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第4話 救世主は高齢者!?

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 突然現れた赤スーツ達は総勢10人。そこに黒川さんの姿は無かった。

「こういう仕事をしているから、尾行には敏感でね。坊やに後をつけられていたのは知っていたよ」

 やっぱり誘導されていたのか……

「私達の中には、こうやって身を隠す事に長けている能力者が多くてね。この建物自体も存在感を消していたんだよ」

 やっぱり……

「もちろん私達も、存在感を消していたんだけどね」

 存在感を消せる能力か……思ったより厄介だ……

「く……黒川さんは何処だ!!」

 多勢に無勢だが、腰が引けている場合ではない!
 僕は力を振り絞って問いただした。

「坊やは、あのB級事務所のパシリだろ?」

 パシリではあるが……
「事務所はB級じゃない!!」
「B級の奴らの相談にしかのらない時点で、お前達もB級なんじゃないのか?」
「撤回しろ!!」

 僕の事は、いくら言われても良いが、事務所や京子先生を悪く言うのは許せない!
 僕は珍しく大声を上げて叫んだ。

「威勢だけは良いようだが、置かれている立場が分かっていないようだな。デカい口を叩くのは勝手だが、あの子がどうなっても良いのか?」
「ぐっ……」

 つい頭に血が上ってしまったが、自分が圧倒的に不利な状況なのは変わらない。

「お前達は黒川さんをどうするつもりだ!」
「俺達はあの子だけじゃなく、坊や達にも興味があるんだよ」
「何!?」
「坊や達も異能力者なんだろ?」
「お前達に答える必要はない!」
「フン! 否定しない所をみると、異能力者である事は間違えないだろうが、あの子から何も聞いていないのか? 実はこっちには異能力者を特定する方法があるんだ」

 知っている。

「だけどその様子だと、どんな能力かは特定出来ないんだろ?」
「だからこうやって、一人一人直接聞いているんじゃないか…………
 力づくで!!」

  そういうと、奴らは一斉に飛び掛かって来た!!


 ……僕は2秒で捕まった。

 多分、1対1でも同じ結果だっただろう。
 自慢じゃないが、僕は腕っぷしには全く自信がない。
 おそらく小学生にも負けるだろう。

「あれだけ大口を叩いておいて、2秒とは恐れ入ったぜ。普通に考えても並の神経じゃない」

 誉められているのか貶されているのか分からなかった。

「頭は足らないが、根性だけはあるようだな。能力次第ではあるが、坊やがその気ならボスに紹介してやっても良いぞ」
「宜しくお願いします!!」

 僕は迷わず、足らない頭を下げた。
 誰も信じてくれないとは思うが、これは黒川さんを助ける為の演技なのだ。
 本当に……
 本当に……

「では、坊やはどんな能力なのか教えてくれ」

 誰に言い訳をしているのか分からなかったが、僕は自分の能力を正直に話すべきか迷った。
 黒川さん同様、ここは嘘をついて相手をビビらせるか、相手にとって有益な能力を持っていると思わせ、黒川さんに近づける状況を作り出すか必死で考えた。

「僕の能力は……」


「柳町君!! それ以上言う必要はないわ!!」
「京子先生!!」

 エステに行くと言っていたので期待してはいなかったが、間一髪で京子先生が助けに来てくれた。
 実は万が一の時の為に、僕のお尻にはGPSが埋め込まれているのだ。(ある意味、改造人間です)
 普段の生活にも支障が出るが、京子先生が安全の為にどうしてもと言うので、僕は泣く泣く了承している。勿論、やみくもに僕の居場所を検索しないようにお願いはしているが、おそらく僕のプライバシーは京子先生に覗かれているだろう。

「先生の登場は思ったより早かったね。まぁ、遅かれ早かれあんたにも話をするつもりだったから、手間が省けたってもんだが」

 先生は仕事の時とは違う、戦闘用のコスチュームに着替えて登場した。
 コスプレ好きの先生は、さぞかし喜んでいるんだと思ったが、その表情は明らかに怒っていた。その気迫に気圧されたせいで、赤スーツ達は後ずさりしていたが、その間を堂々と歩き、京子先生は僕の前までたどり着いた。そしてスマホを出し、無様な僕の姿を連写モードで写真に納める。

「何故パンツまで脱がさないの!!」
「そっちですか!?」
「この子は私の大切なオモチャ……いや助手なの!」

 京子先生は、ちょこちょこ本音が漏れる。

「私の許可なくいたぶるのはやめて欲しいわ!」

 京子先生……ありがとうございます!

「もしいたぶるなら、徹底的にやりなさい! 中途半端にいたぶるのだけは、たとえ小学生と言えども絶対に許さないわ!」

 京子先生が何で怒っているのか、さっぱり分からなかった……

「変わった先生だと思っていたが、ここまでとはな……。ボスが手に終えないかも知れないって言ってた意味が、ようやく分かったぜ」

 僕は京子先生の持って来た、戦闘用のコスチュームに着替えさせられた。その間、赤スーツ達は何故か黙って見ているだけだった。ヒーロー達が変身する際、敵は攻撃しないのが暗黙のルールではあるが、やはりこれは何処の世界でも同じなんだと実感した。

「新右衛門君。エステのキャンセル料は、お給料から引いておくわね」

 とりあえず、今する話ではないとは思ったが、僕は黙って首を縦に降った。

「京子先生。この場をどう切り抜けますか?」

 京子先生の事だから、何か作戦があるのだと思い、僕は小声で確認した。

「任せなさい!」

 僕は、また変な冷や汗が出てきた。
 自信がある時の京子先生ほど、信用出来ないものは無いからだ。

「ぐぁ!」
「ぎゃっ!!」

 なにやら後ろで、悲鳴のような声が聞こえた。
 辺りを見回すと、さっきまで10人ほど居た赤スーツ達が半分に減っている!

「どうした!?」

 赤スーツ達は動揺していた。

「私が1人でここに来たと思う?」
「仲間か!?」
「いや、ただのおじいちゃんよ」

 何故、敵のアジトにおじいちゃんを連れて来たのかは謎だが、30人近い人数のおじいちゃん達が、もの凄いスピードで現れた!

「このおじいちゃん達は私の熱烈なファンなの。ただ、昔はヤンチャばかりしていた連中だから、その辺のチンピラよりよっぽど強いわよ」

 おじいちゃん達の戦い方は特殊だった。
 入れ歯を投げたり、杖でひたすらすねを殴ったり、中には点滴のホースで首を絞めたりしていたおじいちゃんもいた。赤スーツ達は、とにかく戦いにくいといった感じで、なんだかんだしている内に、ボスらしき1人を残して全員倒されてしまった。

「じゃ京子先生。ワシらはこれで帰るきに、後はうまい事やっておくれ」
「源さん。いつもありがとう。おハルさんにも宜しく言っておいてね」
「ハル婆さんもいつものヌード写真を待っとるから、また良いの宜しくって言っとった」
「分かったわ。良いの撮れたからまた送っておく。月末には私のライブもあるし、皆で見に来てね!」
「楽しみにしとるよ! また年金持って行くからの!」

 ライブ!? 年金!? ヌード写真!?

 京子先生とおじいちゃん達の関係が全く分からなかったが、あっという間に形勢が逆転した。
 1つ嫌な予感がするのは、のくだりだった。

「何がなんだか分からない内にやられちまったな。ちょっと甘く見ていたよ」
「甘いのはシュークリームだけにしてよね」

 リーダー赤スーツは、背中の後ろで手を縛られて身動きのとれない状態で話をしていた。

「そんな事より、黒川さんは何処に居るの?」
「お嬢ちゃんは別の場所に隔離している。そばに居ると何が起こるか分からないから、とりあえずそこで眠ってもらっているよ」

 どうやら赤スーツ達は黒川さんの本当の能力を、まだ知らないようだった。

「俺の能力は異空間を移動出来る能力だ。簡単に言うと、どこでもドアみたいな物で、入口は俺が自由に作り出す事が出来るが、出口は1つしかなく、必ずその場所にしか出る事が出来ない」
「何処に出るの?」
「……七王子公園の池の上だ」

 使えそうで使えない能力だ……

「だから最近、この辺りを水浸しでうろちょろしてるのね」

 かなり目立つと思う……

「ボスは別の場所に居るが、俺はこの能力の事もあり、この辺りの管轄を請け負っている」
「とりあえず黒川さんの所には連れて行ってもらうけど、その前にあなた達の組織の事を教えなさい」
「そうだ! 異能力者達と接触し、お前達は何を企んでいるんだ!?」
「俺も立場上、言える事と言えない事がある。あまり変な事を喋ると、俺が消されちまうからな」
「消しゴムで?」
「い……いや、殺されるという意味だ……」

 違和感のある2人のやりとりを、僕は黙って見守っていた。

「お前達は裏社会の構図は知っているか?」
「バカにしないで!」

 さすが京子先生。伊達にこの世界で長くやっていない。

「ただ私が知っていても、柳町君が知らないと思うから、1から説明しなさい!」

 何か僕をダシに使われたような気がする……

「良いだろう。せっかくだから説明してやるが、異能力界の闇組織は大きく分けて、3つの組織で成り立っている。
『ブレイブハウンド』『イボルブモンキー』『テラフェズント』の3組織だ。この3つの組織は、それぞれ個性は違うが、ほぼ同じような力を持っていて、良くも悪くもパワーバランスが保てている」
「この業界じゃ有名な話ね。流石に世間知らずの私でもそこまでは知っているわ」
「そして、今までのその構図を崩し、新たに4組織目として割り込んで行こうとしているのが、俺たちブルーハワイだ」
「ちょっと待って、赤スーツ!! 話を止めて悪いんだけど、新右衛門君、私に何か言う事無い?」
「えっ!? あっ……あの~……」

 僕は突然の振りに頭をフル回転させた。

「き……京子先生は世間知らずじゃないです!!」
「そう! そういう所大事! そういう所を流しちゃ駄目よ! 何の為に私があなたを雇っていると思っているの?」
「すみません……」
「さっきの消しゴムの下りもそうだけど、ああいう所をスルーしちゃ駄目なの! 何も出来ないボンクラだけど、あなたのツッコミとリアクションだけは高く評価しているんだから、それをやらなくなったら、私の事務所に居る意味なんてないのよ! 無能なあなたに、仕事の生産性なんて期待していないんだから、私のやる事から目を離さず、ツッコミとリアクションに命を懸けなさい!」
「はい! すみませんでした!」

 師匠と弟子の関係ではあるが、何か求められてる事が違うと思いながら、僕は静かに反省した。

「ごめんなさいね、赤スーツ。話を続けてちょうだい」
「あ……あぁ……。俺達の組織が公に事を運び、組織の力をつけようとしたら、すぐにこの3組織のどこかに潰される。だから目立たないように少しずつ力をつけ、のし上がろうとしているんだ。そして他の奴らが、必要としなさそうな奴らを逆にスカウトし、使えなそうな奴らでも戦力として使っていくという戦略に出たんだ」
「今まで奴らが目をつけなかった所に目をつけたって事ね」

 僕は慎重に京子先生の言葉に耳を傾けた。
 今回は、つっこみ所は無い!!

 裏社会の人達と関わるスリルより、京子先生から目を離す方が、僕にとってはよっぽどスリルがあると改めて悟った。おかげでリーダー赤スーツの話は全く入ってこなかった。

「あいつら3組織はやっぱり強い。戦闘力が高いし、裏社会での人気もある。実力のある新人が入りやすいシステムにもなっているし、金回りも悪くない。まともにやりあったら、十中八九勝ち目は無いんだ」
「だからって、全く関係のない人間を巻き込んで良い道理はないだろ!」

 僕は、京子先生の顔色を伺いながら、我ながら良い事言ったと自分に酔っていた。

「確かにその通りだ。裏社会の掟でも、堅気の人間に迷惑をかけちゃいけないってのが暗黙のルールだ。だから本人同意の元で協力してもらっていたんだが、ここにきて状況が一変してしまってな。力づくでも組織を巨大化していかないと危ない状況になっちまったんだ」
「奴らにバレたのね」
「勘が良いな。テラフェズントの奴らが俺達の存在に気付いて、圧力をかけ始めたんだ」 
「良いのは勘だけじゃないぞ! 京子先生は顔もスタイルも良いぞ!!」
「柳町君。馬鹿な事言って話を止めないで」

 京子先生は、殺し屋より殺し屋のような目で僕を見ていた。

「あなた達の組織は大変かも知れないけど、私達には関係のない事ね。黒川さんを取り戻すには、あなたと話をしていても無駄なようだし、ボスの所に案内してよ」
「俺に選択の余地は無いようだな」

 そう言うとリーダー赤スーツは、電話をさせて欲しいと言ったので、手は縛ったままの状態で僕が電話を持ち、組織に連絡させた。
 諦めてボスに会わせる手筈を整えてるようだった。

「じきに、ここに車が到着する。それに乗ってボスの所まで案内する」
「分かったわ。ボスと話をつけて黒川さんを助けるまでは、申し訳ないけどあなたには人質になってもらうわ」
「そうですね」
「少しでも変な動きをしたら、えらい目にあうと思ってね」
「わ……分かった」

 どんな目にあわされるのか想像もつかず怖い所もあったが、京子先生の言う変な動きというのが、どの程度のものなのか想像していただけで、僕は変な動きをしてしまいそうになってしまった。

 10分ほど経つと3台の赤い車が到着し、リーダー赤スーツを人質にとった僕達は、その内の1台に3人で乗り込んだ。
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