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誓いの再会

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 宗教国家ヘレ・ケッテ・カルゲンは、長い歴史の中で由緒正しい法王の血縁を捨て【何でもできるスキル】に目が眩んだ上の元達が、市民に命令をして信じていた神を無理矢理変えた挙げ句に、口調こそアレだが心優しく優秀な元法王を暗殺したことによる不信感で、国は文字通りに滅茶苦茶。架空の罪人を作り上げ【4条聖伐命令】なんてものを発令して国民の不満を極力漏れないように制限したけれど、不満はさらに積みに積み上がり。

 教皇とあの変態に不満を持つ者の一人のオレオレさんは、それを利用し私達を罪人として捕らえ、主神の地位と陶酔している元法王のスケイスを国のトップにもう一度帰り咲かせて、国を元通りにしようとした。同士を集め、独断で私を殺そうとした。けれど思ったより強く返り討ちにあってしまったが、どうせ欲に目に眩んだ教皇と信用ならない変態に、使い倒されて死ぬだろうと、ほくそ笑んでいたんだけど。

【では、天使様のお役に立つためにリチェルリットに戻ります。さようなら】

 最初から最後まで私の有利になるように立ち回ってから、意気揚々と全ての地位を捨て置いてリチェルリットに帰ったらしい。そりゃ、もう素晴らしいくらいに私に有利な環境を整え、大聖堂の豪華な客間に三人泊まれるようにしてくれた……しゅごい。しかも、警戒心が強いグラスのためにファミリー向け四人用の客間にする気遣いもしてくれてる。

 そんな中で久々の平穏の中まったり三人で話してます。

「ある意味アイツの望み通りに国が滅茶苦茶になって壊れたのぅ……。ほんま主はん良い意味で破壊神やな。よっ破壊神」

「五月蠅い、好きで行く国が破壊されてるんじゃないやい! そいえばアイツって?」

「お二人さんは多分あったことある奴や」

「セシル様ですか?」

 会ったことあるで、スケイスはすぐに答えをはじき出したらしい。スケイスが未だに保ってる人間の形で頷く。頷くだけでもチャカ持って脅して来そうな迫力凄い顔だな。そんな風に思って居ると(顔にでてまっせ)と言いたげに目が合ったから慌てて目を逸らした。

「セシルってあの茶髪のふわふわ系の人だよね? 優しそうだけどなんか後ろに寒いもの背負ってそうな」

「ええ、善人と温厚で有名な人物です。信仰心もさながらにしっかりと物事を見据える方です。寒いもの……は、私の方には心当たりはございません」

 それを聞いて、スケイスが膝を叩いて笑い転げ始めた。私もグラスもぽかーんとして見て居ると笑いすぎて涙目のスケイスが、喉をひくつかせながら必死に言葉を紡いだ。

「アレが善人、アレが温厚、信仰心!? ぶひゃひゃひゃひゃ、腹痛い、あ、も、こりゃ死ぬわうっへっへっへ。ヒー優しいぃ? や、さ、し、い? あーっはっはっはっは。もうダメや俺笑い死ぬ」

 一人称がわてから俺にかわるほどに面白いらしい。今にぽかーんと見て居ると私達の居る客間からノックが響いた。笑い転げるスケイスを置いて私はソファーから飛び降りるようにして扉に向かった。お行儀が悪いとグラスに小言一刺し貰ったけれど無視してあけると……噂をすればなんとやら。

「あ、おーセシル! メガネがモノクルに変わった~」

「こんにちは、お久しぶりです。カリスティアちゃ、さん。グラスさん。お邪魔しても宜しいですか」

「お久しぶりです。セシル様どうぞこちらへ」

 ちゃんのままでも全然いいよーっとセシルさんの腕を引っ張ってイスのあるところに案内した。笑い転げていたスケイスがご本人居る中でまだ笑っているのに、ある意味凄いなと関心したけれど……スケイスがソファーに寝っ転がって陣取って笑っていたので、グラスが立って譲ろうとした。

「あぁ、お気遣い不要です。グラスさん、【こ れ】をどかせば良いだけですので」

「イッターァァァァ!!!」

 セシルが容赦なく寝っ転がっているスケイスを足で床に落とすと、スケイスを踏んでソファーに座った。踏んで座るのには飽き足らず。ゲシゲシをスケイスを踏み始めた。

「僕は優しいですよ。お前以外の人間ならな。お分かりになりましたらとっとと立ち上がってください、床に居られては座り難いので、あと笑いすぎて胃が痛いのでしたらそのままお休み頂けるように、本当の意味で腹痛にして寝かしてやろうか」

「お前やなくて今はスケイスです。ナイスミドルガイコツスケルトンのスケイスですぅ~。ホンマにもう相変わらず性根最悪やな。ホンマ二重の意味で腹痛いわぁ~」

 中々楽しそうに二人で会話をし始めたので、よくわからないままに私とグラスも互いで会話をしたりして好き勝手話し始めた。中々にわちゃわちゃした雰囲気が懐かしくなって、必要以上に私もグラスもリラックスしてしまったのか。

「カリスティア」

ぱく

「カリスティア」

ぱくっ!

 あの肉詰め込み事件で抵抗すると余計口に詰め込まれることを学習した私は、グラスが備え付けのお菓子の包みを開いて口に持って来たら迷わずに口を開けて食べるようになった。私のダイエットは結局果たせないままだけど、いつかグラスが餌付けに飽きたときにやってやろうと、虎視眈々とグラスが飽きるときをずーっと待ちながら、グラスの差し出される物を食べ続けている。

「カリスティア、少しだけ下さい」

ぱくっパリ

「うん」

 客人用のお菓子の一つの中に、薄いパリパリの生地と中にチョコレートが入っている少し長い棒のお菓子を、半分だけ食べると、残った分はグラスの口へ。何食わぬ顔で食べると一度頷いて「これは美味しいです」と言って再度グラスが私の餌付けしようと、備え付けの菓子を物色し始めた頃にセシルさんの笑い声が上がった。

「ふふふふ、本当に昔から仲が宜しいのですね。見ててほっこり致します」

「せやろ?」

「え、あ、うー……」

 本当に微笑ましそうに笑う大人二人の視線に私はわかりやすく顔に熱が溜まる。幼少期から一緒にグラスといるから間接キスとか気にしてなかったけど、改めて第三者から言われると恥ずかしくなる。顔を真っ赤にして金魚のように口をパクパクしていると、言われて居たのに涼しい顔でお菓子を物色し終わったグラスが「自慢の婚約者です」と自信満々に言い切ったから、私は身体の力がぬけてへちょ~とソファーの背もたれに身体を投げ出した。

「じ、じ自慢の婚約者です」

 グラスにだけ涼しい顔させないと、同じ言葉を言い返したけど、グラスは嬉しそうに頬に薄紅を引いてクスリと笑い、大人二人は微笑ましそうに私を見る。余計恥ずかしくなって、顔を両手に包んだままにグラスの膝に頭を乗せて硬直したように固まった。大人二人と、いやグラスも一応成人してるから大人三人微笑ましそうに固まって居る私を見て笑っている。とうとう、私の気分はいじけ始めた頃にグラスが膝にのる私の頭を撫でてくる。

 撫でるのに慣れた大きくて冷たい手は、いじけて顔を隠す私の固まった身体をほぐしてくれる。やがて心地よくなってうとうとし始めて、段々と三人の会話が耳から遠くなってきた。



「にしても、なんでお前こんな所おんねん」

「この国の終わりを見に来たんです。こんな面白いこと見逃せるわけないだろ。無様でとても面白い。宝石に群がる汚泥が干からびて朽ちる様を想像するだけで、僕は楽しい」

「なるほど、やはりそちらが素でしたか」

 遠くなりながらもなんとか意識を保って話しを聞くと、やっぱり些か砕けた、てか物騒なセシルのほうが素みたいだ。私が心地良い優しさと場所と速度で頭を撫でてくれるグラスに、意識を持ってかれないように踏ん張りながら話しを聞くと中々物騒な会話が繰り広げられていた。

「ええ、そして。僕もコイツも条件次第ではカリスティアちゃん、彼女を殺すつもりでした」

「でした、ですか」

「おん、わての予知で、主はんは力に溺れれば、ディザちゅー悪魔よりも手がつけられん最悪の厄災となり。力に溺れぬまま居れば、逆に救いの光となるちゅー予言や。なんやかんや、国が壊れた方がアダムスもこの国も、優秀なのが出て良くなりそうになっとるやろ? 法王にならへんが、わて指名の公認跡継ぎがおるからの」

「女性聖騎士かつ今になって餞別思想の異常性を唱えて人望を集めているジャンヌ様ですね。お二人と面識がある方だと聞いております」

 たしかそうだったね。スケイスがこの世界の病院かなんかで読み聞かせしているうちに、差別をなくそうという志の子供が成長して、負けない優秀な子になってスケイスはそのこに任せるとかなんとか。その話しをうとうとと聞いていていると、またいつの間にか次の話題へ。

「そうそう、王妃様が帰って来たんですよ。僕が出発してすぐなので詳細は報告で聞く簡易なものですが。絵本の悪魔としての存在に傷がついてしまったみたいですよ」

「それはそれは」

 グラスが私の頭を撫でる手が止る。すぅ……と寝たふりが困難なほどに張り詰めた冷気で身体が震えそうになる。けど発する言葉はとても楽しそうで。


「殺しやすい」


 とても冷たかった。


「グラスはん冷気引っ込めなはれ、主はん寒くて震えとるで」

 スケイスの言葉でパタリと冷気が止んで、震えそうというか震えていた身体から力がくたりと抜けた。力が抜けたことがよかったのか、意識があるのはバレないまま。グラスは一旦私の頭から手を離した。布の擦れる音と共に横たわる私の身体に何か掛けられた。スッキリとした香の葉の匂いが私を包んだ。グラスのいつものローブは長いから座りながら脱ぐことはできないから、別のものだと思う。目を開けて確認してみたいけれど我慢。

「中々表情豊かになられて、昔の顔を知る僕も感慨深いものです。グラスさんもカリスティアちゃんも。猫を被っていた僕「猫かぶりの自覚あったんやな」黙りなさい。こほん……。猫を被って皆様を騙していた僕でも、情と恩義という物はあります。ご協力致しますよ、お二人に」

 目を瞑っていてわからなかったけれど、言葉だけでも威圧が凄い。声音は優しいのに纏う雰囲気は目を瞑っていても柔らかく感じるのに。首に刃物を向けられているような鋭い殺気。私の頭を撫でていたグラスの手が止った。一体どんな顔だろうと気になるけど。

「んな性悪顔しなや」

「性悪というよりも、快楽殺人に近いお顔をなされていますね」

「グラスさん、結構言いますね。この隣の馬鹿が悪い影響を与えてしまったのなら申し訳ございません」

 うん、辞めよう。この雰囲気を壊すのは気が引ける。殺気の飛び交うけどグラスも楽しそうだし。そのまま寝ちゃおう。そのままグラスのお腹の方へ寝返りをうって深く息をする。グラスがまた私の頭に乗せ撫で始めた。今度は抗わずにちゃんと、私は夢の世界に飛び立った。












「カロネちゃんのママっと言うより。自然の意思さんでいいのかな」



「……ええ」




 本当の夢の世界にたどり着いた。







 

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