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第四章 願望
48 手紙
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お葬式が終わって三週間が経った。
あの日から、僕は家から一歩も出ていない。
日課の写真撮影どころか、写真クラブにも行っていない。
当分行けないと言ったら、東さんがメールでうるさかったけど、最近はだんだん静かになってきた。
最初の一週間は食事も喉を通らなかった。
けど、人間死にそうになればお腹は勝手に空いてくるモノで、最近は少し食べるようになった。
それでも、やる気だけはいつまでも起きない。
結果、部屋に篭ってずっとゲームをしているダメ人間が出来上がった。
「ピンポーン」
宅急便かな。
「あ、新作のゲームかもしれない。」
僕はお母さんがいない事を思い出し、急いで階段を下り玄関を開けた。
そこには、海歌さんの両親がいた。
僕は突然の事で、何を言って良いのか分からず黙っていた。
すると、少しの沈黙の後お父さんから言葉を発した。
「こんにちは。大丈夫かい?だいぶ痩せたみたいだけど」
「はい...大丈夫です」
でも、それを言うなら海歌さんのお父さんとお母さんだってだいぶ痩せたように見える。
「あのね。海歌の遺品を整理していたら、空太君に宛てた手紙が入っていたの。だから渡そうと思って」
一番やつれたように見えるおばさんがバックから手紙を取り出した。
「そうですか...ありがとうございます。上がっていきますか?親がいないのでお茶ぐらいしか出せませんけど」
「いや、大丈夫だよ。まだ何かと忙しくてね。じゃあ、私たちはこの辺で」
そう言って、海歌さんの両親は帰って行った。
僕は、その場で手紙を読む事にした。
今更手紙を読んだくらいで何も変わらないと分かっていても、海歌さんの言葉を聞きたかった。
手紙の宛名には、空太君へとその後ろに大きなハートマークが付いていた。
中を開けると、水色の綺麗な便箋が3枚入っていた。
一枚目を手に取り読み始める。
「ごめん!死んじゃった。いや~死ぬ前って意外と怖いもんだね。」
いきなりの軽いテンションに驚いたが、二行目に書いてある事にそれ以上の意外さを感じた。
あの海歌さんでもやっぱり死ぬのは怖いんだな。
裏に日付が書いてあったけど、亡くなる3日前に書いたらしい。
文字が震えているのは、腕に力が入らなかったのかな。
「まず、最後に空太君と会ってあげられなくてごめんなさい。空太君の前では、いつも笑顔で居たから最後の顔も笑顔にしたかったの。」
たしかに、いつも海歌さんは笑顔だった。
辛い話をするときでも、僕が悩んでいても笑顔を向けてくれていた。
その笑顔に何回も救われた。
「それでね。昔、話した花火の支えになるモノを見つけました!なんと、それは空太君です!」
僕には、海歌さんの代わりになるなんて出来ませんよ。
「いや~。ずっと空太君が良いと思ってたんだけど、一昨日の花火の様子を見ていたらピンと来たの。だから空太君に任命します。」
無理ですって。
海歌さんは、いつも僕を買いかぶり過ぎなんですよ。
「それでね。言ってなかったんだけど、私には涼太って言う兄がいたの。」
へぇ、知らなかった。
病室では、一回も会ったことないな。
「実は、3年前に大学でいじめに遭って一年ぐらいは部屋に篭ってたんだけど、とうとう2年前の春に自殺しちゃったの。」
そうだったんだ。
本人は当然だけど、海歌さんも花火さんも大変だったんだな。
結果的に、花火さんは二人も家族を失ってしまったのか。
それは、僕の痛さなど足元にも及ばない程激痛なんだろう。
でも、僕にはどうにも出来ない事だ。
「涼太の残した遺書にね、花火を幸せにしてあげてくださいって書いてあったの。花火は涼太にべったりだったから、自殺する時も花火のことを心配していたみたいなの。でもね、海歌はほっといても大丈夫とか書いてあったの。少し酷いでしょ。」
涼太さんって、優しいお兄さんだったんだろうな。
「それから、何とか花火を幸せにしようと色々やったの。だけど、その頃から私は入院していたからできる事は限られていた。どれも上手く行かなくて悩んでいたら、ある日花火が写真クラブに入ったって嬉しそうに報告してきたの。嬉しかった。本当に嬉しかった。それと同時に何もできない自分が嫌だった。」
海歌さんが、何もできない?
そんな筈ないじゃないか。
海歌さんに救われたことが何度あったか。
「だから、せめて一つでも死ぬまでに何か残そうと思ったの。それが、空太君だよ。」
僕?
何で僕なんか。
「花火と同じぐらい傷ついていた君だけが、花火を救ってあげられる。私の事でもっと傷つけたかもしれないけど、君に花火を救って欲しい。」
僕だって花火さんの事は心配だけど...
海歌さんがいてくれないと、僕には何も出来ないんです。
「長くなっちゃったけど、最後に一言。」
もう最後なのか。
もっと海歌さんの言葉を聞いていたかったな。
「空太君。私を慕ってくれてありがとう。
花火と仲良くなってくれてありがとう。
空太君との病室での日々が私の宝物です。
ありがとう、バイバイ!」
この言葉を見た瞬間に涙が溢れた。
今まで何とか耐えてきたのに、抑えきれない量の気持ちが溢れて自分ではどうしようもない。
「PS.最後にワガママをひとつ。私の事をお姉ちゃんと呼んでください。実はずっと弟が欲しかったの。」
海歌さん。
僕が弟なんかでいいんですか?
すごく嬉しいです。
手紙を読み終え封筒にしまおうとすると、なぜかもう一枚紙が入っていた。
それは、桜の下で3人の男女が写真を撮っている楽しそうな絵だった。
この、ワンピースの子は花火さんで、走り回ってるの海歌さんじゃないかな。
その隣で、おどおどしながら笑っているのが僕なんだろう。
この絵を見ていると、海歌さんの言葉を思い出す。
その言葉は、いつも明るく前向きで僕に勇気をくれた。
だから、海歌さんが残してくれた沢山の言葉と笑顔があれば僕は大丈夫な気がしてくる。
それでも、やっぱり...
「寂しいよ、お姉ちゃん」
あの日から、僕は家から一歩も出ていない。
日課の写真撮影どころか、写真クラブにも行っていない。
当分行けないと言ったら、東さんがメールでうるさかったけど、最近はだんだん静かになってきた。
最初の一週間は食事も喉を通らなかった。
けど、人間死にそうになればお腹は勝手に空いてくるモノで、最近は少し食べるようになった。
それでも、やる気だけはいつまでも起きない。
結果、部屋に篭ってずっとゲームをしているダメ人間が出来上がった。
「ピンポーン」
宅急便かな。
「あ、新作のゲームかもしれない。」
僕はお母さんがいない事を思い出し、急いで階段を下り玄関を開けた。
そこには、海歌さんの両親がいた。
僕は突然の事で、何を言って良いのか分からず黙っていた。
すると、少しの沈黙の後お父さんから言葉を発した。
「こんにちは。大丈夫かい?だいぶ痩せたみたいだけど」
「はい...大丈夫です」
でも、それを言うなら海歌さんのお父さんとお母さんだってだいぶ痩せたように見える。
「あのね。海歌の遺品を整理していたら、空太君に宛てた手紙が入っていたの。だから渡そうと思って」
一番やつれたように見えるおばさんがバックから手紙を取り出した。
「そうですか...ありがとうございます。上がっていきますか?親がいないのでお茶ぐらいしか出せませんけど」
「いや、大丈夫だよ。まだ何かと忙しくてね。じゃあ、私たちはこの辺で」
そう言って、海歌さんの両親は帰って行った。
僕は、その場で手紙を読む事にした。
今更手紙を読んだくらいで何も変わらないと分かっていても、海歌さんの言葉を聞きたかった。
手紙の宛名には、空太君へとその後ろに大きなハートマークが付いていた。
中を開けると、水色の綺麗な便箋が3枚入っていた。
一枚目を手に取り読み始める。
「ごめん!死んじゃった。いや~死ぬ前って意外と怖いもんだね。」
いきなりの軽いテンションに驚いたが、二行目に書いてある事にそれ以上の意外さを感じた。
あの海歌さんでもやっぱり死ぬのは怖いんだな。
裏に日付が書いてあったけど、亡くなる3日前に書いたらしい。
文字が震えているのは、腕に力が入らなかったのかな。
「まず、最後に空太君と会ってあげられなくてごめんなさい。空太君の前では、いつも笑顔で居たから最後の顔も笑顔にしたかったの。」
たしかに、いつも海歌さんは笑顔だった。
辛い話をするときでも、僕が悩んでいても笑顔を向けてくれていた。
その笑顔に何回も救われた。
「それでね。昔、話した花火の支えになるモノを見つけました!なんと、それは空太君です!」
僕には、海歌さんの代わりになるなんて出来ませんよ。
「いや~。ずっと空太君が良いと思ってたんだけど、一昨日の花火の様子を見ていたらピンと来たの。だから空太君に任命します。」
無理ですって。
海歌さんは、いつも僕を買いかぶり過ぎなんですよ。
「それでね。言ってなかったんだけど、私には涼太って言う兄がいたの。」
へぇ、知らなかった。
病室では、一回も会ったことないな。
「実は、3年前に大学でいじめに遭って一年ぐらいは部屋に篭ってたんだけど、とうとう2年前の春に自殺しちゃったの。」
そうだったんだ。
本人は当然だけど、海歌さんも花火さんも大変だったんだな。
結果的に、花火さんは二人も家族を失ってしまったのか。
それは、僕の痛さなど足元にも及ばない程激痛なんだろう。
でも、僕にはどうにも出来ない事だ。
「涼太の残した遺書にね、花火を幸せにしてあげてくださいって書いてあったの。花火は涼太にべったりだったから、自殺する時も花火のことを心配していたみたいなの。でもね、海歌はほっといても大丈夫とか書いてあったの。少し酷いでしょ。」
涼太さんって、優しいお兄さんだったんだろうな。
「それから、何とか花火を幸せにしようと色々やったの。だけど、その頃から私は入院していたからできる事は限られていた。どれも上手く行かなくて悩んでいたら、ある日花火が写真クラブに入ったって嬉しそうに報告してきたの。嬉しかった。本当に嬉しかった。それと同時に何もできない自分が嫌だった。」
海歌さんが、何もできない?
そんな筈ないじゃないか。
海歌さんに救われたことが何度あったか。
「だから、せめて一つでも死ぬまでに何か残そうと思ったの。それが、空太君だよ。」
僕?
何で僕なんか。
「花火と同じぐらい傷ついていた君だけが、花火を救ってあげられる。私の事でもっと傷つけたかもしれないけど、君に花火を救って欲しい。」
僕だって花火さんの事は心配だけど...
海歌さんがいてくれないと、僕には何も出来ないんです。
「長くなっちゃったけど、最後に一言。」
もう最後なのか。
もっと海歌さんの言葉を聞いていたかったな。
「空太君。私を慕ってくれてありがとう。
花火と仲良くなってくれてありがとう。
空太君との病室での日々が私の宝物です。
ありがとう、バイバイ!」
この言葉を見た瞬間に涙が溢れた。
今まで何とか耐えてきたのに、抑えきれない量の気持ちが溢れて自分ではどうしようもない。
「PS.最後にワガママをひとつ。私の事をお姉ちゃんと呼んでください。実はずっと弟が欲しかったの。」
海歌さん。
僕が弟なんかでいいんですか?
すごく嬉しいです。
手紙を読み終え封筒にしまおうとすると、なぜかもう一枚紙が入っていた。
それは、桜の下で3人の男女が写真を撮っている楽しそうな絵だった。
この、ワンピースの子は花火さんで、走り回ってるの海歌さんじゃないかな。
その隣で、おどおどしながら笑っているのが僕なんだろう。
この絵を見ていると、海歌さんの言葉を思い出す。
その言葉は、いつも明るく前向きで僕に勇気をくれた。
だから、海歌さんが残してくれた沢山の言葉と笑顔があれば僕は大丈夫な気がしてくる。
それでも、やっぱり...
「寂しいよ、お姉ちゃん」
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