深窓の悪役令嬢~死にたくないので仮病を使って逃げ切ります~

白金ひよこ

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思い出したので仮病使う

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 たった一つの為だけに他の全てを犠牲にする。
 それはきっと凄いことで、普通の人には到底出来得ないことだ。世の中には両手に沢山抱えておきながら足元の宝石を拾おうとしゃがみ、手元からそれ以上を落としてしまう愚か者ばかりだから。
 だけどそんな生き方だって、愚かかもしれないけれど、虚しいとは思わない。私は。

 何故なら人類は”もっと”を求めて進化し栄えてきたようなものだから。生きるために、もっと楽に生きるために、便利に、他の人よりも有利に、そんな欲望が進化した生き物。猿と人を分けるのは見た目でも言語でも生物学上な何かでも数%しか変わらないDNAでもない。耐えることのない未知への欲望。これがなければ太古の昔、爪も牙もないホモ・サピエンスが生き残ってこれたはずがないのだ。
 逆に言えば現状に満足して停滞すれば人類は滅んでしまう。自然に打ち勝つために知恵を求めた生き物はもう二度と獣に戻ることは出来ない。もしも人類が自然のあらゆるものに対抗する術を持ち、いつしかそれが当たり前になり、誰も研究することも解明しようとすることもなくなってしまったとしたら、その地点を折り返しに人類は退化していくことだろう。そう、正にウェルズが綴ったタイム・マシンの未来のように。
 
 あれもこれも欲しいと駄々を捏ねる子供。きっと死ぬまでそうして生きていく。
 だけど時には、たった一つだけに全てを捧げる人がいる。その為に全てを捨てる人がいる。大局を見ろというのだろうか。少しずれているだろうか。だけど歴史の中を見ても、そう言う人が各地に実在したことは確かだ。どんなに違うと、ずれていると言われようと己を貫いた人がいる。誰に何を言われ、後ろ指を指され、笑われ、時には石を投げられようとも。

「それでも地球は動く」と。言えるのなら。

 例えその為に損をして、どんな被害を被り、時に誰かを傷つけ、苦しめようとも。その生き方はやはり何故か、どうしようもなく格好良く、羨望を集めることすらある。漫画や映画の主人公や、その主人公に敵対する悪役なんかがそうじゃないだろうか。
 だけどやはり、たった一つだけを選んだ生き方は時には惨めで……虚しい生き方なんだとも思う。私は。死ぬその時まで己を貫いた芸術家。生きている内に報われて欲しいと思う。神を信じて火にかけられた少女。死後ではなく今世幸せに生きて欲しい。

 だって人は、死んだらそこで終わりなんだから。
 天国も地獄も信じていないとは言わない。だけど”終わった後”の世界なんて今の私には見えていないんだから。死後天国で幸せに暮らしましたなんてそんなのは要らない。”人魚姫”がハッピーエンドだなんて、私は絶対に認めないぞ。

 私は絶対に。死んでなんて、やらない。

「シンディ。今日の体調はどうだい? もしよければ午後に私の友人が来る予定だから軽く挨拶でもと思ったのだが」
「お父様……でも私、また突然倒れてしまったりでもしたらと不安で」
「勿論お前の病弱さは分かっているよ。だから長時間いる必要はない。一度顔を見せてやってほしいんだ。父さんの古くからの知り合いでな。実は今度お前と王太子を……」

「あぁっ急に眩暈が……」
「お嬢様!」
「す、すぐに医者を呼べ! ああ、シンディ私が悪かったよ。部屋でゆっくり養生していなさい」
「申し訳ありませんお父様……」

 でも心配なさらずとも大丈夫です。
 全部、仮病ですので。

 父と下女が部屋を出ていったのを見送りながら、私はそんなことを心の中で思って布団を口元まで上げた。いや、申し訳ないとは思ってるのよ? 毎回心配させて迷惑かけてごめんなさいとは。だけど仕方ないじゃない。だって命には代えられないもの。


 実は私、シンディ・トワールには誰にも言えない秘密がある。
 それは長年仮病を使って病弱である演技をしていたことではない。勿論これだって墓まで持っていくような最大級の秘密であり、暴露でもしたらそのまま即座にお墓をたてることになるやもしれない代物だが、私にはそんなことよりももっと誰にも言えないような、大きくて重くて深くて、到底誰も信じられないような秘密があるのだ。

 それは私の中にある”ありえない”記憶。本来なら知るはずのない、未来の記憶。

 目を瞑れば見えてくる。成長した”私”と、その足元で泣き崩れる少女。その少女を庇う誰か。そして”私”はその誰かに指を指され、高笑いから一転。全てを失い、泣き叫ぶ。それなのに”画面”に映る文字は何故かHappy end――……。
 私はこの到底信じられない映像を、何故かはっきりと知っていた。いや、

 覚えてなどいない方が、ある意味幸せには生きられたのかもしれない。そうだったなら、こんな生き方を選ばなかったのだろうとも。だけど覚えていたのだから仕方がない。自分が前世では普通のOLだったこと。その記憶を持ったままこの世界に転生したということ。そしてそんな記憶の中に、この世界の記憶もあるということも。

 だがそんなことを第三者に言ったら当然、信じて貰えないどころではなく、きっとすぐに病院、もしくは教会にでも連れていかれることだろう。
 だけどこれは別に10歳になったばかりの子供が考え付いたお伽噺でもなんでもない。全部紛れもない事実だ。

 この世界が前世の私がプレイしていた乙女ゲーム「フェアエンゼル~花芽吹き色染まる~」の中であり、自分がそのゲームに登場する悪役令嬢だと言うことは。悪役令嬢シンディ・トワールが数年後の未来、死ぬしかないという過酷な運命を持っていることは。
 私自身が全力で否定したくても出来なかった、変えようのない事実。どんなに泣きわめいて絶望して”どうして私が”と嘆いたって、時間が悪戯に過ぎていくだけで何も変わりなどしないのだ。
 ならどうするか? そう。二度目の人生も私は人間。なら考えなければ。私はまだ葦だ。

 と言っても私はこの世界に生まれおちた赤ん坊の頃からこの事実を知っていたわけではない。
 私が前世の記憶を思い出したのは今から5年前。私がまだ5歳だった頃、高熱で生死の境を彷徨った時のことだった。

(誰かが何かを言っている。いや、叫んでる? 煩い……)
(だけど腕が重くて、頭が痛くて、喉が熱くて……その声に返事が出来ない)
(何を言っているのかは、なんとなく聞こえてるんだけど)

「さま、」
「お嬢様!」
「シンディお嬢様!」

(……シンディ?)

 なんだその欧米チックな名前は。我は東洋人ぞ?
 生まれてこのかた片仮名の名前になった記憶もなければ、そんな渾名をつけられたこともない。

 ……いや、待てよ。シンディ? どっかで聞いたことあるな。それもつい最近。シンディ、シンディ……。どこだっけ、どこで聞いたんだったか――。シンディ……トワール?

(あっそうか。最近友達と一緒になってハマった乙女ゲームに出てくるキャラクターの……悪役令嬢だ)

 タイムアタックしようよとか馬鹿なこと言って何回も色んなルートをやってたからよく覚えている。
 好きなキャラがいるわけでもないのに、攻略対象たちの声が好みだからって理由で友達と何周もしたっけ。
 ああそうだ。確か隠しキャラがいて、そのルートは全部のルートを5周しないと現れないってガゼネタのせいでもあったんだっけか……。あのガセネタのせいで何周もすることにはなったけど、なんだかんだ楽しかったな……。
 ……ん? 乙女ゲーム? 悪役令嬢? キャラクターってどういうこと???

 シンディ・トワールは、ここにいるのに私なのに

「! お嬢様お気づきですか?!」
「奥様、旦那様! お嬢様がお気づきに!」
「シンディ。私が分かるかい……?」

「……お父様……?」

 目が覚めた時、私の心は一体どちらだったのだろうか。
 "あちら"での記憶がある平成生まれの"私"か。

「ああ、良かったわ目覚めてくれて……!」

 それとも悪役令嬢である、シンディ・トワールか。

 熱が下がって普段通りの生活が出来るようになるまでの一週間。それは私が頭の整理を終わらせるには十分な時間だった。

「シンディの家族構成、現在確認できる王族、過去にあった出来事……どれを見てもやっぱりここはフェアエンゼルの世界で間違いない! いや、それはいい。転生してしまったものは仕方ない。いつどうして死んだのかは覚えてないけど、それはもう良い……だけど、私なんでシンディなの?! だってシンディ・トワールって言ったら、確かどのルートになっても死亡が決定してると言っても過言ではない……超不遇キャラじゃん!! このままだと私は死ぬ……そんな未来しかないなんて嫌……」

 まるで最近読み漁っていた小説のようだ。転生したら悪役令嬢でした、なんてもうありきたり過ぎて数に埋まりそうなものなのに、名作がどんどん生まれるから毎日のように新着を確認してしまって……。

「って! 思い出に浸ってる場合じゃない!」

 このまま泣き寝入りなどしてなるものか! 悪役令嬢小説を読みこんだ私を舐めるなよ!
 取りあえず考えるんだ。考えないで放棄するにはまだ時間があり過ぎる。私はまだ五歳。断罪の瞬間に思い出すパターンよりはずっと救いがあると思わなくては……。

「えーっと、小説でよくあるものだと悪役令嬢にならないようにするとか、いっそ前向きに没落するとかだけど……」

 いっそ庶民になって二度目の人生謳歌しようぜは私だって大賛成だ。もう社畜などではなく自分の為に働く人生を歩むのも良い。異世界なら前世とは勝手が違うし何をやるにしてもモチベーションは上がるというもの。悪役令嬢としてヒロインに意地悪なんかしても良いことなんてないし、悪役令嬢にならず完璧令嬢を目指すのも楽しそうだ。だけど……。
 私の場合はそうはいかない。何故ならシンディ・トワールはどのルートになっても死ぬ運命なのだから。

 乙女ゲーム「フェアエンゼル~花芽吹き色染まる~」略してフェアゼルは、典型的な「平凡な元平民の子爵令嬢が王太子に見初められて最終的に王妃様になる」というものだ。
 攻略対象は五人。

 一人は勿論正規ルートである王太子。
 名前はハロルド・アルタイル。親しいものはハルと呼んでいる。
 厳格でルールに厳しい彼は自分にも厳しく、シンディが自分に甘い父親に強請ったために決まった婚約話を、何も言わずに受け入れたくらいにはそういうものに興味がない。
 しかし彼はヒロインにより少しずつ変わり、自分の意思を持ち始め、最終的にはヒロインを自分の婚約者にするためにシンディとの婚約破棄を申し出る。これが俗に言うざまぁ展開だ。

 さて。問題なのはこのルートの場合のシンディ……つまり"私"である。 
 まずこの婚約破棄をされる正規のルート……つまりヒロインにとってのハッピーエンドは当然悪役令嬢のバッドエンドである。
 シンディは今までの悪事を暴かれ、その悪行が過ぎると言うことで国外追放を受ける。遠い海外で己の罪を悔い改めたら戻って来る……とのことだったが、実際にはそうはならない。

 シンディは殺される。国外へ行く途中の道で、何者かの手によって。
 私がいずれ国に戻ってきた時脅威にならないためにだろう。人知れず殺された悪役令嬢のことは、物語の番外編として出たファンディスクの中にしか出てこない。それだって酷い話だ。
 そこにはゲームより綺麗な漫画で、「私のせいで」と泣きじゃくるヒロインに「君のせいじゃない。これは天罰だよ」と慰めるハロルドの絵があった。
 ……あれには死ぬほど感動したのに今シンディになってみればとんだ終わり方だと思うよね。別に殺す必要ないじゃん! まぁファンの間では「続編のための布石では?」と言われていたが、真相は既に分かりはしないのだからそんなことを考えていても仕方がない。

 それから他の攻略者だが……正直、他のルートはパッとしない。と言うのも、実はフェアゼルは変わった乙女ゲーで、どのルートになってものだ。

 例えば二人目の攻略者であるギル・ロウウェリー。
 色々あって騎士を目指すことになったロウウェリー家の次男なのだが、彼のルートになってもヒロインはギルとくっつく未来はない。
 ギルルートになればギルとのイベントが発生したり特別なスチルが見られたりはするが、最終的に王太子と婚約して王妃になるというエンディングがなくなることはないのだ。それこそバッドエンドにならない限り。
 
 じゃあ何が変わるのか? それはギルの立ち位置エンディングだ。
 ただ普通にハロルドを攻略して普通にエンディングを迎えるだけではギルは普通のクラスメイトのまま。
 ただしギルの好感度を上げてギルルートに入り、色んなイベントをこなしてエンディングを迎えると、エンディングにはギルが加わって来る。
 ギルは騎士になり、二人を守る護衛隊長に選ばれるという未来になるのだ。学生卒業してすぐにそんな出世するか? とは思うがそこは乙女ゲーム。なんでもありだ。

 という感じで他の攻略対象の場合も同じ。
 つまり金太郎飴方式。切っても切っても同じ顔。どんなルートに進もうが誰との好感度が上がろうが結局は王太子と結ばれることになる。勿論これは王太子と結ばれないバッドエンド以外の場合だが。

 バッドエンドはヒロインはシンディの陰謀によって命を落としかけ、それに逆上したハロルドがシンディを殺してしまうというものだ。
 理由があったと言えど、シンディには国から下される罰が待っている。それを私情で殺してしまうなど王太子としてあってはならない。
 ヒロインは一命をとりとめるが、病院で目を覚ました時には既にハロルドは王族の身分を剥奪。国外へ追放を受け、その姿を見ることは永遠になかった……この時のスチルが本当に切なくてめっちゃ泣いた。何周しても泣いた。今シンディになってみると別の意味で泣けるけど……。

 因みにハロルドの好感度が低いとたまになるノーマルエンドも存在するが、これはバッドエンドよりも大変だと攻略サイトでも話題になっていた。
 というのも、このゲーム分岐点は多いが選択肢を間違えたら好感度が下がるというよりもバッドエンドになるパターンが多く、単純に好感度が低ければノーマルエンドになるわけではない。つまり"バッドエンドになる選択肢は選ばなかったがハッピーエンドになるには攻略対象との好感度が低い"という状態にならなくてはノーマルエンドは見られないのだ。

 ヒロインが誰ともくっつかず、何事もなく学園を卒業するという、乙女ゲームとしては最高につまらないエンディングだが、これが一応シンディ・トワールが死なずに済む唯一の方法だ。
 が、これを目指す気は毛頭ない。何故なら先ほども述べた通り、このルートになるのはあまりにも確率が低いからだ。正直ヒロインが攻略対象に嫌われるために行動するような選択肢を選ばない限りこうなることはない。いや、仮にもヒロインがそんなことにはならないでしょ……。

 ということで。シンディが生き残るためには"どんなルートも目指してはいけない"というのが正解だ。ヒロインがポンコツだと言う可能性にかけるには命というベットは高すぎる。そもそも、流石にノーマルエンドのその後のことはファンブックにも載っていなかったけど、ハッピーエンドで追放後の悪役令嬢が殺される理由からして、ノーマルエンドで終わってもシンディが生き残ってるという保証はどこにもないし……。

 物語は元平民のヒロインが子爵令嬢として貴族や王族が通う学校に編入してくるところから始まる。この時既に王太子や私が二年生……。つまり16歳だ。15歳になったら王族と殆どの貴族は学園に三年間通うことになる。
 けれど私にとってはそこは既にゴールに近い。何故ならスタートがあまりにも早すぎるから。記憶が確かならシンディが王太子であるハロルドと婚約をするのは10歳のときだったはず……。

「つまり、まずは私がハロルドと婚約しなければいいのよね」

 元々はシンディがハロルドに一目惚れして父親におねだりをしたのだから、私がそれをしなければ良い……が、大体こういうのは私が行動を起こさなくても話が進むものだ。
 なんせ我がトワール家は侯爵家の中でも有力な家系。資産もあるし、父も確か国王に進言できる立場だったはずだ。同い年の子供が二人いて、婚約話が持ち上がってもおかしくはない。
 なら家出でもするか? だがそんなことしてもこんな右も左も分からない世界で16歳の時までに逃げ切れる保証などないし、もし一度でも捕まって家に戻されればその後は二度とそんなこと出来ないように対策がされてしまうだろう。そうなると満足に情報収集すら出来なくなる可能性がある。私はそんなのは御免だ。
 それではやはり完璧令嬢を目指す? しかしその場合、例え私がどんなにヒロインに優しくしても他のヒロインをよく思わない令嬢に勝手に黒幕にされるパターンだってある。私はそんな展開を何度も読んで来た。ゼミでもやった。
 じゃあ男装する? いや、既にシンディ嬢誕生の話は王宮にもいってるだろうから不可。婚約破棄の前に自ら平民になる? その後に物語通り暗殺される可能性が残るから却下。同じ理由で外国にも逃げられないし……。……。

 一見詰んでいる物語。だけど、私は唯一、この状況を打破する方法を知っている。それは……。

「シンディ、もう具合は大丈夫かい? もし体調が良いようなら久しぶりにドレスでも新調しに町に、」
「ああ胸が苦しい息が出来ない……」
「っ?! な、なんてことだ! おいすぐに誰か医者を呼ぶんだ!」

 仮病である。
 シンディ・トワールは典型的な悪役令嬢だ。この真っ赤な燃えるような髪と立派な巻き毛がその言葉を表している。
 子供の頃から自分に甘い父親に甘えて贅沢三昧の我が儘放題。成長してからは美人になるがその性格は変わらず、欲しいものを手に入れるためには手段を選ばない。馬鹿の癖に悪知恵ばかり働いて、気に入らない令嬢はとことん苛める夜会を渡り歩く夜の薔薇。どんなに美しくともその花には棘がある。不用意に触れば怪我をする……。
 だけど、私はそうはならない。そんな、自分も周りの傷つけるような、悪役令嬢には!

「どうしたんだ。もう熱は下がったと聞いていたのに」
「お父様、シンディはあの熱以来どうやら病弱になってしまったようです……」
「そんな自ら公言するほどに?!」
「外を歩くことすらままならないかと……」

 出来れば家の中だって歩きたくない。だって家によく偉い人とか来るんだもん。会いたくないね。そこで攻略対象と繋がる可能性もあるし。

「うっ日の光が眩しい、肌が焼けるようだわ……」
「だ、誰か早くカーテンを引くんだ! ああ私の可愛いシンディ。他に何かしてほしいものは? 欲しいものはないのかい?」
「この真っ赤な髪を染めるための染め粉を。あと髪を真っ直ぐにするためのコテが欲しいです」
「……シンディ?」
「あぁっ頭が痛い!」
「だ、誰か兎に角早く医者を呼ぶんだ!」

 死ぬ運命にある悪役令嬢? いいえ。今にも倒れそうな病弱で貧弱な引きこもりなら、まともなデビューだって難しい。そんな娘に、王太子との婚約話がくるはずもない。
 
 たった一つの為だけに他の全てを犠牲にする。
 そう。全ては、生き残るためだけに。

 え? いや、私は自分の身が可愛いのでヒロインがどうとかは知りません。別に悪役令嬢が初めからいなくてもヒロインが魅力的なら勝手にハッピーエンドになるでしょ。
 
 目指すは深窓の令嬢。私は絶対に、王太子と婚約なんてしないぞ!
 ……もし勝手に婚約でもされた暁には、お父様の目の前で倒れて血を吐いてやりますからね、お覚悟あそばせ。
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