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人の命はエネルギー

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 世界が明るい雷に満ちた。魔法に関しては世界一と名高いヴァンヴェルディは、それが満ちた瞬間に部屋のバルコニーへと飛び出して、片手を空へと向けた。

「魔力障壁を展開」

 夜空が昼のようにまばゆく光るソレをみて。クルクラフトの妖精王は即座に自身の魔力を使用して、惜しみなく同盟国と自身の国を覆う大規模な結界を張った。すぐに、空を走る雷鳴が障壁を貫かんと無数に落ちてくる。それを、的確に魔力を練ることで、どうにか防ぎきる。

 妖精王は、国や同盟国の危機のために、何十年、何百年と魔力をため続けて居る生きる魔力タンク。それを使い、同盟国の危機があれば、防衛をすることと。妖精の繊細な技術により国は生き長らえてきた。今回はソレをしようするに至る危機。

 一人なのを良いことに舌打ちを一つ。空にかざしている手を片手から両腕にして耐え忍んだ。

「ッチ。やってくれたなぁ、革命軍……」

 ヴァンヴェルディという名にかけて、守り切ると。普段閉じている両目を開いて詠唱に入った。
 
【相反する悪意の満ち引きに〆の一区切りを落とす 落下する星は秩序の区切りとなり区別という名の安命を

区別の亡き者は己の焔と肉体を顧みて嘆くだろう その悲劇を迎えることをよしとするは悪である どうしようもない悪である

守れ 秩序を 守れ 区別の壁を その壁の内側にいる全てを民を守らんと力を捧ぐ】

 詠唱で耐えられているが……自然が……結界外の自然達の嘆きが、長い耳に届く。二重詠唱でその他の自然の補助を組み合わせて耐えるという、妖精の中でさえも普通から逸した行動に出た。

「ここで、自然も守りきらねば……。首が絞まるのは我々なのでな……。全力で、迎えうとうぞ」





 アンドールにも届いて居た。夜を昼のように明るくする雷鳴が。平民は眠りに付き、城住まいの人々も仕事が残って居なければ、寝ているような夜遅くの時間。リエルとカペルは、アンドール統治とエヴァ王国とアンドール王国の兵士合同訓練の資料をまとめて居る時に。リエルが、息抜きと窓の傍によって空を眺めて居るときに……。起こったんだ。

「何これ」

 思ったよりも自分の声は低く響いた。自然に顔がしかめられ、どんどんと空の向こうで膨れあがる魔力。速く防衛を敷かねばと、窓を見て居ると。いつの間にかこちらに来ていたカペルが私の肩を掴んで引き寄せた。

「リエル、危険ですから窓から離れてください」

 どんどん強くまばゆくなってくる空を見て目を丸くした。そして、即座に窓から離れて光の様子を見ると同時に。クルクラフトの妖精王の魔力が辺りに満ちていることが感じられた。

(妖精王直々に魔力を使うほど……。革命軍がやってくれたか)

「我が君ッ!」

「ッつ」

 顔をしかめて、様子を見ていると。窓を割るような轟音と光……それにてらされた窓ガラスが飛び散った。即座にカペルが守るように抱きかかえてくれたから、大事には至らなかったが、その後すぐに地をが揺れた。この光る何かのせいで、揺れているのだろう。

 震度5弱くらいはあるだろう揺れが、世界を揺らす。







 ベアクローを装着して、待っていた天使のような男はこちらを見て笑う。周りに兵士はいない……。この男は情報が漏れるのを危惧して、一人だけの独断で……大量殺人魔道兵器を起動させた。途中で、マーベラストが嫌な予感がすると、あの男を付け初めていなければ気づけなかった。それでもおそかったけれど。

 
「間に合いませんでしたかぁ」

「やぁ、君たちはあのときの。お陰で暫く鼻の調子を崩してしまったんだよ。それで? 今度はどんな病原体をプレゼントしてくれるのかな?」

 一緒くたにこの変態さんと一緒にされて不服だけど、今はそんなことを言っている暇じゃない。杖に魔力を貯めて……マーベラストは剣を抜く。今度こそ、殺してやる。そう意気込みを込めて……。これで、今回失敗すれば本当に帰るしかできなくなる。

事実上の暗殺の完全失敗になってしまう。

 だから、本気で殺そうと神経を張り巡らせて睨み付けると男は笑った。

「あっはっはっはっは」

「なにがぁおかしいんですかぁ?」

「今こうしていても君らは良いのかなって」

「何を」

 我々アンドールとエヴァ王国はクルクラフトの妖精王の同盟がある。いくら目の前の巨人の腕のような兵器が強力でも、そう簡単には突破されない。それは、この男もわかってやっているはず。なのに、なんでこんな微笑んでいられるんだ。こんな兵器の為に、幾多の民草を食らって居る男にはそんなこともわからないのか。そう、杖を握りしめて振れば、火の玉が男に向かって放たれている。

「おっと危ない」

「うぉぉぉぉおぉ! 女の子にしてやるうううううう!」

「それは、少しいやかなぁ」

 本当に気付かないんだ。そんな不敵で不気味な笑みを浮かべる男が、心底気持ち悪い。何を世迷いごとを……。そう思って何度も杖を振っても男は華麗な身動きで避けていく。

「本当に気付かないんだね」

「またそれですか」

 いい加減飽きたと、杖を再度振っても男は笑顔で交わすだけ。

「本当に気付かないのなら……教えてあげるよ。人の命ってどれだけのエネルギーになると思う?

この世界は魔力があるお陰で……。比較的楽に効率よく、安楽死ができるって素敵だと思うんだ」

 気持ち悪い。耳にべっとりと引っかかってくるような狂った声音。魔術師ならば常識の……命のエネルギーのことを説いた。それが何を……と顔をしかめたけれど。

「まさか、本当に捨て身で戦争を起こすつもりなんですか? 人と区分される存在を全て消してしまう為に?」

 そう、言えばニッコリと男は笑って。いつの間にか目の前に男が現れた。上級魔法の空間転移をされた……早期が付いた時には遅く。

「ご名答」

 言うのがさきか、私の身体はベアクローでパックリ裂かれていた。
 

ー小話【カペルリットの記憶】ー

 暗かった、臭かった、粘ついた、気持ち悪かった、悲しかった、苦しかった、痛かった。壁を見れば殴られて飛び散った血と、切られた肉片が壁にべっとりと張り付いた奴隷の牢獄。周りを見れば、泣くことにも疲れた僕と同じ子供が沢山居た。

 膝を抱え、ある物は静かに泣き、ある物は逆に狂って笑いこける。人によっては抵抗しないようにクスリが投薬されて、虫の息の奴隷もいた。その中で僕は膝を抱えて、泣きも笑いもしなかった。そんな、汚くて薄汚い世界の中に……僕は押し込められていた。

リエルに合う前はそんなところ居た。奴隷としてサンドバッグにもなったし。犯罪にも手を染めた。

【とーふぁん! とーふぁぁん!】

 大分小さい時だと思う。攫われたのは……。攫われた記憶が相当トラウマのようで、思い出そうとしても思い出せない……どうやっても。


「カペル?」

 目を開ければ、我が愛しの君……リエルがそこに居る。僕を助けてくれたお人。短命が約束されている愛しいお方。白い身体と春の雪解けのような、綻んだ笑みの表情が……今は心配そうにこちらを見て居る。どうしたのか? そう、問いかけようとしたら。リエルの暖かい手が頬に添えられる。

「泣いてるよ。怖い夢見た?」

「だい、じょうぶですよ。わが……あ」

「呼び名戻ってるよ。ほら」

 動揺している僕を抱きしめてくれる。暖かい……。あれから、成長したリエルはとても頼もしくなった。僕も同じ位……頑張って。そう思って居るのにいつも後を追うばかりで追いつけない。

「リエル、ありがとうございます」

 速く追いつけるように頑張りますから……。せめてリエルが……サイが生きていけるように僕は頑張ります。

 あやすように背をさすってくれる我が君にそう、誓いを立てた。密かな……誓いを。
 
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