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アルハイル・リチェルリット【1】

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 一癖も二癖もあるが、初々しい未来を見るばかりの若者のお茶会を夕方まで楽しむも、王で自分の仕事はまだまだ続く。彼女たちが帰るまで横に控えていたスパーダスを席に座らせる。日々の農業で手塩に掛けて一から作ったワインを自身の部屋に備え付けたキッチンに取りに行き、ワイングラスを二つ拵えて、彼の前に出す。日がまだ静まりきらぬうちに酒とは……と自分でも思うが、我が親友ならば一杯は付き合ってくれるだろう。

「二人とも気づいてやがったぜ、俺がお前の隣に控えているのを」

「じゃろうな、スパンコールよ」

「うるせぇ俺は服の飾りになった覚えはねぇ」

 お互いに歳による口元の皺を深くして、笑い合う。これからするのは、真面目であるべき話なのだがお互いに真面目に何かをする性分ではないので、如何せん空気が軽くなってしまうのを、咳払いで空気を元に戻し話し合いを続ける。

「アルハイル、お前があのナイフを出したあたりからグラスは魔力を気づかれぬように練り上げて【転移魔法エスケプ】でカリスティアだけでも逃がすつもりで俺を睨んでたぜ。パッツン細腕元王子が俺相手にいい度胸だ。恋する男は強いってか」

「じゃからと、わかりやすく殺気を出さんでくれんかの……」

「最初から気づかれてたんだから一緒だろ。ついでに度胸も確かめてやったんだから感謝しろーい! 結果はグラスは警戒はするが微塵も恐怖はなし。カリスティアに至っては俺の殺気を隅っこの花程度にしか思ってねぇな」

「最終的には、お主はカリスティアに弄られる始末じゃったな」

 二人ともそれぞれに度胸と知恵もこの先の素質もあるなかで、グラスはまだ素質や彼が歳不相応の聡明さを手に入れる経緯はわかるのだが、カリスティアは一切の謎。あの町の出身であるからして情報を収集しても結果は……【巨大人身売買組織エリニュスの団員に買われて働かせられているかもしれない少女】っとしか出てこなかった。そもそも、この町で産まれであるかさえも謎。今回の会話では……彼女はと言った。どこかに所属していたのは確実なのじゃが……。

「うーん。わからんのう……」

「おいおい、本当に自分の娘に会わせて大丈夫かぁ? まったく、頼むぜ王様」

「娘も影響されて少しはワシに反抗するようになってれれば……」

「グラスはともかく、カリスティアだぞ? 非行まっしぐらになっても俺は知らんぞ……本当は恨んでて娘が殺されるかも知れないんだぞ」

 そうは言うが、止めないところを見るにスパーダスもカリスティアの人間性を評価しているのだろう。彼女ならばワシの娘を……娘にはよい刺激となるだろう……。

「ふぃー。まっ、その代わりペルマネンテに見つからないように気張れよー。二人の為にな」

「言われんでもわかっとるわい。ワシの大事な国民じゃぞ」

 神の元へと誘われた愛しき妻よ……。お主の事を思い心を痛めた娘をどうか、前に進ませるのを許してくれ。そろそろ、思い出になってくれ。

「世界はこれからもっと急激に蠢くうごめくじゃろう。もう、立ち止まってはいられんのじゃ……。お互い寿命で死ねるように精進しようぞ」

突然現れた謎の神と自称する者に狂信する宗教国家、土地の枯渇と共に軍事強化を図るドワーフ国、旅行者や冒険者が次々消える知識の国、人間主義の末にワシの国を狙うペルマネンテ、悪魔撲滅思想活性化の天使族の国、天使撲滅思想活性化の悪魔族の国、魔族、エルフ……その他諸々の国がそれぞれの事情で国を動かしておる。なんとかワシが死しても国が存続できるようにしなければならない。そのためには人材を育てるしかない。自分に代わる人材を。もともとワシは全てを受け入れる国の王じゃ、身元がわからぬくらいでどうというのじゃ。

「こんだけ優秀な国民に好かれて殺される気で居やがるよ、この馬鹿王が。死ねるようにじゃなくてな、てめーは寿命で死ぬんだよ。愛娘の未来の旦那でも茶化してから死ね」

「そうじゃの」

 本当にワシは国民に恵まれた幸せな王だ。こんな不穏な時期に優秀な人材が二人も……。ワシは本当に恵まれておる。




 

 
 

 


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