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第四章 願望
49 上を向けば
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昨日、海歌さんの手紙を読んでから僕は安心したのか、直ぐに寝てしまった。
最近は殆ど寝れていなかったので、久々にすっきりとした朝を迎えられた。
朝ごはんを食べ、歯を磨き、服を着替える。
当たり前の事を当たり前の様にできるという事は僕にとって重要だ。
そうだ、海歌さんにちゃんとお別れを言っていないな。
それに、花火さんとも話さないと。
僕は、スマホを手に取りおじさんに電話をかけた。
「あの、空太です」
「空太君?どうしたの?」
「あの、海歌さんにお線香をあげさせて頂けませんか?それと、花火さんとも話したいんです」
「えっ、あ、そうか...じゃあ私たちの家においでよ。」
「わかりました。今から向かってもいいですか?」
「いいよ。家は病院の近くだから、病院の前で待っててね」
「はい」
僕は急いで病院へ向かった。
病院に向かう道はなんか違う感じがした。
何度も通ったこの道は、いつも何かに縋るように歩いていた。
でも今は、一人で歩けている。
お姉ちゃんの言葉が、存在が、僕を根底でしっかりと支えくれている。
病院でおじさんを待っていると、いろんな人が僕の前を通った。
多分、海歌さんに似た境遇の人は沢山いる。
だけど、普通に生活していたらそんな事実を知る事はなかったし、考えもしなかった。
そうだ、そんな人達の写真を撮るなんてどうだろう。
海歌さんが描いてくれた絵のように。
僕が出来るのは写真だから、それを使って苦しんでいる人を笑顔に出来ないかな。
まぁ、そんな事はまだまだ先の話だけどね。
それより今は、花火さんの事だ。
「やぁ、先程はどうも」
「はい。すみません、いきなりで」
「空太君...顔つきが変わったね」
「そうですか?」
「うん。凛々しくなった。海歌の手紙の影響かな」
「はい。お姉ちゃんのお陰です」
「お姉ちゃん!?」
「すみません。手紙にそう呼んでくれと書いてあったので...ダメでしょうか?」
「いや、いいんじゃないかな。海歌がそうしたいなら大歓迎だよ」
「ありがとうございます」
おじさんは付いてきてと言って歩き出した。
少しの静寂の後、おじさんは空を見上げて笑った。
「そうか...お姉ちゃんかぁ...確かに海歌は空太君のことを、本当の弟のように思ってたからね」
「嬉しいです」
「知っているかい?海歌は結構弱音を吐く子だったんだよ」
「えっ...全然想像がつかないです」
「あれでも、20歳超えたばかりの女の子だからね。花火には絶対に見せなかったけど、私達だけになるとよく泣いていたよ。」
「そうだったんだ...」
「でもね。空太君と出会ってから、一切弱音を吐かなくなった」
「そうなんですか。でも、なんで?」
「海歌は、自分の気持ちを分かってくれる人が出来て安心したんだ。私達家族でさえ、病気をした人の本当の気持ちはわからない。でも、空太君ならその辛さを理解して、気持ちを汲み取ってくれる。嬉しそうにそう言っていたよ」
「お姉ちゃん...僕と同じ事を思ってくれていたんですね。嬉しいな」
空を見上げて笑いかける。
お姉ちゃんの事だ、草葉の陰みたいに隙間から覗くのではなく、空から僕らのことを堂々と見下ろしているに違いない。
だから、これからお姉ちゃんに話しかける時は上を向こう。
ちゃんと目を見て話せるように。
「空太君、着いたよ」
「あっ、はい」
そこには、オシャレな洋風の一軒家があった。
ここが、お姉ちゃんと花火さんが育った場所。
女の子の家に上がるのは初めてだけど、お姉ちゃんの家だと思うと何故か緊張はしない。
「空太君。いらっしゃい」
「いきなりお邪魔してすみません」
「いいのよ。海歌にも会ってあげて」
おばさんは、お姉ちゃんの仏壇に案内してくれた。
そこには、お姉ちゃんと涼太さんの写真が飾られていた。
「あ、この子は涼太。海歌のお兄ちゃんよ」
「はい。海歌さんに聞きました。優しそうな方ですね」
「うん...優しかったよ。海歌と花火がすごく慕っていたの」
おばさんは、憂いに満ちた表情をして写真を見つめる。
僕は、線香に火を付けお鈴を鳴らした。
手を合わせ心の中で「ありがとうございました」そう言ってお姉ちゃんに別れを告げた。
最近は殆ど寝れていなかったので、久々にすっきりとした朝を迎えられた。
朝ごはんを食べ、歯を磨き、服を着替える。
当たり前の事を当たり前の様にできるという事は僕にとって重要だ。
そうだ、海歌さんにちゃんとお別れを言っていないな。
それに、花火さんとも話さないと。
僕は、スマホを手に取りおじさんに電話をかけた。
「あの、空太です」
「空太君?どうしたの?」
「あの、海歌さんにお線香をあげさせて頂けませんか?それと、花火さんとも話したいんです」
「えっ、あ、そうか...じゃあ私たちの家においでよ。」
「わかりました。今から向かってもいいですか?」
「いいよ。家は病院の近くだから、病院の前で待っててね」
「はい」
僕は急いで病院へ向かった。
病院に向かう道はなんか違う感じがした。
何度も通ったこの道は、いつも何かに縋るように歩いていた。
でも今は、一人で歩けている。
お姉ちゃんの言葉が、存在が、僕を根底でしっかりと支えくれている。
病院でおじさんを待っていると、いろんな人が僕の前を通った。
多分、海歌さんに似た境遇の人は沢山いる。
だけど、普通に生活していたらそんな事実を知る事はなかったし、考えもしなかった。
そうだ、そんな人達の写真を撮るなんてどうだろう。
海歌さんが描いてくれた絵のように。
僕が出来るのは写真だから、それを使って苦しんでいる人を笑顔に出来ないかな。
まぁ、そんな事はまだまだ先の話だけどね。
それより今は、花火さんの事だ。
「やぁ、先程はどうも」
「はい。すみません、いきなりで」
「空太君...顔つきが変わったね」
「そうですか?」
「うん。凛々しくなった。海歌の手紙の影響かな」
「はい。お姉ちゃんのお陰です」
「お姉ちゃん!?」
「すみません。手紙にそう呼んでくれと書いてあったので...ダメでしょうか?」
「いや、いいんじゃないかな。海歌がそうしたいなら大歓迎だよ」
「ありがとうございます」
おじさんは付いてきてと言って歩き出した。
少しの静寂の後、おじさんは空を見上げて笑った。
「そうか...お姉ちゃんかぁ...確かに海歌は空太君のことを、本当の弟のように思ってたからね」
「嬉しいです」
「知っているかい?海歌は結構弱音を吐く子だったんだよ」
「えっ...全然想像がつかないです」
「あれでも、20歳超えたばかりの女の子だからね。花火には絶対に見せなかったけど、私達だけになるとよく泣いていたよ。」
「そうだったんだ...」
「でもね。空太君と出会ってから、一切弱音を吐かなくなった」
「そうなんですか。でも、なんで?」
「海歌は、自分の気持ちを分かってくれる人が出来て安心したんだ。私達家族でさえ、病気をした人の本当の気持ちはわからない。でも、空太君ならその辛さを理解して、気持ちを汲み取ってくれる。嬉しそうにそう言っていたよ」
「お姉ちゃん...僕と同じ事を思ってくれていたんですね。嬉しいな」
空を見上げて笑いかける。
お姉ちゃんの事だ、草葉の陰みたいに隙間から覗くのではなく、空から僕らのことを堂々と見下ろしているに違いない。
だから、これからお姉ちゃんに話しかける時は上を向こう。
ちゃんと目を見て話せるように。
「空太君、着いたよ」
「あっ、はい」
そこには、オシャレな洋風の一軒家があった。
ここが、お姉ちゃんと花火さんが育った場所。
女の子の家に上がるのは初めてだけど、お姉ちゃんの家だと思うと何故か緊張はしない。
「空太君。いらっしゃい」
「いきなりお邪魔してすみません」
「いいのよ。海歌にも会ってあげて」
おばさんは、お姉ちゃんの仏壇に案内してくれた。
そこには、お姉ちゃんと涼太さんの写真が飾られていた。
「あ、この子は涼太。海歌のお兄ちゃんよ」
「はい。海歌さんに聞きました。優しそうな方ですね」
「うん...優しかったよ。海歌と花火がすごく慕っていたの」
おばさんは、憂いに満ちた表情をして写真を見つめる。
僕は、線香に火を付けお鈴を鳴らした。
手を合わせ心の中で「ありがとうございました」そう言ってお姉ちゃんに別れを告げた。
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