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神に選ばれしリズム音痴

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 計100回はカペルに足を踏まれた頃。今回の練習はカペルと私の二人だけでのレッスン。前にダンス家庭教師を呼んだけど、暗殺者で襲いかかられたので、レミリスの指示で「私が選別しますので、その間二人で自主練をお願いします」と言う訳なんだよ。

 そうこうしているうちに記念すべきー101回目ーを更新したので、流石にカペルをちょびっとばっかり恨めしそうに見ながら言った。

「カペル……そろそろ足が痛い」

「ごめんなさい、我が君……じゃなくてリエル様……」

 レミリスのドキドキ(怒気怒気)ダンス訓練を終えてなんとか、女性型をマスターしたカペルなんだけど。ミジンコに毛が生えた分だけダンスはましになった。こうして、あれから一週間時間を見つけて互いにダンスの練習に励んでいるのだけど。凄いくらいに……リズム音痴というか、もはや呪いというかなんというか。ダンスに関してはカペルは全然うまくならない。

【神に選ばれしリズム音痴】

 なんて、レミリスやらグランドやらに言われる始末だ。ため息交じりに、また私の足を踏みそうになったカペルの腕を引いて体勢を立て直す。何度目かの謝罪を上の空気味に受けて、どうやったらカペルの天才的なまでに下手くそなダンスを普通レベルまでにのし上げることができるのだろうか、そんなことばかり考えていた。うーん、どうしても男性型が上手くいかないんだよなぁー。私は私で鍛えているから、他の女性よりは微妙にがっしりしてきているし……。カペルは鍛えて居るけれど、骨が細っチョロいのか、筋肉が付きにくいから、顔以外を見ればカペルの方が女……。

「そうだ! カペル君……。カペルいっその事女性型で踊ればいいじゃない!」

 名案を思いついたとばかりに、手をパンと合わせて上目がちにカペルを見た。その行動で、カペルはドキリと少し頬を赤らめたあとに、面食らったように驚き始めた。

「はいぃ? な、何を言っているんですか我が君!!」

「いやだって、もはやカペルを御姫様抱っこできるし、わたし」

「だだだだだ、だからっても、持ち上げないでください!!」

「今は二人っきりだからいいの。力持ちな私はお気に召さない?」

「む、そんな言い方ズルイです」

 実演して持ち上げてみれば、顔を真っ赤にして私から顔を逸らすカペル。女の私よりヒロインしてるなーなんて思ってからかい気味にそういえば、真っ赤な顔で私の顔を見つめてムッとして睨んでくる。全然怖くないし、むしろカワイイ。なんだろう、私だって女の子だからこんな風に御姫様だっこされるのは夢だったけど。カペルにしてみて……する側もいいかも知れないって思った。何だかんだ、好く者同士なんだから、相手を怒らせないようにしたいようにやってみよう。

「いい加減降ろしてください!」

 私達と一緒に居てくれると言ったカペルならば、私のことを受け止めてくれる。そう願って。

「じゃあ、一回だけ女性型でやってみようか!」

 
 そう言って押し切ってやってみたんだけど。



「……なんで女性型の方が完璧に出来るんだよ! レミリスの時は、今までの恨みとばかりに、ゲシゲシあんだけ踏んでたのに!」

「僕だってわかりませんよ! とっとと、うわあああ!!!」

 お互いに何だかんだ笑い合っていっていたら、また私の足を踏んで転んで……成長した胸に顔からダイブしてきた。

「こんな所でラッキースケベを発動しないでよ!」

「すみません!」
 
 色々なトラブルありながらも、今日もしっかり練習をこなすんだけど。

 女性型をたたき込んでもなお、これでもかってくらいレミリスの足を踏みまくったカペルと踊ったのだけど。気持ち悪いくらいにするする踊れた。私が男性型でカペルが女性型ていう組み合わせで。あれだけ練習して足を踏みまくっているカペルが嘘みたいにキレキレに女性型を踊りきったのだ。私も本人も嘘だと言ってくれ……と懇願するように、互いを見た。

 このまま、カペル君の男性型が壊滅的なら。本格的に私が男性型でカペル君が女性型のダンスをしなければいけなくなる。








 
「まだ、調整が終わらないかい?」

「申し訳ございません!」

 武器の開発を中心とした研究所の職員に声を掛ければ、申し訳なさそうに頭を下げてきた。目の前にあるのは、魔力を原動力にした爆弾だ。理論上では国一つを爆撃できるが、未だ開発できずに難航するばかりだ。

 その状況に、僕は頭の髪を乱暴に片手でぐしゃりと握り潰した。

 アンドール内部に大打撃を与えることに成功した我々は、すぐさま国に戻り。戦争の為の武具開発に努めた。本当はクルクラフトを飲み込んでさらに、軍事拡大を目指すつもりだったのだが。

【リエル様以上の強い女王の一人でも嫁にと持って来たのならば考えよう】

 なんて、言われてしまったよ。まったく忌々しいことだ。死ねばそのようなこと考えなくても良いと何故理解ができないのだ。とある同性愛者が子を欲しさに異性愛者と愛のない育みの間に、産まれた僕でさえ理解ができるのに。不完全な人間もどきの僕でさえも……。忌々しい天使と表された髪を乱雑に掻きむしり書類を確認する。

 暗殺目的にエヴァ王国に送った刺客は全員が帰ってこない。帰ってきたとしても……拷問の末に首から下が潰れた状態で、わざわざブライエ家の蝋印まで押して送られてきた。誰が拷問したかなど、明白……レミリス・ブライエだ。希代の狂い人……無心のクラウンなど、裏の世界では様々な呼び名で恐れられている家の現当主。

 ガンレイク・ブライエと比じゃない程の狂った人間だ。

 ブライエ家は産まれた時から全ての情報を扱うことを義務付けられた家だ。その訓練は特殊で……歳はの行かない4歳頃から、あらゆる生命体の汚い所を刷り込まれる。

 殺人 戦争 差別 飢餓 悪意

 様々な生命の汚い所を押しつけられ、知る事を強要して……一度心を完全に破壊する。そこから、物欲の一切を取り除き、愛を欲することを取り除き。自身の家の為に有益な情報を取り扱うコマと成り下がる。

 実際に耐えられずにレミリスの両親は自死した。レミリスを差し置いてだ。僕が調べたレミリス・ブライエも、もっと速く壊れる筈だった。なのに、何故こうして生きて牙を剥いてくる。自身が欲して伸ばした手を振り払ったリエル・メーカー・アンドールを、何故、未だ従うのかわからない。

 もっとわからないのは、カペルリットという存在とナザルカラクだ。何度、使者を差し向けても謀反を起こす気配はないどころか、使者を追いかえし続けて居る。自身の母親が、妻が求めているというのにだ。母親が傷付けられて産まされた子に、何故愛そうと思える。

「何故なんだ」

 どいつもこいつも、生きるのに失望しているはずなのに……何故、こんな苦しい世界を生きようと。愛そうともがくのか、わからない。零れ出た問いは、いつの間にか来てしまった無人の廊下の床に吸い込まれるように落ちていった。


ー小話【グランド・グランド】ー


俺が、なんでグランド・グランドなんて巫山戯た名前になった理由はだな……はぁ。


「あら、貴方に似て可愛いわこの顔」

「いやいやハニーに似て綺麗な瞳だよ」

「んも~! あなたったらぁ~二人に似てちゃ名前が決められなぁーい」

「そうだ~。ならば、グランド・グランドはどうだろう。僕達の愛の結晶には相応しいだろ?」

っていう阿呆らしい訳で俺の名前は……【グランド・グランド】なんていう名前になったんだ。

愛してくれるのは嬉しいぞ? けどな、流石に【グランド・グランド】はないだろ。

フルネーム名乗ったら、何の冗談だなんて気分悪くされるしよ。


「えーとグランド・グランド?く~ん。ごめん君の名前間違えてたみた」

「間違えてないです。グランド・グランドです……」

「巫山戯るのは大概にしなさい! そんな巫山戯た名前な訳ないだろう!」


巫山戯てねーっての、俺のフルネームがこれなんだよ! なんて、何度叫び倒した事やら……。

しかも、貴族は原則、名前は変えられない事になっているし

【※この世界は原則名前を変更出来ません。親が巫山戯て馬鹿っていう名前にしよう! というくらいに、ぶっとんだ名前でない限り、認められません】

けど、こんな親だからこそ俺は誓った。

「俺は絶対に、子供にちゃんとした普通の名前を付ける」




 
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