転生幼女具現化スキルでハードな異世界生活

高梨

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王妃奪還作戦【2】

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「傷心魔術についての書物を案内してください。さすれば、命はとりません」

「は、い、いあ、いや、はい、こちらで、す」

 カリスティアの魔具もあり、すぐに手錠を外して、知識と経験によるカンで、腐っても知識の国のアダムスの王族図書の禁句域へと侵入することに成功した。みるからにそれなりの地位を持つ司書の女を生け捕りに脅して念願の目的の書物へと案内させている途中だ。王妃の奪還はカリスティア、スケイス様、ウィーン様の三人のうち誰かが成し遂げるでしょう。この三人が苦戦しているようならば向かえば良い。今は……情報が優先だ。

 怯える司書の後ろを監視するようについて行く、腕も足も細いし、顔もこけて居て、抵抗力もないのか時折零れる咳……アダムスという国は落ちるところまで落ちた結果だろう。病を患って居る中で禁句域の埃は喉に負担がかかるようで、何度も何度も女は咳をする。

(従順にこちらの要求を叶えるのでしたら、水の一つでも差し上げましょうか)

 敵の人間ということもあり、手厚く情けを掛けることはできない、水が妥当だろう。薄暗くなってきた禁句域をふらつきながらも歩く女に心の中で謝罪と感謝を述べて、ついて行く。この状態では水も飲めていないだろう、フラフラ、フラフラと女の身体を右へ左へと大きく揺れる。

「着きました。禁術の傷心魔術の記載は上1段目右2番目と、禁術のかい……じょ、ごっほげっほ、の方法は上三段目右4番目に持ち出されていなければ……あり、ます」

「ありがとうございます。氷で申し訳ございませんが貴重な水分です」

 小さな氷を作って女に手渡して、確かに傷心魔術や禁術に関する書物であることを確認をしてその場を後にした。後ろから細々とした「ありがとうございます」という声に、心の中で感謝をしながらも振り向かずに前に進む。これで、カリスティアの代償の治療法が僅かだが掴めた。心を浮かせるにはまだ速い、喜ぶことは現時点ではできないが、長年の一つの目標が叶った。

 次は……人身売買組織へ情報を持ち帰らねば。カリスティアの出生には……その組織が必ず絡んでいる。

(カリスティアは……自身の出生など知りたく無いでしょうが)

 カリスティアの家族の事は今まで一度も聞いたことはない。

【「居たけど違うの、墓の前で恨み言を吐くくらいなら、生きてるうちに言っときゃよかったって思ってるだけ」】

 実は、当時の私はその言葉が、カリスティアから出た中で一番嫌いだった。今は彼女の言いたいことも、どうしてそう思ったのかも察しが付く。ただ、母の墓の残骸を積み上げて泣いていた当時の私には少し痛い言葉だった。だから、当時の私はカリスティアの諦めたような目に何も言わずに、【触らない方がよい話題】として何もすることはなかった。

「生きているうち……か。今も昔も貴女らしい」

 普段のおちゃらけた様子から想像も付かない一言は、確かな重みを感じさせるもの。墓は墓……何も言わない、何も感じない……やり残した生者が自分を慰めるところ。

 禁句域を出て、気配を消して通りすがるガリガリの兵士を拳で気絶させる。目指すはアダムスの貴族、適当な貴族を捕らえて情報を吐かせる為に、あたりを早足で駆け上がる。人身売買組織の情報を僅かでも手に入れるためだけに足を、手を、目を、魔力を、全てを動かして進む。



 カリスティアが何を思っての言葉なのか……残念ながら真意はわからない。けれど、あんな諦めた目をした彼女が……。伝えたかったこととは、言いたいこととは何だったのだろう。彼女は……私と出会う前の彼女は、一体何を見てきたのだろう。



 純粋に知りたいという想いと、カリスティアの僅かな情報の為に峰打ちで敵を仕留めて前に進む。町と城の中は頭がクラクラとしてしまうほどに、様が違う。町はあれだけ死んでしまって居るのに、城の貴族達の通る場所は、ふんだんに贅沢で舗装されていた。貴族や重役以外は女も男も限界まで痩せ細りそれでも身体に鞭を打って国の為に動いて居るというのに……なんたる様だろう。高級な装飾の施された廊下を一歩進む度に、不快感が足先から這い登ってくるような感覚がする。早足で城住まいの貴族達が居る場所までたどり着き、人の気配があるドアを魔法で打ち破る。

「無礼者!!! ここはどこか知っての狼藉か!!!」

「大変申し訳ありませんが……御託を聞いている暇はないのですよ。情報を喋るか、此処で死ぬか二者択一……どちらをお選びいただけるでしょうか?」

「戯けた事を」

 肥えた貴族が言い終わる前にお付きの兵士を素手で無力化して貴族の前に立つ。急に萎んだ威勢にどこか父の面影がちらついて不快感が増したが、今はそれどころではないのでそのまま男の頭部を掴みあげて魔力を込める。

「もう一度言います。御託を聞いている暇はこちらにはございません。私の知りたい情報を速やかに吐けば命まではとりません」

「しゃべり、ましゅ、たすげでぐだざい!」

 助けてくださいと言いながら、魔力を込めて私の身体に手を当てて火の魔法を放った。頭を掴んでいる手から男が下品に笑う感覚がしたが、すぐにそれは恐怖に歪んだ。男がバタバタと鼻をすすって汚らしい涙とよだれをまき散らしながら助けを乞う。私はそれを目を細めて睨んだ。

 あぁ……なんと醜い。この程度の魔法を使って殺せる気で居た考えなしには理解が出来ないでしょう。至近距離で反撃される警戒心もなく掴みかかる愚か者が……居るわけないでしょう。アダムスに入ってから私はずっと魔法障壁を張り続けている……。たとえ、愚者であれ警戒を解く気はない。此処は……戦場なのだから。

「三度目はありません。人身売買組織についての情報を余すことなく話しなさい。死にたくなければ」

「しゃべりば、しゃべりば!!!」

 
 男の貴族から得た情報では、地下に人身売買組織関連の研究所と構えていると、男の真偽を確かめる術はないので口を凍らせてから、人質として城の三階から1階へとまた下ることとなった。城の大きさであれば国一番と聞くだけあって、カリスティア、ウィーン様、ドロウ様、スケイス様にすれ違うどころか……魔力感知さえもできないほどに念入りに互いを離されるのは多少想定外だった。心配になるけれど、互いを信じて進まねばならない。私は……この王妃奪還を達成した後の為に動かなければ。

「ここで間違いはありませんね?」

「ンーンーンッッ!!!」

「結構、では試しに、失礼します」

 嘯かれたさいの対処の為に、男が頷いたドアを開けてすぐに男を投げ捨てた。投げ捨てた先に顔を真っ青にして私を見る研究者と思わしき服装と、道具を持った物達が居た。どうやら男の言うことは真実らしい。部屋のドアを凍らせて研究員一同逃げれないように工作してから、それぞれの護衛や戦える者を制圧した。し終えたら研究者の中でも召し物が上質な男に目を付けて歩み寄る。

「人身売買組織に関わりのある研究員でお間違えはありませんか」

「はい、そうです。私が研究班の班長をやっております」

 凛とした目と、白髪混じりの黒髪と黒い目の晩年あたりの男が緊張の面持ちで私を見て居るが、礼儀を崩すことはなく私を見て居る。聡明な人間だとすぐにわかるほどに落ち着いた受け答え、期待していなかった聡明な人物に出会えた。

「このような不躾な訪問で申し訳ありませんが……、情報とあなた方の命との取引をしましょう」

「断ると言えば」

「お分かりでしょう?」

 別に貴様の口から聞かずとも、資料を漁るか他の吐き安いものを脅して拷問して吐かせることもできる。そう伝えるように笑みを浮かべて男を見やる。男の左手がわかりやすく研究服の端を握り怒りに震えている……が顔にはださずに「わかりました」っと素直に承諾した。

 やはり、聡明なようで助かりました。王妃奪還に向かうメンバーはもう相手方にはバレているのですから氷を使う時点で……私が氷帝の二つ名を持つ物だということはご存じでしょう。そして、私をうまく取り入れば研究員と自身の血縁者の死亡率が下がるのだから。

「では、一つ。強化剤とは一体なんの目的でお作りになられたのでしょうか?」

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