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第一章 みんな大好き「からあげ弁当」編

第1話 結婚からはじめる異世界弁当屋

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 一年前。
 限界社畜7年目プロジェクトリーダー(役職なし)をしていた俺は、ある朝目覚めると異世界に転移していた。たまたま親切な農家に拾われた俺は、女神の代わりに彼らから、ここが「剣と魔法のナーロッパ」という雑なチュートリアルを受けた。

 呼びづらい「坂次郎」という名前を「ジェロ」にあらため、しばらく農家の手伝いをして過ごした俺は「やっぱ、異世界転移したら冒険だろ!」と、冒険者になった。
 幸運だったのは、世話になっている農家のオヤジさんが後押ししてくれたこと。

「遠慮せずここで暮らせ。部屋は余ってるんだ。末娘のミラもお前を気に入ってる。その代わり、ときどき農家の仕事を手伝ってくれよ?」

 そんなわけで、農家に居候しながらまったり冒険者(ときどき農業)という、緩めの異世界生活をしていたのだが――パーティーを追放されてしまった。
 何度も言うが「異世界転移にパーティー追放」のダブルパンチはきちぃ。

 しかし、同時に俺はとあるアイデアを思いついた。

 この世界の料理のレベルは低い。

 朝は麦がゆ。
 昼はふかし芋。
 夜は野菜のスープ。
 菜食が基本の世界だ。

 どうしてかと言えば、いろいろな要因がある。

 まず生肉がない。
 この世界では基本的に干し肉しか食べない。
 生の肉を食べられるのは鶏が卵を産まなくなった時くらいだ。

 魚は普及しているが調理のバリエーションが少ない。
 はらわたを取り除き、煮つけ・塩焼きがせいぜい。

 極めつけは調味料。
 塩はかろうじてあるが、砂糖は貴重ではちみつが代替品。
 こしょう・唐辛子などの香辛料は見かけない。
 醤油・味噌など言うに及ばず。

 元いた世界で昼休憩になろう小説を読み漁っていた俺にはピンときた。
 これは「異世界料理で大繁盛する流れ」だと。
 それもただの料理屋じゃない――。

 弁当屋だ。

 ダンジョンへと挑む冒険者に弁当を売るのだ。
 元いた世界でお弁当は、働く人間にとって平日の些細な楽しみだ。それでなくてもまずい「豆のスープ」を無理して食べている冒険者たちにお弁当は絶対に売れる。

「誰だって、うまい昼飯を食べたいもんな」

 社畜と冒険者を経験した俺には強い確信があった。
 さっそく俺はこの商売を居候先のオヤジさんに相談した――。

「ダメだ商売だなんて。借金でもこさえたらどうするんだ」

 待っていたのは猛反対。

 こぢんまりとした農家のダイニング。
 いつもはオカミさんと農家の末娘、そして俺(オヤジさんは長男さんの家で寝泊まりしている)の三人で食事を囲むテーブル。
 昼下がりの陽射しが差し込む中で、オヤジさんが腕を組んで俺をにらんだ。

「お前は一度、仕事に失敗したんだ。まずはそれを受け入れろ」

「……はい」

「だいたい、開業資金はどうする気だ?」

「それは、オヤジさんに借りようかなと……」

「あのなぁ。身寄りのないお前を哀れに思って世話してやってるが、別に俺はお前の親でもなんでもないんだぞ」

 至極まっとうな言い分だった。
 望み薄な反応にがっくりと肩を落とす。
 冒険者はすんなりと許可してくれたのに、どうして弁当屋はダメなのだろう。

 落ち込む俺を励ますように農家の末娘――ミラが俺の肩を小突く。
 彼女は俺とオヤジさんに温いレモネードを差し出すと俺の隣に座る。

 俺に代わってオヤジさんと交渉してくれるのだろう。

「お父さん、そんな頭ごなしに否定するのはよくないよ。ジェロも本気なんだから」

 すると――。

「まぁ、義理の親なら金を貸してもいいかもな」

「……義理の親?」

「ジェロ。前々から考えていたんだが、ミラを嫁にもらう気はないか?」

「「なに言ってんの⁉」」

 俺とミラは揃って椅子から立ち上がった。
 立てつけの悪いテーブルがゆれレモネードがぴちゃりと跳ねる。

 壮年の農夫がにやりと笑う。
 まるで「計画通り」という感じに。
 流石にオヤジさんの表情から俺も彼の狙いを察した。

 農家に若い男手はいくらあっても足りない。
 身寄りのない俺に親切にしたのはこのため。
 末娘を世話役につけたのも意図してだろう。

 彼は俺を末娘の婿にするつもりだったんだ!
 冒険者になるのを応援したのは貸しを作るのが目的――!

「まぁ、家は長男が継ぐが家族は多いに越したことはない。ジェロは見た目はなまっちょろいが性欲は強そうだからな。一族を繁栄させてくれそうだ――がははは!」

◇ ◇ ◇ ◇

 その夜。
 俺はオヤジさんからあてがわれた小屋でミラと話し合っていた。

「まったくお父さんってば! こんなくだらないことを考えていたなんて!」

 頬を膨らましてベッド代わりの麦わらをむしるミラ。

 紅色のショートボブにぱっちりとした目。
 キレイめ寄りのベイビーフェイス。小麦とお芋で大きく育った胸とお尻がチャームポイント。ミラは「ギャルゲーだったらメインヒロイン枠に入る」美少女だ。

 寝間着姿の農家の末娘は麦わらの上で女の子座りをする。
 彼女は手を止めるとため息を天井に向かって吐いた。
 それから、少し離れた所で樽に腰掛ける俺に視線を向ける。

 期待するような視線がむず痒い――。

「まぁ、オヤジさんもミラのことを思ってやったんだろ」

「だからって急だわ。私、そんなつもりは……」

 そう言いながらもミラの顔はしっかり赤い。
 脈がなければこんな顔にはならないだろう。

 オヤジさんの計略はずばり成功していた。
 一年かけて俺たちは、「世話焼きの妹みたいな居候先の娘」と「ほっとけない居候のお兄さん」になっていた。
 あと一押し「親の了承」があれば関係が進むには十分だ。

 けど、よく考えろ。
 相手は17歳。元いた世界じゃいわゆるJK。
 対して俺は今年で27歳のおっさん。

 10歳差は流石に犯罪なりよ……。

 ベッドから立ち上がったミラが俺の前にやってくる。お尻についた藁をはたいて落とすと、彼女は俺が座る樽に腰掛けてこてりと肩によりかかった。
 彼女のたわわに実ったおっぱいが腕に当たる。

 麻布一枚越しに伝わる彼女の柔らかさ。

 やばい。
 どうにかなっちゃいそう。

「あのね、ジェロ」

「うん」

「どうしてもお店をしたいなら、私のことなら大丈夫だよ」

「大丈夫って?」

「……お嫁さんになってあげてもいいよ?」

「ミラ。けど、俺はおじさんだから」

「頼りがいがある年上の男性に嫁ぐのは普通だよ?」

「10歳差だよ?」

「お父さんとお母さんも15歳離れてるから」

 まじか。
 ミラのお母さんって見た目は俺と同い年くらいなんだけど。
 オヤジさんって、もしかしてロリコンなの――?

 と、ここで俺は気がつく。
 ここが異世界だということに。
 結婚に関する考え方や適齢期もそりゃ違うよな。

 もちろん法律も――。

「ロリコン大勝利じゃん」

「ロリコンって?」

「元の世界だとミラくらいの年齢の女の子と……結婚するのはおかしいんだよ」

「よく分かんないけど、17歳は『結婚してて当たり前』の年齢だよ?」

 これが異世界か。(白目)

 親切な居候先の娘がなぜかぐいぐい迫ってくるのに必死に耐えた時間を返して。
 YESロリータNOタッチのつもりが、ロリじゃなかったなんて。

 まぁ、確かに――ロリではないわなこの胸は。

 さきほどから腕に伝わる温もりについつい視線が行く。
 俺の耳にいたずらな息がかかった。

「ジェロ? どこを見てるの?」

「え、いや、そのぉ……」

「男の人ってほんとおっぱい好きだよね?」

「あは、あははは……」

「結婚したら好きにしていいんだよ?」

 娘もグルだこれ。
 あぁ、なんかいろいろどうでもよくなってきた。

 弁当屋のことを抜きにしてもミラが好きだし結婚したいし幸せにしたい。
 なにより、こっちの世界では合法なんだから問題ないよね。

 俺は期待をこめて見上げる美少女の手を取った。

「末永く、どうぞよろしくお願いします」

「こちらこそ。どうぞよろしくお願いします、だよ」

 満足げに笑うと、居候先の大切な娘は小屋の玄関に駆けよる。
 用意していたのだろう、扉の向こうから純白のシーツを取り出すと彼女は麦わらの上にそれを広げた。高級ベッドに変わったその上に寝転がるミラ。
 豊かな胸に手を置いて脚を内股気味に折ると、上目遣いで少女は俺を誘った――。

 はい、逃げられません!

 かくして俺は異世界美少女とベッドを共にした。
 その夜、俺たちは精神的にも肉体的にも夫婦になった。

「これからよろしくね、ジェロ」

「いっぱい迷惑かけると思うけれど、ごめんね?」

「その分、愛してくれるなら許してあげちゃう」

 アラサーのモンスター童貞と育ち盛りの若い娘だ。
 はじめての夜は日が昇るまで続き、母屋にミラを帰す機会さえ逃した俺は、きっちり責任を取ることになった。

 かくして俺はかわいい嫁と後ろ盾(嫁の実家)を手に入れた。
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