転生幼女具現化スキルでハードな異世界生活

高梨

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私は生きていく

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 何時終わるかわからない平穏くらい、楽しんでも……バチは当たらないよね。




 真夏から少し歩くとすぐに冬のような気候へ……いったいどんな理屈でこうなっているのやら、そんなことを考えてもわからないし、説明された所でうまく理解できるかと言うと自信はない。けれど、気候がデタラメだからこそのこの景色、グラスと私が居るところは春で、その周りは冬で雪が降っていて、暖かい気温のまま雪の景色を楽しめる……そんな景色。私が具現化で出したシートに、グラスと二人で身を寄せ合うように座る。お互いに手を繋いだまま……言葉はない。互いの手から伝わる温もりを感じて景色を見るだけの慎ましいデート……言葉的には忍んでない逢い引きという方が似合うのだろうか。


 チラリとグラスの横顔を盗み見てみる。無表情、けれど、私にはわかる僅かな『嬉』の含まれた優しい澄み渡るような青色の目。その目線の先を見てみると、白くてふわふわとした蝶の羽の生えたウサギの親子が子と戯れていた。お母さんが遊びに付き合っているのか、子供がぴょんと飛ぶ度に羽で飛び上がり、ギリギリ捕まらないように避けてはそれを繰り返していた。他にもハラリと舞い落ちる木になる雪の花弁が舞い上がるところ、現実に居れば未確認生物で有名になってそうなゴリラっぽい草食魔物など……。いろいろな景色を手と手で繋がりながら楽しんだ。

(一緒に居るだけで……これだけ嬉しい人に出会えた。嬉しくて、感謝しか出てこないや……。こんな死人に、ありがとう。ほんとうに……)



 ありがとう。



 そう思うと段々と涙腺が緩くなってくるような気がした。あぁ、ダメだ、ダメだ、ダメ、ダメ、と思って居るほどにポトリと涙が流れる。嬉しくて泣くなんて、感謝して泣くなんて、この世界に来てから初めて出来た。どれもこれも、歯を食いしばって泣いてきて、泣けど喚けど……国も福祉も先生にも助けて貰えずにつまらない大人になった挙げ句に、死んだ私が……こんな幸せで良いのだろうか。

 確かに、この世界の親にも望まれてないらしい。私のこのスキルは危険らしい。私は……ディザという悪魔を倒す為に呼ばれたらしい。いざという時は覚悟して、自分の命の為に殺さないといけない時はある。魔物は居るし、盗賊もそこら辺に居る。偶々なだけで、ここから遠い所は普通に戦争が勃発して飢饉もある。

 前の世界より死が身近だ。生きる為だけならば前の世界の方が素晴らしい所が多いだろう……。けど、私は前の世界よりもこの世界が好きだ……大好き。生きたいと思えた、死にたくないと思えた。ずっと、ずっと、どこかで死んだ身なのだからという思いに甘えて、がむしゃらかつ一心不乱に走ってきた。

【「カリスティアはカリスティアです」】

 不意に思い出した言葉にさらに涙腺を刺激される。鼻の奥がツンとして油断すると嗚咽が漏れそうだ。マセガキなんて言ったけど撤回しよう。だってああされなかったら、多分あそこで泣いていたはずだ。本当に、グラスは私の扱い方を心得ていらっしゃる……。思い出しただけでこれだけ、嬉しくて涙が零れるのだから、ちゃんと冷静な頭で言われたらあの場で泣きそうになるのを堪えないといけなかった。


本当に……ありがとう。改めて私はこの世界で生きたい。カリスティアとしてこの世界で生きたい。


 そう強く思った瞬間に、ひび割れた堰が崩壊するようにさらにボタボタと涙が流れ出した。僅かな希望でバレずに涙が落ち着けば良いな……なんて思って居たけれど、それは叶わないらしい。春の気候で雪を眺めることに楽しんでいるグラスの手を強く握ってしまった。こんなことすれば、バレるのは知っているのに。

「カリスティア?」

 ホラ見たことか、案の定グラスは景色から目を離して、涙で頬も顎もべしゃべしゃになった私を見てすぐに反応した。手を繋いだまま私に向かい合うようにグラスは移動した。優しく気遣うような優しい澄んだ目が合せられ、空いた方の右手が私の頬に添えられる。

「カリスティア」

 優しく受け入れるように名前を呼ばれる。目の前に居るグラスは本当に綺麗で、かっこよくて、気高くて、いつの間にか、男の大人の顔だった。美少女のようだったグラス、今も中性的でとても美しい、白銀の髪もいつの間にか長くなってて、左肩に流すように縛られている。時の流れを感じて余計にダバダバと涙が流れる。

「ありがとう、一緒にずっと一緒に居てくれて。ありがとう、ずっと心強かった……。私みたいな死人に、あり、がとう。本当は、グラスに私みたいな死人に貴重な人生を使わせるのが忍びなかったけど、グラスなら……グラスは、私みたいな死人でも受け入れくれるんじゃないかって、離れたくなくて。でも、異世界の人間ってことを伝えたら……頭のおかしい人間って思われるのが、大好きだから、愛してるから嫌われるのが怖くて、でも離れたくなくて、黙ってて御免なさい。私は私だって言って受け入れてくれて、ありがとう。


 この世界で生きようと思えたのはグラスのお陰です。ありがとうございますッッ!!! ありがとう」


 目の前のグラスは嬉しそうに笑いながら、あやすように私を抱きしめる。顔はぬれべちょなにの気にする様子なんてない。春の温暖な気候には心地良い冷たくて、冬の朝のようなスッキリとした変わらない冷気が身を包んで心地良い。背中を撫でる手は大きくて男らしく若干骨張っていて、胸は堅い筋肉がほどよく付いていて、冷たい体温だけは相変わらずで。

「私も」

 ぽつりとグラスは呟いた……。

「私も、カリスティアに何度も助けられました。貴方が見ててくださったから、私はこうして此処に居ます。この姿を肯定してくださったこと、私を止めてくださったこと、王子に疲れ果てた私に普通に接してくださったこと。カリスティアがこうして、生きて此処に居てくださったから私が居るのです。私を、認めてくださってありがとうございます。見てください」

 見てくださいと言うと、グラスの身体が離れ、空いた右手から私の左手を掴みグラスの頬へ、私の手を持って重ねられるグラスの大きな手も、透き通るような白い肌も相変わらず冷たかった。見てくださいと言われたから、私の手を当てられている顔を見ると、雪解けの春が訪れるようにふわりと先ほどよりもさらに優しく微笑んでいた。

「カリスティアが生きて居てくださったから、こうして笑えるようになりました。仲間と呼べる者もできました。生きていてありがとうございます。異世界の話しは……驚きはするでしょうが、おかしいと嫌いになったりしませんよ。私を笑顔にして生かしてくださるのは、此処に居るカリスティアです。この冷たい肌に触れて、懐かしみ愛しむように笑うカリスティアです。ちゃんと、生きて此処に居ます。一緒に生きましょう……生きて行きましょう」

 泣いているのに笑っているのか私は、嗚咽が自身の頭を揺らしてくる中でそう思った。もう未練はない、私は生きてる。この世界が死後の夢と恐れる自分は捨てる。生きる、生きて、生きて、グラスと皆と一緒に生きて笑い合いたい。産まれが愛がなくとも、策略で利用する道具だとしても、死にたくない理由を友達の為とか、私が死んでもグラスの居る世界だからとか、グラスの為だとか……言い訳はしない。



私がこの世界で生きて居たいから、生きる。










「ドロウ様のお陰で、多少なりとも体重は増えてくださいましたか」

 背中には荷が降りたように安らかに眠るカリスティア。鼻が詰まってスピスピと鳴らしながら寝ている。ドロウ様の作る料理のお陰で増えた体重に安心感を覚える。面倒くさいという理由で食べる量が少ないカリスティアは体重が思ったように増えず、抱き上げる度にそのまま天へと昇るのではないかと思ってしまうくらいには、重さが存在しなかった。本人には言うことはありませんが、体重が増えてくださってありがたい。

(面倒くさがりやですから、されないとは思いますが……。減量を試みようと思われたら厄介です)

 安らかに眠る彼女の方に顔を向けると、よだれを私の肩に垂らして寝こけるカリスティアの顔。綻びそうになる顔をため息で誤魔化す。何となく……まだカリスティアを背に乗せて散歩をしたい気分、ウィーン様の家から近い所を思うがままに歩き回る。

 家の周りの気候は未だに夏の気候。綺麗な羽の蝶や小さな虫の魔物、いろいろな生命が呼吸をしている。スキルと魔法と体質で夏はあまり得意ではありませんが……。

(カリスティアが居て下さるから、こんなに楽しいのですよ。私は……幸せです。ありがとう、カリスティア、ありがとう……ございます)

 


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