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大規模炎熱魔法

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 スケイスの静止の声も聞かずに私は炎が巻き上がる中にこの身を滑り込むように突っ込むけれど、流石に熱くて顔が少し歪んでしまう。水の魔法を使えば多少なりともマシになるだろうけど、消化活動をすれば、不自然に炎が弱まった所から怪しまれて、火属性の合同魔法をまた撃たれかねない。

 こんな町を崩す大規模火炎魔法ならば、ペルマネンテ兵士の侵入はまだ先だ。そう踏んで炎で取り残された人を探して救援することを行動指針に、行動する。

【カリスティア聞こえますか?】

「聞こえるよ」

 魔法通信水晶での念話のおかげで燃えさかる火の中でもはっきりとグラスの声が聞こえる。そういえば二人を置いてきてしまって申し訳ないなーっと思いつつも、耳を傾けてグラスの次の言葉を待ちながら、炎の激しい所を選んで、逃げれない人が居ないかを確認して通り過ぎる。

【カリスティアはそのまま中央に行きことを最優先に行動してください。決して無理はしないように、ウィーン様は魔法の放たれた所に忍び込み、兵の動きを観察して貰ってます。私は精霊国に緊急通信を行ってすぐに救援活動に向かいます】

「おっけー。ありがとう」

 逃がすこと、重傷であれなんであれ、この町周辺から逃がすこと……今にも死にそうだからと治療してる暇はないってことね。中央に行くにつれて嗅ぎ慣れた死臭が鼻腔をくすぐる。耳を澄ますと炎の中から男と男の子の微弱な叫び声が聞こえる。速く行かなければと、聞こえた方向に方向転換して走しる……お願いッ!間に合え!

「馬鹿親父、俺を見捨ててとっとと逃げろよ!!」

「どこの世界に子供置いて逃げる親父がいるんだ!お前はびーびーいってねぇーで歯を食いしばれ!」

 エルフの子供は瓦礫に身体の左側を取られ地面に寝転がっていて、その父親だろう人物が必死に瓦礫を血まみれになった手で必死にどかしている。どちらも炎で満身創痍かつ重傷なのが見て取れる。父親のほうは五体は満足だけれども腹に何かが刺さって血をだらだらと垂らしている。
 ここにどれだけの爆風と火が襲ったのだろう、ギリギリと歯が音を立てて久々に感じる本当の怒りをなんとか抑えて急いで駆け寄った。

「大丈夫ですか! 冒険者です助けにきました!」

「冒険、しゃ、お願いだ息子を息子だけでもたすけ」

「落ち着いてください。すぐに助けます」

 新調した空っぽの皮ポーチから、使い捨ての転移指輪を持っていた風に取り出して二人にはめ込む、なにをしているのかがわからないと言いたげにどちらも目をパリクリさせるから、真面目にやれと怒られないように転移の魔法を組み込んだ指輪と短く説明をして魔力をこめる。

(座標……近くの村避けて通ったからどこもわかんないよぉぉぉぉ! しかたないから、あの村の病院に転移させるか【転移】)

「このご恩は忘れません」

「お姉ちゃんありが」

 最後までありがとうを聞いてあげられなくて申し訳ないけれど、気持ちはありがたく受け取りました。血だけを残して転移した所に小さく「どういたしまして」それだけ告げて、また火の中を駆ける。瓦礫をいちいち確かめる時間はないけど、助けられる可能性の人がどこにいるかも把握できないほどの炎熱の中で、見つけられた人に手短に説明だけして、転移を施す。

「助けてくれ……足が」

「おじいちゃん!しっかり助けがきましたよ」

「妹が……店の中に!」

「誰か! 何人か埋まってんだ瓦礫どかすの女男だれでもいい! 誰か!手伝ってくれッ!!!」

 瓦礫に埋まれかけのもの、助け出される途中なもの、すでに息絶えたもの、様々な理由を背負った血だまりがそこらかしこに点在している。いつ第二波の魔法が放たれるか、それとも兵士が流れ込んでくるかわからないギリギリの状況で、今度は泣いている女の子が……息絶えたであろう母を抱いて泣いている。

ーー

 ついさっきまで、お母さんと一緒にパンを焼いて今日もお父さんとお兄ちゃんが帰ってきたら一緒にパンを食べよう。今日はそうして私とお母さんが焼いたパンを皆で夜一緒に食べて笑い合う……。何気ないそんな日常を遅れるはずだった。 

「ぁさん……さん……おがぁ……ん」

 何度揺さぶっても母の返事はない、エルフにとって誇りである母の気高い耳は折れてそこから血が地面を濡らしている。なんど、何度、揺さぶっても母は、お母さんは目を開けることはない。諦めたくない、お母さんはまだ助かる。そう信じて瓦礫から這い上がってきた。

 誰か助けて、そう願ってあたりを見回すと、煤で体中汚れててもこちらに向かって走ってくる女の人がこちらに向かっていた。お母さんを助けて、助けてください。もう、炎の熱で焼けた喉からは空気と苦しみしかでないけれど、こちらに向かってくる、炎にもかき消されない漆黒の髪を振り乱す女の人に向かって手を伸ばす。
 
た す け て

ーー


泣いているだろう女の子が運良く道の中央にいたおかげで遠くから発見できた。さて、速く助けないと! そうやって足に力を込めたが。

【カリスティアちゃん! グラス君! 大規模炎熱魔法フレアレンスがくるから避難して!!!】

「うッ」

 念話に返事する間もなく魔力の重さが身体に降りかかる。ヤバい……! 一分もないうちに来る。一か八か目の前に居る少女に向けて、力一杯魔力を込めた使い捨て転移指輪を投げる。

「ゴメン、目の前の女の子助けなきゃ!!!」

 投げた指輪が女の子に触れた瞬間に転移を遠隔で開始する、いつの間にか手を伸ばしていた女の子の手のひらに指輪が当たる寸前で【転移】をおこなうと、なんとか女の子と……手遅れであろう母親が転移されていったのだけれど……。

「うわぁ……。こりゃ本当に死ぬかも」

 すでに魔力の塊は打ち出されていたようで、今にも爆発寸前の業火が太陽のようにゆっくり、それでいて確実に自分の居るところへと振ってくる。昼間と見違えるくらいに赤く町は照らされ、目の水分さえも蒸発しそうなほどの熱に目を瞑る。

 一か八か使い捨て転移をどうにか作ろうにも、肌が焼ける痛みでどうにも魔力を練る速度が遅くなる。熱い、痛い、呼吸すらも熱くて止めてしまいそうなほどの熱。間に合わないことを覚悟しつつも魔力を練り続ける。


「毎回……貴女は」

 急に呼吸が軽くなったと思って薄目でこんな時だからこそ来て欲しくない人の声が下方向を見ると、私を庇うように前に立ちこちらを見て柔らかく笑うグラスが……。【無色呪氷の杖】を携えあの……先ほどとは比べものにならない大きな、大きな太陽の如き業火に杖を向けた。


「無茶ばかりする」


 なんで此処に来たッッッ!!!

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