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カロフィーネ・リチェルリットの戦い

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 カロフィーネ・リチェルリットは、現……魔術部隊の団長の部屋の前で息を整え、扉に手を掛けてあけると魔術関係の本に四方囲まれている部屋の中に入る。開けた途端に香った古びた埃の香りが入ることでより一層強く感じる。真ん中には応対用のソファーと机があり、そこで、顔面蒼白の深く黒い隈を持つディザが足を組んで面白そうに笑ってこちらを手招きしていた。 

「やぁいらっしゃいませ、姫様。銀食器のおもてなししかできませんがどうぞお座りください」

「おもてなしは不要ですわ。魔術の毒物は銀食器程度じゃわかりませんので」

「毒なんて盛らないさ……契約があるから僕は国のメリットが無い限り国民は殺せないんだ」

 護衛の騎士は部屋の前で待機しているように命令してあるので、扉を閉めて入ったときにはこの男と自分の二人きりの空間、友人のカリスティアなら喜ぶところだが、今回……敵かも知れない奴と二人っきりなんてとても喜べたものではない、できることなら、帰りたい。けれども友人の為に帰るわけにはいかずに、小心者の癖にこの得体の知れない男の前に立っているのだ。

「ンンンー手早く言おうか、僕だよ。僕が、カリスティアちゃんとグラス君の周りの警備薄くして襲わせたの……と反オーディス=ペルマネンテ国王を掲げて革命を起こそうとする勢力に命令して、グラス君たちの居るときに反乱させたのも僕だよ」

 にへらへらとケラケラ笑いながらあっけらかんと言うディザに、カロフィーネは苛立ちを抑えて冷静に応対することを心がけて、深呼吸をして口を開いた。

「なんのために」

「国の為さ、反乱軍が勝てばグラス君を王にする手筈だったから、それでグラス君が王になればリチェルリットの敵が減る……っていっても、カリスティアちゃんに邪魔されてシナリオが大分狂ったんだけどねー。彼女が現れなければ……グラス君の好きな子は姫で、姫の好きな子はグラス君で両思いに事が運ぶはずだったのだけど………。カリスティアちゃんは予想外の塊だ」

「悪魔らしい考えですわね……人間の恋心を花合わせとしか思っていない

「うん、君のお父さんより二歳速く僕の存在に気づいてくれたね。優秀だ……」

 大事な友人二人がペルマネンテに囚われたかも知れないと聞いたときに、カロフィーネはこの日の出勤していた警備兵と休日の兵を数を調べ、勤務して警備に励んでいる兵士の数と書面の数に大幅なズレがあることが奇跡的に発見出来た。出勤しているはずの兵士にコンタクトをとり僅かな証言と証拠を頼りにディザに気がついたのだ……本当に僅かな、証拠から。初代リチェルリット王と契約を交した囚われの悪魔だろうと。

「花合わせとか、家畜ではなくて本当にこの国を愛して行動しているんだけどなー。まぁ話そうか、この国ではおなじみの絵本の話しを」

 そうやって、いつの間にか手にした建国の伝説の絵本【囚われの悪魔と女国王の契約】をペラペラと開いて一人勝手にディザは音読をした、いくつか実際に見た光景と感じたことを挟んで面白おかしく自分のことを書いた絵本を語る。


ーーー

 初代国王……といっても綺麗な女の人で気高く、全ての事象と物や現象をあるもの身近にあるとする、一つの神である宗教国家とは違う価値観を持った女王でした。その女王に一目惚れした僕はあらゆる手段を持って女王に求婚した。僕は国宝に相応しい武具や魔法具、あらゆる叡智を彼女に渡そうとした……、けれど、彼女はそれらを受け取らなかったのだ。どれだけ魅力な物を運んで、運んで、運んで、数年欠かさずに彼女を求めた。

 首を縦に振らないどころか、受け取りもしてくれなかった。僕は自分が弱小な悪魔だから振り向いてくれないと、今度は鍛錬に鍛錬を積み上げ、彼女の前で幾百の魔物をこの手で葬りさった。けれども彼女は首を縦に振らなかった。

 そうして悲しみくれた悪魔は、ある日に女王の前に身も心もボロボロの状態で現れたのです……ここからは、絵本だと、悪魔を疎ましく思った女王の兵士が悪魔を攻撃したのを庇った女王が死んだとされていますが、実際は女王を疎ましく思う他国の密偵が、女王を殺そうと襲ったのを僕が庇ったのだけど……それをゴテゴテのドレスで僕を蹴飛ばして、自分から刺されに行った。

 ナイフには毒が塗られていて、当時の人間の医学では治せないほどの毒だけれども、僕なら治せる毒と傷で治そうとすると、フラフラの身体でまた僕の身体を蹴ったんだ泣きながら彼女はこう言ったんだ。

「貴方は……なんで私を一言愛してると、好きと言ってくださらなかったのです……。物なんて要らない強さもいらない。私はその言葉だけを……」

 そのときは僕は愛を……この感情は物欲と勘違いしていたから、純粋に彼女の必死の言葉がわからなかった。わからないだけでなく、どうしてそんな記号のような物を欲しがっているのかと思って居た。

「ふはは、その言葉の意味が、真意が分からぬのならば……永遠に私は貴方の物にはなりません。治療することも……許しません」

 その言葉は無知であった私の胸を突き刺した。このままでは彼女を失ってしまう。自分の物にならないのみならず彼女の願いさえも叶えてやれない。嫌だと僕は彼女に乞うた……どうすればいいと。単純に考えれば「愛してる」と言えばいいのだろうと当時は思った。けれど、悪魔の感でそれだけでは彼女は満足してくれないと思った……だから死に際の彼女に無様に聞いたのさ……どうすれば。

「なら……契約なさい。私の言葉の真意を、求める愛を……理解するまで、身体はこの国の為に……魂は封印して……この国をこの限りなくこの国を愛する全てを受け入れるリチェルリットを存続させて民を守りなさい。そうして全て理解しましたら……私の魂を解放して、答えを聞かせなさい」

 そうして、息を引き取ったのです。死ぬ一年前に残した息子と馬の骨ともわからない夫を残して。

ーーー


「リチェルリットの為と大義名分を掲げて、カリス様を……殺すのですか?」

 会話の最初でディザは、カリスティアの存在を予想外の塊だと言った。ならば殺す方がスムーズに計画が進むのだから殺す方がこの悪魔の都合がいいだろうと、カロフィーネは震え始める右手を左手で押さえる。ディザはわしゃわしゃと、頭を掻いてから、身体を上下に大きく揺らし、前に乗り出してカロフィーネをカッと見開いた目で見つめて言う。

「殺すさー。ただね、カリスティアだけじゃない、国民も誰も何もかもリチェルリットの利益になるならば死んで貰う。カリスティアちゃんは……今のところ殺した方が……使い道がある……有益な使い道が」

 悪魔は笑う、ケラケラと契約に愛に囚われた悪魔の小さいながらも鼓膜に針をさすようなおぞましい不快感で、カロフィーネの首から下がガタガタと震え出す。脱水のように乾いた舌と吐き気を催す頭痛。そんな恐怖の中……カロフィーネは考える。友達を……友人を死なせないために。

(カリス様……この国に……この国に帰ってきてはいけません。カリス様)

「さぁー、考えてくるといい、どうやって友人を助けよう、死なせないようにするか……。何故姫にカリスティアちゃんを殺すつもりなのを話したか? 気まぐれ? 策略? そうやって疑心暗鬼になるといい。頭の運動になるからねー」


 
 

 



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