上 下
3 / 19

第3話 追跡! 新右衛門探偵!

しおりを挟む
 黒川さん達を追いかけて行くと、いかにもアジトといったような場所に来てしまった。
 人目につきにくい路地裏に入り込み、誰も使っていないであろうと思われる古びた倉庫の前にたどり着いた。
 あまり特徴のない場所で、人の記憶には残りにくい造りになっている。
 なぜかすぐに忘れ去られそうな、不思議な雰囲気を醸し出していた。

「何かおかしい……」

 おそらく、ここが奴らのアジトだという事は間違いなさそうだが、もし僕が組織の一員だったら、真っ直ぐここに戻ってくるだろうか?

「罠かも知れない……」

 なんとなくだけど、奴らに導かれてここに来てしまった感じがした。
 とりあえず京子先生に連絡しようとした瞬間、僕はわかりやすい落とし穴に落ちてしまった!!


「うわ~!!やっぱり罠だった~!!」



 深さは約30cm。





 子供のいたずらだった。
 大きいリアクションをとった自分が恥ずかしい……

 穴があったら入りたい……


 穴から出た僕は、改めて京子先生に連絡した。

「もしもし、柳町ですけど」
「気軽に電話して来ないで!!」
「…………」

 切られてしまった……
 この緊急時にツンデレ全開でどうしたら良いか分からない……
 とりあえず、LIN◯でご機嫌を伺おう……

【アジトらしき所を見つけました。電話をかけてよろしいでしょうか?】
【早くかけなさい】

 どないやねん! と思いながら、僕は電話をかけた。

「あの~……黒川さん達の後を追って来たら、アジトらしき所に着きまして……」
「それで新右衛門君。あなた今、どんな格好をしてるの?」

 ここにきて、変態オヤジみたいな返しをされても困るんですけど……と思いながらも、何とか状況を伝えようと僕は必死になっていた。

「格好は出て行った時のままです。それより、これからどうしますか?」
「どうするもなにも、とりあえず突入するしかないでしょ!」

 突入するしかないって事はないと思うけど……

「中の状況が分からなかったら、話にならないじゃない!」
「すみません。言っている事はごもっともなんですが、僕1人で突入した所で問題を解決する自信がありません!」
「柳町君! あなたは1人じゃないわ!」
「!?」

 京子先生……

 僕は、その言葉に勇気づけられた。

「あなたは1人じゃない。あなたの替わりなんていくらでも居るの!」
「そっちですか!?」
「だから大丈夫! あなたに何かあった所で、誰も困る人は居ないのよ!」

 全然大丈夫じゃない……

「私以外は」
「えっ!? 今なんて言ったんですか?
 京子先生!! 聞こえなかったんで、もう一度お願いします!!」
「あなたの替わりなんていくらでも居るの!!」
「そこじゃないです!!」

 今、絶対言った!!
 僕が居なくなったら、京子先生困るって絶対言った!!

「分かりました! とりあえず中の状況を確認してきます!」
「ちょっと待って新右衛門君! 場所は何処なの? 私もそっちに行くわ!」
「ここは七王子町の3丁目、亀田かつら工場跡地の裏の倉庫です。後で外観の写メを送っておきます!」
「わかったわ! 私も一服した後、エステに行ってからそっちに向かうから!」
「わ……分かりました……」

 電話を切った僕は、出来る限り1人で何とかしようと思いました。

「よし。気を取り直して、まずはバレないように外から中が見える所を探してみよう」

 僕は倉庫の周りを1周した。
 入口らしき所は3箇所あったが、バレずに中を覗けそうな場所は見当たらなかった。
 1ヶ所だけ高い所に小窓があり、木によじ登れば中が見えそうな所があった。

「あそこから中を覗いてみるか」

 何とか木をよじ登り、倉庫の中を見てみると、中に人の気配は無く、燦然としていた。
 おかしいと思い、木を降りてゆっくりと出入口の扉を開けたが、やっぱりそこに人の姿は無かった。
 警戒しながら倉庫の中を探索したが、そこももぬけの殻だった。

「どういう事だろう?」

 間違いなく黒川さんと赤スーツの2人組はこの倉庫に入って行ったのに、誰も居ないなんて……

 僕はとりあえず京子先生に連絡をとった。

「京子先生、すみません。今、先ほどの倉庫の中なんですが、黒川さんも赤スーツの姿も無く、もぬけの殻なんです!」
「柳町君! また、あなたなの!? これから一服する所だったのに邪魔しないで欲しいわ」

 これから一服……

 ここに着いたのは13時過ぎで、今はもう14時だ。もしかしたら、もう近くに居るかも知れないという僕の淡い期待は、脆くも崩れ去った。

「ちなみにですが、やっぱりエステには行くんですか?」
「16時に予約を入れているわ。というか、何の確認なの? あなた、ストーカーなの? 私のプライバシーにばかり干渉して、彼氏ぶらないで!!」
「すみません……」
「私のスケジュールは、さっきの電話で伝えてあるわよね! その内、パンツの色まで聞かれるようになるのかしら!」

 ただ状況を報告しようとしただけなのに、えらい言われようだ……

「今日は白よ」
「えっ!?」

 聞いてもいないのに、答えてくれた……

「あ、あの~……先ほどの黒川さんの件なんですけど……」
「あら、私のパンツの色なんかに興味は無いって言いぐさね」

 そんな事はないですが……

「まぁ良いわ。それで、そこには誰も居ないって言っていたけど、本当なの?」
「そうなんです。3人が入って行くのを、この目で確認したんですが、誰も居ないんです!」
「いくら新右衛門君の目が節穴でも、それは不自然ね」

 さらっと傷付く事を言う……

「地下への隠し通路とかは無いの?」
「それも注意して探したんですが、それらしい所は見つかりませんでした」
「あと考えられる事とすれば、誰かの能力かも知れないわね」
「能力ですか?」
「ええ。今回の件でブルーハワイの名を聞いてから、ちょっと不思議に思っていた事があるの」
「何ですか?」
「あの目立つ格好で活動している割りには、組織の名前をほとんど聞いた事がないのよ。この異能力業界で長くやっている私やジョニーが、名前も知らないなんて事あると思う?」
「確かに不自然かも……」
「ましてや、私の事務所の近くじゃない! 組織の中に、何か身を潜める事に長けた能力者が居るって考えるのが普通だと思うの」
「言われてみればそうかも知れません! ここの倉庫に来た時も、何か変な違和感があってみたいな不思議な感覚があったんです!」
「何、訳の分からない事言ってるの?」
「違うんです! ちょっとうまく言えないんですけどというかみたいな、変な感じなんです!」

「変なのは、あなたの頭の中だけにしてよ!」

 この話の流れを振ったのはそっちなのに、ひどい……

「だから、そうじゃなくって! 京子先生に言われて気付いたんですが、能力を発動する時って、なんか独特の雰囲気みたいなものが出るじゃないですか! それがんです!」
「あるのに無いってどういう事!? 働いたのに給料が入ってないみたいな事?」
「何かちょっと違いますけど……」
「それは柳町君だけね……」
「えっ!? もしかして、また今月も給料無いんですか!?」
「だから何度も言ってるじゃない! うちは出来高制だから、良い働きをすれば給料も上がるって!」

 自分では良い働きをしていると思うんですけど……

「だから例えて言うならば、お刺身のツマみたいというか、メガネでいう鼻おさえというか、物は無いのに匂いだけするみたいな変な感じなんです!」
「っていう事は、新右衛門君! あなたには見えていないけど、そこに居るって事なんじゃないの!?」
「電話の相手は美人の先生かい?」
「あっ!! 赤スーツ!!」

 さっきまで誰も居なかったのに、彼らは突然目の前に現れた!!                                         
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

貴方の事なんて大嫌い!

柊 月
恋愛
ティリアーナには想い人がいる。 しかし彼が彼女に向けた言葉は残酷だった。 これは不器用で素直じゃない2人の物語。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

食いつなぎ探索者〜隠れてた【捕食】スキルが悪さして気付いたらエロスキルを獲得していたけど、純愛主義主の俺は抗います。

四季 訪
ファンタジー
【第一章完結】十年前に突如として現れたダンジョン。 そしてそれを生業とする探索者。 しかしダンジョンの魔物も探索者もギルドも全てがろくでもない! 失職を機に探索者へと転職した主人公、本堂幸隆がそんな気に食わない奴らをぶん殴って分からせる! こいつ新人の癖にやたらと強いぞ!? 美人な相棒、男装麗人、オタクに優しいギャルにロリっ娘に○○っ娘!? 色々とでたらめな幸隆が、勇名も悪名も掻き立てて、悪意蔓延るダンジョンへと殴り込む! え?食ったものが悪すぎて生えてきたのがエロスキル!? 純愛主義を掲げる幸隆は自分のエロスキルに抗いながら仲間と共にダンジョン深層を目指していく! 本堂 幸隆26歳。 純愛主義を引っ提げて渡る世間を鬼と行く。 エロスキルは1章後半になります。 日間ランキング掲載 週刊ランキング掲載 なろう、カクヨムにも掲載しております。

まずい飯が食べたくて

森園ことり
ライト文芸
有名店の仕事を辞めて、叔父の居酒屋を手伝うようになった料理人の新(あらた)。いい転職先の話が舞い込むが、新は居酒屋の仕事に惹かれていく。気になる女性も現れて…。 ※この作品は「エブリスタ」にも投稿しています

チワワの日常

Yonekoto8484
エッセイ・ノンフィクション
自分を犬ではなく,人間だと思い込んでいるチワワのちょこちゃんの日常とその勘違いから生じる戸惑いを描いた作品。

処理中です...