VTuberなんだけど百合営業することになった。

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第7章 だっだっだ うぉおぉ 大乱闘! スマッシュDスターズ

第51話 曝かれたのは……?(前編)

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「いやぁー、なかなかやるじゃない! ばにらちゃん、うみちゃん! 僕を相手に格闘ゲームで勝つなんて! おめでとう!」

「ありがとうございます! ぶっちゃけ、勝てると思ってませんでした! 今回の勝利は――ばにらと私の愛が起こした軌跡です!」

「気持ち悪いこと言うんじゃねえ! けど、本当に勝ててよかったバニです! 負けたら、どんな罰ゲームをさせられたかと思うと――!」

「罰ゲーム? そんなものはないよ?」

「「……はい?」」

「今日は可愛い後輩とずんさんで楽しくゲームするだけの配信だから。別に『負けた方が罰ゲームね?』とか約束してないでしょ?」

「いやけど、ほら、お約束的に」

「ばにらちゃん? お約束は……破るから面白いんじゃないか!(満面の笑み)」

「……こんの泥棒猫!!!!」

「にゃはははははは!!!!」

 こんだけの熱戦を繰り広げて罰ゲームなし。
 まさかの「ただゲームして終わり」というオチで『初代スマブラ対決コラボ』は幕を閉じた。

 リスナーから文句を言われると思ったが、「負けて罰ゲームを言い出さないのがりんごらしい」「勝ってたら言ってた」「詐欺のテクニックよ」と好評であった。

 解せぬ。

 釈然としないものがあったが、まぁ実害がないならそれでよし。
 まったく活躍できなかった美月さんを軽く元気づけて、「またこの四人でコラボしようね!」と約束すると配信を終えた。

 りんご先輩の配信終了画面が液晶テレビに流れる。
 サブPCでライブ配信が終了になったのを確認し、私たちは揃って溜息を吐いた。

 手に汗握る激闘に疲労困憊だ。
 こうなると甘い物で栄養補給がしたい。
 うみが買って来たチーズケーキをりんご先輩が切るというので、配信終了後の反省会も兼ねて軽いお茶会をすることになった。

 りんご先輩と一緒に私もキッチンに立つ。
 彼女がチーズケーキを器用に切り分ける横で、私は美月さん愛用のティーポットで四人分の紅茶を淹れた。

「へぇ、ばにらちゃん、紅茶淹れるの上手だね? どこで習ったの?」

「紅茶なんて習うもんじゃないでしょ? バカにしてます?」

「してないしてない! も~、なんでそんなにツンケンするの? 僕はただ、ばにらちゃんともっと仲良くなりたいだけなのに~!」

 仲良くなりたい相手を自分の土俵でボコろうとします?

 どうにも信用ならない先輩を私は睨む。すると、銀髪の王子様は「まいったな」と手を挙げて降参のポーズをとった。ただ、顔は相変わらず満面の笑顔で。

 本当にうさんくさい先輩だ。
 今日のコラボも何が目的だったんだ。
 配信終了しても彼女の腹の内はさっぱり分からない。

 ケーキを4皿と紅茶を4カップ。
 私とりんご先輩でダイニングキッチンのテーブルへと運ぶ。
 うみが気を利かして配信機材を片づけてくれたので、すぐに私たちは彼女の手土産に向かって手を合わせた。

「あ、美味しい。素朴な味でいいわね、このチーズケーキ」

「大阪の味ですからね。委員長は関西に行ったら『りくろーおじさんの焼きたてチーズケーキ』と『551の肉まん』は必ず買って帰りますね」

「いいねー! 『551の肉まん』! そっちはなんで買って来なかったの?」

「いや、なんでって……ずんだ先輩には似合わないでしょ『551の肉まん』!」

「そんなことないよね~? ねぇ、ずんさん?」

「私は肉まんよりあんまんの方が好きかなぁ……」

 美月さんてばまた見栄を張ってる。
 ロカボダイエットとか言って甘い物を控えてるくせに。
 そのくせ「コンビニでするめやカルパスって買いづらいのよね。花楓が買って来てくれるからほんと助かるわ」って、宅呑みのたびに私におつまみ頼むくせに。

 ほんとこの世は嘘ばかり。
 私のじとっとした視線に『氷の女王』が、ほんのり顔を赤らめた。

「あら、これ底にレーズンが入ってるのね。ばにら、レーズン食べられたっけ?」

「……本当だ!」

「仕方ないわねぇ。ほら、食べてあげるから寄こしなさい」

「すみません。それじゃお言葉に甘えて……」

 言われてチーズケーキの底にレーズンが入っていることに気づく。
 あの独特の渋みが苦手な私は、おつまみやお菓子に出てくると、美月さんに食べてもらっている。食べる前に気が付いてよかった。
 私はケーキの底をスプーンでこそぎ、レーズンを美月さんのお皿に移す――。

 すると、なぜかうみが青い顔をした。
 逆にりんご先輩は、によによと笑顔を浮かべている。

 なに?
 私たち、なにかしました?

「え、ばにらさんちょっと?」

「どうしたのうみ? そんなドン引きするような顔して?」

「いやいやいや! なにをずんだ先輩に、ナチュラルにレーズン食べさせてんの! お前それ、仲の良いカップルの『無自覚イチャコラ』やぞ?」

「なに言ってるバニか。これくらい別に普通じゃないバニか。ねぇ、ずんだ先輩?」

 すぐ、美月さんに同意を求めたが返事がない。
 りんご先輩に睨まれた彼女は、額から汗を流して白目を剥いている。
 その表情でようやく私も自覚した。

 やっちまった――!

 たしかにうみの言う通り。
 これ、カップルの『無自覚イチャコラ』だ。

「ふーん、ずんさんてば、ばにらちゃんの嫌いなものまで知ってるんだ? 随分と仲がいいんだね? しかも、代わりにたべてあげるなんて……や~さ~し~い~!」

「違うの! いただいたお土産を残すのは勿体ないから!」

「打ち上げでもいろいろお世話してたよね? からあげにレモンかけないとか、たこ焼きにはマヨネーズかけるとか? 随分ばにらちゃんに詳しいよね? いつの間に、ばにらちゃん博士になっちゃたのかなぁ?」

「ほ、本当にこれはその……!」

 助けを求める視線が美月さんから飛んでくる。
 求められても困るけど、涙目テンパり状態の先輩を放っておけない。

 というか、これ普通にまずい奴では?
 百合営業以上のお付き合いがバレちゃう奴では?
 あと、美月さんとの関係について相談しているうみが、ドン引きしているってことは、「ちょっと仲良い先輩・後輩」では説明つかない内容なのでは?

 嫌いな食べ物を食べてあげくるくらい普通じゃないの?
 百合的にガチな行為だったの?
 教えて――百合に詳しい人!

 どんどんと緊迫するダイニングキッチンの空気。
 青ざめていくずんだ先輩の顔色。

 今は狼狽えている場合じゃない。
 必死に言い訳を考えた私は――。

「ま、前にばにらが配信で言ってたのを覚えていてくれたんバニな! 流石はずんだ先輩! 百合営業相手のことをちゃんと把握してる!」

「そ、そうそう! そうだったよね! 前に自己紹介番組だったか、三期生のクイズ番組で言ってたものね! それを思い出して――ついやちゃったのよ!」

 百合営業相手のプロフィールくらい当然知っていると誤魔化そうとした。

「いや! そうじゃないんだワ! 『嫌いなものを食べてあげる』っていう行動が、ガチ百合なんだワ! てぇてぇなんだわ!」

「百合営業相手でも――嫌いなものを食べてあげるなんてしないと思うなぁ~?」

 違った。
 本当に誤魔化さなくちゃいけないのはそっちじゃなかった。
 ナチュラルに「嫌いなものを相手にゆずった&もらった」方だった。

 これほんと、どうやって誤魔化すんだ?
 詰んだんじゃねぇ?

 背筋を冷たいものが走る中、りんご先輩が私に向かって微笑んだ――気がした。

☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

 うみの前で曝かれたずんだとの関係。
 ビジネス百合ということにして、ちょっと重ための感情をほのめかしてきましたが、ここまで百合が進行していたとは――と絶句する、センシティブ委員長。
 そしてほくそえむ泥棒猫。

 しかしまだこれ前編なのよね。まだまだ、DStarsの黒幕がしかけた罠がばにらたちを襲う――「ばにら、強く生きて!」と思った方は、ぜひぜひ評価のほどよろしくお願いいたします。m(__)m
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