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第二章 素望
19 普通の幸せ
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「おっはよー。お姉ちゃん!」
そう言って花火さんは、勢い良く病室に入ってきた。
いつもより明るい元気な声だったので今日は機嫌がいいのかな。
「病院よ。静かにしなさい」
母のように優しく諭す。
だが、花火さんは全然気にしていない。
「はい、はい、気をつけますよ。って何で君がここに居るの?昨日来たばっかりじゃない」
「えっと...はい。海歌さんにメールで来るように言われまして......」
「だからお姉ちゃん私に、あんたのメアド聞いたのね。それはそうと海歌さんって何?」
ジーと睨みながら詰め寄ってくる。
僕は何と言ったらいいのかとまごまごとする。
「私がそう呼んでって言ったの。いいでしょ、もう私の友達でもあるんだから」
「こんなオロオロした男のどこが気に入ったの?」
ちょっとひどいんじゃないかな、いくら事実でもさ。
一瞬ムッとしてしまった。
いかんいかんと心の均衡を保つんだ。
無心になれ、と自分に言い聞かせ、波風を立てないように口をつぐんだ。
「オロオロしてたっていいじゃない、取り方次第よ。私にはオロオロしてる分だけ人の心に寄り添っている様に見えるな。それだけ優しい証拠よ」
僕の欠点をそんな風にとってくれた人は初めてで、何だが気持ちがスッと軽くなる気がした。
だが、真正面から褒められる事に慣れていないので、お礼を言うことも謙遜することも出来ない。
下を向き顔が赤くなるのを必死に隠すことが精一杯だ。
「私は男らしくなくて嫌い」
そう言い放って、椅子に乱暴に座った。
もともと嫌われていることは分かっているので、そこまで傷つかなかった、と思う事にした。
海歌さんはやれやれと呆れたように、話題を変える。
「花火。今日何かいい事あったんでしょ、聞かせて」
まるで、いじけた子供をあやす幼稚園の先生のようだと思った。
まんまと花火さんは、自分に振り向いてくれた事で機嫌が直ったようだ。
なんて単純なんだ。
「今日学校の中間テストが返ってきてね。学年成績で24番だったの。前回から30位も上がったの」
「すごい!頑張ったじゃん。花火は元々、頭いいんだからこの調子で成績あげて絶対大学受けなさいよ」
「えー。別に大学行かなくてもいいんじゃない。専門学校とかでもさ」
「何が専門的にやりたいことがあるなら、それでもいいけど今のところないんでしょ?」
「まぁ、そうだけど。大学行ってまで勉強したくない」
「別にそんなに真剣に勉強ばっかしろ、とか言っているんじゃないの。サークルとかで友達作るのにも、大学には入っといた方がいいわよ。空太くんだってそう思うわよね」
空気になっていたつもりだったのだが、海歌さんはそんな事を気にせず話を振ってきた。
だが、この事には僕も多少思うこともあるので、思い切って言ってみる。
「はい...行けるんだったら行っといた方がいいかなと。せっかく入れる環境にあるんですし。」
「うるさい。同い年の君には言われたくない」
ズバッと一刀両断されてしまった。
「ゆっくり考えるからいいの。いきなりパッと答えは出せない」
「でも、もう来年が受験だから早めに考えておいてね」
花火さんは空返事で「はーい」と答えた。
「お姉ちゃん、プリン買ってきてあげる」
そう言って返事も待たずに病室を出て行った。
その場に留まり続けられないなんて、回遊魚のような人だな。
残された僕と海歌さんは、お互いにため息をつき。
目があったので、大変ですね、と言漏らす。
ちょうど夕方でいい時間になってきた。
「じゃあ僕も帰りますね」
「また明日も来てね」
「え......明日もですか?」
「そう明日も。出来れば毎日来て欲しいけどね」
「遠慮無しですね」
「そうよ、遠慮はしないの。勿体無いもの」
「勿体無い?」
「だって、遠慮ばっかして窮屈に生きるよりやりたい放題やった方が人生楽しいもの」
僕の考え方とは180度違うようだ。
「他人に迷惑かけたくない、とかは考えないんですか?」
「そんなの考えている暇はないわ。だって私の人生みんなより大分短そうだから倍は楽しまないと割に合わないわよ」
「凄いですね。失礼かもしれないですけど羨ましいです...その生き方」
僕には絶対に出来そうもない考えに憧れを抱いた。
「でしょ。空太君ももっと自由に生きてみなよ。わがまま言ったって本当に分かってくれる人なら離れて行かないよ。そんな事で離れて行く人はいつか必ず離れていくから」
「そうですか......そうだといいですね」
僕の抱えている胸のつかえを一つ一つ丁寧に取り除こうとしてくれている。
海歌さんは聖母か何かなのかな。
けど、そんな優しい言葉も今の僕には暖簾に腕押しなのが申し訳ない。
けれどどうしても変わることは出来ない。
「遅くなるので今日は帰ります。明日は来れそうだったら来ますね」
今日は色々あって疲れたので少し早く帰ろう。
「分かった、じゃあ明日ね」
海歌さんの中ではもう決定事項のようだ。
厄介な人に目を付けられたものだな。
そう言って花火さんは、勢い良く病室に入ってきた。
いつもより明るい元気な声だったので今日は機嫌がいいのかな。
「病院よ。静かにしなさい」
母のように優しく諭す。
だが、花火さんは全然気にしていない。
「はい、はい、気をつけますよ。って何で君がここに居るの?昨日来たばっかりじゃない」
「えっと...はい。海歌さんにメールで来るように言われまして......」
「だからお姉ちゃん私に、あんたのメアド聞いたのね。それはそうと海歌さんって何?」
ジーと睨みながら詰め寄ってくる。
僕は何と言ったらいいのかとまごまごとする。
「私がそう呼んでって言ったの。いいでしょ、もう私の友達でもあるんだから」
「こんなオロオロした男のどこが気に入ったの?」
ちょっとひどいんじゃないかな、いくら事実でもさ。
一瞬ムッとしてしまった。
いかんいかんと心の均衡を保つんだ。
無心になれ、と自分に言い聞かせ、波風を立てないように口をつぐんだ。
「オロオロしてたっていいじゃない、取り方次第よ。私にはオロオロしてる分だけ人の心に寄り添っている様に見えるな。それだけ優しい証拠よ」
僕の欠点をそんな風にとってくれた人は初めてで、何だが気持ちがスッと軽くなる気がした。
だが、真正面から褒められる事に慣れていないので、お礼を言うことも謙遜することも出来ない。
下を向き顔が赤くなるのを必死に隠すことが精一杯だ。
「私は男らしくなくて嫌い」
そう言い放って、椅子に乱暴に座った。
もともと嫌われていることは分かっているので、そこまで傷つかなかった、と思う事にした。
海歌さんはやれやれと呆れたように、話題を変える。
「花火。今日何かいい事あったんでしょ、聞かせて」
まるで、いじけた子供をあやす幼稚園の先生のようだと思った。
まんまと花火さんは、自分に振り向いてくれた事で機嫌が直ったようだ。
なんて単純なんだ。
「今日学校の中間テストが返ってきてね。学年成績で24番だったの。前回から30位も上がったの」
「すごい!頑張ったじゃん。花火は元々、頭いいんだからこの調子で成績あげて絶対大学受けなさいよ」
「えー。別に大学行かなくてもいいんじゃない。専門学校とかでもさ」
「何が専門的にやりたいことがあるなら、それでもいいけど今のところないんでしょ?」
「まぁ、そうだけど。大学行ってまで勉強したくない」
「別にそんなに真剣に勉強ばっかしろ、とか言っているんじゃないの。サークルとかで友達作るのにも、大学には入っといた方がいいわよ。空太くんだってそう思うわよね」
空気になっていたつもりだったのだが、海歌さんはそんな事を気にせず話を振ってきた。
だが、この事には僕も多少思うこともあるので、思い切って言ってみる。
「はい...行けるんだったら行っといた方がいいかなと。せっかく入れる環境にあるんですし。」
「うるさい。同い年の君には言われたくない」
ズバッと一刀両断されてしまった。
「ゆっくり考えるからいいの。いきなりパッと答えは出せない」
「でも、もう来年が受験だから早めに考えておいてね」
花火さんは空返事で「はーい」と答えた。
「お姉ちゃん、プリン買ってきてあげる」
そう言って返事も待たずに病室を出て行った。
その場に留まり続けられないなんて、回遊魚のような人だな。
残された僕と海歌さんは、お互いにため息をつき。
目があったので、大変ですね、と言漏らす。
ちょうど夕方でいい時間になってきた。
「じゃあ僕も帰りますね」
「また明日も来てね」
「え......明日もですか?」
「そう明日も。出来れば毎日来て欲しいけどね」
「遠慮無しですね」
「そうよ、遠慮はしないの。勿体無いもの」
「勿体無い?」
「だって、遠慮ばっかして窮屈に生きるよりやりたい放題やった方が人生楽しいもの」
僕の考え方とは180度違うようだ。
「他人に迷惑かけたくない、とかは考えないんですか?」
「そんなの考えている暇はないわ。だって私の人生みんなより大分短そうだから倍は楽しまないと割に合わないわよ」
「凄いですね。失礼かもしれないですけど羨ましいです...その生き方」
僕には絶対に出来そうもない考えに憧れを抱いた。
「でしょ。空太君ももっと自由に生きてみなよ。わがまま言ったって本当に分かってくれる人なら離れて行かないよ。そんな事で離れて行く人はいつか必ず離れていくから」
「そうですか......そうだといいですね」
僕の抱えている胸のつかえを一つ一つ丁寧に取り除こうとしてくれている。
海歌さんは聖母か何かなのかな。
けど、そんな優しい言葉も今の僕には暖簾に腕押しなのが申し訳ない。
けれどどうしても変わることは出来ない。
「遅くなるので今日は帰ります。明日は来れそうだったら来ますね」
今日は色々あって疲れたので少し早く帰ろう。
「分かった、じゃあ明日ね」
海歌さんの中ではもう決定事項のようだ。
厄介な人に目を付けられたものだな。
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