は幸せになって司と新しい婚約者は不幸になるパターンよね。
智也兄は自分の事を主役とか言ってたけど近藤先輩の役が主役なんじゃないの?

などと思っているうちに会場の視聴覚室の扉が開き室内へと案内された。
視聴覚室と言ってもこの部屋は防音設備の整った一般教室みたいな部屋で普段は軽音部や演劇部が練習で使用しているんだけど・・・なんで?

室内奥には幕で覆われた舞台が用意され、各所の置かれたテーブルには美味しそうな料理。舞台脇には大きなクリスマスツリーも。
室内はさながらクリスマスパーティ会場を思わせる内装に様変わりしていた。

会場の様子に驚いて辺りを見回していると会場内の舞台にスポットライトが当たる。
舞台にもテーブルや料理などクリスマスパーティのセットが並んでおり客席と一体になっている。観客もパーティの参加者って事なのかな?

そして舞台袖から楽しそうに盛り上がる数名の演者が登場。
あ、あれってテニス部の三田先輩、それにサッカー部の新田先輩とバスケ部の恩田先輩。凄い!各部の元部長で学内の有名人ばかりじゃない。
でも演劇部じゃ・・・ないよねあの人達??これも客演?
と新田先輩が会場の方を向いて一言

「さぁ今夜はクリスマスパーティだ!楽しもうぜ~!」
「「いぇ~い!!」」
「え?」

何故か私以外の会場の観客が新田先輩のセリフに応えた。
何これ?盛り上がってないの私だけ?これも演出?

そして、盛り上がる演技?をする新田先輩達に続いていよいよ主要メンバーが舞台に登場した。

和やかなムードのパーティ会場で、近藤先輩が演じる綾香と智也兄が演じる司が向き合う形で立ち、そして司の横に冬香が隠れるように立っている。
3人とも今日はパーティ向けの華やかな衣装で冬香に至ってはウィッグまでつけて髪型も変えていた。
近藤先輩も智也兄も整った顔立ちしているから何だか迫力もある。
多分劇中で見せ場となる婚約破棄シーンが始まるんだ・・・っていきなり?

「綾香!僕は今この時をもって君との婚約を解消する」
「え?な 何で?どうしてですか司さん」
「僕は真実の愛を見つけたんだ」
「真実の愛?」
「そうだ。僕は君と知り合うよりも前にその子と出会いずっと秘めた思いを持っていた。でも・・・周りの目を気にしてか、いつしかお互い距離をとるようになってしまった。そんな時に君との婚約話が出た。
 僕はそんな寂しさを紛らわすため他の女性、つまり君との婚約を選んだんだ」
「そんな!酷い!」

ん?君と知り合う前に出会ったってどういうこと?
冬香って近藤先輩の妹役だよね?時系列的に姉である綾香より先に会うって?
などとストーリー展開に疑問を持ちつつ、テーブルの上のピザを美味しく頂いていると突然智也兄が

「僕は"赤沢 春香"の事が好きだ。今ここで春香に交際を申し込む!」

と宣言し私を"ビシ!"っと指さした。
そしてそれに合わせるかの様にスポットライトの灯りも私に。

ピザ・・・食べてたんだけど・・・

「え?な なに?わたし?」

私が何が何だかわからず戸惑っていると今度は冬香が話し出した。

「綾香さん。ごめんなさい。司先輩は昔から姉さんの事が好きだったの2人の事は許してあげて。それに姉さんも司先輩の事が・・・」

なんてことを言ってくる。
セ セリフなんだよね? それに冬香って近藤先輩の妹役だったんじゃ?
でもお姉ちゃんって私の妹役??
私はお芝居出ていないのにどうなってるの?
謎ばかりの中、再び智也が私の名を叫んだ。

「春香!」
「ひゃ ひゃい!」

急に呼ばれたから舌噛んっじゃったよ・・・痛いじゃないのさ。

「僕の正直な気持ちだ。僕は春香の事を愛している。
 もう一度言う僕と交際してくれないか?」
「・・・えっと・・・あの」

これって・・・お芝居だよね?
智也兄が私の事を?夢じゃないよね?
でも?え?でも智也兄?目が・・・本気?

「だめか?」
「そ その・・・私でよろしければ」

あ・・・OKしちゃった。
だって・・・あんな真剣な目で・・・ズルいよ。

「「「おおお!!!」」」

何だか盛り上がる会場。
そして近藤先輩のセリフ?

「両想いなのね。それなら仕方ないわ。私もその婚約破棄受けさせてもらうわ」
「え?近藤先輩?」

まだお芝居続いてるの?
何処までが本当でどこからがお芝居?

智也兄はステージから降りて私の隣にくると私を優しく抱きしめた

「え、あ、ちょ、智也兄?」
「ありがとう綾香。そしてよろしくな春香。好きだよ」
「春香さんと幸せにね」
「良かったねお姉ちゃん!!」

「あ、ありがとう?」

智也兄に抱きしめられながら何故か疑問形でお礼を言ってしまったけど私は小さな声で呟いた。
でも・・・結局何だったのこれ?




**************

結局、後から聞いた話によると会場に居た私以外の観客は智也兄に頼まれたサクラでクラスメイトや演劇部のOB、知り合いの劇団員の人達だったとの事。
ヘタレな智也兄の"卒業までに春香に告白する"という思いを遂げさせるための大芝居だったんだそうだ。
そして新田先輩達は近藤先輩の伝手、近藤先輩は彼氏さんが智也兄と仲が良いらしく・・・私を釣るために頼み込んだらしい。
近藤先輩も私の事を話すと結構ノリノリだったとか。

「ん?どうかしたか春香?」
「随分手の込んだことしたんだなと思って。本当智也兄って・・・・」
「仕方ないだろ!芝居のセリフだと思えば何でも言えるんだけど、面と向かって春香に告白とか・・・」
「相変わらず不器用というかヘタレなんだから・・・でもそういうところは変わらないね」
「春香こそ意地っ張りなところは変わらないな。冬香から色々聞いてるんだからな」

「「・・・・・ぷっ」」

思わずお互い顔を見合わせて笑ってしまった。
結局・・・両想いだったってことだよね。

「そ その・・・よろしくね智也兄」
「あぁこちらこそ春香」

今年のクリスマスはいいことありそうかな。
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