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猩々飛蝗

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フラクタル

塩θθ

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 私はこの話に出てくる様な恐ろしげな力を発動しうるのである。これほど現状に適した事実の発覚は歴史的にも稀なものであろう。
 激流の中私は目を然と見開いて暗闇における外把握のみに努めている。
 薄らと見える。
 これを楽人の技と呼ばずに何と呼ぶ。
 木々の回避は叶わないが何やらとんでも無い壁面が接近していることが判明した。
 饅頭。
 地面への激突。
 壁面は超巨大泡城であった。
 饅頭。
 私は再び激流の中に投げ出される。
 この様な支離滅裂な周辺環境においては矢張りえぴぜほの楽愕さえなければ何をもし得たであろうあれを致すしかない。しかし肝心なことが欠けている。我々は赤子として誕生した元から腕や足を持ち、其々に出鱈目な信号を送ってみる実験の堆積を活用して常動の遂行を成しているが、私は外套を世界分割線にする実験を未だしたことがガコン!……
 目の前を見ると水晶があり、それには一本の縦線が入っている。その線の左側はただ綺麗に透き通っていたが、右側には縦線に垂直な幾本もの横線が入っていた。しかもその水晶は余りにも大きく視界に全く収まっていない。上下左右全ての端を確認できない。
 何なんだこれは、右手を伸ばす。触れない。透けていき、奇妙である。
 左の方を探ると思いもよらないぶつかり方をする…あ!これは水晶などでは無くて先程の密林では無いか、そういえば私は密林に来ていたのであった……寝っ転がっていただけであった……起き上がる。
 激流がいつの間にか止んでいることから私は意識を失ったのだろうと思う。
 意識を失う直前私はなぜか自身が楽人であると確信していたという記憶がある。楽人は私の弟の妄想だが面白かったので覚えていた。そんなものを持ち出した思考に陥るとは微塵も冷静でないな、が、パニック状態を知らない脳である方が余りに危機管理に欠ける気がする。
 私は遂に如何様にもすべきことを失った。
 初めは絶望や焦りと共にひっそりと知的好奇心の趣を隠していた私もついにどうでもよくなった。狭観の賷す素直のブラウン運動が消滅すると悟りと共に無価値な荒野が私を襲った。
 如何ともし難い……
 霹靂でもあればいいのに……
 私は取り敢えぬザルの海の所を無理やりに取りやって歩行した…………
 歩行しゆく……………
 靴の摩耗が心配される……
 ああ……
 もう……………
 何故歩くのか……………………
 腹の虫が共食いをしている様だなぁ……………………………
 無限地獄という言葉が頭をよぎる…………
 もう丸一週間ほど放浪しているのでは無かろうか、嫌、それは無いか…………… 寝て、起きた…………………
 木を殴りつけてもびくともしないがその長さだけあって、暫くの後ゴウウンという様な音が上空から響いてきた……………………………
 ふー、…………………………
 地面に倒れ込んで拳を力いっぱい打ち付ける!何なんだ!ふざけるな!如何!如何!……
 あぁ……
 私の人生はこんな幕引きに終うのか、楽浪の夢は至らずに絶林の孤木にしがみついて餓死するのか。この木は喰えないのだろうかと思い立ち齧り付くと私の歯ぐきからジューシーな血液が溢れた。
 全く木という感じがしない。
 その表面は何物をも受け付けない強固な境界として私を否定したのだ。そもそも木が喰える訳が無いのだ。ふと私の心の底からかの浮き上がるような趣が再び湧き上がってきた。そういえば、この木の上はどうなっているんだろう。随分前に私は遥か頭上から超豪壮的な巨大質量の気配を感じたが、あれは絶対に嘘では無かった。私は根拠も無い非科学的現実を信じる質では無いし、あれの正体も、激流の謎も、そもそもこの空間がどんな訳で私を取り巻いているのかも全部解決してしまおう。それが目的である。我が性である。そんな心地で論理を紡いでいると、よもやその使命の為に私はこの密林に召喚されたのではなかろうか等とも思えてきた。ならば如何、そう、俯瞰である。物事を理解するとは即ち物事の本質を見抜く、即ち大量なる構成要素の複合、即ち一般化であるからして私は広い視野を持って全体を俯瞰せねばならない。であれば、と私は銘々木九千五号に飛びつく。おお、意外にも登れそうだぞ……として私はそのまま三十分ほど登った……。私は這う這うの体で、前言撤回、よじ登りよじ登りの体で頂きに至った。
 そして私は爆発した。
 いや、語弊があった。精神的爆発である。
 眼前に広がるのは余りの広大さに眩暈を催す程の宇宙的空間であった。すぐそこを百米程の細長い赤色捻じれガラス構造の様なものが浮遊、横切っていく。しかし、問題は宇宙の果てが見えていたことである。それは白く、表面に小さなうねりの様なものが幾らも刻まれていた。宇宙の果ては全部で六つあり全てが平面、其々が垂直、又は平行に総体で直方体を成していた。下方向の果ては雑多であった。生物的な蛋白構造が幾重にも連なったものが主であるが無機的幾何構造体などが適当に積み重なっている。いやしかし、そんなことは全くどうでもよいのだ。私はこの光景にひどく見なれていた。私が常に触れてきた光景、光景というのも憚る程に毎朝……私は遂に真相にたどり着いた。暴風が身体に押し寄せる。私は大木先端の丸い先、一枚の葉も付けないそれにしがみ付く。前方の果てに嵌った果て全体ほどの高さを持つ茶色の板がその右端の辺を回転軸として開き始める。まさか……そう、それしか有り得ない。本当にそうなのか……それが、宇宙的規模の身長を持つ巨人が姿を現す。確信になってしまった!!!!何てことだ!!!!!!!!!!私は自身の有り余る驚きを表現したくても出来ない。表情筋の可動域が足りないのだ。前頭筋、眼輪筋、頬筋、口輪筋、頤筋、それら全てを追い出すべく私は各々を極限まで緊張させる。そうか、私は余りの焦りの余り本来なら口に含むべきこの密林の中に進んで含まれて終ったのか。私の心持の複合的振動が私のもの全てを吹き飛ばしてゆく。全体が痒みを持って悶える。視界が消え失せてゆく。熱い、熱量が神経の伝えられる限度を超えている。そう、私は楽愕した。ザッ。私は、私と呼ばれるその男は塩塵になった。無限の塩になった。
 昨日の朝、私が目を覚ますと奇妙な現象が発生していた。家が荒らされていたのである。私の上着とズボンが一着ずつ消滅し、又大抵の扉は開け放してあった。多くの家具が転倒して何物かが朝食を喰った形跡があった。それも猟奇的なものである。猟奇的な朝食の喰い方をしていて、とても口で説明できたものでは無かった。金は盗られておらず、一人暮らしの家に忍び込み服を盗んで朝食を喰う等頭のおかしい空き巣だと思った。私は荒らされていた洗面台の歯ブラシを丹念に洗って歯を磨いた。そして職場に連絡を入れて警察に行き、被害届を書いて出勤した。置き時計と腕時計の時間も三時間程進められていたが、これは私が昨日海外出張から戻ってすぐに寝たからであろう。危うく届け出の備考の欄に書き込む所だった。そして今日、休日なのでゆるりと起きた私は洗面台に向かい歯ブラシを手に取り、寝ぼけ眼で歯磨き粉も水も付けずに口に含んだ。すぐに吐き出す。背筋が凍った。とんでもない刺激が味覚から流入したのである。よく見ると一本一本が基面に植え込まれた柔らかい高級ブラシの隙間にはぎっしりと何やら結晶粒の様なものが詰まっていた。先ほどの味からしてこれは…「塩…」怒りがこみ上げる。誰だこんないたずらをしたのは。
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