転生幼女具現化スキルでハードな異世界生活

高梨

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行動せねばいつかは消えるかもしれないものを消さぬように。

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 顔は赤い、確かに恋はしているだろう。自分を守らせろだのは嫌でも友情だけではとどまらないことは分かっていた。けれども自分はおこぼれで転生した人間だ。今は生きているとはいえ、この転生した身体はどうやって産まれたのかも、意識が戻る前にどうやって行動していたのかもわからない。本当に生きて存在しているということがわからないのだから、死人と一緒ではないか? けれど……あの瞳は、あの潤んでいても強い青い瞳はそれさえも受け入れると言っているようだった。

 誰も居ないことを良いことに、告白し終わって安堵の見えるグラスの頭を引き寄せて仕返しとばかりにキスをする。未成年だから勿論、触れるだけのキスだけれども、回答はこれで十分だろう。目を見開くグラスにしてやったりと笑ってやる。こんな自分を守ると言ってくれる人を守って死のう。折れた、負けました、無理矢理友達に当てはめて自分の心を騙してましたけど、無理でした……好きです。自分なんかにグラスの人生を使って欲しくないという思いは変わらないけれども。

「突然で驚いたけど、受けるよ……その告白……って、あ、泣かないでーグラス!!!」

「泣く? 何を……あぁ、感極まりました」

 無表情のままシトシトと涙を流す姿のなんと綺麗な……じゃなかった。見惚れる前にグラスの涙を慌てて拭く、グラスは本当に涙を流してた事に気がつかなかったようで、自身の手で頬を触った時にぬれていることに少し驚いていた。けれども、泣いているくせに、言うことが感極まりました。なのがグラスらしく自然と笑ってしまう。昨日今日といい、グラスにどういう心境変化があったのかと、泣いているのに乗じて聞いてみる。

(泣いたりなどで感情が高ぶってるときって判断力が鈍るから、そういうときに聞けば有益なのがでてこないカナー)

「……その記憶喪失は、今は貴族だけですがそのうち市民にも広がることが予想されます。もしもの条件がそろえば、誰でも手を出してしまうものです……恐らく私も……。ですから、もしもでこの思いがもし無かったことに、または貴女が私のことの記憶を忘れてしまったらと、思うと今にでも伝えたかったのです。それに……この世界の情勢が情勢ですから」

「うん、ありがとう。大事だよそれは、私は【もしも】を軽んじたせいで色々あったからなー……その年でそれを悟れるなんて優秀!」

 四歳の貴女に言われたくはないと、涙を流しながら笑うグラス。宿を取り終えたウィーンが来るまでにはグラスの涙は止まった。魔力をたどって迎えに来たウィーンは何かを察したようで、グラスとカリスティアを見ると、アラアラ、と言わんばかりに左手を頬に添えて柔らかく笑っていた。

 そうして移動した宿屋【ビェーヴァス】のお金はウィーンが予め冒険者ギルドで換金してくれて大金があるとはいえ、節約は大事なので、ウィーン、グラス、カリスティアの三人の部屋にすることをカリスティアが決めて、デブ王は五月蠅いから一人部屋ということになった。

(当たり前だけど、昼間寝たから夜寝れない)

 昼夜逆転はよろしくないけれども、寝れないまま横になっていてもしょうが無い。グラスは寝ているし、ウィーンは身体を寝かせてるだけで意識はご健在という、オカルトで流行った体外離脱のような状態? みたいな感じで寝ている間に何か言ったり、起こってもバッチリわかるそうなのだ。やっぱり、原理はちょっとわからないや。ともかく寝ていてもバッチリわかるそうなので、眠れないから軽く散歩に行く事をウィーンに伝えてから、久々に窓から飛び降りる。久々に使った風魔法を駆使して二階から着地後に、インビジブルマントを被って町の外へでる。

「具現化……具現化、具現化、具現化」

 魔族の国とあって、魔物も強くて危険なA級B級が出てくる。流石にタイマンでその群れに突っ込む勇気も無謀も持ち合わせてはないので、A級だけれども一匹で狩りを行う※トロルスカルを狙い、具現化スキルの発動速度を上げる練習の的にする。最初は石から、段々とナイフ、ダガーとランクを上げたまま素早く具現化できることだけに集中して、投げる。

※大きい黄色い肌の人型の魔物トロルが不死属性に当てられて半分骨になった魔物

「具現化、具現化、太鼓、具現化、具現化」

 腹が立ったときに嫌いな奴の顔に見立ててぶん殴ると心地の良いストレス発散になる太鼓様の事が心配だと思ったら、太鼓が具現化されて、トロルスカルの頭を当たった瞬間に吹き飛ばしてしまった。カリスティアは、下手な武器作るより太鼓ぶん投げた方が強いのでは? なんて思ったが、あまりに馬鹿らしすぎて頭の隅に追いやり別のトロルスカルで、具現化速度を上げる練習を開始した。グラスは自分を守ると修行して強くなっているから、自分はそのグラスを守るくらい強くならねば。

(同じやつならば、MP気にしなければ流れるように具現化できるようになった。やっぱり想像力と物質の理解度が物を言うスキルだな。物質の理解度が一番の難問だぁ、想像力は文字通り想像すればいいけど、それだとMPの消費が……ぐむむむ……現代武器を想像具現化スキルで具現化する日はちょっと遠いな。今回はエンチャントついた武器を即座に具現化できるようになっただけで、よしとしよう)

 スカルトロルの腰の骨は腰痛を和らげる軟膏の素材になる、腰の骨をテキパキと取ってストックへ、もう一つ問題があったな、消費を抑えるためのストックもどうにかしないと、今回の修行で主にゴブリンの素材ストックが消えてしまったので、またどっかのゴブリン集落を命ごとカツアゲしなければ、よしとした傍から色々やらないといけないことが頭に浮かぶ、汗かいた身体を洗おうと、衣服を全部ストックに入れてから、水魔法で綺麗に洗って風魔法で身体を乾かしてストックの服を出して着る。そうして一緒にだしたインビジブルマントと羽織って宿屋に戻る。

(魔法様々、これなら風呂入るよりも綺麗になって時間かからないからその分動ける……って思っちゃうところが社畜なのか?)

 あくび一つして、風魔法で飛び上がり門を越えていくつかの建物をまたいだあとに、もう一度大きくジャンプをして滑り込むように宿屋の借りている部屋の窓にダイブ。グラスは起きてない。起きてたらどこに行ってたとか言われるから、良かったと胸をほっとなで下ろす。そうしてウィーンにただいまと伝えて、自分のベットに潜りこむ。


(ん~……まぁ、国から迎えがくるまでこの国でゆっくり、カロネちゃんやリュピアちゃんのお土産買いながら修行しよ。記憶が消える事件も考えないと……いけないのに考えようとすると告白が頭に……あぁああああああぁあ!!!)

 もしもに押されて急激に物事が雪崩れ込むような告白を思い出して、寝るまで毛布の中で唸っていたカリスティアであった。


 





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