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第1章 ふたりの秘め事
第7話 他人に言えないような人
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生野樹里の姉、生野美幸さんは半年前、友人と会いに行くと家族に告げて、実家を後にした。彼女は一泊二日で戻ると話していたが、それ以降姿を現さなかったという。
美幸さんは年齢は妹の樹里より二歳年上で、市内の図書館で司書を務めていた。眼鏡をかけており、背は小柄だった。
不安に感じた家族は三日後に警察に捜索依頼を出したが、まるで神隠しに遭遇したかのように、彼女の痕跡が見つからなかった。最後の目撃情報は失踪した日の夕方、市の東部にあるコンビニの監視カメラに映ったのが最後。その後彼女は市の東部に位置する大谷地区に向かったそうだが、その後の足取りはつかめていない。
現在も情報提供が呼びかけられており、市内のあちこちで張り紙がなされていた。
「ほかの探偵にもお願いしたいんだけど、遠方で依頼しにくかったの。でも最近、椿が探偵事務所開いたって聞いたから、ちょうどよかったわ」
「そうだったのね。失踪直前、何かお姉さんに変わった様子はなかった?」
「うーん……」
考えこみながら天井を見上げる生野。
俺は彼女の隣で、生野がしゃべったことを聞き取り、メモをしていた。わからないことや気になることがあれば、多少割り込む形にはなるが質問することもあった。仕事を早く覚えるためだが、同時に“人生をやり直せる薬”の情報を少しでも集めるためでもある。
「失踪する二週間ほど前からかな……お姉ちゃん、なぜかあたしや両親を避けてたのよね」
「どうして? 樹里とお姉さんって、結構仲良かったじゃない」
椿は、姉の美幸さんと何度か会ったことがあった。彼女はしおらしく心優しい性格で、高校時代に生野家を訪れたときは、彼女にも親切に接してくれたという。
「わからない。何か隠してたのかもしれないけど……」
「隠してた? カレシさんができたとか?」
「……」
しかし、生野にも何も浮かばないようで……
「お姉ちゃんが誰かと付き合ってるなら、隠さないと思うけど」
椿は考え込んでいた。
一向に事が進展しないのは情報が少なすぎるから。一度現場に足を運んでみないとわからない。
仕事を教えてもらっているとき、椿はそう口にしていた。
今回も同じなようで、
「じゃあ、樹里、どこで彼女が失踪したか案内してくれない? どんな状況だったか、詳細が知りたいわ」
「わかった」
***
俺たち四人は椿が運転する車で、常盤市東部にある姉の美幸さんが失踪する直前に寄っていたコンビニに来ていた。
ここは街はずれということもあり、人や車の通りも少なく、田園風景が広がるのどかな地域だった。
美幸さんの最後の目撃は夕方。
秋も終わりに近づき、五時過ぎには真っ暗になる。田舎であるこの地域は、照明や街灯は少なく、夜間に若い女性一人が出歩くのはリスクが大きかった。
コンビニの店員さんにも話を聞いたが、その日はおにぎりやパンをそれぞれ二つ。カップ麺を一つ、お茶が入ったペットボトルを一本、そしてビールを二缶分購入していたという。特段変わった様子はなく、店員さんはごく普通に応対していたらしい。
周囲の住民にも話を聞いたが、そもそも夜の話。目撃者も少ない状況だったので、覚えている人もいなかった。
「何にもわかんないわ……。目撃情報がないんじゃなあ……」
椿は空を見ながらぼやいていた。
「ごめんね、椿」
生野が申し訳なさそうな顔をするが、椿は気にしないでともいうように手を振った。
「大丈夫大丈夫。仕事を引き受けたのは私なんだから」
一方、俺は状況を整理していた。
コンビニの店員さんが話していた、買っていたもの。
二人分の食料を調達していた。普通に考えたら、これから泊まりに行くから、夕食、そして翌日の朝食を購入していたのだろう。
とはいえ、失踪直前にそわそわしていたのが気になる。
確証はないが、状況から美幸さんが「お泊り会」という表向きの理由で誰かと会う約束をしていたのは間違いないだろう。
そして、すぐに戻る予定だった。
隠そうとしていたのは、その会おうとしていた人物が、表立って言えないような人だからか?
現状、推理できるのはここまでだろう。
俺は考えていることを椿たちに告げた。どうやら椿も似たような推理を立てていたようだ。
「でも、“他人に言えないような人”っていったい誰なんだろうね」
「普通なら恋人とかだけど、それはないらしいからな」
「恋人以外……ねえ……友達とかでもいいのかな」
椿のその発言を聞き取ったのか、生野の表情が変わった。
「とも……だち?」
その様子を察してか、椿が声をかける。
「樹里、どうかしたの?」
「友達……」
樹里は考え込むように顎に手を当てた。
あたりに沈黙が流れた。俺も、紅葉ちゃんも自然と意識が生野に向けられていた。
しかし、その沈黙はすぐに打ち破られた。
――おい、お前ら何してるんだよ
その声にハッとする。振り向いた刹那、俺の身体に戦慄が走った。
俺たちの前に、バイクが二台、まるでスライディングで駐車したように停められていた。
バイクの前に立つ、二十代前半とみられる体躯の大柄な男二人。そして、隣で腕を組む、ひょろ長だが、顔は素行の悪そうな男。
「お姉ちゃん……この人たち、怖い」
紅葉ちゃんは姉の椿の手を強く握った。
そいつらは、紛れもなく、俺たちに暗い影を落とした張本人だった。
美幸さんは年齢は妹の樹里より二歳年上で、市内の図書館で司書を務めていた。眼鏡をかけており、背は小柄だった。
不安に感じた家族は三日後に警察に捜索依頼を出したが、まるで神隠しに遭遇したかのように、彼女の痕跡が見つからなかった。最後の目撃情報は失踪した日の夕方、市の東部にあるコンビニの監視カメラに映ったのが最後。その後彼女は市の東部に位置する大谷地区に向かったそうだが、その後の足取りはつかめていない。
現在も情報提供が呼びかけられており、市内のあちこちで張り紙がなされていた。
「ほかの探偵にもお願いしたいんだけど、遠方で依頼しにくかったの。でも最近、椿が探偵事務所開いたって聞いたから、ちょうどよかったわ」
「そうだったのね。失踪直前、何かお姉さんに変わった様子はなかった?」
「うーん……」
考えこみながら天井を見上げる生野。
俺は彼女の隣で、生野がしゃべったことを聞き取り、メモをしていた。わからないことや気になることがあれば、多少割り込む形にはなるが質問することもあった。仕事を早く覚えるためだが、同時に“人生をやり直せる薬”の情報を少しでも集めるためでもある。
「失踪する二週間ほど前からかな……お姉ちゃん、なぜかあたしや両親を避けてたのよね」
「どうして? 樹里とお姉さんって、結構仲良かったじゃない」
椿は、姉の美幸さんと何度か会ったことがあった。彼女はしおらしく心優しい性格で、高校時代に生野家を訪れたときは、彼女にも親切に接してくれたという。
「わからない。何か隠してたのかもしれないけど……」
「隠してた? カレシさんができたとか?」
「……」
しかし、生野にも何も浮かばないようで……
「お姉ちゃんが誰かと付き合ってるなら、隠さないと思うけど」
椿は考え込んでいた。
一向に事が進展しないのは情報が少なすぎるから。一度現場に足を運んでみないとわからない。
仕事を教えてもらっているとき、椿はそう口にしていた。
今回も同じなようで、
「じゃあ、樹里、どこで彼女が失踪したか案内してくれない? どんな状況だったか、詳細が知りたいわ」
「わかった」
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俺たち四人は椿が運転する車で、常盤市東部にある姉の美幸さんが失踪する直前に寄っていたコンビニに来ていた。
ここは街はずれということもあり、人や車の通りも少なく、田園風景が広がるのどかな地域だった。
美幸さんの最後の目撃は夕方。
秋も終わりに近づき、五時過ぎには真っ暗になる。田舎であるこの地域は、照明や街灯は少なく、夜間に若い女性一人が出歩くのはリスクが大きかった。
コンビニの店員さんにも話を聞いたが、その日はおにぎりやパンをそれぞれ二つ。カップ麺を一つ、お茶が入ったペットボトルを一本、そしてビールを二缶分購入していたという。特段変わった様子はなく、店員さんはごく普通に応対していたらしい。
周囲の住民にも話を聞いたが、そもそも夜の話。目撃者も少ない状況だったので、覚えている人もいなかった。
「何にもわかんないわ……。目撃情報がないんじゃなあ……」
椿は空を見ながらぼやいていた。
「ごめんね、椿」
生野が申し訳なさそうな顔をするが、椿は気にしないでともいうように手を振った。
「大丈夫大丈夫。仕事を引き受けたのは私なんだから」
一方、俺は状況を整理していた。
コンビニの店員さんが話していた、買っていたもの。
二人分の食料を調達していた。普通に考えたら、これから泊まりに行くから、夕食、そして翌日の朝食を購入していたのだろう。
とはいえ、失踪直前にそわそわしていたのが気になる。
確証はないが、状況から美幸さんが「お泊り会」という表向きの理由で誰かと会う約束をしていたのは間違いないだろう。
そして、すぐに戻る予定だった。
隠そうとしていたのは、その会おうとしていた人物が、表立って言えないような人だからか?
現状、推理できるのはここまでだろう。
俺は考えていることを椿たちに告げた。どうやら椿も似たような推理を立てていたようだ。
「でも、“他人に言えないような人”っていったい誰なんだろうね」
「普通なら恋人とかだけど、それはないらしいからな」
「恋人以外……ねえ……友達とかでもいいのかな」
椿のその発言を聞き取ったのか、生野の表情が変わった。
「とも……だち?」
その様子を察してか、椿が声をかける。
「樹里、どうかしたの?」
「友達……」
樹里は考え込むように顎に手を当てた。
あたりに沈黙が流れた。俺も、紅葉ちゃんも自然と意識が生野に向けられていた。
しかし、その沈黙はすぐに打ち破られた。
――おい、お前ら何してるんだよ
その声にハッとする。振り向いた刹那、俺の身体に戦慄が走った。
俺たちの前に、バイクが二台、まるでスライディングで駐車したように停められていた。
バイクの前に立つ、二十代前半とみられる体躯の大柄な男二人。そして、隣で腕を組む、ひょろ長だが、顔は素行の悪そうな男。
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