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第3章 【運営案件】レトロゲータッグマッチ選手権!
第14話 古のヲタVTuber、炎上する(前編)
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併走コラボから一夜が明けた。
いつものように昼過ぎに布団を出た私は寝ぼけ眼をさすりながらキッチンに立つ。
そして――冷蔵庫の中身が空なのに気づいてあわててスーパーに走った。
朝食は水一杯。
よくスーパーまで行けたと思う。
牛乳と生卵とソーセージ。
食パンにジャム。
レンジでチンして温めるごはん。
ツナ缶と鮭フレーク。袋入りちりめん。
インスタントのお味噌汁とポタージュスープ。
ついでに鰹節(小分けタイプ)も。
空腹のお腹が求めるまま食料品をあさってレジに向かう。
お会計を済ましてから生活力のなさが現れた籠の中身にちょっと引いた。
いいんだ。
お弁当を買わないだけ勝ち組だ。
エコバッグを揺らして家に戻ると時刻は13時過ぎ。
さっそく昼食の準備に取りかかる。
スクランブルエッグとボイルソーセージ。トースターでこんがり焼いた食パン。
食パンを包丁で半分に切るとそこに具材を挟み込む。たっぷりとケチャップとマヨネーズ、イエローマスタードでジャンクな味つけにする。
特製トーストサンドとコップ一杯の牛乳を持って、私はキッチン前から部屋の中央の座卓――「川崎ばにら」の配信設備の前に移動した。
「あぁ、そう言えば、昨日の配信のチェックを忘れてた」
行儀が悪いのを承知でパソコンを起動する。
スリープモードにしてあったおかげですぐにパソコンは立ち上がる。開きっぱなしのブラウザで、私はYouTubeの新着動画をあさった。
トーストを囓りながら、新着動画の内容・再生数・配信時間をチェックする。
全部を見ている暇はないので、気になるものは「切り抜き動画」で内容を確認。良い数字が出ている動画はスキップして流し見する。
地味だが配信業には大切な作業。
今「何が流行っているのか?」を知っているのは配信者にとって重要なのだ。
それが分からずに配信で「数字」を出すことはできない。
特に私のようなゲーム配信者にとっては死活問題。
早すぎず、遅すぎない、ちょうどいいタイミングで話題作をプレイする。
ゲーム配信者は優れた戦略眼を持たねばならないのだ――。
「PCはチラズアートさんの新作ホラゲの挙動がいいなぁ。据え置きゲーは『FALL GUYS』『Ring Fit Adventure』か。『Among us』も知名度を上げてきてるけど――あれは人数が必要だからなぁ」
ふと「ヒカキン」さんのマイクラ配信を私は再生する。
子供たちの人気者。
日本のYouTuberの代表と言っていい「ヒカキン」さん。
彼の配信は私も参考にしている。
特に彼のマイクラ配信には、私も憧れを抱いていた――。
「こういう配信を私もしたいなぁ」
ふと、ブラウザを最小化して私はデスクトップを眺める。
2列目、一番下に置かれている土ブロックのアイコン。
タイトルは「Minecraft」。
私のPCにはJava版のマイクラが既にインストールしてある。
多くのゲームと異なりマイクラは配信許可を申請する必要がない。収益の有無も関係なく、思い立ったらすぐプレイ動画を配信できる。
やろうと思えばできる。
だが――そこは企業所属のVTuber。
勝手にマイクラ配信ができない事務所の事情があった。
「そう言えば、ゆき先輩、謹慎中はなにしているんだろう?」
パサついた口の中を牛乳で潤しながら、私はおもむろにマイクラを起動した。
サーバーの中から「DStars Server」を選択すると、世界環境が構築されるのを待つ。
しばらくすると、正方形のブロックで構成された世界が目の前に広がった。
案の定、そこに先輩はいた。
ゲーム画面にその姿は確認できない。
しかし、ログインユーザーの一覧に「yuki」の名前があったのだ。
『vanira : konvani!』
配信の挨拶をマイクラのチャットにタイプする。
5秒と待たず返信がきた。
『yuki : unyuxu!』
ゆき先輩のお決まりの挨拶だ。
『yuki : gomen! ima doukutu dakara sugu ikenai!』
『vanira : daijoubu. mondai nai.』
『yuki : kyouha doushita?』
『vanira : yuki senpai irukana tte.』
ゆき先輩からの返事を待たず私は続きをタイプする。
『vanira : ima discord daijoubu desu?』
しばらくすると最小化していたDiscordに着信が入る。
PC筐体の上に置いたヘッドセットを頭につけて私は通話に出た。
「うにゅ! ゆきだよ!」
「こんにちは。ゆき先輩」
「どしたばにら。開発中のマイクラサーバーに入ってきて」
「いや、ゆき先輩がいるかなと思って」
「あはははは。ゆきを探してこんな所まで来たのか。相変わらず、ゆき離れができん奴だなぁ。そんなんだから金盾配信で恥をかくんだぞ?」
「その節は、ご迷惑をおかけしました、バニ」
「まぁ、なんとかなってよかったよかった」
ゆき先輩がDiscordで写真を送ってくる。
いつか訪れた、フィギュアまみれのポスターまみれ、ギャルゲ&エロゲまで混ざったオタ部屋で、彼女は元気そうにダブルピースをしていた。
DStars零期生。
年齢不詳。年齢を公表しているぽめら先輩よりもおそらく年上。
古兵にして筋金入りの女オタク先輩は、炎上を少しも気にしていない様子だ。
それが危なっかしくもあり頼もしくもある。
「というか、なんで謹慎中なのに遊んでるんですか!」
「遊んでるんじゃない! これはデバッグ! 今度やろうとしてる、DStarsのマイクラ配信サーバの動作チェック!」
「いや、鉱石集めてただけでしょ」
「そうとも言う。って、ちょっと待ってクリーパーが!」
「ちょっ、大丈夫ですか、ゆき先輩!」
「くんな! くんなお! ちょっ、やばっ――マグマブロック!」
「ゆき先輩ぁい!!!!」
「あっちゅ! あっちゅあっちゅ! わわっ、クリーパーお前! マグマブロックに飛び込んでくんな! あっ、あっ、やぁーーーーーーっ!」
耳に響くゆき先輩の断末魔。
マイクラに表示される「yukiはクリーパーに爆破された」の文字。
阿鼻叫喚。容赦のない台パンの音。
それから、少し遅れてゆき先輩が鼻水を啜った――。
「うぅっ、ゆきのダイヤ装備がぁ……! また全ロスしたぁ……!」
「どんまいバニ」
「くそがよぉ……!」
いつものように昼過ぎに布団を出た私は寝ぼけ眼をさすりながらキッチンに立つ。
そして――冷蔵庫の中身が空なのに気づいてあわててスーパーに走った。
朝食は水一杯。
よくスーパーまで行けたと思う。
牛乳と生卵とソーセージ。
食パンにジャム。
レンジでチンして温めるごはん。
ツナ缶と鮭フレーク。袋入りちりめん。
インスタントのお味噌汁とポタージュスープ。
ついでに鰹節(小分けタイプ)も。
空腹のお腹が求めるまま食料品をあさってレジに向かう。
お会計を済ましてから生活力のなさが現れた籠の中身にちょっと引いた。
いいんだ。
お弁当を買わないだけ勝ち組だ。
エコバッグを揺らして家に戻ると時刻は13時過ぎ。
さっそく昼食の準備に取りかかる。
スクランブルエッグとボイルソーセージ。トースターでこんがり焼いた食パン。
食パンを包丁で半分に切るとそこに具材を挟み込む。たっぷりとケチャップとマヨネーズ、イエローマスタードでジャンクな味つけにする。
特製トーストサンドとコップ一杯の牛乳を持って、私はキッチン前から部屋の中央の座卓――「川崎ばにら」の配信設備の前に移動した。
「あぁ、そう言えば、昨日の配信のチェックを忘れてた」
行儀が悪いのを承知でパソコンを起動する。
スリープモードにしてあったおかげですぐにパソコンは立ち上がる。開きっぱなしのブラウザで、私はYouTubeの新着動画をあさった。
トーストを囓りながら、新着動画の内容・再生数・配信時間をチェックする。
全部を見ている暇はないので、気になるものは「切り抜き動画」で内容を確認。良い数字が出ている動画はスキップして流し見する。
地味だが配信業には大切な作業。
今「何が流行っているのか?」を知っているのは配信者にとって重要なのだ。
それが分からずに配信で「数字」を出すことはできない。
特に私のようなゲーム配信者にとっては死活問題。
早すぎず、遅すぎない、ちょうどいいタイミングで話題作をプレイする。
ゲーム配信者は優れた戦略眼を持たねばならないのだ――。
「PCはチラズアートさんの新作ホラゲの挙動がいいなぁ。据え置きゲーは『FALL GUYS』『Ring Fit Adventure』か。『Among us』も知名度を上げてきてるけど――あれは人数が必要だからなぁ」
ふと「ヒカキン」さんのマイクラ配信を私は再生する。
子供たちの人気者。
日本のYouTuberの代表と言っていい「ヒカキン」さん。
彼の配信は私も参考にしている。
特に彼のマイクラ配信には、私も憧れを抱いていた――。
「こういう配信を私もしたいなぁ」
ふと、ブラウザを最小化して私はデスクトップを眺める。
2列目、一番下に置かれている土ブロックのアイコン。
タイトルは「Minecraft」。
私のPCにはJava版のマイクラが既にインストールしてある。
多くのゲームと異なりマイクラは配信許可を申請する必要がない。収益の有無も関係なく、思い立ったらすぐプレイ動画を配信できる。
やろうと思えばできる。
だが――そこは企業所属のVTuber。
勝手にマイクラ配信ができない事務所の事情があった。
「そう言えば、ゆき先輩、謹慎中はなにしているんだろう?」
パサついた口の中を牛乳で潤しながら、私はおもむろにマイクラを起動した。
サーバーの中から「DStars Server」を選択すると、世界環境が構築されるのを待つ。
しばらくすると、正方形のブロックで構成された世界が目の前に広がった。
案の定、そこに先輩はいた。
ゲーム画面にその姿は確認できない。
しかし、ログインユーザーの一覧に「yuki」の名前があったのだ。
『vanira : konvani!』
配信の挨拶をマイクラのチャットにタイプする。
5秒と待たず返信がきた。
『yuki : unyuxu!』
ゆき先輩のお決まりの挨拶だ。
『yuki : gomen! ima doukutu dakara sugu ikenai!』
『vanira : daijoubu. mondai nai.』
『yuki : kyouha doushita?』
『vanira : yuki senpai irukana tte.』
ゆき先輩からの返事を待たず私は続きをタイプする。
『vanira : ima discord daijoubu desu?』
しばらくすると最小化していたDiscordに着信が入る。
PC筐体の上に置いたヘッドセットを頭につけて私は通話に出た。
「うにゅ! ゆきだよ!」
「こんにちは。ゆき先輩」
「どしたばにら。開発中のマイクラサーバーに入ってきて」
「いや、ゆき先輩がいるかなと思って」
「あはははは。ゆきを探してこんな所まで来たのか。相変わらず、ゆき離れができん奴だなぁ。そんなんだから金盾配信で恥をかくんだぞ?」
「その節は、ご迷惑をおかけしました、バニ」
「まぁ、なんとかなってよかったよかった」
ゆき先輩がDiscordで写真を送ってくる。
いつか訪れた、フィギュアまみれのポスターまみれ、ギャルゲ&エロゲまで混ざったオタ部屋で、彼女は元気そうにダブルピースをしていた。
DStars零期生。
年齢不詳。年齢を公表しているぽめら先輩よりもおそらく年上。
古兵にして筋金入りの女オタク先輩は、炎上を少しも気にしていない様子だ。
それが危なっかしくもあり頼もしくもある。
「というか、なんで謹慎中なのに遊んでるんですか!」
「遊んでるんじゃない! これはデバッグ! 今度やろうとしてる、DStarsのマイクラ配信サーバの動作チェック!」
「いや、鉱石集めてただけでしょ」
「そうとも言う。って、ちょっと待ってクリーパーが!」
「ちょっ、大丈夫ですか、ゆき先輩!」
「くんな! くんなお! ちょっ、やばっ――マグマブロック!」
「ゆき先輩ぁい!!!!」
「あっちゅ! あっちゅあっちゅ! わわっ、クリーパーお前! マグマブロックに飛び込んでくんな! あっ、あっ、やぁーーーーーーっ!」
耳に響くゆき先輩の断末魔。
マイクラに表示される「yukiはクリーパーに爆破された」の文字。
阿鼻叫喚。容赦のない台パンの音。
それから、少し遅れてゆき先輩が鼻水を啜った――。
「うぅっ、ゆきのダイヤ装備がぁ……! また全ロスしたぁ……!」
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「くそがよぉ……!」
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