上 下
59 / 79
第8章 IDから愛をこめて

第58話 インドネシアから来た少女(後編)

しおりを挟む
 気まずい沈黙が私とニーナちゃんの間に流れた。

 そりゃそうでしょう。
 テスト配信に挨拶もしていない先輩が乱入してきたんだから。
 しかも外国人。言葉の通じない相手。

 言うに事欠いて「hey! neena!」である。

 こんなん、どうしていいか分からないよ。(白目)

 一方で、挨拶をした私もこれ以上どうしていいか分からない。
 配信中ということもあり、逃げるのも失礼と挨拶したが――こんな気まずい沈黙が訪れるくらいなら、何も言わなければよかった。
 というか、そもそも地下室から出る方法が分からないから逃げようがない。

 地下室に落ちた時点で詰んでた。
 いや、この城に足を踏み入れた瞬間に、私は終っていたのだ。

 川崎ばにら完。

『neena: vanira senpai? why are you here?』

 そんな諦めムードの私に、ニーナちゃんの方から話しかけてきてくれた。
 これくらいは中学レベルの英語力しかない私でも分かる。

 けど、どう答えていいか分からない!
 こういう時って、どこから説明するのが正しいの!

 配信終ろうとして城を見つけた所から?
 それとも、隠し通路に落ちた所から?
 教えて英語に詳しい人――!

 テンパった私は唸った末にテキストチャットでこう返した――。

『vanira: vanira is hole in one!』

 なんだホールインワンって!
 ゴルフでもしてるんか!

 けど、穴に落ちたってどう言えばいいの!
 義務教育で教えておいてよ! 「これはペンです」より使うでしょ!

 終った。
 完全に終った。
 英語力が死んでいることが全世界にバレた。
 さらに後輩と『まともにコミュニケーションが取れない』と思われた――。

『neena: OK!』

『vanira: OK!?』

「嘘だろ⁉ 英語伝わってるんだが⁉」

 嘆いた矢先、ニーナちゃんが返信してきた。
 どうやら何が言いたいか把握してくれたみたいだ。

 この子、うみとは違うタイプのコミュ力おばけか?

 すぐにニーナちゃんは『come on!』と、小学生でも分かるテキストチャットを送ると、私に背中を向けて歩き出した。

「ついて来いってことで、いいバニですよね?」

 一応、リスナーに確認をとる。「それでいい」「あってる」「むしろそれ以外の何があるのか」「ばにら、英語の勉強しような」というコメントが溢れたので、どうやらばにーら翻訳は間違ってはいないみたいだ。

 上の階と同じシラカバの床を歩いて、私はニーナちゃんの背中を追いかけた。
 やって来たのは――ちょうど倉庫の中央にある広間。

 シラカバの葉を使った観葉植物のようなモニュメント。
 その前でニーナちゃんがアイテムを投げた。下にホッパー(上に落ちたアイテムを収拾する機能のあるブロック)があるらしく、アイテムが瞬時に吸い込まれる。

 そして――!

「うわぁっ! なになになに! 何が起こってるの!」

 急にピストンの音がしたかと思うと、天井が割れて床が盛り上がる。

 目の前に現れたのはシラカバの階段。
 上の階の階段と接続するように現れたそれに、私は素っ頓狂な悲鳴を上げた。

 回路式の隠し階段だ。
 動画で作り方を見たことがある。
 けど、かなり複雑な構造で、まったく仕組みが理解できなかった。

 こんなものまで作り上げてしまうだなんて――。

「もしかして、ニーナちゃんって天才なのでは?」

 間違いない。
 彼女はマイクラの申し子だ。
 私やゆき先輩なんかじゃ逆立ちしたって敵わない。
 天性のセンスを持っている。

 少しマイクラの知識がある程度で天狗になっていた。
 私は心からの賞賛をニーナちゃんに伝えようとして――。

『vanira: oh! neena! you are geeneus!』

 スペル間違いまくりのテキストチャットを送ってしまうのだった。

 いや、使いませんやん。
 天才(genius)なんて。
 響きを覚えてただけえらいですやん。

 ただ、言語の壁を向こうから越えてくるニーナちゃん。
 彼女は、私のパッションイングリッシュ(勢いだけの英語)にもう慣れたしたらしく、ぴょんぴょんとその場で跳ねるのだった。

『neena: thx!』

『vanira: oh! very very thx! I love you neena!』

 調子に乗ってさらにテキストチャットオを送る私。
 まぁけど、これは流石に大丈夫。
 私の感謝は伝わったはずだ。

 すると――。

「はにゃん? どうしたのニーナちゃん、そんなもじもじして?」

 私の思惑とは裏腹に、これまでで一番長い沈黙が私たちを襲った。
 もじもじして後ろに下がるニーナちゃんのアバター。

 あれ?
 なんか間違ってた?

『neena: vanira senpai ... we are girls ... OK?』

『vanira: OK! OK! I'm very very cute rabit girl!』

『neena: umm...OK! what should i call you?』

(なんて呼べば良いって聞かれたんだろうなこれ。ここは、親しみをこめて名前で呼んでもらった方がいいよね……)

『vanira: vanira is OK!』

『neena: NO! NONONO! I'm afraid!』

(なんか嫌がってる? まぁ、先輩を呼び捨てにするのは気が引けるか?)

 先輩から後輩の呼び方は自由だけれど、後輩から先輩への呼び方は難しい。
 美月さんとの百合営業でさんざん弄られてるから分かる。

 それだけに気負わずに使える、呼び方を提示してあげたい。
 あだ名呼びや「さん」や「ちゃん」、「先輩」付けというのはなんか嫌だ。
 せっかく仲良くなっただの、特別感がありつつ、気負わないのがいい。

 なにかいい愛称はないだろうか?

 その時、私の頭に稲妻のようにアイデアが降ってきた。
 マイクラの天才を囲い込み、呼称問題も解決する、画期的なアイデアが――。

『vanira: neena! do you join vanira kensetsu?』

『neena: vanira kensetsu? What is that?』

『vanira: vanira kensetsu is building company! many many house make and show!』

『neena: wow...I just wanted to do it too!』

『vanira: hey neena! vanira kensetsu syacho is vanira! OK?』

『neena: OK!』

『vanira: you call me "syacho!"』

『neena: OK! vanira syacho!』

 マイクラ内で建築会社を設立するのだ。
 そして、その社長にばにーらが就任してしまえばいい。
 そうすればニーナちゃんは私のことを「社長!」と役職で呼べるようになる。

 まさに悪魔的発想!
 冴えに冴えた自分の知恵に恐ろしくなる!
 おまけにニーナちゃんに仕事と称してコラボができる!
 ついでに、便利なお洒落な施設も建ててもらえる!

 素晴らしいアイデアに、私は心の中で自分に拍手を送った。
 そして、DStars公式マイクラサーバーの覇権を握ったと確信した。

『neena: syacho! syacho! syacho!』

『vanira: OK OK neena I am syacho vanira kawasaki.』

『neena: vanira syacho! I Love you too!』

「ただ、面と向かって好きっていわれるのは、ちょっと照れるバニな」

 かくして、私は頼もしい外国人後輩とのコネを手に入れたのだった――。

☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

 英語できないと本当にたいへんですよね。(白目)
 高専出ているので英語と独語は習ったはずなのですが、Google先生(翻訳)に頼りっぱなしの僕です。ちなみに上の会話は、まぁノリで分かるやろと書いてます。
 分かるよね……?(バニラが無自覚に、ニーナに告白しちゃってるのとか)

 後輩に対して無自覚ハーレムムーブをするばにら、そういう所やぞ――と、思った方は、感想&評価のほどよろしくお願いいたします。m(__)m
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合系サキュバスにモテてしまっていると言う話

釧路太郎
キャラ文芸
名門零楼館高校はもともと女子高であったのだが、様々な要因で共学になって数年が経つ。 文武両道を掲げる零楼館高校はスポーツ分野だけではなく進学実績も全国レベルで見ても上位に食い込んでいるのであった。 そんな零楼館高校の歴史において今まで誰一人として選ばれたことのない“特別指名推薦”に選ばれたのが工藤珠希なのである。 工藤珠希は身長こそ平均を超えていたが、運動や学力はいたって平均クラスであり性格の良さはあるものの特筆すべき才能も無いように見られていた。 むしろ、彼女の幼馴染である工藤太郎は様々な部活の助っ人として活躍し、中学生でありながら様々な競技のプロ団体からスカウトが来るほどであった。更に、学力面においても優秀であり国内のみならず海外への進学も不可能ではないと言われるほどであった。 “特別指名推薦”の話が学校に来た時は誰もが相手を間違えているのではないかと疑ったほどであったが、零楼館高校関係者は工藤珠希で間違いないという。 工藤珠希と工藤太郎は血縁関係はなく、複雑な家庭環境であった工藤太郎が幼いころに両親を亡くしたこともあって彼は工藤家の養子として迎えられていた。 兄妹同然に育った二人ではあったが、お互いが相手の事を守ろうとする良き関係であり、恋人ではないがそれ以上に信頼しあっている。二人の関係性は苗字が同じという事もあって夫婦と揶揄されることも多々あったのだ。 工藤太郎は県外にあるスポーツ名門校からの推薦も来ていてほぼ内定していたのだが、工藤珠希が零楼館高校に入学することを決めたことを受けて彼も零楼館高校を受験することとなった。 スポーツ分野でも名をはせている零楼館高校に工藤太郎が入学すること自体は何の違和感もないのだが、本来入学する予定であった高校関係者は落胆の声をあげていたのだ。だが、彼の出自も相まって彼の意志を否定する者は誰もいなかったのである。 二人が入学する零楼館高校には外に出ていない秘密があるのだ。 零楼館高校に通う生徒のみならず、教員職員運営者の多くがサキュバスでありそのサキュバスも一般的に知られているサキュバスと違い女性を対象とした変異種なのである。 かつては“秘密の花園”と呼ばれた零楼館女子高等学校もそういった意味を持っていたのだった。 ちなみに、工藤珠希は工藤太郎の事を好きなのだが、それは誰にも言えない秘密なのである。 この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」「ノベルバ」「ノベルピア」にも掲載しております。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

AV研は今日もハレンチ

楠富 つかさ
キャラ文芸
あなたが好きなAVはAudioVisual? それともAdultVideo? AV研はオーディオヴィジュアル研究会の略称で、音楽や動画などメディア媒体の歴史を研究する集まり……というのは建前で、実はとんでもないものを研究していて―― 薄暗い過去をちょっとショッキングなピンクで塗りつぶしていくネジの足りない群像劇、ここに開演!!

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

学園の美人三姉妹に告白して断られたけど、わたしが義妹になったら溺愛してくるようになった

白藍まこと
恋愛
 主人公の花野明莉は、学園のアイドル 月森三姉妹を崇拝していた。  クールな長女の月森千夜、おっとり系な二女の月森日和、ポジティブ三女の月森華凛。  明莉は遠くからその姿を見守ることが出来れば満足だった。  しかし、その情熱を恋愛感情と捉えられたクラスメイトによって、明莉は月森三姉妹に告白を強いられてしまう。結果フラれて、クラスの居場所すらも失うことに。  そんな絶望に拍車をかけるように、親の再婚により明莉は月森三姉妹と一つ屋根の下で暮らす事になってしまう。義妹としてスタートした新生活は最悪な展開になると思われたが、徐々に明莉は三姉妹との距離を縮めていく。  三姉妹に溺愛されていく共同生活が始まろうとしていた。 ※他サイトでも掲載中です。

コンプレックス

悠生ゆう
恋愛
創作百合。 新入社員・野崎満月23歳の指導担当となった先輩は、無口で不愛想な矢沢陽20歳だった。

とある高校の淫らで背徳的な日常

神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。 クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。 後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。 ノクターンとかにもある お気に入りをしてくれると喜ぶ。 感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。 してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

処理中です...