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第5章 届け! これがVTuberの全てをこめた「クリア耐久配信」だ!
第31話 いつか川崎ばにらを倒すVTuber! その名は……八丈島うみ!(後編)
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「はい! というわけで、夏の夜にこんばんわ! 貴方の乙姫! ザ・ビューティフルガールこと、遭難系崖っぷちVTuberの八丈島うみです!」
「あ、どうも、こんばにー。うみの同期のばにらです」
「どうした元気ないぞばにら! 腹から声出してけ! そんなんじゃ、まだ新人マークは外してあげられないわよ! お給料も試用期間になっちゃうわよ!」
「なんですバニこのノリ」
コンビニでのうみとの話し合いから数十分後。
私はなぜかうみのマンションにいた。
築25年。6階建ての最上階。3LDK。総面積20坪はある高級マンション。
都内で暮らすファミリー向け物件。そこを、一つが配信部屋、一つがオタ活部屋、一つが寝室という、かなり豪勢な使い方をしている。
しかも賃貸ではない。
前の会社を辞める直前にローンを組んで買ったらしい。
そして、ローンの返済のために、うみは必死こいて配信している。
企業案件に積極的なのも、愚痴りながらも上に逆らわないのもそれが理由。
こいつを間近で見てるから、高い部屋を借りたくないんだよなぁ――。
そんなうみの配信部屋。
チェック柄のカーペットが敷かれたそこで、私たちはパソコンに向かっていた。
「今日は突発『うみばにちゃん』でございます。ちなみにオフコラボ。ばにらちゃんが、うみちゃんハウスに来てくれております」
「いや、急に連れてこられて困ってるバニですけど」
「最近ばにらってば、うみに冷たいの。デビュー当時はあんなに隣でイチャイチャしてたのに。最近では近づいても来てくれない」
「いやいや、立ち位置が近かっただけバニでしょ」
「しかも、ずんだ先輩やうさぎと突発コラボしてるのよ。ひどくない。ねぇ、ばにら、『うみばにちゃん』の絆はいったいどうしちゃったの?」
「その『うみばにちゃん』て言うのも、今日はじめて聞くバニよ」
「委員長、真剣に考えました。どうしたら、ばにらとの絆を取り戻せるのか。やはりレトロゲーしか勝たん。ずんだ先輩との熱いマリオ耐久に、涙腺きゅるるんときた私は、これはばにらと併走耐久やらなくちゃと思ったわけでございますよ」
「どうしてそうなるバニか……」
「というわけで、はい、本日の併走ゲームはドン! こちら!」
置かれたのは2台の小さなゲーム機。
ミニファミコンじゃないのは分かる。
スーファミだろうか。
「こちらにご用意いたしましたわ、昭和が生んだスーパーゲーム機、PCエンジン! そのミニ版でございます!」
「へー、こういうのもあるバニなんな」
「思えばこの頃のハード戦争は熱かった。PCエンジン(NEC)、スーパーファミコン(任天堂)、メガドライブ(SEGA)という三つ巴の戦い。先陣切って現れたのがPCエンジン。脅威のグラフィックに当時のちびっ子たちはおったまげ。え、当時をご存じのように語るって――と、お母たんが、いってまちたー! 委員長は17歳だからよく分かんなーい!」
「熱い説明から露骨にぼかしにきたバニじゃん」
「そんなPCエンジンを小さくして名作ゲームを収録したのがこのハード」
「これもミニファミコンみたいなゲーム機ってことバニね」
「そして、この中には――ななな、なんと! シューティングゲームの名作として、知られるとあるゲームが収録されているのですよ、ばにらさん!」
「名作ゲームは気になるバニな! いったいなんてゲームバニ?」
「ずばり! 『超兄貴』です!」
「……『超兄貴』?」
それは本当にゲームの名前なのか?
インパクトのあるタイトルで私は我に返る。
数十分前まで「ずんだ先輩を傷つけてしまった」と思い悩んでいたのに、普通に配信者として振る舞う自分に少し驚愕していた。
けど、今は流れにまかせよう。
変にあれこれ考えて苦しくなるよりはマシだ。
私はうみからの挑戦を受けることにした。
「ずんだ先輩が1時間併走。うさぎが1時間罰ゲーム。ときたら、やっぱり私も1時間縛りで勝負をするべきかなぁと思うわけですが」
「わけですが?」
「私たち『うみばにちゃん』の絆は、1時間では語れないよね?」
「いや、語れる語れる。1時間で語ってやるバニよ」
「ということで! 今回の勝負は『超兄貴』クリア耐久! どちらかが『ボ帝ビル』に勝つまで、配信終れま10でございます!」
「嘘バニでしょ⁉」
そして後悔した。
クリア耐久は聞いてない。
一度もやったことのない、しかも苦手なシューティングゲーム。
それをクリアするまで終われないって地獄企画じゃないか。
間違いなく面白いけれど。
流石に私も隣のうみを見返す。
嘘だよねと目で訴えかけたがその表情は変わらない。
どころか、ヘアゴムでぴしっと髪をまとめて本気モードだ。
あれだけラジオでしゃべくり倒したあとに、クリア耐久配信とかお前どんだけ化け物みたいな体力してるんだよ。
「嘘じゃないよ。これくらいやらなきゃさ、やっぱりコラボは撮れ高出ないわけよ。それに1時間だけ頑張った程度じゃ、アンタの思いはきっと伝わらないよ」
「……どういう意味バニ?」
不敵に笑ってうみがコントローラーを握る。
「あとね――ばにら、お前のことが前々から気に食わなかったんだよ!」
そして、突然キレた。
理不尽になんの脈絡もなくキレた。
「いつも私の前に立ち塞がりやがって! こちとらお前の後塵を拝むのに、いいかげんうんざりしてんだよ! しかも、一人だけ金盾達成しやがって!」
「いや、まぁ、そこは、うみも頑張ってもろて」
「上から目線、氏ねえぇぇえええ! 3期生の代表みたいな顔すんじゃねえ! そこは委員長の私の場所じゃろがい! そこは本来、私の席だったはずじゃろがい! 違うんか! 言うてみろやぁああああああ!」
「おめーみてーなのに、3期生の舵取りやらせたら遭難しちまうバニ!」
「はい、というわけでね。いつか川崎ばにらを倒すVTuber! その名は……八丈島うみ! 覚えて帰っていただければと思います!」
「おめーのチャンネルだろここ!」
「はい、右側が委員長、左側がばにらで、クリア耐久レッツビギンでございます!」
「はぁーもう、やるしかないバニなんな」
うみの思惑はさっぱり分からない。
これでずんだ先輩との関係がどうなるとも思えない。
けれど、やると決めたからには、VTuberは戦わなければならなかった。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
センシティブお姉たん大暴れ。
はたして彼女の思惑とは。
配信と二人の行く末が気になる方は、どうか評価お願いいたします。m(__)m
「あ、どうも、こんばにー。うみの同期のばにらです」
「どうした元気ないぞばにら! 腹から声出してけ! そんなんじゃ、まだ新人マークは外してあげられないわよ! お給料も試用期間になっちゃうわよ!」
「なんですバニこのノリ」
コンビニでのうみとの話し合いから数十分後。
私はなぜかうみのマンションにいた。
築25年。6階建ての最上階。3LDK。総面積20坪はある高級マンション。
都内で暮らすファミリー向け物件。そこを、一つが配信部屋、一つがオタ活部屋、一つが寝室という、かなり豪勢な使い方をしている。
しかも賃貸ではない。
前の会社を辞める直前にローンを組んで買ったらしい。
そして、ローンの返済のために、うみは必死こいて配信している。
企業案件に積極的なのも、愚痴りながらも上に逆らわないのもそれが理由。
こいつを間近で見てるから、高い部屋を借りたくないんだよなぁ――。
そんなうみの配信部屋。
チェック柄のカーペットが敷かれたそこで、私たちはパソコンに向かっていた。
「今日は突発『うみばにちゃん』でございます。ちなみにオフコラボ。ばにらちゃんが、うみちゃんハウスに来てくれております」
「いや、急に連れてこられて困ってるバニですけど」
「最近ばにらってば、うみに冷たいの。デビュー当時はあんなに隣でイチャイチャしてたのに。最近では近づいても来てくれない」
「いやいや、立ち位置が近かっただけバニでしょ」
「しかも、ずんだ先輩やうさぎと突発コラボしてるのよ。ひどくない。ねぇ、ばにら、『うみばにちゃん』の絆はいったいどうしちゃったの?」
「その『うみばにちゃん』て言うのも、今日はじめて聞くバニよ」
「委員長、真剣に考えました。どうしたら、ばにらとの絆を取り戻せるのか。やはりレトロゲーしか勝たん。ずんだ先輩との熱いマリオ耐久に、涙腺きゅるるんときた私は、これはばにらと併走耐久やらなくちゃと思ったわけでございますよ」
「どうしてそうなるバニか……」
「というわけで、はい、本日の併走ゲームはドン! こちら!」
置かれたのは2台の小さなゲーム機。
ミニファミコンじゃないのは分かる。
スーファミだろうか。
「こちらにご用意いたしましたわ、昭和が生んだスーパーゲーム機、PCエンジン! そのミニ版でございます!」
「へー、こういうのもあるバニなんな」
「思えばこの頃のハード戦争は熱かった。PCエンジン(NEC)、スーパーファミコン(任天堂)、メガドライブ(SEGA)という三つ巴の戦い。先陣切って現れたのがPCエンジン。脅威のグラフィックに当時のちびっ子たちはおったまげ。え、当時をご存じのように語るって――と、お母たんが、いってまちたー! 委員長は17歳だからよく分かんなーい!」
「熱い説明から露骨にぼかしにきたバニじゃん」
「そんなPCエンジンを小さくして名作ゲームを収録したのがこのハード」
「これもミニファミコンみたいなゲーム機ってことバニね」
「そして、この中には――ななな、なんと! シューティングゲームの名作として、知られるとあるゲームが収録されているのですよ、ばにらさん!」
「名作ゲームは気になるバニな! いったいなんてゲームバニ?」
「ずばり! 『超兄貴』です!」
「……『超兄貴』?」
それは本当にゲームの名前なのか?
インパクトのあるタイトルで私は我に返る。
数十分前まで「ずんだ先輩を傷つけてしまった」と思い悩んでいたのに、普通に配信者として振る舞う自分に少し驚愕していた。
けど、今は流れにまかせよう。
変にあれこれ考えて苦しくなるよりはマシだ。
私はうみからの挑戦を受けることにした。
「ずんだ先輩が1時間併走。うさぎが1時間罰ゲーム。ときたら、やっぱり私も1時間縛りで勝負をするべきかなぁと思うわけですが」
「わけですが?」
「私たち『うみばにちゃん』の絆は、1時間では語れないよね?」
「いや、語れる語れる。1時間で語ってやるバニよ」
「ということで! 今回の勝負は『超兄貴』クリア耐久! どちらかが『ボ帝ビル』に勝つまで、配信終れま10でございます!」
「嘘バニでしょ⁉」
そして後悔した。
クリア耐久は聞いてない。
一度もやったことのない、しかも苦手なシューティングゲーム。
それをクリアするまで終われないって地獄企画じゃないか。
間違いなく面白いけれど。
流石に私も隣のうみを見返す。
嘘だよねと目で訴えかけたがその表情は変わらない。
どころか、ヘアゴムでぴしっと髪をまとめて本気モードだ。
あれだけラジオでしゃべくり倒したあとに、クリア耐久配信とかお前どんだけ化け物みたいな体力してるんだよ。
「嘘じゃないよ。これくらいやらなきゃさ、やっぱりコラボは撮れ高出ないわけよ。それに1時間だけ頑張った程度じゃ、アンタの思いはきっと伝わらないよ」
「……どういう意味バニ?」
不敵に笑ってうみがコントローラーを握る。
「あとね――ばにら、お前のことが前々から気に食わなかったんだよ!」
そして、突然キレた。
理不尽になんの脈絡もなくキレた。
「いつも私の前に立ち塞がりやがって! こちとらお前の後塵を拝むのに、いいかげんうんざりしてんだよ! しかも、一人だけ金盾達成しやがって!」
「いや、まぁ、そこは、うみも頑張ってもろて」
「上から目線、氏ねえぇぇえええ! 3期生の代表みたいな顔すんじゃねえ! そこは委員長の私の場所じゃろがい! そこは本来、私の席だったはずじゃろがい! 違うんか! 言うてみろやぁああああああ!」
「おめーみてーなのに、3期生の舵取りやらせたら遭難しちまうバニ!」
「はい、というわけでね。いつか川崎ばにらを倒すVTuber! その名は……八丈島うみ! 覚えて帰っていただければと思います!」
「おめーのチャンネルだろここ!」
「はい、右側が委員長、左側がばにらで、クリア耐久レッツビギンでございます!」
「はぁーもう、やるしかないバニなんな」
うみの思惑はさっぱり分からない。
これでずんだ先輩との関係がどうなるとも思えない。
けれど、やると決めたからには、VTuberは戦わなければならなかった。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
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