転生幼女具現化スキルでハードな異世界生活

高梨

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姉も姉、弟も弟

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「たーや君失敗しちゃったか……思ったよりグラス君成長してたのね」

 使役している魔物の繋がりが事切れた。プツンと幻聴が聞こえそうなほどにあっさりと、あのペルマネンテの王様経由でなんとか気づかれずに入れ込むことが出来たのに、倒されてしまっては何にもならない。疲れている今だからこそ攻撃を仕掛けて仕留めるはずが……あちらの回復が速すぎる……治癒。

「ラブちゃん、まさかこの時の為にカリスティアちゃんに無理矢理教えたのかな」

 正直、体験といっても見学と大差ないことしかしないと、私も王様も……グラス君も思っていた。率先してラブちゃんが人の為に何かするのは珍しくないし、彼女ならば優しく教えるだろうそう思って居たが……実際は自分の腕を切らせて治癒術を習得する、スパルタという言葉も素足で逃げ出す荒い方法で習得させた。

 当時は幹部の中で驚愕が走った。優しさと善意の塊であるラブマルージュがそんな無謀なことをしでかす、とは誰も思わなかった……カリスティアちゃんが治癒術をそれで覚えることよりも。どんなに覚えが悪く、どんなに反抗的な部下であっても根気よく、何年も何十年も掛けることとなっても、相手の為になるならば惜しみない労力を掛ける人物の行動とは思えぬそれは……衝撃だった。

 その後に簡易だけど医術と神聖魔法……。医術以外はグラス君の魔力では相性が悪くて習得できない魔法技術……今考えても見事に、支え合うことを目的だと思えないような習得内容。一体いつの先まで未来を見て居るのか……本当に神は善に微笑むのか、わたしにはわからない。

『「んふふ、させないわぁ」』

 悪魔の女が火炎を散らして戦っている光景を見据えていたら、ふと、友達の不敵な一言が頭をよぎった。その声をかき消すように「失敗しちゃった」と楽しげに呟いてみた。顔にかかる火の粉をゆっくりと顔をふって振り払いながら笑う。

 私自身は、ディザにカリスティアちゃんの捕縛……無理そうならば殺害せよとの命令を受けた……アダムスと戦争をする前に帰れとも言われたわ。この任務の真意は聞きだそうとしても教えてくれなかった。私は哀の感情を会う前に飲み干して自分に宿してラブちゃんに鎌を掛けてみたら案の定

『「ええ、そうなるわね。カリスティアちゃんが戻ってくる頃には……この国の秘密が明かされる、そうしたら、この国の基盤は揺るぐからよ」』

 哀と焦りの感情を飲み干した私は国の基盤をディザのことだと思ったけど違う。ディザ以外のなにかがアダムスに在る、それがなんなのかが知りたい。わざわざ感情を取り込むことで自身の思考と考えを偽って手に入れた……のか手に持たせてくれたのかはわからないけれど、その情報。

(幹部の私に詳細を教えないでここまでやらせるんだから……。敵にも味方にも知られたくない何かがあるのは確かね、国の基盤……王が揺るぐ? それとも……、そもそもなんで私なの)

 私がリチェルリットに居て不都合なこと……まさか。

「私がこうしている間に天使族の避難受け入れを……もしかして」

 宗教国家に手のひら返しで攻撃されて満身創痍状態の天使族の避難受け入れを進めて整備して通しているのは私だけど、整備を進めるにつれてディザが私に対して余りいい顔をしなくなった、悪魔だからと思って気にしないようにはしていたけれど……。

 国の存続が一番の存在意義として在るディザが私情でやることはないとは思うけれど……。国の存続に繋がる事ならば虐殺だろうがなんでもやる悪魔だ。今天使族の受け入れ拒否をすれば、初代国王が望んだことに反することになるからやらない、はず。

「後ろがお留守なんじゃないかしら? 小娘風情が」

「後ろじゃなくて、堂々と正面で捕まれてるんだけど……見つかっちゃった」

 声が聞こえる頃には結界を突き破って私の肩を両手で掴みあげて笑う女悪魔……たしか、ウィーンという悪魔だったはず、以外と退けるのが速いけれど、殺気の割には身体がボロボロかつ、左足は焼けて血まみれになっている。明らかな重傷、普通にやり合ったら私が勝つのは見えているが、油断はできない。お互いに笑いながら目線を合わせる。私は嬉の表情を纏った笑みを、相手は怒りを纏った笑みを合せる。

「小娘は小娘らしく着飾って御髪を整えて寝なさい。いいわね」

「あれ、逃がしてくれるのかな?」

「愛しい、愛しい、いとしい、い と し い、我が子が悲しむから逃がしてあげる。腹に刃物を詰め込むのも、腸を引き釣り出して生きたまま自分の腸を躍り食いさせるのも、何十年かけて少しずつ絞め殺す拷問も……我が子の為に目を瞑りましょう。だから小娘、服選びを手伝いなさい」

「は?」

「ありがとう! カリスティアちゃんに服とかプレゼントしても喜んでくれるけど着てくれないから、私の服のセンス、もしかしたら一昔前の感性になってるのかって不安で、若い子に選んで貰ったら間違いないわよね」

「え、あの、ちょっと、え???」

 流れるように私を置いてけぼりに話が進んでゆくけど、服選びがなに? 若い子? 先ほどまで殺そうとした人にそんなこと頼む!?

 空いた口が塞がらないとはこういうことだろう。目が自然と見開き、嬉しそうにバサバサと羽ばたき豊満な胸を揺らして少女のように驚く……見た目は包容力のある熟れた魅力の女性だが……、悪魔とは接する機会は比較的あるほうのあたしでさえ、この考えの飛躍の仕方にはついて行けない。某爆発好き錬金術師が頭に躍り出てくるような話しの飛躍のしかたに、私の尻尾が自然とへにゃりと垂れてくる。

「さぁ、行きましょ!」

「うん、勝手にして」

 私は考えるのを止めた。喜色のオーラをこれだけ全面に出されて断れる訳がないし。正直、私の天使族受け入れがディザの手によって無にされていないかが心配で戦闘ところじゃないし。

「一緒に選びましょうね!」

 喜色のオーラを纏いながらも刺すようなこの殺気を目の前に下手なことをしてはいけないと私の本能が鳴らしている。魔力操作で生きている大事な魔物をリチェルリットに遠隔で送還しながら、木から降ろされる。羽があると便利だなと思う反面、日々の手入れが大変そうとツヤツヤしている黒い羽を見て思った。

(個人が行き過ぎたタイプの悪魔の場合は意見せずに満足するまでついていこ……どうせ、あたしの天使受け入れの書類に細工してるだろうし。してなかったら全力で謝ろう)







「わざわざ、通信せんでも予知でグラスはんが、ばったんきゅーなのはわかっとるって。当初の予定通り、結局アダムスに入れるのは一ヶ月後やから、一ヶ月経ってから魔王城くるもええ、城で一ヶ月過ごすのもええ、好きにしぃーな。安全ちゅーったら魔王城があんぜ……あー……魔王の逆鱗にふれな、一番安全や。そうや、あのボケ悪魔女がそっちに向かったんやけど、着いたー?」

『まだ来てないよー。私的には暫くウィーンママの家に居たいな、色々やりたいことあるし』

「これがあね様のお子様二人なのですね! 弟のベルと申します。この歳で叔父さんに慣れるとは嬉しいなぁ……」

 妄想に浸るところほんま姉そっっっっくりやな。わての部屋だっちゅーに気配無くいつの間にか入ってきた挙げ句の果てには、話しに乱入してきて、わての隣で二人見て色気の在る顔でヨダレをたらして目をとろつかせんなや気色悪い。
 このナイスなガイコツフェイスからでもありありと嫌々オーラが滲んでることだろう。水晶の向こうのグラスなんてこんな魔王の危ない顔面を見て、目にも留まらぬ速さで主はんの目を左手で隠すのが横目に見えた。そりゃそうだろう、色欲とだけあって、身ぐるみ透け透けで香りもあからさまにさっきまでお楽しみちゅーでしたってのがわかるくらいにプンプン臭いが隣に居て漂ってくる。

『カリスティアと言います宜しくお願いします。 グラス、見えない!!!』

『グラスと申します、宜しくお願いします。こちらも多忙でして、そろそろ失礼させて頂きます』

「おー、またのー」

 グラスはんが魔王の姿の教育の悪さに瞬時に話しを切り上げて通信を切る判断に心の中で賞賛を送る。ほんまに主はんの教育に悪いから、主はんが一ヶ月城にくることはなさそうだ。グラスはんガードで止められるところが目に浮かぶわ。

 肉があったら顔は苦笑いの表情を作ってるだろう。水晶を見て「あ……まだお話したいことが……」っと尻尾を垂らしている魔王にため息をつきたくなる。仕事はどうした仕事は? っと言いたくなるところだがグッと堪えて魔王を丁重に言いくるめて部屋から出てって貰った。出た瞬間に急いでお清めの香を炊いて臭いを消した。

「えーっとこの後に、たしかアダムスの連中が魔王城に来る予知があるから、そいつらから別ルートの侵入経路根掘り葉掘り聞くとして……来るまで寝ますかのー」


 

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