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第一章 切望

05 トラウマ

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 ーー2年前ーー

まだ僕が普通の学生だった頃。
僕の学校では、放課後に半年に3回中1回出れば良いという特殊なカリキュラムが存在した。
その時は文化祭の日程が迫っていた事もあり、その授業中に僕が部長をしていたコンピューター部の文化祭用のミーティングを行いたい旨を顧問に相談した結果、許可が取れた。

そこで授業に出たいメンバーを除いて、残った人員でミーティングを始めた、

「次の文化祭何やりたい?」

副部長の家長が、ハイハイハイと勢い良く手を挙げた。

「ゲーム作ろうぜ。とびっきり難しいの!」

部員たちも概ね賛成のようだ。

「じゃあゲームにしよう。けどなんのゲーム?シューティング?」

同じクラスの飯島がニヤニヤしながら手を挙げる。

「麻雀とかな」

「麻雀はルールわかる中学生いないだろ」

家長が名案がひらめいたと興奮した様子。

「パチンコはどうだ」

完全に悪ふざけモードになっている。

「中学生がやるものを出してこいよ」

「じゃあお前も案だせよーー」

うーんと熟考する。

「そう言われるとわからないかも。へへっ」

この日はまともな案も出ず、時間だけが過ぎて行った。
翌日担任の中尾先生が僕を職員室へ呼び出しをかけた。なんの用事かも見当がつかないまま職員室へと向かうと、昨日のミーティングの事について聞かれた。

「水野。昨日行った部活は、授業時間内にだったって知っていたのか?」

「えぇ、知ってましたけど」

何を言われているのか意味が分からなかった。

「だったらなんで部活やったんだ?」

「えっと...文化祭の日程が近かったので昨日ぐらいしか無かったし。それに授業に出ない生徒だけでやりましたよ」

「文化祭も大事だけど授業の妨げになってまでやる事ではないだろ。」

「いえ、ですから出ない生徒だけでした」

「べつに何回出ても良い授業だから、もしかしたら部活が無ければ授業に出てた生徒もいたかもしれないだろ」

先生の声が大きかった事もあり、僕との言い合いで近くの教師や生徒はこちらをチラチラと見ている。悪い事をした訳でもないのにここまで責められなければならないとは、少し怒りが湧いてくる。

「それもちゃんと聞きましたよ。それに顧問の承諾も得てます」

「そんなの関係ないだろ。常識的に考えればわかる事だろ」

何を言っても意味がないので、もうどうにでもなれと思った。
その時、顧問の古田先生が割って入ってくれた。

「どうしました?中尾先生。何かありましたか?」

「いえね。水野が授業中に部活をやったみたいで、注意している所なんですよ」

「そうでしたか、あぁ水野とりあえず今日は帰っていいぞ。後は私が話しておくから」

「はい。ありがとうございます」

その日は謂れのない罪で叱りつけられた事で、とても傷つき学校の裏の道路で座り込み泣き崩れ過呼吸になってしまった。
その頃の自分は、他の先生と色々あり教師への恐怖心を持っていたので尚更傷が深かった。
どれだけ経っても治りそうにないが、学校にも戻りたく無かったので親に救援を求めた。
息ができずまともに話は出来なかったのに、父は事情を理解して、仕事中にも関わらず迎えに来てくれた。
そしてその後中尾先生からは謝罪もなく、一言も会話をしないまま僕は学校へ行けなくなり卒業を迎えた。

そんな、とても思い出したくない出来事をあの女の子の軽い一言によって2年経った今になって思い出しながら、僕は家で涙を流し震えを止められずにいた。
すると母がゆっくりと部屋に入ってきた。

「何かあったの?」

「ちょっと怖くなっちゃって、先生のこと思い出したら」

「そうなんだ......もう少し休む?それともとりあえず薬飲む?」

「飲む。早くちょうだい」

「持ってくるから待っていてね」

そして母の持ってきた頓服の薬を飲み、なんとか落ち着き眠ることが出来た。

翌朝、いつも通り起きたがどうしても公園には行く気が起きなかった。
母も昨日の事を心配したのか今日は行かなくてもいいんじゃない、と言ってくれた。
だが、両親を安心させたくて行き始めた公園での写真撮影が心配させる事になってしまった事に申し訳なさと不甲斐なさで押し潰される程心が困窮していった。

なぜ僕だけこんなに辛いんだろう。
獅子は我が子を千尋の谷へと突き落とすとことわざにあるが、僕は突き落とした後に火を放たれるぐらいの事をされていると思う。

ことわざ通りなら突き落とした獅子は我が子の成長を思ってした事であるとなっている。
だけと、僕を突き落とした人々は僕になんの興味すら抱いていないのだから突き落とされ損。
さらにその事実に対して突き落とした本人は全く自覚がないという残酷な事実、あまつさえ正しい事をしたと愉快な気分にすらなっている。

そのことがなんとも耐え難い。
だって僕には楽しく生きたきゃあんな性格になるのが一番だとしか思えないから。

そして周りも僕の性格を変えないとダメだと助言してくる。 
僕は絶対にあんな性格になれないし、なりなくもないと思っている、ならなきゃ生きていけないと言うなら死んでしまったほうがマシだ。

そうだ、死んでしまおう。

そう思うのはもう何度目だか分からないが、毎回僕は真剣だ。

遺書なんてもう何回更新したか分からない。書き過ぎて最近は内容が薄くなって来ているな、と悩んでろくに涙も出ないぐらいだ。

まぁ、実際はボロ泣きなんだが。

だが、何故かその一歩が踏み出せないのは死後の世界が不安だから。
もし死後の世界がないのなら僕はどうなってしまうのだろう。
永遠に眠っているような感覚なのだろうか。でも、寝ている感覚というのは起きてから認識するものであるのだから死とはなんなのだろう。

誰かが死んだ後のことを説明してくれれば安心してすぐにでも死ねるのに。

そういった現実逃避をいくらしようとも、死ぬ覚悟はいつまでも出来ない。
心はいつまでも、あの時から止まったままなのに、現実の時間はそんな事関係なく進んでいくので母は1週間も自室に閉じ籠っている事を気にして主治医に連絡してしまったりしている。

これ以上籠っていると両親が、心配で病院へ行く日程を早めようとするかもしれない。
主治医の大木先生はとても親切でよく話を聞いてくれる良い先生なのだが、待ち合い室の精神病患者しか居ない異様な空間は、この世の負の感情の集合体に自ら飛び込むような覚悟がいる。

下手したら通院する前日より翌日の方が悪くなるぐらい気分が滅入ってしまう。
そんなことから月に一回の通院は仕方ないとして、追加で行くような事には絶対にしたくない。
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